シーズン真っ最中にチーム・スポンサーが変わる? スカイがスポンサーを降りた理由と新スポンサーのイネオスについて

2019年のシーズンがスタートする前から、スポンサー変更の噂があったチーム・スカイ(TEAM SKY)。当初の情報では、今シーズン終了まではイギリスのメディア企業スカイがスポンサーを継続するとのことでした。しかしふたを開けてみれば、スカイはシーズン真っ只中の今年5月にスポンサーを降板、イギリスの石油化学企業のイネオス(INEOS)がそのあとを引き継ぐと正式に発表されました。この記事では、チーム・スカイのスポンサー変更までの経緯と、新スポンサーのイネオスについての情報、そして今後のチーム戦略について考察します。

スポンサー変更の経緯とその背景

ゲラン・トマース。2019年のブエルタ・バレンシアにて。Photo by Yukari TSUSHIMA
▲ゲラン・トマース。2019年のブエルタ・バレンシアにて。Photo by Yukari TSUSHIMA

スカイのチーム・スポンサー撤退が明らかになったのは2018年12月のこと。チームの公式ツイッターなどで、2019年一杯でスポンサー契約を終えることを表明しました。2015年からツール・ド・フランスをはじめとする3週間のレースでの優勝者を独占していたチームのスポンサーが変わるというニュースは、自転車界に大きな驚きを持って受け入れられました。

しかし、かつて同じ自転車界のトップレベルで戦っていた人の中には、このニュースを当然のこととして受け止める人も少なくはありませんでした。たとえば、アルベルト・コンタドール(Alberto Contador)は「プロ・ツールのレベルのチームになると、だいたい5年間ぐらいの周期でスポンサーが変わるもの。スカイは2010年からメインスポンサーだったから、比較的長い期間、チームのスポンサーをしていたと思う。驚くようなことではないよ。」とコメントしました。

では、スカイがスポンサー契約を終了する理由は何だったのでしょうか。一つには、クリス・フルーム(Chris Froome)をはじめとする有力選手のドーピング疑惑による企業のイメージダウンをスカイが嫌ったため、と言われています。

しかし、最大の理由は、やはり経済的な問題でしょう。

チーム・スカイの2017年の予算は3449.6万ポンド(約50億円)で、2010年のチーム発足時と比べると、約2倍の予算規模です。しかしこのチームは、有力チームであるがゆえの経済的な問題を、ここ数年抱え続けてきました。

まず、スカイは、近年チーム内の有力選手と複数年契約を交わすことが増えていました。例えば、クリス・フル―ムとは2020年までの契約を結んでいますし、ゲラン・トマース(Geraint Thomas)とは2021年までの契約です。そして若きコロンビア人サイクリストのイーガン・ベルナル(Egan Bernal)とは、2023年までの契約を結んでいます。

こうした選手との契約金が増加すると同時に、チームが抱えるスタッフの数も増えました。例えば、チーム発足当時はフルタイム契約のスタッフは3人だけでしたが、今はその数も増えています。

また、ツール・ド・フランスをはじめとする大レースの優勝者を何人も輩出した結果、世界中のレース開催者からチーム・スカイにレース出走のオファーが届くようになりました。もちろん、出場するにあたり、大会側から交通費や宿泊費等などの金銭的補助はあります。しかし、それでもスタッフの数が大幅に増えたチームが、数多くのレースに出走するようになった結果、レース移動時の費用が大幅に増えることになったのです。

もちろん、ツールなどで選手が優勝すると、スカイの名前は世界中に広まり、彼らのサービスを購入する人が増加する可能性があります。しかし、数多くの有力選手を抱えることによって発生するこうした様々なコストは、スカイの親会社である21th Century Fox社にとっても、近年は見過ごすことができないものになってしまいました。

つまり、スカイにとっても、そして21th Century Fox社にとっても、自転車のチームのスポンサー事業というのは、もはやコスト・パフォーマンス優れた宣伝・広告活動ではなくなっていたのです。

新スポンサー決定にかかわる過程とイネオスについて

2019年のブエルタ・バレンシアにて。Photo by Yukari TSUSHIMA
▲2019年のブエルタ・バレンシアにて。Photo by Yukari TSUSHIMA

