ITジャーナリストの甲斐です。
ここ数年での進化で携帯電話はすっかり通話やメールをするという目的だけの機器ではなくなりました。インターネットを閲覧するというのはもちろん、他にもゲーム機としての利用、音楽プレーヤー、電子ブックリーダー、デジタルカメラなど、幅広い用途で私たちの生活になくてはならないものに。フィーチャーフォン(通称ガラケー)からスマートフォン(以下スマホ)へと進化したことで、CPUを始めとするハードウェアは劇的に進化し、今やPCの代替ハードウェアとして多くの人が利用しています。
私たち自転車乗りでは、GPS機能を利用したナビゲーションとして使っているという人も多いでしょう。GPSを利用したGoogleマップを始めとする地図アプリは大変に便利で、ルート検索、ルートナビだけでなく、近隣の店舗や観光スポットまで、最新の情報も検索することができます。ゆえにを専用ホルダーを使ってハンドルバーに固定している人も多いと思うのですが、改めて考えてみると果たしてスマホはどこまでそういった用途で使われることを考えデザインされているんでしょうか。今回は「自転車でのスマホ利用の意外な敵。直射日光の影響」について考察してみたいと思います。
目次
自転車での利用をスマホメーカーはどう思っているのか。
そもそも、自転車でスマホを利用することは正しい使用方法なのでしょうか。自転車でスマホを利用することについて、メーカーとしての見解をGalaxyシリーズなどを販売するサムスン電子ジャパンの広報担当の方にご意見をうかがってみました。「スマホの自転車での利用に対するサムスンの公式な見解はないのですが、弊社の製品を自転車用のナビとして利用していただくことは大変うれしく思います。ただし、自転車に装着して使用される際は十分にお客様自身で安全面に配慮していただければと思います」とのこと。また「日中の時間帯に明るい場所で利用される場合は、通常の使用時と同様に画面の明るさを最大輝度にしていただくほうが視認性の良いと思います。あくまで安全面にだけは気をつけてご利用ください」というアドバイスも頂きました。メーカーで想定された利用方法ではないが、利用者の自己責任においてならば問題はないということなのでしょうが、これはもちろんスマホホルダーを取り付けてのサイクリングGPS利用を前提とした見解です。乗車しながらの片手操作やイヤホンを付けての操作など道路交通法で禁止されている行為については絶対に推奨できないということは間違いありません。
スマホは直射日光に弱い
筆者はITジャーナリストとして過去にさまざまなメディアでスマホの記事を執筆してきました。その中には「スマホの熱暴走」に関する記事も執筆しています。簡単に言うと「夏場のスマホの発熱は電池や本体に悪影響を及ぼす場合がある」というものなのですが、このスマホを加熱させる一番の原因が直射日光であることは言うまでもありません。
スマホはPC同様にハイテクなパーツの塊です。PCがCPUやメモリ、グラフィックチップの発熱による熱暴走でダウンすることは知られていますが、スマホにもパソコン同様にこれらの部品(さらに小型化されているもの)が使われており、熱暴走の可能性のある精密機器であるといえます。さらにスマホは、液晶やカメラ、GPS、Bluetooth、NFCといった発熱しやすいパーツも多く内蔵しています。
真夏の直射日光で本体が熱せられると、スマホは想像以上の高温になります。気温36度の真夏日の午前中であれば、ベンチで約62度、公園の砂場で約75度までに温度が上昇するといいます。自転車では走行時は風によって冷却されてはいると思いますが、駐停車時に取り付けたまま放置してしまえば70~60度を超える温度に熱せられてしまう可能性もあるのです。
熱せられてくると一番怖いのがバッテリーです。バッテリーメーカーのリチウムイオン電池に関する技術資料によると、充電時は「0度~40度」、放電時は「0度~60度」が推奨温度範囲と定められています。CPUはパソコンでもスマホでも約100度までは大丈夫だと言われているので、バッテリーは大変熱に弱いと言えるでしょう。
歴代のiPhoneは35度までの場所で使うことが前提とされています。おそらく、バッテリーの暑さが60度以上になることを予防するために、余裕をもって設定されていると思われます。
スマホが長時間熱せられたり、限界温度を超えるとどうなるのでしょうか。外装の変形や内部の故障を引き起こすのはもちろんですが、バッテリーに関しては最悪、爆発事故をひきおこす可能性がないとはいえません。「熱はスマホおよび内蔵バッテリーの最大の敵」なのです。
モバイルバッテリーも注意が必要
スマホのバッテリーにとって直射日光や熱が大敵なことを説明しましたが、モバイルバッテリーにも同じことが言えます。スマホの内蔵バッテリーやモバイルバッテリーの多くに使われているリチウムイオン電池の特徴は、電圧が高く、蓄えているエネルギーの密度も高いことがあげられます。また、電解液には燃えやすい有機溶媒が使われています。こうしたことから、リチウムイオン電池は過度な熱や衝撃が加わることによって発火してよく燃える条件が潜在しているのです。高熱と同じく、モバイルバッテリーを落下させてしまうことも非常に危険なことです。リチウムイオン電池に強い衝撃を与えてしまうと、中にたまっているエネルギーが反応して発熱し、煙や火が出る原因となる可能性があるのです。
ですから、充電するためにモバイルバッテリーをスマホと一緒に固定して直射日光にさらしてしまうといった利用もあまり好ましくないと言えます。
さらにモバイルバッテリーにもスマホに内蔵されているバッテリーにも共通して言えることなのですが、熱によってバッテリーの寿命は縮みます。
