【真相解明?】自転車でEDになるって本当?!ロードバイク乗りの泌尿器科医に聞いてみた
ぶっちゃけ、どうなの?自転車に乗ると、ED(勃起機能の低下)になるの……?男性で自転車に乗る方なら、正直気になる話題ではないでしょうか?
今回は、そんな疑問を泌尿器科に勤めるお医者さんに聞いてきました。実際どうなんでしょうか。
先生のプロフィール:
2005年に都内の医学部を卒業。2年の研修を終え泌尿器科医として7年働いた後2014年からアメリカNYに渡り、前立腺癌の研究をしている。専門は泌尿器悪性腫瘍。
泌尿器科が扱うED(Erectile Dysfunction)とは?
ーー 本日は、男性なら気になる自転車とEDの関係というテーマで色々お聞きしたいと思います。
実は私も趣味でロードバイクに乗っているので興味深いテーマですね。競輪の選手のメディカルチェックをやったことがありそのことがきっかけで自転車に興味を持ちました。
日本にいたときは自転車通勤で1日10~15km、週末は100kmくらいのツーリングに出かけていました。現在はニューヨークにいるのですが、こちらでも走りやすいコースがあるので、自転車にはよく乗っています。
ーー 先生も自転車乗りなら話が早いですね(笑)では、今回の本題に行く前に、泌尿器科については知らないことばかりなのですが、どういった分野なのでしょうか?
尿に関連した臓器をあつかう診療科科になります。主に、尿路系臓器(腎臓、尿管、膀胱、尿道)、内分泌系(副腎)、と男性生殖器(陰茎、前立腺、精巣)の病気を診ています。性ホルモン異常や感染症もカバーしています。
だいたい患者は男性8に対して女性2割ですね。そして、今回のテーマであるEDも泌尿器科が担う領域です。
ーー どのような症状がEDなのでしょうか?
EDとは、英語で「Erectile Dysfunction」、日本語では「勃起障害」あるいは「勃起不全」と訳されます。勃起に時間がかかったり、勃起しても途中で萎えてしまったりといった、勃起機能の低下を意味し、本人の自覚症状で、病院に来院されることがほとんどですね。
原因は糖尿病や高血圧、脂質代謝異常(高脂血症、高コレステロール血症)などの生活習慣病や心因性と多岐にわたります。
サイクリングが盛んなアメリカは性機能に敏感な国で、加齢とともにEDは増えてくるものという認識が既にあります。原因に応じた様々な治療法があります。
自転車がEDに直接的・間接的に関係している?
ーー では、いよいよ気になるところを聞いていきたいのですが……自転車(ロードバイク)が泌尿器に与える影響はあるのでしょうか?
結論から言った方がいいですね。ずばり……まだ、わからない領域なんです。
実は、自転車とEDの関連性の学術的な論文はたくさん出ており、私もこの機会に色々調べてみました。EDと自転車を関連づける論文はたくさんあるのですが無作為比較ランダム化試験(この場合自転車に乗る人と乗らない人をランダムに選別して長期間追跡する試験;EDと自転車の研究では現実的に不可能)が無いことを補うほど根拠の高いものはありませんでした。
一番大規模な調査がサイクリスト5000人にアンケートした内容(※1)で、この論文では自転車とEDの関係は否定されています。
サンプルが一番多い調査なので信頼性は高いですね。特に高血圧と喫煙、年齢が60歳以上であることがEDと関係していたとその論文中で述べられているのは興味深いところです。
ーー 関係あるかもしれないし、ないかもしれないんですね!でも、一番大規模な調査で関係ないと出ているのは嬉しいですね。
そうですね。対象者が一番多い調査なので。ただし、自転車がEDに直接的・間接的に関係している可能性は高いという調査結果もいろいろと出ています。
例えば、2001年の調査(※2)では、週に3時間以上自転車に乗る人はそうでない人と比べ1.7倍軽度のEDになりやすいという結果が出ています。ただこの調査でもっともEDになりやすいのは、運動習慣のない人とあります。
ーー そもそも、もし自転車に乗ってEDになるとしたら、その要因は?
サドルで会陰部が直接圧迫されることが主な要因ですね。会陰部は勃起に関わる神経や血管のネートワークが集中している部位なのです。その部位にかかる圧力、時間によって、これらの神経や血管が障害を受ける可能性は考えられますね。
しかも、自転車のみならずバイクや馬など騎乗型の乗り物はEDになりやすいのではないかと昔から言われており、馬に関しては紀元前から関係があるかもしれないと指摘されていたという文献が残っています。
ーー 紀元前から!? でも、その要因を意識した上で、自転車に乗る人が取れる対策はあるのでしょうか?
