自転車を売れば売るほど世界のためになる。そう豪語する田村芳隆社長の狙いとは?
京都で行われたTREKの2017年モデル展示・発表・試乗会のTREK WORLD 2017。魅力的な製品が展示され、物欲を刺激されるようなものばかりでした。
このイベントを開催したTREKジャパンの社長を務めるのはアメリカ大手のアウトドアショップ、REIの日本支店立ち上げと撤退を経験した田村芳隆さん。この出来事を通して現在に繋げられていることとは?そして「自転車で世界を救う」と豪語する田村社長の信念はどこから湧いてくるのか。ビジネスパーソンの一人としての田村社長へお話を聞いてきました。
担当になった日本支店は2年で撤退
-REI立ち上げからTREK入社までの経緯を教えてください
REIはシアトルでアウトドア関連の通信販売をおこなう会社で、世界展開の第1号店が日本だったんです。その担当に指名されたのが私だったのですが、1からの立ち上げでどんな会社にしようとかロジスティックスを作らないとなど、全てが勉強でした。当時REIが日本に入ってくるという情報が出た時、黒船がきたと言われたんですけど、残念ながらアメリカ本社の業績が悪化し、撤退を余儀なくされたんです。
実のところアウトドア業界では結構有名なメーカーの方もREIに面接に来ていて結局選りすぐりの人材を150人くらい採用したんです。ですから会社が無くなると聞いたときにはスタッフの行く末も不安もあり、愕然としました。でも、このような経験って人生の中で中々出来る事ではないので本当に大きな勉強をさせてもらったと思います。
撤退業務をおこなった後は疲れたから自転車にでも乗って3ヶ月くらいゆっくりしようと思っていたんです。ところが案外自転車が楽しくてですね、4ヶ月が経ち、5ヶ月が経っても就職しようという意欲が湧いてこなかったんです。さすがに6ヶ月無職というのはよろしくないので職を探していたところ、REI時代の部下だったスタッフが先にTREKに入っており、人材を探していたところに私の名前を出してくれたんです。
嬉しかったですね、あんな人とはもう仕事したくないと思われるような上司でなくて本当によかったと思いますよ。
自転車業界を変える
-TREKへ入社された後はどのような施策をおこないましたか。
我々は個人資本の店舗様の業績を改善支援できるような取り組みを常に行ってきました。結果的には自転車業界で働きたいと憧れる人をもっと増やせるような業界にしていかなければいけないと思っています。我々は個人資本の店舗様と取引することが多いのですが、多くは会社経営もしながらお店も運営していかなければならない状態です。
これからを担う子供達にとって自転車経営は憧れである、という印象を持たせるような体系に持ち込まなければ力強い未来は生れません。販売店舗も我々メーカーも同じ方向に向かないと共栄の関係にはつながりません。海外のショップは自転車をしっかりとしたビジネスとして扱っているところが多いので、しっかりと利益を従業員や家族にも還元できている。日本でも同様に利益還元とビジネスモデルを強化することで自転車業界は持続的に発展していくはずです。
私たちの接客やサービスのおかげで、REIではある程度の固定客は付いてくれていたんです。ですから、商品も大切ですがまずは接客スキルを上げなければならない。そのお手本となるように、と言ったらおこがましいですが、このような意識がベースになるため私はまずは接客などのお客様対応を徹底していますね。
ワンブランドに特化したショップを
-やはり海外ショップと同じような利益還元できている店舗は少ないのでしょうか?
いえ、そんなことないですよ。コンセプトストアと呼ばれる店舗は全国で46店舗あるのですが、しっかりと利益を作れていると思います。多様なメーカーの自転車を揃えたお店も人気がある中で、同時に1つのブランドだけを取り扱うワンブランドショップも日本で受け入れられていると思うんですよね。ルイヴィトンやポルシェが一点特化でブランディングをしているように。
これから自転車を始められるエントリーの方にとっては最初の高価なお買い物ですので、本当に良い自転車が欲しいと思うんです。しかし、様々なメーカーの自転車を扱っている大手ショップでは製品の知識や的確なアドバイスも薄れてしまうこともあります。もし的確なタイプのバイクが勧められなければその消費者は自転車の楽しさに目覚めないかもしれません。しかしワンブランドショップは一つのメーカーを徹底的に研究するので良さも悪さも適正も高い精度で見極めることが出来ます。一点にフォーカスしていけば必ず収益性改善に繋がってくるんです。こうしてお店側に余裕が生まれれば、お客様側の希望に沿った自転車をワンブランドの中から徹底的に突き詰めることができて、より手厚い対応をすることができる。
多様なバイクを平均的な知識で説明・販売したり、整備できるよりも一つのブランドのバイクを徹底的に熟知して最高のサポートを与えることができるサービスの拠点を作る方が、強い顧客満足を生み出すケースを数多く見てきました。
自転車は世界を変える
-会社を作り上げていくうえで、自身が意識されていることを教えて頂けないでしょうか?
会社として全体の方向性を統一すること。月並みですけど、同じ理念を持ったスタッフと仕事をするというのは大事だと思います。部下や上司関係なく、どんな商品を扱うとしても同じ方向を向いて仕事していくというのは凄く大きいですよね。
例えば我々が掲げている理念の一つには、TREK CEOのジョン・バークも大切にしている製造した製品の生涯保証というものがあります。これは設立当初からおこなっているんですけど、役員やビジネスコンサルタントには会社として大きなリスクだからやめたほうがいいってアドバイスを受けるんです。万が一販売した製品に不備があって10万台を回収とか大変じゃないですか。でも、これはトレックの信頼と品質のために俺が決めたことだからとジョンバーグは信念を突き通しているんです。逆に考えれば、絶対に良いものを作り続けなければいけないという使命感にかられるので結局はリスクを減らすことが出来る。トレックのスタッフ含め、僕も本気でこの考えに賛同しているし、絶対に出来ると思っています。
それ以外にも、もちろん売上も大事ですけど、TREKは安全啓蒙に関しても業界では先導に立っていると信じています。サイクリストの安全などにつながる製品を造っている人たちの考えや指導する人達の方向性なども僕にとって大きな導きになっています。
TREKのコーポレートモットーにWe Believe in Bikesという言葉があります。Believeは信じるという意味ですが、そこにin Bikesを付けると自転車を信じるではなく、自転車のうちに秘められた大きな可能性を信じるという意味に変わるんです。自転車は世界を変えられる。
世の中は環境問題だったり健康問題だったり様々な問題を抱えていますが、そういうものって全世界のみんなが自転車へ乗れば一発で治ってしまうんですよ。排気ガスも出さないし、肥満は解消されるし、人々がハッピーになる。私は実際に人生が変わった人々をたくさん見てきました。こんなにミラクルな事象って他にないですよね。
もちろん、先ほどもお話しした通り会社を運営して利益を出さないといけないのは大事ですけど、軸にあるのはそういった意識。自転車を一台でも多く販売すれば世界で問題になっているものを解決するのに一歩近づくわけですし、私たちは自転車で地球を埋め尽くしたいんです。自転車を売れば売るほど世界のためになると。世界を救える。TREKは、そういった思考を持った人間の集まりですよ。
取材を終えて
ビジネスとしての自転車、そして業界全体を活性化させ、世界の問題に対して立ち向かう強い意思をTREKの田村社長から感じられました。
独自の厳しい安全基準やコンセプトストアのバックグラウンドを知ることで、よりTREKの自転車を楽しむことが出来るはずですよ。