イザベラ・ヘブン~自転車で東北をまわる旅~4本目600km(前半)

 5月4日。ここまで約900km走って、いよいよ最後の600km、ラスト1本のスタートです。
青森駅前から福島市内までの旅が始まります。

●前回までのあらすじ
2017年ゴールデンウイークに開催された「イザベラ・ヘブン」という200・300・400・600kmの4本を1週間で走るブルベの2本目を無事走り終えたHitomiさん。1週間でSR(シュペール・ランドヌール)の称号をとれる親切設計。毎日走れて幸せだから“ヘブン・ウィーク”ですが、別名“ヘル・ウィーク”とも呼ばれるというあたり、諸々をお察しください・・・

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青森駅〜通過チェック1東津軽郡平内町大字東田沢東田沢郵便局36.3km〜PC1十和田市 58.2km

マヤさんのブリーフィングの後、出発。今日は主催のマヤさんも走ります。
でもここまでほぼ一緒に走ってきた神奈川隊のTTさんコンビは今日はお見送りで走らず。
この600はひとりで走る決心をして、行ってきまーす。今日も天気は上々。

マヤさんによるイザベラ・ヘブン最後のブリーフィング

スタートからしばらくはあまりばらけずに進みます。わたしはぜっとさんのすぐ後ろから青森湾沿いを走りました。
ぜっとさんはゴールデンウイーク前半に開催した北海道のフレッシュ=24時間で360km以上をチームで走るブルベを完走し、昨日の200kmから参加です。

このあたりは夏泊半島といって、大きな津軽半島と下北半島のちょうど真ん中あたり、陸奥湾にちょこんと突き出した小さな半島です。
北端には大島という島があって徒歩で渡っていけるのだとか。今回は遠く眺めてそのまま美しい海水浴場近くを走って写真チェックポイントへ。
軽く40km弱。寝ぼけた体が目覚めるにはちょうどいい距離。
だいたい40〜50kmほど走ると身体が温まって脚が回りだすので、ヒルクライムレースなどは寝ている間に終わります。

海沿いの写真

 指定の東田沢郵便局で写真を撮り、またゆるゆると先へ行きます。
国道4号で海沿いを走りながらやがて内陸に入り南下。ここで海とはお別れです。
途中、ぜっとさんとAKさんと一緒にマックスバリューで補給を兼ねて休憩しました。

 AKさんは、昨年の「Bike Across Japan 2400」つまりは「日本縦断2400km」を完走したすんごい女性です。
そうですそうです、今回初日の300kmのときに、細身なのにダウンヒルがとても速かった人ですね。
三人で、パンを買って食べたりおしゃべりをしたりして、なんだかまったりして楽しい。

 リカンベント参加のGenさんは今日も元気に走っていますし、最初の300を完走したオーディナリーさんがこの600kmも参加です。
ご存じですかオーディナリーという自転車。
東京の目黒の自転車ビルにでも飾ってありそうな、前輪がとても大きくて後輪が小さな自転車です。
貴族の格好で乗るような、博覧会の似合いそうなクラシックな自転車、本当に走っているのはこのイザベラ・ヘブンで初めてみました。
乗っているK関さんは一見さわやかな貴公子のような人ですが、オーディナリーで600km、貴公子というより奇行種かもしれません。

2日目400kmのブリーフィング時のオーディナリー Photo by Maya Ide

 国道4号奥州街道は、このまま800kmちょっと行けば東京の日本橋に着く道です。
800kmと聞くと、なんだかそんなに遠くない気がしてきますね。気のせいです。
この辺りはかなり道が荒れていて神経を使いました。パンクや装備品の落下も何人かあったそうです。

PC1十和田市〜PC2 秋田県鹿角花輪 104.3km-10km

ぜっとさん、AKさんとともにわたしたちは無事にPC1に到着。貯金は1時間ほど。
朝のブリーフィングで、この先の十和田湖に行くルートは、元々のルートのほかに奥入瀬を通るルートを選んでも良いと言われていました。
どちらにしようかと迷っていると、札幌のY田さんが「絶対奥入瀬だよ。キリストの墓ルートは上りがきついから」と仰います。
奥入瀬ルートのほうが距離は少し長くなるとのことでしたが、上りは少ない方がいいな。
ということで奥入瀬ルートを選択、ぜっとさんも一緒です。

