坂を乗り越える力があれば人生を乗り越えられる!? 映画『神さまの轍』インタビュー

人生を自転車に例えた青春映画

現在、全国で順次公開中の映画『神さまの轍 check point of the life-』は自転車乗りには見逃せない一本だ。京都府井手町という地域発映画としての成り立ちを持つこの企画は、井手町で行わるツール・ド・京都という架空のレースを題材にした青春映画。

することが見つからない中学生二人がひょんなことからロードバイクの魅力に取りつかれ、9年後、ひとりはオリンピック候補選手に、ひとりはアマチュア選手として成長し、2020年の東京オリンピックの前年、故郷のレースで再び邂逅する。監督はこれが商業映画デビューとなる作道雄

主人公の一人・佐々岡勇利(荒井敦史)
▲主人公の一人・佐々岡勇利(荒井敦史)

オリンピック候補の勇利役にはBSTBSドラマ『水戸黄門』の格さんこと渥美格之進役で知られる荒井敦史

主人公の一人・小川洋介(岡山天音)
▲主人公の一人・小川洋介(岡山天音)

地元の大学生で、就活中のアマチュアロードレーサー、洋介を演じるのはNHK連続テレビ小説『ひよっこ』の漫画家、新田啓輔役でお茶の間の人気者となった岡山天音

2か月間の猛特訓で競技者としての説得力を身に着けた撮影の裏側の苦労話や、自転車好きのツボを押す監督の細かい演出について聞いた。

「まず僕らはロードバイクの練習を乗り越えなくちゃなかなかった」

左から主人公の一人・佐々岡勇利役の荒井敦史さん、監督・作道 雄さん、もうひとりの主人公・小川洋介役の岡山天音さん
▲左から主人公の一人・佐々岡勇利役の荒井敦史さん、監督・作道 雄さん、もうひとりの主人公・小川洋介役の岡山天音さん

――『神さまの轍 check point of the life-』は自転車を愛する人たちの心のツボを押す、自転車にまつわる細かな演出がなされていて好感を持ちました。まずは勇利と洋介は中学時代、閉店休業中の自転車屋さんからコロンバスを譲り受けてロードバイクを始めるという設定ですね。

作道「僕自身は自転車乗りではなかったので、不安を埋めるために、それは多くの方に取材をしたんですが、その過程で、現在、プロのレーサーとなっている25歳の方が「中学生の時にコロンバスのロードバイクからスタートした」と聞いて、これだと思って助監督と探しました。ちょうど、中学時代のエピソードが2010年という設定で、そのときに出会うメーカーとしてもすごくいいなと」

主人公たちのフレームはコロンバス
▲主人公たちのフレームはコロンバス

作道 「あと、この映画で僕がやりたかったのはスポコンものじゃなく、最終的に困難な状況には一人で立ち向かって、どうにかするしかないということでした。もちろん、何かを成し遂げるには家族の支えや友情は大切なんですけど、でも、一人で頑張るしかないということを描いた映画って案外、日本にはないなと思って。『神さまの轍』には坂道が象徴的に出てきますが、この坂を越えられるかどうかは自分しかいない、その坂は自分自身の人生でもある。当初、マラソンという題材も一瞬考えたのですが、自転車と主人公の相棒の関係性に惹かれ、そして坂を乗り越えていく姿が映画の精神性になったらいいなと意識して作りました」

荒井「勇利がプロのレーサーになったら、コロンバスもキャノンデールにグレードアップされていてと監督の目配せは細かかったです。ただ、峠を上るというのは、つらかったです」

岡山「……もう、峠を上ったという記憶が今、思い出してもないくらい……。クランクイン前に、実際にここを走りますと言われる峠を荒井君と一緒に見に行ったんですけど、瞬間、『!』となりました。『これはやばい』と。そんなに練習時間があったわけでもないので、撮影に入るのが怖かったです、これ、いけるのか、間に合うのかと」

