核心は“乗りやすさ”の道路情報−交通施策のプロに訊く自転車通勤のいま【後編】

都市計画策定などで知られる建設コンサルタントのパシフィックコンサルタンツ株式会社が、自転車通勤制度を取り入れてまもなく3年になります。全社員の約1割にあたる150人ほどが制度を利用するまでになり、自転車通勤している社員の安心度が高まったといいます。

環境的にも経済的にも「エコ」で、健康促進が期待される自転車。実際に制度を利用している社員はどのように感じているのでしょうか。後編の今回は、若手の栗栖嵩さんに、通勤時の工夫、実際の業務との関わりなどについてお話しいただきました。

【前編】パシフィックコンサルタンツが自転車通勤制度を導入した理由−−交通施策のプロに訊く自転車通勤のいま/ベテラン社員久野暢之さんのお話し)

過去3度、ツールド北海道国際レースに出場したこともある本格派サイクリスト

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自転車利用について取り組む企業であることも入社を決める理由のひとつだった栗栖さん

栗栖さんは入社3年目。前編に登場した久野さんと同じ交通政策の部署に所属し、交通システムを担当するコンサルタントです。やわらかな笑顔が印象的ですが、自転車の話になると、その語り口は真剣で熱い方でした。そんな栗栖さんの自転車との出会いは、学生時代だったそうです。

栗栖 「広島出身なのですが、北海道にある土木開発に関係する工学系の大学に進学しました。せっかく広い北海道にいるのだからと、自転車で旅を始めたんです」

久野 「栗栖は実は、ツールド北海道国際レースにも出場しているんです」

栗栖 「はい。2009年からの3年間、北海道地域選抜チームの一員として、国内・国外のプロ選手も出場するツールド北海道国際レースに出場しました。実は、自転車は競技だけでなく研究もしていました。

大学の4年になった時、自転車の趣味を知った教授に勧められて、<自転車走行の安全性を妨げる要因は何か>というテーマで事例研究をしました。そうした経緯もあって、パシフィックコンサルタンツが自転車通勤制度を始めようとしているということも知ったのです」

栗栖さんの自転車通勤は「屋内駐輪、ロッカー、シャワー」が必須

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道路にかかわるプロとしての視点も大事にしながら自転車通勤をしている栗栖さん

同社が自転車通勤制度を始めた2012年に入社した栗栖さんは、まさに制度の申し子と言えるのかも……。そんな栗栖さんは、普段はどんな自転車通勤をしているのでしょうか。

栗栖 「最近は繁忙期なので乗れていませんが、自転車の時は、稲城市の自宅から西新宿のオフィスまで、ロードバイクで往復40km程は移動しています。会社が許可してくれる20km未満の圏内で、休日はツーリングを楽しめる八王子・相模原方面にも出かけやすくかつ家賃が安い所というと、ちょうど稲城の辺りになり、長距離自転車通勤をするために引っ越しました。会社に通勤申請する際、『なんでそんなに遠いの?』と驚かれました(笑)。自転車乗りでないと、距離感覚が伝わりにくいですからね……。もちろん、事情を説明してわかってもらいました」

年末から年度末が繁忙期の同社では、栗栖さんのように忙しい時期は、仕事に集中するために電車通勤に切り替える人も少なくないのだとか。同社では自転車通勤を申請しても、公共交通機関を利用する際の手当は支給されるそうですが、通勤手当の調整を行う企業もあるでしょう。自転車通勤制度を導入する場合、そうした業務の実態に合わせた設計にすることも必要といえそうです。

ツーキニスト共通の悩み、服装はどうしているのでしょうか。まさか、スーツでロードバイクに乗るわけにはいかないはず。

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栗栖さんは、通勤時の荷物をなるべく少なくするため、スーツはPEDALRest西新宿のロッカーに置いている

栗栖「通勤時も、ちゃんと自転車用のウェアで乗っていますよ。ですから、盗難防止用にロードバイクを屋内に停められ、シャワーで汗を流してからスーツに着替える場所が必要になります。それで今、それらの条件が整っているPEDALRest西新宿と契約しています。