 途中ぜっとさんが「バラ焼き食っていきませんか」と。
「バラ焼きは」十和田名物の、バラ肉の焼肉とのこと。わーい肉♪肉♪行きましょうということで、レジェンドちこりんさんお勧めの「上高地食堂」という店に行きました。

お店の前に自転車を置いて中へ入ろうとした時、突然ぜっとさんの「ぎゃああ」という大きな叫び声が。
「えナニゴト」と振り返るとぜっとさんが唖然とご自分の足元を見ています。
なんと、ほんの少しのドブの隙間にモバイルバッテリーが落ちたのですって。すぽんと。ちゃぽんと。とても救出は不可能…。
ちょっとでもずれていたら落ちなかっただろうに、お気の毒です。
「す、すみません。大きな声出して」と、こんなときにも気配りするぜっとさん。いい人すぎます。
ハプニングでお気の毒ですが、「まあバッテリーに厄払いをしてもらった」ということにして、気を取り直してバラ焼きへ。

バラ焼きは鉄板にタマネギと牛バラが乗って出てきて、それを自分たちで焼いて食べます。
溶き卵にくぐらせて、ちょっと甘めのたれですき焼き風。美味しいご飯もすすむ。パワーが出ます。
「ブルベ中に女子と焼肉というイベント達成」とぜっとさん。
女子ということにしてくださるのですか、やっぱりいい人です。

ブルベ中に焼肉焼いて食べる。十和田名物バラ焼き

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 満足して奥入瀬に向かってリスタート。
奥入瀬川沿い102号を進み、多少はのぼるけれども気持ちの良い道を分け入り、奥入瀬渓谷へ。
緑のトンネルの中、川沿いを走る、この道のなんて気持ちの良いこと。
木漏れ日と水の音。土の匂い。素晴らしい。大きく深呼吸。来てよかった、新緑の奥入瀬渓谷。
ここは車も通れる道なので、駐停車したい車でところどころ渋滞はしていましたが、わたしたちは徐行で走りつつも、押し歩いたり立ち止まったりしなくてはならないことはそう多くはなかったです。
急流の奥入瀬川があげる水しぶきを眺め、緑の空気を深呼吸し、最高の気分でポタリングをしたのでした。

新緑の奥入瀬渓谷

新緑の奥入瀬渓谷

 フロントのシフトが相変わらずおかしいのですけれど、それでも楽しくのんびりのぼって十和田湖へ。
青森県と秋田県の県境にたたずむこの十和田湖の、両県の県境が正式に決まったのは2008年なのだそうです。
まだ10年も経っていないのですね。
湖面に青空が映り、かすかにさざ波がたっています。

湖の周りのアップダウンを越えて南下すると、そんなわけでまた秋田県。
2本目の400kmのときに走っても走ってもまだ秋田県と思っていましたが、またここで巡り合うとは。

十和田湖

 途中ぜっとさんが気づいてくれたのですが、長くなるはずの奥入瀬ルートが、なぜかどうやら正規ルートよりも10km以上短いのですって。
あらら。これはさて、どうしたものか。

マヤさんやスタッフ仲間に会ったら相談しなくては。

 そして発荷峠へ。奥入瀬ルートでも、この峠はのぼらなくてはいけません。逆にきついのはここだけです。
距離は3kmほどなので短めですが、平均斜度は6%を越える、上り嫌いにはイヤンな気持ちになる峠です。
フロントのシフトはついに、アウターにするとインにあがらなくなる、最初からずっとインにしてのぼります。
いいの、アウターは下りまで使わないから。

ようやく上った発荷峠のピークで、マヤさんと本多さんと出会えました。
奥入瀬ルートは正規ルートより距離が短いことをぜっとさんが説明してくれました。すでに気付いていて対策を練っていったマヤさんたちに対策をお任せします。
はい、わたしは何もしていません。
このまま短いままだと600kmに足らなくなるから、どこかでプラスして走らないといけません。

発荷峠からは長い下りでPC2へ。焼肉に奥入瀬ポタに十和田湖…などなど、盛りだくさんの100km、楽しい区間でした。

PC2 秋田県鹿角花輪〜PC3 岩手県盛岡滝沢・小岩井 88.3km

 PC2を過ぎて秋田県から岩手県へ突入。ハロー岩手県。道はしだいにゆるい上り坂になってきました。
朝からずっと一緒のぜっとさんとふたり、時折AKさんと一緒になって三人で、長い道のりを行きます。
一つ目の貝梨峠を越え、もう一つの山である安比高原に着くころにはすっかり夜になっていました。
それでも一人じゃないから暗い上りの道も怖くない。
スタート時点ではこの600は一人旅だと思っていたのでなおさらありがたく感じます。