荒井「実際、撮影中はちょっと変なテンションで乗り切ろうとしてたよね。『今日はちょっと、そこをアタックしにいこうぜ』とか、レーサーぽいことを言ってみたり(笑)。最後は立ち漕ぎしながら、『俺たち、中二病だぜ』と叫んだり、斜度の高いところを斜めに走りながら、どうにかyoutubeで得たヒルサイドの上り方など、知識を出そうとがむしゃらに頑張ってみたり」

岡山「僕はまだアマチュアというくくりだったので良かったんです。プロの指導者の方にも、我流で乗り続けていて、最終的にはプロの選手とレースで爆走するレベルだからと言われて。僕もyoutubeの動画はかなり見ましたけど、自分のスキルに役立てるというレベルではないですからね。ツール・ド・フランスの動画を見ても、自分とはかけ離れた世界だったので、ただただすごいと唸るしかなかったです」

映画『神様の轍 check point of the life-』

荒井「僕たちはゼロからのスタートだったので、まずは自転車のビンディングから始めました。立ち漕ぎを何度もやって。砂利道に倒れるのは怖いので、芝生に飛ぶ練習から始めました。何人かの人は練習中に砂利道に突っ込んで、手足をジャーっと擦り傷していましたけど」

岡山「なってましたね、やってたなあ」

荒井「京都井手町での撮影に入ってからは、片方が撮影に行っている間は、片方が固定じゃないローラーに乗って、乗ってと。飛び級で固定じゃないローラーに入ったので、最初は二人で動画を撮り合いながら、ああでもない、こうでもないとずっと確認しあっていましたね」

作道「二人は大変だったと思います。撮影中は、自転車の場面は大変なことはわかっているから、考えないようにしていたんです。もう任せたと。でも編集中、僕、思わず泣いちゃったんです。それは感動したとかそういうのではなく、俺の知らないところで、荒井君も岡山君もこんなに努力してくれたんだなとびっくりして。撮影の2か月前、二人と会って脚本の読み合わせをしているときには欠片もなかったものが、編集している段階では、たくさんの成果物となっていてワンカット毎に撮れており、そのことに急に気づいて、ワーっと感情があふれ出てしまった。あの時、ああいう選択をしていなかったら、こうはなっていなかったよなと強運に感謝と安堵しちゃったんです」

片山右京も映画を思わず二度見た

――中学生時代の勇利と洋介がロードバイクと出会うのは、六角精児さん演じる通称“自転車おじさん”の導きですよね。町で一軒しかない自転車屋さんの跡取り息子なんだけど、知的障害があり、生前のお父さんが行っていた自転車修理の台詞をつぶやきながら町を練り歩いている。

物語のキーマン・自転車おじさん(右)は六角精児さんが演じた
▲物語のキーマン・自転車おじさん(右)は六角精児さんが演じた

作道「自転車ってタイヤがずっと回るじゃないですか。だから、映画の中にも、ずっとくるくると回っているものを作りたいなと思って、同時に言葉がループしていくものも作りたくて、それをママチャリに乗っている人が町で生き続けるということが出来たらいいなと思って、ママチャリ代表の人として、自転車おじさんを作りました。井手町には20年前には自転車屋さんがあったらしいのですが、今は車で20分くらい南下したところにしかないんです。自転車屋さんって自転車を売って、修理するだけじゃなくて、自転車文化の発信地でもありますよね」

荒井「僕は完成した映画を見て、自転車のレースの場面がカッコいいなと思いました。カメラを一か所に固定して自転車が走りぬくは場面を撮るんじゃなくて、選手の背面から、並走しながらのカットが続いて、こういう迫力ある自転車映画ってないんじゃないかと思います。漕いでいる人の足側からタイヤ越しに風景を映すのもあんまり見たことない」

