自転車メカニックが解説 コンポーネントメーカー、SRAMのラインナップとは
こんにちは。サイクルメカニックの石橋です。今回は自転車を構成する上で、不可欠なコンポーネントを取り上げます。コンポーネントとは、変速機、ギアの歯、チェーンなどの駆動系パーツとブレーキ系パーツを合わせた総称のこと。特にスポーツバイクはコンポーネントの性能次第で走りが大きく変わり、自転車の購入の際にも重要な比較対象になります。
そのコンポーネントですが、代表的に3社に絞られています。それはシマノ、カンパニョーロ、SRAM(スラム)の3社です。シマノは言わずと知れた日本メーカー。デュラエース、アルテグラ、105のグレードが有名です。
カンパニョーロはサイクルレースの歴史と共に歩んできたイタリアンメーカーです。カーボンパーツを多用したレコード、コーラスなどのグレードが有名です。
では、SRAMとはどんなメーカーなのか。アメリカンブランドではあるもののシマノ、カンパニョーロに比べて詳しく知っている人は少ないように思えます。今回はそのSRAMのロードバイクコンポーネントをご紹介していきます。
目次
MTB用のコンポーネントがはじまり
スポーツバイクのシフトチェンジレバーは左右の指を使って変速していくタイプが大多数を占めますが、中にはグリップシフトと言ってハンドルを握り、バイクのスロットル(アクセル)のように回して変速するタイプがあります。
グリップシフトはMTBやクロスバイクなどストレートハンドルに用いられる変速方法です。それを開発したのがスラムの前身の会社です。
その後、本格的にMTBコンポーネントを製造するようになり、MTBにおいてはシマノの地位を脅かすほどの存在に成長しました。そして、満を持して2006年にロードバイクコンポーネントをリリースします。
他社よりも軽量な製品に注力
ロードバイクコンポーネントのシェアは当時シマノとカンパニョーロの2強。それに対抗するためにスラムが挑戦状を送りつけた形でした。
しかし、ただ目新しさだけではシマノとカンパニョーロには適いません。スラムが他社に対抗するために力を入れたのが、コンポーネントの軽量化です。もともとシマノ、カンパニョーロは共に十分な軽さを擁していましたが、スラムはそれ以上の軽量化したモデルをリリースすることで、レースやヒルクライムでのアドバンテージを求めるユーザーに支持され始めました。
例えばシマノの最上位モデルであるデュラエースの機械式コンポーネントの平均重量が1,961g。一方SRAM Redの平均重量は1,841gと120gほどSRAM Redの方が軽く仕上がっています。(※平均重量で比較)
たかが120gと思われるかもしれませんが、自転車のコンポーネントにとって100gの差は非常に大きく、レースやヒルクライムで大きなアドバンテージとなるのです。
SRAMはまた、ツール・ド・フランスに出場するチームにコンポーネントを供給することで、過酷なレースシーンでも信頼できるコンポーネントとして認められました。
業界初のワイヤレス変速システム Red eTAP
2016年、スラムがリリースした新型コンポーネントに大きな注目が集まりました。それは今までの電動ギアシステムで実現できなかったワイヤレスでギアチェンジする変速システムをリリースしたことです。
Red eTAPと言われ、シフトレバーを押すと無線信号でギアを変速させるシステムです。他社の電動ギアは、シフトレバーからギア本体まで配線を繋げなくては作動しないのですが、Red eTAPはそのような配線は全く必要なく、メカニック目線からも取付が非常に容易です。
バッテリーはギア各々に独立して取り付けるタイプで、非常にコンパクトです。
また、メンテナンスの際はシフトレバーに触れることなく、ギア本体にあるボタンを押すことで、本体から直接変速できる画期的な機能も擁します。ボタンを押すことで画像のように緑に光りながら変速します。
特徴的な操作性 ダブルタップ
SRAMは電動ギアシステムの他に他社と同様に機械式タイプもラインナップしています。機械式は性能別に合計5つのグレードが存在します。5つそれぞれ共通しているのが、変速レバーの操作方法です。機械式レバーはダブルタップレバーと言われ、操作方法に特徴があります。
右が後ろのギア変速で、左が前のギア変速は他社と同じですが、指の使い方がユニークです。
画像は右レバー(後ろのギア)です。まず、ギアを操作するレバーはRedと表示されているメインレバー(長いほうのレバー)ではなく、その左側に付属する背びれのような形をした方です。
これを指(一般的には中指が多い)で押すと、後のギアが重くなります。また強めに押す(奥まで押し込むイメージ)とギアが軽くなります。
また、左レバー(前のギア)の場合は、普通に押すと前のギアが軽くなり、強く押し込むと前のギアがアウターギアに入り重くなります。
このように機械式はダブルタップと言われる特徴的なギアチェンジシステムであり、慣れると非常に使いやすいレバーでもあるのです。※電動式であるRed eTAPはダブルタップではありません。
各グレードのコンポーネントを紹介
1.Red eTAP(レッド・イータップ)
先程もご紹介しましたが、SRAMのフラッグシップコンポーネントであるRed eTAPです。無線通信に直接関係しない、ブレーキ、チェーン、スプロケットはセットに入っていないため、既存のパーツを新調せずにRed eTAPを導入できるメリットがあります。
コンポーネントは同じグレードで統一するのが通説ですが、互換性さえ合えばSRAMの別のグレードと組み合わせることは可能です。
またパーツによってはシマノとの互換性があるので、さまざまな組み合わせを試すことができますが、個人的には同ブランド、同グレードのコンポーネントで統一することをおすすめしています。
気になるバッテリーの容量ですが、満充電の場合、約1000kmの走行が可能で、時間にすると約60時間使用できるとのこと。シマノのアルテグラ電動シフトが約700kmと言われていますので、注視していればバッテリー切れはほとんど起こらないと思われます。