リチウムイオン電池の最高許容周囲温度は約45度といわれています。高温の環境では使っていないのにも関わらず、それだけで電池の劣化が進むというのです。スマホやバッテリーの寿命のためにも高温になる直射日光下での放置はあまり好ましくないのです。
液晶画面にも直射日光は悪影響
直射日光の影響は内部基盤やバッテリーだけではありません。液晶面を長時間日光にさらし続けると、紫外線や熱による影響でディスプレイに使われている部品が変形・劣化したり、色の焼きつきや発色が悪くなる恐れがあります。もちろん、日常生活において直射日光下での使用ができないということでは困るので、各メーカーは耐久試験をし対策をとっているわけなのですが、あまり過酷な状況にスマホことが好ましいと思われます。
発熱を防ぐ&冷却方法
それでは、自転車にスマホを装着して利用する際に高温化を防ぐ方法にはどのようなものがあるのでしょう。
これからの季節は特にですが、まず考えられるのが停車や駐車時では自転車に取り付けたまま長時間放置しないということでしょう。またスマホルダーやハンドルバーなどが熱せられ、取付時に間接的に熱せられないように、自転車自体も日陰や風通しの良い場所での駐車を心がけたほうが良いかもしれません。
もしも高温状態に陥ってしまった場合、どう対処すればよいのでしょうか。
対処方法は1つしかありません。極めて当たり前のことなのですが「冷ます」ことなのです。とはいえ早く冷ますためにと、エアコンの冷気に直接当てたり、防水対応機種だからといって水に浸けたりといった行為は避けましょう。急激な温度変化はバッテリーやスマートフォン本体にも悪影響がでる可能性があるからです。また急激な冷却は空気中の水分によって結露をひきおこします。スマホの液晶画面に悪影響があったり、内部基盤やバッテリー内部で結露が起こった場合はショートなどをひき起こしかねません。
正しいと思われる対応は以下の通りになります。
ナビ機能を一時中止する
マップアプリのナビ機能はGPSやパケット通信で現在地を特定しています。ですので、常に動いているのでバッテリーや本体に大きな負荷となっています。例えば直線移動がしばらく続くのであれば、その間はマップアプリを終了させておくだけでスマホを休ませることになり冷却効果をもたらすことになります。
使っていないWi-FiやBluetoothはオフ
Wi-FiやBluetoothの通信機能を使っていない場合は必ずオフにしましょう。無駄な動作をオフにするだけでスマホへの負荷が減り、ゆっくりとですが冷却には効果をあたえることになります。
電源をいったん切って冷めるのを待つ
これだけでスマホの発熱はかなり解消できます。電源ボタンを押して画面を消す(消灯)だけでは、LINEやメッセンジャーアプリ、GPSなどはバックグラウンドで動作しているので、電源オフが一番の冷却になります。
再起動する。
いったん再起動することで起動中の余計なアプリが終了され、再起動後の動作では発熱が抑えられる可能性があります。
フライトモードにして通信機能や一部機能を停止させる
通信は発熱の原因でもあるので、通信を一時的に停止するだけでも放熱には効率的です。ただしフライトモードは通信をキャンセルすることにもなりますので、マップやナビ機能が正しく利用できない場合があります(ただし地図をダウンロードしてオフラインで
利用できるアプリでは問題がない場合もある)。
走行で冷ます。
スマホホルダーでハンドルに装着している場合は、走行することによって風で冷却されるでしょう。休憩中にうっかり自転車に取り付けたままにしてしまい、本体が熱くなったと感じたら電源をオフにしてしばらく走り続けるのが自転車乗りのベストのスマホ冷却法だと言えるかもしれません。
また、Android Wear搭載のスマートウォッチなどを利用して、スマホ本体は鞄に入れたまま腕時計に表示して利用するという方法もあります。
以上のような方法を試すなどしてもスマホが「発熱する」、「常に高温になる」といった場合は、バッテリーの不具合や故障も考えられるので、使用を止めて直ぐに携帯キャリアショップや量販店などに相談してみましょう。
また「バッテリーの消費が激しい」と思う時はモバイルバッテリーを接続して利用するよりも、大容量のスマートフォンに買い換えるほうが好ましいと思われます。そうはいうものの、スマホも高額な商品なので買い換えには予算やタイミングが必要なものです。ですから現実的にはモバイルバッテリーを使った充電が有効なのですが、スマホの使用を止めて鞄の中で充電したり(電源オフの方が充電時間を短縮できます)、休憩中に継ぎ足し充電をするほうが望ましいと思われます。
とはいえ、自転車にスマホでナビは相性ぴったり
以上のように散々なことを書いておいて言うのもなんなのですが、対策でも書いたように走りながらスマホを冷却させることができるということで、スマホホルダーを取り付けての自転車ナビ活用は非常に相性の良い使用方法と言えると思います。ただし安全面を十分配慮した上での話です。直射日光対策や落下対策はもちろんですが、ナビを見ながらの「ながら運転」よりは、音声ナビ機能を使っての利用方法が好ましいでしょう。また、停車させてからの確認のほうが安全なのは言うまでもまりません。
スマホは高性能なデバイスでありながら非常に身近な存在ということもあり、精密なIT機器だということを忘れてしまいがちです。日頃の扱いも乱雑にしがちな人も多いはずです。ですが本来は電話機というよりバッテリーを搭載したパソコンに近い機器であると認識して扱ったほうが正しいのです。これからの季節、サイクリングやツーリングには最適な時期となります。スマホを自転車に取り付けて晴天の中走ることも増えてくるとは思いますが、このような側面があるということも十分理解して活用していきましょう。