当初、2020年からの新スポンサーとして噂されていたのは、コロンビア政府でした。

チーム・スカイにはリゴベルト・ウラン(Rigoberto Urán)や前述のイーガン・ベルナル、イバン・ソーサ(Iván Sosa)や セバスチャン・エナノ(Sebastián Henao)といった実力派のコロンビア人サイクリストが所属しています。また、彼らの次の世代にあたる若いコロンビア人選手も、すでにヨーロッパのアンダー23のチームなどで活躍しています。

こうしたコロンビア人自転車選手の近い将来の活躍を見越したコロンビア政府が、スポンサー候補として名乗りを上げたのも自然な成り行きとして、ヨーロッパ自転車界では受け取られていました。

2018年の年末ごろから、チーム・スカイ総監督のデイビッド・ブレイルスフォード(David Brailsford) と同チームのコロンビア人選手のリゴベルト・ウラン、コロンビア大統領のイバン・ドゥケ(Iván Duque)氏、そしてコロンビアのサイクリングチームであるコールデポルテ(Coldeporte)の監督のエルネスト・ルセナ(Ernesto Lucena)氏の4者がか集まり、コロンビア政府がチーム・スカイの後釜のスポンサーになるための話し合いが持たれました。このとき、コロンビア政府主導の石油化学会社が新スポンサー候補として挙げられましたが、結局この交渉は物別れに終わります。

この後、チーム・スカイの新たな交渉相手となったのが、今回新スポンサーとなるイネオスだったのです。

新スポンサーイネオスと同企業のオーナーについて

ダビッド・デ・ラ・クルス。2019年のブエルタ・バレンシアにて。Photo by Yukari TSUSHIMA
▲ダビッド・デ・ラ・クルス。2019年のブエルタ・バレンシアにて。Photo by Yukari TSUSHIMA

イネオスは1998年に設立されたイギリスの石油化学企業です。世界24か国で171の工場を運営し、従業員数は約19000人。工業用の燃料および潤滑剤や、食料品のパッケージなどが主な商品です。オーナーはサー・ジム・ラドクリフ(Sir Jim Ratcliffe)氏で、彼がイネオスの株式の60%を所有、2018年の収入は約210億ポンドと報道されています。

また、今年66歳のラドクリフ氏はトライアスロンのマスターズの選手でもあり、イネオス・チーム・UK・セイリング(INEOS TEAM UK SAILING)というヨットのチームへ出資した経験があります。また、彼はブレグジッド(Brexit)賛成派で、イギリスのEUからの離脱を支持。ヨーロッパの環境税を「企業活動を妨げる、馬鹿げた考えである」と批判しています。

こうしたスポーツへの理解と、母国である大英帝国への思いが、彼を世界一のチームのスポンサーにさせた原動力なのかもしれません。

今後のチーム・イネオスのプロジェクトについて

2016年のブエルタ・エスパ―ニャにて。Photo by Yukari TSUSHIMA
▲2016年のブエルタ・エスパ―ニャにて。Photo by Yukari TSUSHIMA

チーム・スカイ改めチーム・イネオスのお披露目の舞台は、5月2日のツール・ド・ヨークシャー(Tour de Yorkshire)です。新スポンサーでのレース初戦を地元イギリスで迎えることになります。なお、このレースにはクリス・フルームとゲラン・トマースが出走予定です。

そしてこのチームは昨年同様、今年もツール・ド・フランスをはじめとする3大グランツールを中心に優勝を狙うことが、今年の最大目標です。
すでにクリス・フル―ムとゲラン・トマースはとツール・ド・フランスへの出走を表明しています。また、ブエルタ・エスパ―ニャでは、スペイン人サイクリストのダビッド・デ・ラ・クルス(David de la Cruz)や、コロンビア人のセバスチャン・エナノ等が、新チームでのエース候補となるでしょう。

最後に

昨年末から自転車界を大騒ぎさせたチーム・スカイのスポンサー撤退報道。その結果はシーズン途中でスポンサーが変わるという、自転車ロードレースの歴史上なかなか見られない形での、スポンサー変更劇で幕を下しました。近年、有力選手は複数年契約を変更する傾向が強くなっています。加えて、有力選手になればなるほど、彼らを支えるスタッフの数も増えます。こうしたコストが、チーム経営に影響を与えることを改めて示した、今回のスポンサー交代劇であったと言えるのではないでしょうか。

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WRITTEN BY對馬由佳理

スペインに住んで11年。この国で、プロはもちろんアマチュアの自転車レースを追いかける日々。スペインの女子ロードレースやパラサイクリングも取材経験あり。

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