プロの運転手の話を聞く機会が大事

日本で一番自転車乗りの権利を考える*男が、再びバスと自転車について考えました

FRAMEでは毎週金曜日、自転車活用推進研究会・内海事務局長とともに、自転車の義務と権利を考える連載を行っています。今回は先週の皆様の「バスと自転車」の関係について、TwitterとFacebookにお寄せいただいた意見に、内海さんが解答いたします。それではどうぞ。

理想的な環境には程遠いが

議論から、最初の一歩が始まる
議論から、最初の一歩が始まる

 前回の記事を読んで意見をくれた方が少なからずいたことに驚くとともに、課題解決に向けて粘り強く議論して行くことでしか道は拓けないと改めて思う。自転車関連の問題に対して無関心だった方々に関心を持ってもらうことが解決に向けた第一歩だし、意見の違いはあった方が健全だ。議論百出大いに結構。自活研は車道教の信者集団であり、何が何でも自転車に車道を走らせることを強いるばかりか、「車道は危険だ」と言おうものなら目を釣り上げて怒り狂い反撃の手をやめないと思われている。誤解はあると思うものの大筋にして認めざるを得ないし、テレビに出演したら電話が掛かってきて「人殺し」と言われたこともある。

良くも悪くも目立つので、様々な立場の方から様々なご意見をいただく。何と言われようと構わないし、ひるんで矛を収めることもしないが現状を変えたいという思いは一途だ。期待するスピード感とは言いがたいが、それでも少しずつ自転車を取り巻く環境は変わって来た。今日より明日が良くなると断言できることが今の時代にあるだろうか? その点で自転車の仕事に就いて本当に良かった。

 ある時、業界の知人が私に「自活研メンバーは様々な反対意見に対して脊髄反射するのをやめた方がいい。自転車の更なる活用推進を考えて言ってくれているのだから足を引っ張り合うのは得策じゃない。考えてもみなよ、自転車に興味・関心を持っている人なんて世の中で一握りしかいないんだぜ。数少ない同志なんだから協力し合わなきゃ」とアドバイスしてくれた。以来、彼の助言に従って真の敵を見誤ってはいけないと肝に銘じている。

議論の相手は「真の敵」ではない
議論の相手は「真の敵」ではない

 当然ながら自転車事故で人が死んでもいいなんて思っている訳ではないし、安全で快適な自転車走行環境の確立を願う気持ちでは誰にも負けないつもりだ。一方で歩行者の代表から励まされる機会も増えてきた。クルマのドライバーから真剣な顔で自転車の悪口を言われることも増えた。自転車にどこをどう走らせればいいか。思いはあるが理想には程遠いし、物事には順序があって一足飛びには進めない。幸い超楽観主義なので身体と精神を壊さずに生きていられる。丈夫に産んでくれた母親に感謝である。

千里の道も一歩から

 全世界的に自転車の活用が進む中、多くの国で自転車への関心度が高まっている。オランダやデンマークは冠たる自転車王国だが日本との比較対象としては相違点が多すぎて参考にしづらい。一方で例えばドイツのような日本と同様にクルマメーカーが多数ある国であっても自転車の活用が進んでいる国がある。ドイツでは何名もの国会議員が自転車通勤をしているそうだが、その点では日本だって負けていない。超党派の国会議員で構成された自転車活用推進議員連盟が去る6月5日に自転車活用推進法の施行を記念し青空総会と銘打った皇居一周サイクリングイベントを開催した。参加した国会議員は20名ほどだが、中には国会まで毎日自転車で通勤している先生もいる。国交省や警察庁、経産省など関係省庁の代表者も青空総会で国会議員と一緒に皇居を一周したが、途中一部に自転車ナビマークが描かれている区間があり、やはり安心感があるとのコメントがあった。国会議員や官庁職員らが自らの目で見たり肌で感じたりしたことが重要なのであり、その発信力・影響力は実に大きい。

