自転車事故を起こしてしまったら、まず何をすればいいのでしょう。実際に事故に遭ってしまうと、頭が真っ白になってしまう方も多いと思います。
今回は、事故に遭ってしまったら、その日のうちに何をすればよいか、ということについて弁護士の萩原崇宏さんが解説します。また、補足として、「事故の相手には絶対に謝ってはいけないのか?」ということについても萩原さんに述べてもらいます。
1.負傷者の救護
事故を起こしたら、まずは負傷者を救護しましょう。
自転車は道路交通法上軽車両に該当しますから、事故を起こした場合には、直ちに運転を停止して、負傷者を救護しなければなりません(道交法72条1項)。
事故を起こしてパニックになり、負傷者を残して逃げるといったことは絶対にしてはいけません。いわゆるひき逃げは、救護義務違反として刑事罰の対象となることは、自動車の場合と同様です(道交法117条の5第1号)。
負傷の程度が酷い場合には、迷わず救急車を呼びましょう。また、目立った外傷がなくても、頭をぶつけていたり、衝突による衝撃が大きかったりする場合には、念のために救急車を呼んだ方が良いでしょう。
事故直後は興奮状態のため、痛みを感じにくく、自分の怪我の程度を軽く感じてしまうそうです。事故による負傷が重篤化することは、加害者にとっても被害者にとってもいいことは一つもありません。
救急車を呼ぶか否かの判断に迷った場合には、東京消防庁の救急相談センター(#7119)に問い合わせることも考えられます。
2.道路上の危険の防止
後続車両との誘発事故を防ぐことも大切です。道交法上も、道路における危険を防止する等必要な措置を講じることが義務づけられています(道交法72条1項)。
後続車両に注意を促したり、追突が危惧される場合には、車両を安全な場所に動かしたりしましょう。
ただし、自転車が倒れている位置関係が、事故状況の認定において重要になってくることもあり得ます。そのため、誘発事故の危険もなく、負傷者の救護や警察への通報が終わっているのであれば、事故の証拠の収集のため、写真に収めておくことも有用でしょう。
3.警察への通報
事故に遭ったら、迷わず警察を呼びましょう。道交法上も、事故を起こした運転者には、事故を報告する義務が定められています(道交法72条1項)。
警察への事故報告義務違反には罰則が定められています(道交法119条1項10号)が、警察へ通報していなかった場合、民事上の解決に支障を来します。それは、事故証明書との関係です。
その場で警察へ通報を行っていれば、事故証明書を発行してもらえます。事故証明書の取得をしていなかった場合、保険の手続にも支障が出てしまうことがあります。事故証明書がないから保険を利用出来ないというわけではありませんが、事故の発生を証明する最も簡単な方法が事故証明書です。
そのため、事故証明書を取得するためにも、警察への通報は行いましょう。
また、加害者側から、「警察に通報するのは勘弁してほしい」と言われてその場で示談を提示されることもあり得ます。しかし、事故現場ですぐに示談に応じてしまうことは、おすすめできません。その後に痛みが顕在化したり、負傷が明らかになったりすることもあるでしょう。
相手方からのこのような申出は断り、まずは警察に通報しましょう。なお、通報の仕方は、110番で問題ありません。
4.相手方の身元の確認
警察が到着するまで、事故の相手方をその場に止まらせましょう。こちら側が負傷している場合、相手方が逃げてしまった場合には、上記のとおり相手方は救護義務違反になります。
しかし、一度逃げてしまった加害者を再び見つけることは困難であることも事実です。警察が到着するまで、相手方をその場に止まらせましょう。また、警察が到着するまでの間に、互いの連絡先を交換しておくことも有用でしょう。
5.証拠の収集
負傷者を救護し、危険を除去し、警察へ通報しても、救急車や警察が到着するまでにはしばらく時間があることが多いです。
そのような場合には、事故の目撃者の氏名や連絡先を聞いておいたり、タイヤ痕や自転車の破損状況を写真に収めておいたりすることも有用です。
6.実況見分
警察が到着すると、実況見分がはじまります。いわゆる「現場検証」と言われるものです。
警察に対しては、事故状況について自分の認識をはっきりと述べましょう。
事故を起こしてしまったという負い目から、自分の過失を大げさに認めてしまったりすることはするべきではありません。実況見分における供述は、後々重要な証拠にもなります。そのため、自分の認識を正確に述べるようにしましょう。
また、実況見分調書に自分の認識と違ったことが記載されている場合は、署名押印を拒否しても構いません。
なお、こちら側の負傷が酷く、救急車で搬送される場合には、その場では相手方のみの言い分が聞かれることもあります。
そのような場合でも、こちら側の言い分は後日聞かれますので、相手方の言い分と違う場合は、しっかりと自分の認識を述べましょう。
7.病院での診断を受けておきましょう
自分自身も負傷している場合には、病院に行きましょう。その日のうちに診断を受けずに、後日診断を受けた場合、事故との因果関係が争われてしまう可能性があります。
怪我が軽微だと思っても、素人判断は控え、念のために診断を受けておきましょう。なお、交通事故の事案でも健康保険が使用できることについては、前回ご説明したとおりです。
8.まとめ
以上をまとめると、次のとおりです。
1.負傷者の救護
2.道路上の危険の防止
3.警察への通報
4.相手方の身元の確認
5.証拠の収集
6.実況見分
7.病院での診断
冷静な状態では、「当たり前」と思われるかもしれません。しかし、実際に事故に遭ってみると、頭が真っ白になってしまうこともよくあります。一度頭の中で整理しておくだけでも、随分と違うのではないでしょうか。
補足―相手方には謝ってはいけない?
以上が事故当日に行われることです。その後は、民事においては損害賠償の請求や支払いを検討することになります。どのような対応が良いかはケースバイケースではありますが、事故後の対応が悪かったことにより、紛争化してしまったという事案をよく見ます。
被害者側の感情としてよく聞かれるのが、「謝罪もなく、怪我の心配の連絡もない。また、見舞いにも来ない。」というものです。
一方で、「事故後に誠実な対応をして貰っているので、そこまで大事にするつもりもない」ということを聞いたこともあります。
それでは、事故を起こしてしまったら、どのように対応すればいいのでしょうか。「謝罪すると過失を認めることになるから、決して謝罪をしてはいけない。また、相手方をつけあがらせて、過大に賠償をしてしまうことにもつながるから謝罪するべきではない」という考え方もあるかもしれません。
確かに、こちら側に過失が全くないにもかかわらず、「事故を起こして悪かった。」と謝罪することはすべきではありません。
しかし、過失を認めるか否かということと、負傷した相手を心配することとは別問題です。道義上、事故の相手方の負傷を心配することは自然だと思いますし、相手方を見舞ったことがただちに過失を認めることにつながるものでもありません。
お見舞いに行ったり、負傷の程度を心配する連絡を入れたりすることにより、その後の交渉がスムーズに進むのであれば、紛争解決にとって合理的な選択の一つだと私は考えます。
もっとも、過失を認めるように迫られたり、過大な請求をされたりした場合にまでこのような対応をする必要はありません。それぞれの事故態様や、相手方の対応にもよりますので、判断に迷われたら弁護士の法律相談を利用されることをおすすめします。