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ロードコンポーネントセット参考価格:税抜197,000円
エアロ・TTバイク用セット参考価格:税抜188,000円
2.Red(レッド)
SRAMの機械式コンポーネントの最上位グレードであるRed。他社も含めた数ある機械式コンポーネントの中で最軽量です。ギアの操作方法は先述の通りダブルタップシフトです。
カセットスプロケットのトップとローギアの2枚以外は、鋼鉄のかたまりから削りだして作られており、肉抜きもされ、かなり軽量に仕上がっています。
グループセット参考価格:税抜239,130円~
コンポーネント参考重量:1,841g
(※グループセットは、シフト・ブレーキレバー、リアディレイラー、フロントディレイラー、クランクセット、ブレーキ、チェーン、スプロケットの合計7点セットです。)
3.Force(フォース)
Redのグレードができる前、SRAMのロードバイクコンポーネントのフラッグシップだったのがForceです。セカンドグレードになった今でもその軽量性は高く、Redとのデザイン性とも近いので高級感を感じます。
Forceはシマノのアルテグラと比較されるグレードです。SRAMとシマノは操作性が違うので、どちらが使いやすいとは一概に言えませんが、価格はアルテグラの方が安く抑えられています。しかしコンポーネントの全体重量に関してはForceの方が約120g軽さで上回ります。
グループセット参考価格:税抜132,910円~
コンポーネント参考重量:2,155g
(※グループセットは、シフト・ブレーキレバー、リアディレイラー、フロントディレイラー、クランクセット、ブレーキ、チェーン、スプロケットの合計7点セットです。)
4.RIVAL(ライバル)
ミドルグレードのRIVALはロードバイクに加えてツーリングバイクにも使用率が高いコンポーネントです。RedとForceはグレー基調でしたがRIVALはブラックがメインカラーとなっています。
変速数は前が2段、後ろが10段となり、後ろが11速の上位グレードと比べると性能を抑えたモデルになっています。
RIVALもシマノの105と比較されます。シマノ105は、後ろのギアが11速のミドルグレードのコンポーネントとして圧倒的なシェアを誇っているのでRIVALはなかなかユーザー数を伸ばせていませんが、こちらも軽さでは105を上回ります。
グループセット参考価格:税抜77,830円
コンポーネント参考重量:2,386g
(※グループセットは、シフト・ブレーキレバー、リアディレイラー、フロントディレイラー、クランクセット、ブレーキ、チェーン、スプロケットの合計7点セットです。)
5.APEX(エイペックス)
RIVALよりもよりブラック基調が強くなったカラーリングです。APEXはSRAMのロードコンポーネントでエントリーグレードの位置づけとなります。エントリーモデルとは言えダブルタップレバーを採用しているので、操作感は上位グレードと大差はありません。
SRAMを選ぶメリットは
コンポーネントの市場シェアはシマノが有利と言われています。ほとんどの自転車メーカーは完成車にシマノのコンポーネントを採用していることからみてもこれは周知の事実です。
しかし、高額なフレームになると完成車販売ではなくフレームセット売りというスタイルが出ています。フレームセットで購入するとコンポーネントは別途自由に選ぶことができます。
その際にSRAMを選ぶメリットが出てくると思います。価格ではシマノに劣りますが、コンポ-ネント全体の軽量性やダブルタップシフトとワイヤレス変速のRed eTAPという「飛び道具」も選ぶことができます。
さらにTREK、SPECIALIZED、CANNONDALEといったアメリカンブランドとの相性も良いと考えます。各社の完成車はシマノを採用するケースが多かったのですが、フレームセットで購入するならば、コンポーネントが同じアメリカンブランドだと統一感も出ると思います。
カンパニョーロはヨーロッパブランド、特にイタリアンメーカーとの相性が良いと言われますが、TREKにカンパニョーロが付いていると、アメリカとイタリアのコンビネーションに違和感を感じてしまうのは私だけではないと思います。
フレームセットで販売されているモデルは、そのメーカーの上位モデルであることが多いため、コンポーネントがエントリーもしくはミドルグレードだとバランスが悪くなってしまいます。予算の都合上、コンポーネントにコストパフォーマンスを求めてしまうのは仕方ないかもしれませんが、エントリーグレードのAPEXやミドルグレードのRIVALを選ぶことは賢い選択ではないかもしれません。
性能、価格、人気の面でシマノのエントリーからミドルグレードはSRAMを大きく上回っているため、SRAMのコンポーネントを選ぶ際はForce以上のグレードをおすすめします。
最後に
特異的なものや性能が高くなることで、かえってユーザーが使いにくいアイテムとなってしまったということはよく聞きますが、SRAMにはそれがなく、性能が上がるごとにすべてのユーザーが使いやすくなるよう製品の開発を続けています。Red eTAPはその例だと思います。
さらにSRAMの上位グレードはシェアを誇るシマノのコンポーネントよりも軽さという大きなアドバンテージがあります。
フレームからオリジナルのロードバイクを組み立てて見たいと考えているユーザーにはSRAMのコンポーネントを一度検討してみてはどうでしょうか。
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WRITTEN BYVIKING the MAINTENANCE
都内のプロショップに10年間在籍後、2015年VIKING the MAINTENANCE を設立。東京・西新宿を拠点にスポーク自転車の組付け、カスタマイズ、メンテナンスを軸に展開中。年2回富士山麓でサイクルイベントも企画中。 http://www.viking-the-maintenance.com/