ツール・ド・フランス2017中盤を振り返る|
バルデとバルギルら若手選手の台頭がツールを盛り上げる

第12ステージの厳しい登りゴールを制したロマン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアル)。フランス人の中で、最も総合優勝に近い選手だ ©A.S.O.

ツール・ド・フランス2017の振り返りとこれからの予想

7月17日、ツール・ド・フランスは2回目の休息日を迎えた。第10ステージから第15ステージまでにも様々なドラマがあり、マイヨジョーヌもいったんファビオ・アル(イタリア、アスタナ)に移った後、ふたたびクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)が取り返すというエキサイティングな展開も。第1回目の休息日以降、ここまでのステージを振り返るとともに、このあとの展開を占ってみたい。
 

無敵のスプリンター、キッテル

 第10、第11ステージを連覇し、今大会のステージ優勝数を5に伸ばしたマルセル・キッテル(ドイツ、クイックステップフロアーズ) ©A.S.O.
 第10、第11ステージを連覇し、今大会のステージ優勝数を5に伸ばしたマルセル・キッテル(ドイツ、クイックステップフロアーズ) ©A.S.O.

第10ステージ以降のレースでまず際立つのが、マルセル・キッテル(ドイツ、クイックステップフロアーズ)の圧倒的なスプリントの強さだ。スプリンターのために用意された第10、第11ステージを連覇し、第2、第5、第6ステージでの勝利に続いて、今大会ステージ5勝目を挙げたのは記憶に新しいところだ。

とにかく、そのゴール前での加速力は他の選手を完全に圧倒している。アンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・スーダル)やマイケル・マシューズ(オーストラリア、サンウェブ)といったライバルたちが口をそろえて「キッテルには勝てない。何か別の手を考えないと」と言わしめるほど。

マシューズは得意の登りスプリントにこそ自分の勝機があると確信し、第14ステージで勝ったのはさすがだったが、グライペルは今のところ手も足も出ない状況だ。昨年も勝ったシャンゼリゼの最終ステージに活路を見い出し、そこまではずっと我慢の走りをしようとしているのではないだろうか。それほどまでに、今年のキッテルは強い。



若手フランス人選手の台頭

第12ステージの厳しい登りゴールを制したロマン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアル)。フランス人の中で、最も総合優勝に近い選手だ ©A.S.O.
第12ステージの厳しい登りゴールを制したロマン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアル)。フランス人の中で、最も総合優勝に近い選手だ ©A.S.O.

このところのステージで何といっても光るのが、ロマン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアル)とワレン・バルギル(フランス、サンウェブ)、2人の若手フランス人選手の活躍である。第12ステージの登りゴールでバルデがクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)やファビオ・アル(イタリア、アスタナ)らを抑えて勝つと、翌日の第13ステージではマイヨアポワを着るバルギルが独走で勝利。第4ステージのアルノー・デマール(フランス、FDJ)、第8ステージのリリアン・カルムジャーヌ(フランス、ディレクトエネルジー)の勝利に続いて、フランス人選手がステージ4勝目を挙げたのであった。

「世界最大のレース」とよく表現されるツール・ド・フランスであるが、一方でツールは純然とした「フランスのレース」でもある。やはり、フランス人選手が活躍することによって、フランス国内が盛り上がることは間違いない。ジロ・デ・イタリアではイタリア人選手が、ブエルタ・ア・エスパーニャではスペイン人選手が、ロンド・ファン・フラーンデレンではベルギー人選手が活躍しているように、フランス人選手が活躍してこそのツール・ド・フランスなのである。

第13ステージを制したワレン・バルギル(フランス、サンウェブ)。アルベルト・コンタドール(スペイン、トレック・セガフレード)とナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター)という2人のチャンピオンを下し、フランスのボルテージは最高潮に達した ©A.S.O.
第13ステージを制したワレン・バルギル(フランス、サンウェブ)。アルベルト・コンタドール(スペイン、トレック・セガフレード)とナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター)という2人のチャンピオンを下し、フランスのボルテージは最高潮に達した ©A.S.O.

1985年のベルナール・イノーの以来、ツール・ド・フランスではフランス人選手の総合優勝が途絶えているばかりか、フランス人選手のステージ優勝さえなかった年もあり、フランスのファンたちのうっぷんはもはや爆発寸前ともいえる。そんな中でのフランス人選手の活躍であるから、フランスのファンたちにとって、こんなに明るいニュースもない。

トマ・ヴォクレール(フランス、ディレクトエネルジー)の今年限りでの引退がある一方、バルデ、バルギル、カルムジャーヌといった若手が確実に育ってきており、近い将来フランス人選手のツール総合優勝も見えてきた感がある。いや、今年はひょっとするとバルデが総合優勝するかもしれない。そんな期待さえ抱かせてくれる新旧交代が確実に進んでいるフランスなのである。

新旧交代はその他の国の選手でも

第14ステージ、登り基調のスプリントを制したマイケル・マシューズ(オーストラリア、サンウェブ)。自分の得意なコースに狙いを絞って勝利を挙げた ©A.S.O.
第14ステージ、登り基調のスプリントを制したマイケル・マシューズ(オーストラリア、サンウェブ)。自分の得意なコースに狙いを絞って勝利を挙げた ©A.S.O.

