2017年大きく動いた国内シェアサイクルビジネス、その最前線と未来への予測

躍動する中国発シェアサイクル企業の光と影

のちに中国で移動革命を起こし、世界を驚かせることになるシェアサイクル企業最大手、摩拝単車(モバイク)が北京で起業したのは2015年1月27日だ。

それからまだ3年しか経っていないというのに中国とシンガポールだけでも450万台を運用しており、アジアを飛び出して欧米に版図を広げている。

モバイクは今年日本にも初上陸を果たした(C)モバイク・ジャパン株式会社
▲モバイクは今年日本にも初上陸を果たした(C)モバイク・ジャパン株式会社

今年8月には福岡に日本法人を設立し、札幌でサービス開始。筆者が今年3月に中国天津市を訪問した際には、日本でサービスインするのに1年以上かかると踏んだが、あっさりと予想を上回り半年で軽々と国境を越えて来た

非常に特徴的なモバイクの車体 出典:モバイク・ジャパン株式会社
▲非常に特徴的なモバイクの車体 出典:モバイク・ジャパン株式会社

巨大IT企業のテンセントを筆頭に2017年だけで10億ドル(約1,140億円)もの資金を調達して、あっと言わせた。モバイクのデザイン性は群を抜いているだけでなく汎用性に欠けるため盗難に強い。既に次世代モデルに加え、日本人デザイナーが手掛けた未来的なコンセプトバイクも披露されて話題を呼んだ。

世界的に有名なインダストリアルデザイナー深澤直人氏によるデザインの未来型コンセプトバイク 出典:モバイク・ジャパン株式会社
▲世界的に有名なインダストリアルデザイナー深澤直人氏によるデザインの未来型コンセプトバイク 出典:モバイク・ジャパン株式会社

CEOの王 暁峰氏はモバイクを料金・利便性・クールさの3つを備えていると自負するが、一方で「間もなく倒産するのでは?」と耳を疑うような噂が流れている。また、それを裏付ける報道もあって深刻な事態に陥っているようにも見える。

中国ナンバー3「小藍単車」の倒産が意味すること

小藍単車はBluegogoというブランド名でモバイク、オッフォに続く中国第3位のシェアサイクル事業者だと言われていたが今年11月に倒産。また悟空単車は9割の自転車が回収できず今年夏に倒産するなど、相次いで6社がバタバタと倒れる事態になっている

中国では30分1元(約17円)というタダみたいな料金でシェアサイクルに乗れる。だから市民たちは気軽にシェアサイクルを使うし、見事に生活の足となっている。筆者は天津市民が大挙してシェアサイクルに乗る様子を見て、最初何が起きているか分からなかったし、どうすれば日本も近づけるかと羨ましく思ったものだ。

こんな風にスマホで気軽に借りることができる (C)モバイク・ジャパン株式会社
▲こんな風にスマホで気軽に借りることができる (C)モバイク・ジャパン株式会社

スマホにシェアサイクル各社のアプリを入れて、借りたいと思った時に目の前にある自転車のアプリを起動する。モバイクしか乗らないと決めている人はいない。だから各社とも、できるだけ目の前に置こうとして大量に自転車を投入した結果、車道にまで溢れて社会問題にもなった。

中には扱いが雑な人もいて壊れる自転車が出る。それが大量にあるから修理が間に合わず、やがて使い捨て自転車のようになり、駅前に山と積まれた写真をご覧になった方もいるだろう。最近の報道では高さ数メートルの可愛らしい小山では済まず、クレーンで10メートル以上に積み上げられた色とりどりのシェアサイクル墓場の写真が公開されている。

山のように積み上げられた膨大な量の自転車 出典:トーイチャンネット
▲山のように積み上げられた膨大な量の自転車 出典:トーイチャンネット

膨大な量の自転車は都市鉱脈と呼ぶにふさわしい資源ゴミである。この報道を受けて「支那人のシェアサイクルは当然の結末を迎えた」といったコメントを散見するが、筆者はそう思わない。したたかな彼らは軌道修正して再び立ち上がるだろう。

