保険に入らなかったらどんなリスクがあるの?サイクリスト弁護士に聞く自転車保険の必要性

はじめに

第一東京弁護士会所属の弁護士萩原崇宏と申します。
先日、こちらでインタビューをしていただいたご縁で、文章を掲載いただくことになりました。
事故のことはプロに聞いてみよう! – サイクリスト弁護士に聞く自転車事故と自転車保険【前編】

私は、平成25年2月から自転車ADRセンター(http://www.bpaj.or.jp/adr/)の調停委員を務めております。また、私自身、自転車に乗っており、自転車が大好きということもあり、業務を通じて自転車について考えることが色々とあります。

こちらでは、業務を通じて私が考えたことを、伝えさせてもらえればと思っております。

第1回目は、自転車保険について。

なお、以下の文章は、弁護士萩原崇宏個人の見解によるものであり、自転車ADRセンターその他の団体の見解を表明したものではないことにご留意願います。

自転車保険のススメ

まずお伝えしたいのは、「自転車に乗るのであれば、保険に加入しましょう。」ということです。

近年、高額の賠償額が認められた裁判例が報道されたこともあり、自転車の交通事故に備える保険の重要性には注目が集まっています。しかし、漠然と自転車保険に入ろうと考えてはいても、「どういった点に着目して加入すればいいかわからない」という方も多いのではないのでしょうか。

自転車保険には、大きく分けて、

1.自分が加害者になるリスクに備えるもの
2.自分が被害者になるリスクに備えるもの

に分けることができます。

以下では、1のリスクに備えるものとして個人賠償責任保険を、2のリスクに備えるものとして傷害保険を、それぞれ説明します。

まずは個人賠償責任保険

まずは、何といっても個人賠償責任保険が重要です。個人賠償責任保険は、要するに、「自分が他人に与えた損害をカバーする保険」です。つまり、自分が自転車に乗っていて、相手方と交通事故を起こして相手方に怪我をさせてしまった。その場合に、相手方に対して支払うべき賠償金を用意するために使われる保険ということです。

近年報道された9,000万円を超える高額賠償の裁判例の事例まではいかなくとも、自転車の交通事故によって200~300万円程度の損害が生じることは、決して珍しいことではありません。

自分自身が損害賠償責任を負うリスクを考えると、まずは個人賠償責任保険に加入することをおすすめします。

傷害保険には入るべき?

次に、傷害保険には入るべきでしょうか。傷害保険は、「自分自身の怪我による損害をカバーする保険」です。入院一時金、日額の入通院保険金、死亡や後遺障害の保険金等が支払われるものです。

つまり、自転車の交通事故に遭って怪我を負ってしまった。その治療のために入院や通院をした場合に、その損害をカバーすることを目的とした保険です。

こういった傷害保険には加入すべきでしょうか。「健康保険を使って治療出来るのであれば、それで十分なのではないか?」「そもそも相手方が全て悪いのであれば、最終的に治療費は相手方負担になるのだから、加入しなくても問題ないのではないか?」という疑問も生じるかもしれません。

問題を整理して考えていきましょう。

そもそも交通事故で健康保険は使える?

まず、そもそも、交通事故で負った怪我の治療に健康保険は使えるのでしょうか。

「交通事故で負った怪我の治療には健康保険は使えない」といった言説を見たり聞いたりした方もいるかもしれません。結論からいうと、この言説は誤解です。交通事故の場合でも健康保険は使えます。

「第三者行為による傷病届」を提出する必要がありますが、交通事故の場合であっても、健康保険を利用することは可能です(詳しい書式や必要書類は健康保険組合や自治体にお問い合わせください。)。

このことは、昭和43年10月12日に出された旧厚生省の課長通達(昭和43年10月12日保険発第106号「健康保険及び国民健康保険の自動車損害賠償責任保険等に対する求償事務の取扱いについて」)に記載されています。

また、近年出された通達においても、同旨の記載があります(平成23年8月9日保保発0809第3号「犯罪被害や自動車事故等による傷病の保険給付の取扱いについて」)。

仮に医療機関において、交通事故による怪我であることを理由として、健康保険の利用を断られた場合は、当該医療機関の担当者の誤解によるものと言っていいでしょう。

交通事故の医療費は健康保険だけで十分?