車大国のドイツでも自転車利用が進んでいる
車大国のドイツでも自転車利用が進んでいる

 ここでナビマークがベストだなんて決して言わない。何もないよりあった方がマシというレベルだが、これこそが第一歩である。当然理想に向けて二歩目、三歩目のシナリオはあるが、まずは路面に描くことで自転車の存在をドライバーに認識させることが先決だ。先日も在京キー局の夕方ニュース番組に出演した際に「ナビマークは危険か危険でないか」という切り口でコメントを求められたけれども、そもそもナビマークで全て解決できるなんて思っていないし、革命は始まったばかりだから、今判断するのは時期尚早と述べた。なんて書くとまた「危険を承知でどうして推進するのか」という反論が出そうだが、そこをあえて書くと全ての交通参加者に対して「自転車は原則として車道の左側を走る」というコンセンサスを改めて作りに行っているフェーズだから。ほんの10年前まで自転車は歩道通行が当たり前だった。お巡りさんたちも現場で「おーい。そこの自転車、歩道へ上がんなさい」と指導していたくらいだからドライバーの中には、いまだに「自転車は歩道が原則」だと思い込んでいる人が少なからずいる。のみならず2020年に向けて東京に大量の外国人観光客がやってくるという恐るべき事態が控えている。ご承知の通り、お隣の韓国も中国も台湾もロシアもアメリカも道路は自転車を含めて全部右側通行。できるだけ混乱は避けたい。
さあ、あなたならどうする? 手っ取り早く描ける分だけでも描いてしまおうとするのではないか。

警視庁にいる知人がナビマークの担当者なので訊いたところ、そんな焦りもあって昨年度だけで340km整備したそうだ。今年度が330km、来年度も330km。これで合計1,000kmになる。それで十分だとは言えないし、もっともっと多くの方が走りやすいインフラ整備を期待するが、税収が伸びない中で多額の整備予算を確保することは難しく、危険な運転を繰り返す憎らしい自転車ユーザーのために血税の中から大金を投下するのを世論が良しとしない。それでも自活法が施行されたから大義名分はできた。役人も議員も大義名分がないと動けないが、これで毎年1mmずつでも確実に進む。理想に程遠いと嘆いている暇があったらできるところからやる。日本の役所は前例主義なので、まずは実績を作る必要がある。

ナビサインは現状を1mm づつ打開していく策かもしれない
ナビサインは現状を1mm
づつ打開していく策かもしれない

国民の利益の増進に資する

「自転車を環境という文脈で語るべきでない」と先日の講演会でOECDのフィリップ・クリスト氏が語ってくれたが、健康や経済面でメリットがあることを強調して、できるだけワントリップの距離を延ばしたい。定期的な運動が生活習慣病を防ぎ、健康的な生活ができることは経験的に知られているが、言うのとやるのとでは大違い。私を含む凡人には分かっちゃいるけどやめられないことが多すぎる。では定期的に運動するにはどうすればいいか。私の卑近な例で恐縮だが、近所のジムに申し込んでも通わず、ジムの風呂へ入りに行くことすら億劫で続かなかった私が自転車通勤だけは続けられた。自転車通勤が健康に良いことは自信を持って語れるが、最近は根拠として信頼に足る研究結果も増えており、ますます浸透して行くと考えられる。自活法には国民の健康増進についても条文があるが、厚労省が自転車関連の施策を鋭意作成中である。現在、国全体の医療費は座布団が約40兆円あって毎年1兆3,000億円ずつ増加しており、これは国民1人あたり毎年1万円ずつ借金が増えて行く勘定なので、止めなければ大変なことになる。自転車で全ての問題を解決できるとは思わないが、医療費の削減までは無理にしても増加分を抑えるくらいはできるのではないか。上がり続ける消費税でもまかない切れない財源不足が改善できたら、それこそ国民の利益になる。

 自転車通勤者を増やすには自転車で通勤できる会社を増やすことが近道だと思うが、自転車通勤の推奨についてバスドライバーをはじめ、プロドライバー達はこれを快く思っていない。今でさえ毎日急ブレーキを踏まされているのに、これ以上車道に自転車が増えたらと考えるとゾッとして夜も寝られないほどだそうだ。定期的に乗る方法は何も自転車通勤に限らないが、平日も使って無理なく運動できるのが魅力である。何とかプロドライバー達と歴史的和解ができないものだろうか?

