道路は自動車だけのもの?映画『Bikes VS Cars』が問いかけるクルマ偏重のいまとこれから
date : 2017.10.12 update : 2017.10.19

▲『Bikes VS Cars』予告編。

今も世界中で増え続ける自動車。一方で大都市では慢性的に大気汚染や交通渋滞が生じ、自転車や歩行者との交通事故もなくなりません。クルマ中心の都市交通に「道路はクルマだけのもの?」と問題提起するドキュメンタリー映画「Bikes VS Cars」(フレドリック・ゲルテン監督、2015年スウェーデン作品)の上映会が10月1日に横浜で行われました。

自動車保有台数は全世界で12億台。道路は今もクルマが中心だ

サンパウロで、クルマとの事故で亡くなったサイクリストを悼み掲げられた「ゴーストバイク」 写真:Flora Dias 提供:WG Film

サンパウロで、クルマとの事故で亡くなったサイクリストを悼み掲げられた「ゴーストバイク」
写真:Flora Dias 提供:WG Film


 日本でも車道左側に自転車レーンやピクトグラムの設置が始まり、自転車が車道を走るための環境が少しずつですが整ってきました。

海外はどうでしょうか? 自転車通行「先進国」のオランダやデンマークは別にして、圧倒的にクルマ中心の大都市も多そうです。
 映画は世界各地の大都市で、道路交通のほとんどがクルマで占められている様子を取材。その中の一つ、ブラジルのサンパウロでは、クルマ対自転車の事故が毎日のように発生。犠牲者を悼むサイクリストや市民らが、事故が発生した路面に白く「ゴーストライダー」をペイントしています。

亡くなったサイクリストを悼み集まったサンパウロのサイクリストたち 写真:Flora Dias 提供:WG Film

亡くなったサイクリストを悼み集まったサンパウロのサイクリストたち
写真:Flora Dias 提供:WG Film


 カナダのトロントでは、自転車嫌いで知られるロブ・フォード市長の時代(2010〜14年)に自転車レーンが削減されるということも起きました。当時、フォード市長は「自転車事故で誰かが亡くなるのは心が痛むが、結局は自業自得だ」と発言。映画では、サイクリストが道路作業車の前に横たわって、自転車レーンの撤去に抗議している様子も記録されています。

 全世界の自動車保有台数は、2015年の時点で実に12億6千万台に到達(自工会調べ)。4輪車の生産台数も、世界全体で7年連続で増えています(同)。環境負荷が低く健康増進につながるなどとして、自転車の良さが広く社会で認められる一方、道路移動の主役は今もってクルマが占めている現状が映像から見えてきます。

クルマ社会の現状に対する異議申し立て

消去される自転車レーンの白線。トロント市で 写真:Martin Reis 提供:WG Film

消去される自転車レーンの白線。トロント市で
写真:Martin Reis 提供:WG Film


 クルマが普及する過程では、自動車業界のカネで動く「自動車ロビー」が活躍。トラム(路面電車)の廃止、道路網の充実などといったクルマに有利な交通政策を実現するよう、政治に働きかけてきたことが作品の中で語られています。

 その結果、都市部では交通渋滞や大気汚染、騒音が深刻化。車線を増やし、ハイウェイを延長しても、クルマの流れが良くなることで交通量が増えて再び渋滞する「いたちごっこ」も起きています。クルマが消費するエネルギーは今も化石燃料が中心ですが、排出される温暖化ガスが気候変動を加速させることも世界的に心配される状況。果たして、これからもクルマ社会は持続可能なのでしょうか?
 
映画では、こうした現代のクルマ中心の道路交通をめぐるさまざまな問題が、自転車乗りの視点から描かれています。「Bikes VS Cars」というタイトルからもわかるように、「クルマ社会の現状に対する異議申し立て」というスタンスが明確です。

「道路での共存」に必要なこととは? 写真:Janice D ́Avila 提供:WG Film

「道路での共存」に必要なこととは?
写真:Janice D ́Avila 提供:WG Film


 では、映画はクルマの利便性そのものを否定しているのでしょうか? 

そうではなく「クルマが都市部での交通インフラの中心を占めている現状は持続可能ではない」と指摘しているのです。
 映画に登場するサイクリストの一人で、サンパウロの女子学生は「クルマと自転車が共存できるように」と語っていました。そしてその実現には、現在のクルマ偏重を改め、自転車や歩行者に道路空間を再配分していく必要があるのでは? と映画は問いかけています。

「道路での共存」に必要なこと

 上映会を主催したのは、国内外のジャーナリストや市民らでつくるグループ「Cycling Embassy of JAPAN」。自転車交通政策の提言、本作品の日本語訳や上映などを行っています。メンバーの宮田浩介さんは、誰もが安全に道路を利用できるようになるには、やはりクルマ中心の交通政策が変わる必要がある、と考えています。

宮田浩介さん

宮田浩介さん


 「今回、横浜で上映会をしたのは、9月22日に行われた『横浜カーフリーデー』をひとつのきっかけに、改めてクルマ中心社会を見直したい、と思ったからです。映画でも触れていましたが、クルマ中心に街づくりを進めたことで、今やクルマの効率性や利便性が損なわれるパラドックスが生じているのです。

 そして、これを変えるには、やはり交通政策の転換が大事だと思います。ただし政策論議ばかりに注目しても、一般の人には縁遠い話になってしまいがち。なので、例えば車道しかない道路に『期間限定の自転車レーン』や『駐輪スペース』などを期間限定で設置してみて、自転車や歩行者も通行しやすい道路を体験できるようにする、といった方法が考えられます。ちなみに海外では、路上駐車でふさがれている自転車レーンの白線部分に市民が自前で樹脂ポールを取り付け、これが正式導入に至った事例もあります」(宮田さん)

上映会のあとはカーゴバイクの試乗会!(宮田さん提供)

上映会のあとはカーゴバイクの試乗会!(宮田さん提供)


 みなさんはどう思いますか? 「道路での共存」について、映画を観て考えてみてはいかがでしょうか。映画の上映に関する問い合わせは「Cycling Embassy of JAPAN」までどうぞ。

映画「Bikes VS Cars」ビジュアル 提供:WG Film

映画「Bikes VS Cars」ビジュアル
提供:WG Film

●自転車とクルマの関係についてはこちらもどうぞ


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Written by 斉藤円華

ジャーナリスト/ライター、サイクリスト。本格的なサイクリング歴は高校以来30年近くにわたる。スポーツ自転車の好みが1980年代で停止したままとなっており、とりわけクロモリのホリゾンタルフレーム、ランドナーほかドロヨケ付自転車には目がない。自転車フリマを物色するのがここ数年のマイブームに。