つけ麺の食べ過ぎで15kg太った身体をなんとかすべく、ロードバイクに乗りはじめた筆者(40歳・男)は、あっという間に自転車世界の魅力に取り憑かれた。そしてつけ麺の代わりに食べ始めた“立喰いそば”の世界にも・・・。
ロードバイクと立喰いそばの親和性、実は高いのである
その理由を挙げていこう。
1.ライドで疲れた全身にすばやくエネルギーを補給できる。
立喰いそば屋の麺は小麦粉率が高く、つゆの砂糖と相まってなかなかに糖質が高いので(つけ麺とそんなに変わらない説・・・)。あ、揚げ物は消化に時間がかかるのですぐに走り出すと「おえっ」となるので要注意。
2.立喰いそば店はたいがい街中にあるのでアクセスしやすい。
店主が理想の水を求めて日本中を探し回った結果たどり着いた、獲得標高3000mくらいかけないと行けないような山中に庵のような店を開くことはまずない。
3.言うまでもないことだが安い。
揚げ物を載せても500円でお釣りがくる。逆に500円を超える店を立喰いそば屋と定義することはできない(青山の「みよ田」とか)。財布など持たずにライドする方々にもぴったりだ。
4.そしてなんといっても素早く食べられる。
結構な汗だくボディで店に入っても、汗冷えが起こる前には食べ終わっていられる。かつ愛車から離れなければならない心細い時間は短かければ短い方が健康的だ。あ、もちろんロックは必須で。
そんなこんなで、知らない街へ行くと、そこの立喰いそば屋に立ち寄ることを繰り返しているうちに、立喰いそば屋巡りそのものがライドの目的になってしまった。名付けて「LSD〜ロングそばディスタンス〜」である。第1回は平坦練習のメッカ、荒川サイクリングロード下流・右岸沿いの厳選3店をお送りします。
1軒め「遠野屋」:江東区南砂
都心から荒川サイクリングロードに向かうと、最も河口側の入口は南砂町だ。
この入口に入る少し手前の南砂町駅を左折し、葛西橋通りと交わる手前の右手にこの店はある。
老夫婦の経営、清潔な店内、ショーケースに並ぶ揚げ物、BGMはAMラジオ文化放送という、
筆者にとって理想的な立喰いそば屋像がここにはある。平日と第2、第4土曜は朝7時から営業しており、ここで朝そばを食べてから荒川に入るか否かで、その後の出力が変わるとか変わらないとかいうエナジーサンクチュアリである。ここでのおすすめは「小柱かき揚げそば」だ。
注文が入るたびに小分けにされた茹でそばを湯煎し、あらかじめ揚げられた作り置きのトッピングを載せるという非常にオーソドックスなスタイルの店である。手打ちの十割だとか、注文が入ってから揚げはじめるとかではない。しかしながらやや太めの麺と、やや味醂が多めのカエシが、宗田だの鯖だのが効いた出汁(←推測)にやさしくマッチングし、本当に「美味しい」としか言いようのないすばらしいバランスの1杯に出逢えるのだ。茹で置き、揚げ置きのお店ではベストではなかろうか。いつ来ても美しい真っ白な揚げ物は、油が新鮮なのだろう。小柱がゴロゴロ入ったこのかき揚げが¥120なのは何かの間違いなのではないかとすら思える。ピーク時にはなくなっていることが多いが、春菊天や、舞茸天もすばらしいのでその際はむしろぜひ。
最近ついに「まいど〜」と言われるようになった筆者の、本当は誰にも教えたくない至極のお店である。自転車はお店の前のガードレールに地球ロックが可能。
2軒め「もりや」:板橋区高島平
河口からちょうど20kmのところにある岩淵水門は、荒川サイクリングロード下流ライドの目的地や待ち合わせ場所になりやすい。がしかし、ここには何もない。水道もトイレも、もちろん自販機なども。ここでお腹が空き、背中のポッケをまさぐっても何もなかったら、ハンガーノックのピンチだ。すぐに上流へ走りだそう。少しばかり走ればこんな景色が見えてくる。目印は「河口から27km」のこの杭だ。
これを見つけたら左手の小道を駆け上がり、土手から脱出しよう。
道なりに団地のど真ん中の「あいさつ通り」を真っ直ぐすすむ。いい名前だ。団地育ちの筆者には懐かしいようなちょっと切ないような風景がつづく。都営三田線の高架が見えたら右折して駅の方へ。なぜかパトランプがついた看板が見えてくる。
つゆは醤油が主張しているいわゆる「六門そば」の系統だが、あのお好み焼きみたいなグルテンのカタマリの揚げ物ではなく、注文が入ってから丁寧に揚げられる素揚げに近い天ぷらである。衣がつゆに溶け出し、妙味を奏でる古き良き立ちそば屋だ。ここでは春菊天をチョイス。立喰いそば界における春菊には「そのまま」か「刻んである」かの2大流派が存在する(←推測)。この店は前者だ(後者のおすすめは池袋「大黒そば」など。詳しくはまた後日!)