それでは、健康保険を利用するだけで、自分自身が負った怪我の補償としては十分なのでしょうか。

健康保険を利用した場合、3割(小学校入学前は2割、70歳以上は1割から3割)の自己負担分が生じます。また、入院時の差額ベッド代や食事負担額等、保険給付の対象とならない支出も存在します。

このような支出に対しては、「自己負担分は3割にとどまるし、高額医療費制度を利用することも出来るので、わざわざ傷害保険に加入するまでもない」という判断もあり得るかもしれません。

交通事故による自分自身の医療費の負担のリスクと、保険料の負担とを比べた判断は、様々なものがあり得ると思います。ただし、その判断にあたっては、自転車の交通事故(自転車と自転車、自転車と歩行者の交通事故)には、自賠責の制度がないということをよく理解しておく必要があります。

自転車事故には自賠責の制度がない

ご存じのとおり、自動車事故には自賠責保険という強制保険の制度があります。そのため、事故の被害者は、自賠責を利用することで、自賠責の限度額までは治療費の負担なく治療を受けることができます。

さらに、事故により後遺障害が残存した場合は、損害料率算出機構により後遺障害の等級認定を受けることが出来ます。そして、後遺障害の認定を受けた場合には、認定された等級によって慰謝料や逸失利益の支払いを受けることが出来ます。

しかし、自転車と自転車、自転車と歩行者の事故の場合には、このような制度はありません。そのため、相手方が任意の個人賠償責任保険に加入しておらず、資力もない場合には、自分の過失がゼロであっても、自分が負担した医療費を回収することが現実的に難しくなります。

後遺障害が残存し、これまでの仕事ができなくなった場合など、損害額が大きくなった場合は、この問題はより深刻です。

要するに、自転車と自転車、自転車と歩行者の事故においては、加害者側が無保険かつ無資力であるリスクは、被害者側が負担せざるを得ないという問題があるのです。(なお、通勤途上の事故等労働災害に該当する場合は、労災保険が利用出来ますがここでは割愛します。)

このようなリスクは、決して軽いものではないと思います。過失がゼロであって、後遺障害が残存した場合でも、十分な損害賠償を受けられない場合があるということです。

私見ですが、私個人としては、このようなリスクに備えるため、傷害保険に加入することは合理的な判断だと考えています。(もっとも、保険契約の内容は精査する必要はありますが。)
 

補足-重複する保険契約の可能性

以上は、主として新規に自転車保険に加入する場合を想定しました。

ただし、これらの個人賠償責任保険や傷害保険は、自動車保険や火災保険や共済等様々な保険契約の特約や付帯として加入していることもあります。

これらの特約や付帯で既に加入済みか否かを検討のうえ、新規の自転車保険契約の加入を検討されればよいかと思います。

まとめ

少し長くなりましたが、まとめると、

1.加害者になってしまった場合、高額賠償に備えて個人賠償責任保険に入りましょう。
2.被害者になってしまった場合に、加害者が無資力であるリスクに備えて、傷害保険への加入を検討しましょう。

ということです。少しでも不安を減らして、楽しい自転車生活を送りましょう。

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Written by 萩原崇宏

弁護士 萩原崇宏(第一東京弁護士会) インテグラル法律事務所 所属  インテグラル法律事務所において不動産、IT、一般民事等幅広い分野の業務に従事するとともに、平成25年2月から自転車ADRセンターの調停委員に就任。自身も趣味でロードバイクに乗るも、最近はサボりがち。先日のインタビュー記事の写真を見た旧友からは、体重の著しい増加を指摘されている。 その他プロフィールや個別の案件に関するご相談につきましては、弁護士ドットコムのプロフィールページをご確認ください。