参考:
PEDALRest西新宿

他の人の通勤スタイルで一度だけ見かけたのが、バイクのウェアで身を固めた人がビルのトイレに入っていき、出て来た時にはスーツに変身していた……という姿でした(笑)。みなさんそれぞれ工夫しているようですね。高価なロードバイクに乗っている人も多いですし、ロッカーとシャワー付きの屋内駐輪場は、都市部ではけっこうニーズがあるのではないでしょうか?」

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毎日約40km走る栗栖さんの愛車は、わずか7キロあまりのTREC Madone 5.2 pro。盗難防止のために屋内駐輪が最低条件だ

取締役から若手まで参加する自転車部の効能

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中央左のサングラスを頭にかけているのが久野さん、前列右から2番目が栗栖さん。

栗栖さんは通勤利用でなく、社内で自転車を楽しむ風土づくりにも取り組んでいます。昨年、社内の仲間とともに自転車部を作りました。

栗栖 「部を作ったのは私たち若手有志なのですが、今は、取締役も含めた幅広い層が集まってきています。今メーリングリストに参加しているのは60人程でしょうか。それまではみなさん別々でやっていたんでしょうね。自転車に関心が高い人がけっこう多いことがわかりました」

久野 「社内には、自転車レース歴30年という、レジェンドのような人も実はいるんです。新卒の採用説明会でも自転車部の話をすると、「自分も乗っている」と興味を持ってくださる学生さんもいます。女性社員から「ロードバイクに乗ってみたいので教えて欲しい」と言われることもあり、何人も仲間に入ってもらっています」

栗栖 「部では色々なことをしていますね。私はレースに出ていますし、他にもトライアスロンやエンデューロに出る人もいます。他には、週末に湘南の江ノ島に行こうとかのレクリエーションイベントを企画したり、琵琶湖一周イベントに大勢で出かけたことも」

それほど幅広い層の人が集まっていれば、コミュニケーション上のメリットもありそうです。

久野 「当然あります。自転車を降りて休憩しているときに仕事の話もできたりとか、若手が年配者に自転車の乗り方教えたりとか。趣味を通じてお互いのことを知っているので、相談もしやすいですよね」

栗栖 「当社は業務が非常に多岐にわたるため、普段はどうしても関係する部署の人だけとの関係になりがちです。そこを、自転車を軸にイベントで集まると色々な情報交換もできますし、普段は気楽に話せないような離れた年齢の人ともコミュニケーションがとれます」

「サイクリストのレベルやニーズに応じた道路情報を」

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栗栖嵩さん(左)と久野暢之さん(右)

栗栖さんにとっての自転車は、景色、街並み再発見するだけでなく、人間関係も育てるツールといえそうです。栗栖さんはまた、道路にかかわるプロとしての視点も大事にしているといいます。

栗栖 「都市部で自動車の総量を減らせることが出来れば、自転車もより走りやすくなると思うんですが、それはさすがに難しい。なので、自転車にとって走りやすい道路の情報を提供することが必要だと思っています

網の目状に道が走る東京では、単純に国道が走りやすいというわけではありません。ある一部分の道路に関する走りやすさの情報はあっても、目的とするルート全体を包括できる網羅的な情報が不足しています。朝の通勤の時間帯の道路は、車も自転車も溢れている危険な状態ですが、道路情報をうまく使えばそうした危険が解消できる部分があるのではないか、と思っているところです

自転車ルートのナビアプリも便利だけど、まだまだ使いにくい。僕は坂などはあまり関係なくて、より速く、より長く走れるような道を知りたいと思う人間です。でも、坂が少なく、走りやすくて距離が短い道がいいという人も多いでしょう。そういうレベルやニーズに応じた情報を提供すると核心をつくような気がしています。これから何か考えていきたいですね」

自転車通勤や社内の風土づくりを通じて見えてきた栗栖さんの情報インフラへの課題意識。今後どのような形で実を結んでいくのか楽しみです。

[編集部追記]
自薦他薦問わず、自転車通勤推奨企業さまの情報がございましたら、ぜひ編集部までお知らせください。
info@bike-startup.co.jp(担当:宮川)

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WRITTEN BY加藤 順子

ライター、フォトグラファー、気象予報士。自転車に乗るときは、天気予報の確認も忘れずにね。

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