確かに中国で雨後の筍のように乱立したシェアサイクル企業は淘汰が進んだ。但しモバイクはテンセントが、ofoはアリババが支えている限り倒産しないはず。

これから第2フェイズで、またしてもテンセントvsアリババの戦いとなった。中国市民はこの2強の戦いに飽きている。「シェアサイクルもか。残った2社が合併し、寡占状態になって終わりだろう?」と冷ややかに見ている。

日本では思ったように動けない、モバイクとofoの誤算

2017年8月に札幌で行われたモバイクのローンチイベントの様子 (C)モバイク・ジャパン株式会社
▲2017年8月に札幌で行われたモバイクのローンチイベントの様子 (C)モバイク・ジャパン株式会社

札幌でサービスインしたモバイクに続けとofoが、そして国内勢がメルカリ、DMM、サイブリッジと続けて参入を発表した9月上旬を思い出す。まだ夏の名残が色濃く残る頃だったが報道も負けずに熱かった。

受け止め方も様々で、既存シェアサイクル運営各社は一様に黒船来襲かと色めき立ち、淘汰されるのではと暗澹たる雰囲気に満たされた。

自治体と組んで少しずつ貯めて来たノウハウを簡単に真似されてたまるかという強気の部分と、見たこともないスピード感で世界へ打って出る未知のポテンシャルを持つ敵に怯える弱気の部分が交錯する。同じ土俵で戦ったことのある相手ならば、強さの秘密や弱点の分析もできようが、同じ自転車を扱っているというだけで宇宙人とでも戦う気分になったはずだ。


▲あまりの圧倒的物量作戦に、既存シェアサイクル運営各社はこんな気分だったに違いない

また新たにofoと組むことになったソフトバンクは、先にシナネンなどと組んでハローサイクリングをサービスインしていたから、業界内も混沌として様々な噂や憶測が飛び交った。

国内新興3社は名乗りを上げただけでサービスインは来年以降だと分かっていたから、当面は各社とも中国の2社を警戒して足元を見つめ直し、差別化を図ることにした。敵がどう出るか分からないまでも、自分たちの課題と真剣に向き合う、またとない機会になったと言っていい。

ところが冬になる前に予定通り札幌を引き上げたモバイクは現在サービスが止まっており、国内10カ所で展開するという予告が宙に浮いている。また今年9月から東京と大阪でサービスインする予定と広報していたofoもイベントには出展し、日本人スタッフがブースに常駐こそしているが日本での活動が全く見えない。

それぞれの社内はどうなっているのだろうか。思いのほか放置対策が厳格な日本において、予定通りシェアサイクルの設置場所(ポート)を増やせないことに本部が怒っているのではと噂されているが、大量のofo自転車が日本の港に陸揚げされたまま倉庫に集積されている様子がGPSで検索すれば分かるらしい。両社とも鳴り物入りでデビューしたのにパタリと勢いが止まってしまった。

気概を見せはじめた日本勢

中国勢が足踏みしている間に国内勢が攻めに転じている。

ひとつには、先述のハローサイクリングがセブン-イレブンと組んで1,000店に5,000台という規模でシェアサイクル事業を開始した。均せば1店あたり5台でしかなく、海外事情を考えると物足りないが、それでも新しくサービスを始めたことは評価したい。

セブン-イレブンの自転車シェア 出典:株式会社セブン‐イレブン・ジャパン
▲セブン-イレブンの自転車シェア 出典:株式会社セブン‐イレブン・ジャパン

利用者の声を聞くと、まだ使い方を知らない消費者が多く、埼玉はマイカー率が高いため利用率が低調でポートに空きがなく、目的地で返却できないといった問題が早速、浮き彫りになっている。

利用者が2つのセブンイレブン間を往復すれば問題は出ないが、乗り捨てできるのがシェアサイクルの大きなメリットのひとつなのだから、空きがなくて別のポートに移動しなければいけなかったり、元のポートに戻らなければならなかったりするようだと稼働率は上がらない。

アンケートで以前ドコモ・バイクシェアを利用していたが、現在しなくなったと回答した人が最も大きい理由として挙げたのは「目的地の近くにポートがないから」だった。不便なサービスでは誰も使わない。

もうひとつは、長期間の試乗ができる従来とは違う発想のシェアサイクルだ。目黒にあるスニークルTOKYOが始めたロングタイムシェアは3,480〜5,980円(月額/税込。2年契約で最初180日間は固定、以降90日ごとに車種の変更可)で様々な自転車を乗り比べできる。