新旧交代が進んでいるのは、何もフランス人選手ばかりではない。アルベルト・コンタドール(スペイン、トレック・セガフレード)やナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター)といったグランツール優勝経験者を尻目に、サイモン・イェーツ(イギリス、オリカ・スコット)、ルイス・メインティス(南アフリカ、UAEチームエミレーツ)といった若手選手が台頭してきているのは、その象徴といえるだろう。

これまで圧倒的な強さを見せてきたクリス・フルームのチームスカイでさえ、アシスト選手のミケル・ランダ(スペイン)やミケル・ニエベ(スペイン)の活躍により、「来年はフルームとランダのツートップ体制になるのでは?」とささやかれるようになってきた。

キンタナはまだ27歳である一方、サイモン・イェーツとメインティスは25歳とたいした年の違いはなく、フルームの32歳に対して、ランダは27歳、ニエベに至ってはもう33歳のベテランであるから、年齢だけでは新旧交代とはいえないのであるが、エースに対するアシストの下克上が起こるかもしれないという点においては、確実に新旧交代が進んでいるといえるだろう。

モレマの意地


第15ステージで独走勝利したバウケ・モレマ(オランダ、トレック・セガフレード)は見事だった。もともとモレマはアルベルト・コンタドール(スペイン、トレック・セガフレード)とともに、総合成績上位を狙ってツールに乗り込んできた選手だった。しかし、これまで山岳ステージでフルームやアル、バルデといったライバルたちに遅れをとっていた。そこで、ステージ1勝を確実に穫るという作戦に変更。これが見事に的中し、鮮やかな勝利をもぎ取ったのである。

いうまでもなく、ツール・ド・フランスでのステージ1勝は、クラシックレースでの1勝に匹敵する価値を持つ。これまでモレマは、グランツールでのステージ優勝はブエルタ・ア・エスパーニャでの1勝だけだったが、これで自分のキャリアに燦然と輝く1ページを加えたのである。やはり、プロの世界は「勝ってなんぼ」である。第15ステージのモレマの走りに、プロの意地をみた気がした。

第15ステージを独走で制したバウケ・モレマ(オランダ、トレック・セガフレード)。総合成績で精彩を欠いていたモレマだったが、ステージ優勝を確実に穫ってくるのはさすが超一流のプロだ ©A.S.O.
第15ステージを独走で制したバウケ・モレマ(オランダ、トレック・セガフレード)。総合成績で精彩を欠いていたモレマだったが、ステージ優勝を確実に穫ってくるのはさすが超一流のプロだ ©A.S.O.

【ツール・ド・フランス 第15ステージ終了時点の総合順位】
1 クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)64h40’21″

2 ファビオ・アル(イタリア、アスタナ)+18″

3 ロマン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアル)+23″

4 リゴベルト・ウラン(コロンビア、キャノンデール・ドラパック)+29″

5 ダニエル・マーティン(アイルランド、クイックステップフロアーズ)+1’12”

6 ミケル・ランダ(スペイン、チームスカイ)+1’17”

7 サイモン・イェーツ(イギリス、オリカ・スコット)+2’02”

8 ルイス・メインティス(南アフリカ、UAEチームエミレーツ)+5’09”

9 アルベルト・コンタドール(スペイン、トレック・セガフレード)+5’37″

10 ダミアーノ・カルーゾ(イタリア、BMCレーシング)+6’05

112 新城幸也(日本、バーレーン・メリダ)+2h17’42”

ミケル・ランダ(スペイン、チームスカイ)らの成長により、クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)の独裁体制に陰りが見えてきている? ©A.S.O.
ミケル・ランダ(スペイン、チームスカイ)らの成長により、クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)の独裁体制に陰りが見えてきている? ©A.S.O.
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WRITTEN BY仲沢 隆

仲沢 隆 自転車ジャーナリスト。早稲田大学大学院で、ヨーロッパの自転車文化史を研究。著書に『ロードバイク進化論』『超一流選手の愛用品』、訳書に『カンパニョーロ −自転車競技の歴史を“変速”した革新のパーツたち−』がある。

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