安心してください、あると思います。
まず、前提として自転車のサイズやポジションがあっている必要があります。これがあっていなければ手足の関節や首などの痛みを引き起こす可能性があるためより生活の質を落としてしまいかねません。
正確なポジションを出した後、その次に気になる方はEDの予防を考えるといいと思います。
先ほど言いましたが自転車とEDが関係あるとするとサドルと会陰にかかる圧力が神経血管障害につながる可能性が考えられます。理論的にはサドルにかかる圧力と時間を調節することが予防につながることがわかると思います。
そこでまずは、自転車に乗る時間・距離を調節するのがいいかもしれません。適度に休憩を入れて無理をしないと心がけることが予防につながると思います。
特に初心者はペダリング技術や体幹の筋力が不十分なため会陰に余計な圧力をかけてしまう可能性があります。自転車の楽しみを最大限引き出すために技術が上達するまでは無理をしない範囲で乗ることを勧めます。
ペダリングも上達してある程度乗れるようになってから意識してほしいのが、会陰部のさらなる除圧です。会陰部の不快感を和らげることが第一なので、そこに圧力をなるべくかけないようにすること。
例えば、ロードバイクの場合は前傾姿勢が強くなれば会陰部にかかる圧力が強くなることが言われています。これが会陰部の血行障害を引き起こす可能性があります。(※3) 圧力をかけないため、シッティングだけではなく、定期的にダンシングを取り入れると良いのかもしれません。
また、サドルの形、素材にはこだわった方がいいですね。実際にノーズの太いサドルの方が、負担がかからないと言われています。(※4)反面、ホールタイプ(サドルに穴が開いているタイプ)は、効果的は今のところはっきりしていないようです。
他にもノーズレスサドルというものをご存知でしょうか?その名の通り、ノーズがないサドルで、直接会陰部を刺激しないため、論文を見ても効果的と発表されています。(※5)ロードバイクに合うかわかりませんが、どうしても気になるという方は試してみてもいいかもしれませんね。
ーー なるほど。圧力でいうと、自身の体重なんかも影響するんですか?
もちろん、体重が増えれば増えるほどリスクは高まると思います。先ほどから言っているように会陰部にかかる圧力と時間が神経血管損傷につながる可能性があるため、重い荷物を入れたバックを背負って長距離の自転車旅に出たりするのも影響があるかもしれません。
無駄な荷物は持たず軽量化を意識した方がいいですよ。重いものは背負わないで、タイヤの周りに付ける自転車用バックを使うのも手です。
自転車で運動している人の方がED予防には良いかもしれない
ーー 事前知識があるだけである程度対策もできそうですね。
原因を知ることで適切な対応ができると思います。これ以外にも自転車用のお尻にパッドの入ったいわゆるレーパンをはくことや、きちんと整備された道を走ることも重要かもしれません。
間違っても初心者がパリ〜ルーベ(※)を走ってはいけませんね。翌日にはEDになってるかもしれません。(※自転車プロロードレースの一つ。フランスのパリからルーベまで、およそ260Kmを走るワンデーレース)
ここから大事なことをいいますが、サイクリングは糖尿病・高血圧・脂質の代謝異常などいわゆる生活習慣病の予防になります。むしろ自転車を使った運動は健康面から考えるとプラスになります。
高血圧などはEDの要因にもなりますので、運動しない人と比べると、自転車で運動している人の方がED的には良いということも言えると思います。
上達するまでは自分の愛車を適度に乗るのがEDを気にせず楽しむコツかもしれませんね。
ーー 実際のところ、EDは治るものなのでしょうか?
原因にもよりますが、治療することはできます。原因となる疾患の治療や勃起を促す薬物療法もあります。名前はご存知かもしれませんがバイアグラなどが使われます。もちろん、必ず医師に相談の上で治療にあたってください。
ーー いろいろ勉強になるお話ありがとうございます。最後に、お医者さんからメッセージをいただけるのは貴重な機会なので、自転車乗りに向けて一言お願いします。
まず、今回こういったテーマをきっかけに色々と調べることができて、私自身も勉強になりました(笑)実は、お医者さん同士でも、この話題があがることはあったのですが、しっかり関係性を勉強する機会はほとんどありませんでした。
今回はEDになるリスクに触れてきましたが、自転車は健康という観点からいうと、とても効率的で楽しいエクササイズになります。EDになるかもしれないから乗らないというより、自転車に気持ち良く乗るためにはどのようなライフスタイルがいいのか自分の体と相談しながら乗っていただけたらと思います。
この健康のメリット最大限生かす楽しみを模索する中でEDや会陰部の痛みが気になる方は予防するうえで今回話した内容が少しでも役に立てたらと思います。自転車好きにしか分からないあのスピード感や峠の達成感は何ものにも変えられないですからね。
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WRITTEN BY松田 然
合同会社スゴモン代表兼ライター。旅をしながら仕事をするスタイルを取り入れ、自転車で日本全国47都道府県を走破。働き方や旅、自転車を中心にこれからのライフスタイルのヒントをブログなどで発信中! http://moyulog.com/