老齢のご主人が全身勢霊で揚げる天ぷら。背中が仕事を語っている。
もう一度言うが、筆者は老人の店に弱い。
3軒め「ももや」:荒川区東尾久
荒川サイクリングロードは向い風か追い風か、だ。
向い風の時は通称「荒川の壁」といわれる風の壁が立ちはだかり、インナーに落として20kmを維持するのがやっと。片や追い風の時は「アレ?オレ、カンチェラーラ?」と勘違いするような力を得て、大して踏まずして40km巡行が可能である。往路が追い風だった時は、あまりの気持ちよさについついハメを外し、気づいたら熊谷あたりまで行ってしまうのは“荒川あるある”だ。と、なると復路はつらい。大げさではなく結構つらい。
朝っぱらに出発したにもかかわらず、岩淵水門に帰ってきたころにはあたりは真っ暗なんてことも日の短い冬にはよくある。真っ暗な夜の荒川は怖い。ブルベ仕様で3灯全開で照らしていても黒猫は出てくるし黒いウェアのランナーは見えないし、夏は日焼けしたおじさんが道の真ん中で寝ていたりする。そんなこんなの連続で神経を使い、夜のライドはお腹が減るのだ。そんな時に立喰いそばは選択肢に入りにくい。なぜならば美味しい立喰いそば店は往々にして朝早く開き、昼過ぎには閉まってしまうからである。
だがその日が平日なら諦めないでほしい。岩淵水門を過ぎ、やっと都会らしい明かりが見えてくる場所。荒川CRに行ったことがある人なら誰もが知っている、ケーズデンキと島忠HOME’Sの間、扇大橋を右折だ。
橋を下り(車道は自転車通行禁止なので歩道を)少し進むと都電の駅「熊野前」。ここに熊野神社があったのは明治時代までなので、東横線の「都立大学」「学芸大学」や、小田急線の「向ヶ丘遊園」、どうなるか不透明なゆりかもめの「市場前」などと同じ系統の駅名だ。熊野前交差点を右折して少し進むと真っ赤な看板に赤提灯がぶら下がり、まったく立喰いそば屋のトーンではないこちらのお店にたどり着く。
「どうせ喰うなら旨いそば。」
その通りだ。夕方を過ぎるとゆで太郎などのチェーン店系しか選択肢がなくなってしまう立喰いそば界で、夜も営業をしてくれる(17:30~20:30)数少ない貴重な存在だ。
こちらのこだわりは店内に貼り出されている。
製麺工場を経営されているとのことで、自家製粉だそう。
「答えはそばの丼に入っています」
その答えがこれだ↓
かき揚げ蕎麦¥500。
丼に収まりきらない長さのかき揚げには桜海老や厚切り野菜がゴロゴロ。
これだけで酒が飲めるであろう逸品。上述の麺はかなり細いタイプで蕎麦の香りがしっかりする。ツユはカツオが効いていてホレボレする優しさ。看板に偽りなし。
土曜日は一品料理中心の「飲みの日」の設定もあるそうで、自転車を置いて電車で来ようかと思える居心地の良い店である。あ、でも都電と舎人ライナーしか走ってないな……。
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立喰いと名乗りながらも椅子がある優しさ
今日ご紹介した3店は立喰いと言いつつ椅子があるのでごゆっくり。
次回は・・・どこかまたご紹介します。