見慣れたロードレース実況とは違う、独自のカメラワークにゾクゾクする
▲見慣れたロードレース実況とは違う、独自のカメラワークにゾクゾクする

作道「京都での先行公開の時、現在、自転車連盟の理事長も務められている片山右京さんと、映画にもレース実況で出ていただいたロードレース解説者の栗村修さんにトークショーにご登壇していただいたんですけど、片山さんが合間の2時間、すでに映画を見ていたにもかかわらず、『僕、もう一度見る』と劇場で見てくださったんです。で、出てきたら固く握手してくださって、そのとき『プロのスポーツだけで飯を食ってきた自分が見て、『なるほど、こういう目線ね』と思った場面があった』と言ってくださったんです。

その一言を聞いて、それはすごく嬉しかったですね。僕は今回、自転車をメカとして映したくなかったんです。騎手と馬のような人馬一体の生き物のように撮れないかと、カメラマンとも色々相談して、撮影前に海外の競馬のドラマを手当たり次第に見て、このカッティング、このパンの仕方、このカメラの動かし方と研究して撮ったのが本編になっています」

岡山「撮影中は集中していたというか、今、冷静な感覚に戻っちゃうともう怖くてできないですね。作品のためだから、できたというか」

荒井「気づいたら、サドルに跨っていた」

岡山「そう、サドルにまたがり、そしてカーブ曲がってたみたいな。今思うと、あんな下り坂、よくやってたよなあ」

役に入り込んでいる間は下り坂も怖くなかった
▲役に入り込んでいる間は下り坂も怖くなかった

荒井「僕はこんなことを言ったら、何年も乗り続けている方に怒られるかもしれないけれど、撮影中、一瞬だけど、あ、風に乗れたかも、と思う瞬間があって、すごく楽しかったですね。実際、プロの選手なんてなれっこないんだけど、そんな中でもロードバイクの楽しさは感じられたし、自転車と体が一体化する感覚とか、ヒルサイドを体で風を切っていく感覚とか、少なからずあって、こんなに倒してもカーブ曲がれるとか、こんなに下ってるのにブレーキかけないで行けるとか、根拠のない自信が生まれる瞬間は何回かありました。

ほら、あそこ、覚えてる?下り坂でピンディングしながら降りたところ、難しかった。あれ、怖すぎて、いつも平坦な道だとひと漕ぎしてカチゃって変えるけど、下り坂だと一漕ぎしないうち、スーッとなっていくから、早く変えて下り坂にインしなきゃって、カーブにインして」

――そうそう、そうやってみなさん、道を語るようになるんです。

一同「爆笑」

荒井「でも、今、乗れって言われたら、マネージャーさんにこの後の仕事を半年ぐらい開けてもらいます。怪我する前提で思いきり乗りたいですね」

作道「この映画は、途中で止めて見るような作りになっていなくて、集中力でもって一気に見ていただくように作りました。二人のレースの場面もあるのでぜひ、スクリーンで見ていただけたらと思います」

上映情報
東京…4/5まで 渋谷アップリンク
名古屋…4/6まで 名演小劇場
栃木…4/13まで 小山シネマロブレ
京都…5/12~ 京都シネマ
横浜…5/12~ 横浜シネマジャック&ベティ
鹿児島…5/19、20、ガーデンズシネマ

LINK:神さまの轍 check point of the life-

金原由佳

WRITTEN BY金原由佳

映画ジャーナリスト。「キネマ旬報」「装苑」「ケトル」「母の友」「朝日新聞」など多くの媒体で執筆中。著書に映画における少女性と暴力性について考察した『ブロークン・ガール』(フィルムアート社)がある。取材・構成を担当した『アクターズ・ファイル 妻夫木聡』『アクターズ・ファイル 永瀬正敏』『鈴木亮平 FIRST PHOTO BOOK 鼓動』(すべてキネマ旬報社)、『伝説の映画美術監督たち×種田陽平』(スペースシャワーブックス)が発売中。

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