ひとりでも楽しめるし走ることももちろん出来るけど、でも誰かと一緒だともっと旅は楽しい。
しんどいときも心強いけれど、それよりも何か面白いことがあったときに一緒に笑いあえる人がいるのが嬉しいです。
ひとりでニヤニヤ走るのもオツですが。

安比高原のローソン

このあたりは有名なスキー場だそうです。スキーやスポーツとは無縁の生活だったので、まったく知りませんでした。
それが今、自転車に乗って夜道をこうして走ってきているのだから人生は不思議。
よく「ここ、ブルベじゃなくてゆっくり来たかったね」なんて話をすることがあるのですけど、もしもブルベじゃなかったらそもそも来なかったかもしれないって場所はたくさんあります。
「いつか行きたい、走りたい」とぼんやり思うだけで実現は遠かったことでしょう。
ブルベのルートや主催は「自分が走りたいルートを誰かにも走ってもらいたい」というところが原点だと思うので、素晴らしい道や場所が多いのですね。
それにこんなに一度にまとめて旅が出来るのも、超ロングサイクリングであるブルベの大きな魅力です。

限られた時間の中でたくさん走りましょう。だけどナイトライドは丁寧に、焦らず。命を削るような走りをする必要はありません。
桜並木が美しい道の駅「にしね」の横を通りながらちょっとした夜桜見物です。そして盛岡市内へ入りました。

道の駅にしねの横には夜桜が満開。

そこから20kmちょっと、平坦から下り基調になり、PC3滝沢のコンビニに到着しました。
ところがそこで一息ほっとする間はまったくなかったのです。
PCだというのに、店内で買い物をすることもなくすぐに出発する羽目になったのでした。
いったいなにが。

PC3 岩手県盛岡滝沢・小岩井〜北上のホテル 61.3km+10km

 PC3、約280km地点…になるはずだったのですが、奥入瀬ルートで来た場合は約10km短いのです。
「奥入瀬経由で来た人は、ここから5km先のコンビニでレシート取って戻ってきてね」
PC3に着いた途端、本多さんに満面の笑みで宣言されました。
お顔はえびす様のように優しいのに、セリフは厳しい…。

 この時間にこの場所でプラス10kmは、すなわち寝る時間がその分減るということを意味します。
せめて明日起きてから次の通過チェックあたりで…と思うのですが、でもそれでは、正規ルートを通ってきた人にとって不公平になってしまいそうです。
前半、300km地点の前の今ここで、足らない距離分を走るのが正しいでしょう。

 ぐったりした身体と気持ちを建て直し、すぐに指定のコンビニへ向かいます。方向は小岩井農場のある方面。
それはつまり「のぼり」を意味していました。

5kmののぼり。きついきつい。多分に精神的なものですが。
なんとかコンビニにたどりつき、買い物をして補給をし、帰りは下り基調でもとのPC3へ戻りました。

 I熊さんがシフトの具合を見てくださり、スローパンク中の後輪にカツを入れてくださいます。
ありがとうございます。これでまた走れる。

眠気が押し寄せる中、ぜっとさんとたくさんおしゃべりをしつつ、なんとか60kmほど先の予約しておいた北上のホテルにたどりつきました。
朝の待ち合わせ場所と時間を決めますが、仮想クローズより30〜45分ほど遅い時間を指定されてとまどいます。
「そんなに遅くて大丈夫ですか巻き返せるでしょうか」不安になるわたしに「全然大丈夫ですよ」と請け負って下さるぜっとさん。
お蔭でホテルに2時間ちょっと居られてしっかり眠れました。

 朝5時45分、待ち合わせ場所のコンビニで再度合流。
さあ旅も残すところあと260kmほどとなりました。

朝のセブンイレブン。ここから最終日のスタート。

(続く)

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WRITTEN BYHitomi

2014年にブルベを走り始め、その年は4回600kmリタイアでSRならず。翌2015年600km初完走、同年600kmを6回完走、トリプルSRとなる。AJ神奈川スタッフ。RaphaCyclingClubメンバー。愛車はDE ROSA。

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