どこかに和解策がきっとある
どこかに和解策がきっとある

ドライバー達の不満を聞く機会を持つ

 前回書いた通りバスドライバー達にも鬱憤は溜まっているので、まずはガス抜きをしたい。今考えているのが自転車憎しのドライバー達に集まってもらい、言いたい放題悪口を言ってもらう機会を作ること。彼らも頭では自転車がクルマの仲間だと分かっているが、認めたくないという気持ちが強い。車道を共有する上で一方は免許証が必要で取締りも厳しく、もう一方はやりたい放題で取締りも緩いとくれば感情(ハート)が拒絶してしまう。何とか尻尾を捕まえて、お仕置きしてやらねば気が済まない。「自転車は自由でいい」という表現がルール無視・やりたい放題が前提ならば勘違いも甚だしい。「もうしませんから許してください」と詫びのひとつも入れさせたい気分だろう。

ドライバー達だって生身の人間だ。愚痴のひとつも吐けば少しは胸のつかえが取れるはずだ。1回の会合で解決できるとは思えないが、双方の溝を埋める作業を怠って現状打破は難しい。ある朝、ふと目覚めたら構造分離された自転車道が街中に張り巡らされていて、バスのみならずクルマと歩行者と自転車が安全・快適に移動できる世界に変わっていました、なんて夢のような話が実現すれば心配ごとは大いに減るが、世の中うまい話は滅多にあるものではない。実際の整備は一歩ずつ段階を踏んで進めて行く。今後は理想に向けてハード整備が着実に進んで行くが、同時にソフト整備も必要だ。お互いの尊重とシェア・ザ・ロード。そのため免許証のあるなしに関わらず最低限のルールがあり、違反しないよう取締りがある。

 自活法の附則に、政府は、自転車の運転に関し道路交通法に違反する行為への対応の在り方について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。とある。今後、検討が進んで取締りが強化されたら違反も減るのでは、と期待している。違反が減ればドライバー達だって徐々に受け入れてくれるだろう。一時停止不停止なんてレベルではなく、赤信号を堂々と無視したり車道の右側を逆走したりという悪質な違反を徹底的に減らしたい。

プロの運転手の話を聞く機会が大事
プロの運転手の話を聞く機会が大事

バスと自転車の共存について

 バスと自転車を比べると一方はエンジンで一方は人力で動く。当然ながら加速度も違うし最高速度も異なるので全く同じ動きをする訳ではない。将来的には分離するべきだし、それに向けたシナリオはある。決して構造分離論を否定していない。ロンドンやニューヨークの事例を知らないわけではないが、知っているなら最初から正解を目指せばいいじゃないかというのは学者の論理だ。為政者のマインドには響かない。物事には順序があると先にも書いた。同じ轍を踏まなくてもいいのにと思うけれども、一足飛びには進めないのもまた事実。であるならば、現状を少しでも良くすることに優れた頭脳を使うべきだろう。現時点で市民の幸せレベル最大公約数として自転車は歩道か車道か。高齢者が歩いて暮らせる街にするためにも自転車に歩道を走らせるのは、いい加減やめにしたい。車道の左側を安全・快適に走れるようにしたい。当面はハード整備が進む過程の中で合わせ技としてソフト整備をすべきだと考える。ドライバーとの和解策もひとつだ。思いやり1.5m運動やバスドライバーのガス抜きを展開していく。地味で泥臭いが、さらなる飛躍を信じて活動を続けるつもりだ。

*FRAME編集部の見解です。

WRITTEN BYFRAME編集部

FRAME編集部はロードバイク、MTB、ミニベロ、トライアスリートなど、全員が自転車乗りのメンバーで構成されています。メンテナンスなど役立つ情報から、サイクリングのおすすめのスポット情報、ロードレースの観戦まで、自転車をもっと楽しくするライフスタイル情報をお届けします。 https://jitensha-hoken.jp/blog/

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