じっくりと自転車を試すことのできるスニークルTOKYOのロングタイムシェア 出典:スニークルTOKYO
▲じっくりと自転車を試すことのできるスニークルTOKYOのロングタイムシェア 出典:スニークルTOKYO

そもそも自転車は試乗できる店が少なく、買ってから気づくことが多かったし、長距離を乗ってみないと分からないこともある。ロードバイクに乗ってみたいけど、まず試乗してからというニーズに応えてくれて、借りた自転車が気に入ったら購入もできるサービスだ。

既存のシステムを覆すフリーフロート型の登場

欧米の都市にも既存のシェアサイクル運営会社があって自治体と組んでサービスを提供している。公共交通機関という位置付けで公費(税金)を投入したり、景観規制により限られた広告スペースの販売権を委ねる代わりに運営費を捻出させたりしている。

ところが中国発のシェアサイクル企業が膨大な資金力にものを言わせて大量の自転車を投入し、なおかつポートがないスタイル(フリーフロート型)で展開を始め、一部の市民がこれを喜んで活用し始めている。

既存のシェアサイクルに多いポート型は、整然と自転車が並ぶものの空きがないとそのスポットには返せないというデメリットが。 (C)NAOKO ICHINOMIYA
▲既存のシェアサイクルに多いポート型は、整然と自転車が並ぶものの空きがないとそのスポットには返せないというデメリットが。 (C)NAOKO ICHINOMIYA

エコにうるさいドイツでは、このようなやり方に反発する声もあって成り行きを見守っているようだが、フリーフロート型の元祖はDB(ドイツ国鉄)が始めたコール・ア・バイクだったという歴史の皮肉もある。

すでにポート型のシェアサイクルが浸透している都市でも、その便利さに惹かれてフリーフロート型を支持する声が増えており市役所は対応に苦慮しているようだが、考えてみれば中国で熱烈歓迎されたのも安くて便利だから。常に水は低きに流れるものだ。

日本にシェアサイクルは定着するか

一時は日本全体で100万台近くあった放置自転車が、数十年にわたる対策が奏功して近年は約8万台まで減った。この流れに逆行する施策は逆立ちしても無理だが、メリハリを付ける手はある。

各自治体の数十年にわたる努力で国内の放置自転車は激減した。
▲各自治体の数十年にわたる努力で国内の放置自転車は激減した。

シェアサイクルを新規導入する場合、駅前の駐輪禁止エリアではポート型を、郊外ではフリーフロート型を採用して両者の良いところ取りを狙うハイブリッド型はどうか。

シェアサイクルはIT系企業が運営している場合が多いから自社の自転車がどこにあり、どれくらいの時間動いていないか一発で分かる。駐輪禁止エリア内に放置している利用者がいればポイントを削減でき、悪質な利用者には利用できなくすることも簡単だ。

また自宅の近くにポートが欲しいという声を集め、地権者の協力を得てポート数を増やす一方で自治体は少し柔軟に考えて、駅前の駐輪禁止エリア以外をフリーフロート型で運用すれば学生など利便性とコスパを重視する人々に喜ばれるだろう。

要所は規制するものの、多少は幅を持たせた運用が必要ではないか。中国の二の舞は避けつつ、コントロールの利いた公共交通を目指すワケだ。

既存シェアサイクル運営各社は中国勢の上陸という外圧を良い刺激に変えて、真に使われるサービスを目指しブラッシュアップしてもらいたい。満足したら成長は止まってしまう。攻め続ける会社にだけ未来が拓ける。

とは言っても、シェアサイクルを取り巻く環境は猫の目のように変わるから、ひょっとすると2018年の早い段階でビッグニュースが飛び出すかもしれない。期待して続報を待つべし。

内海潤

WRITTEN BY内海潤

NPO法人 自転車活用推進研究会 事務局長 東京サイクルデザイン専門学校の非常勤講師として次世代の自転車人を育てる一方、イベントや講演会などを通じて自転車の楽しさや正しい活用を訴える活動を続けている。テレビへの出演多数。共著書に「これが男の痩せ方だ!」がある。別名「日本で一番自転車乗りの権利を考えている*事務局長」(*FRAME編集部見解)

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