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トム・ボーネン11年前の単独秘蔵インタビュー:パリ~ルーベにかける熱き思いに、最後のレースの行方を占う

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2017年のロンド・ファン・フラーンデレン。カペルミュールで仕掛けるボーネン (C) Quick-Step Floors/TDWsport.com
2017年のロンド・ファン・フラーンデレン。カペルミュールで仕掛けるボーネン (C) Quick-Step Floors/TDWsport.com

いよいよ今週末の4月9日(日)に、伝統のクラシックレース「パリ〜ルーベ」がフランスで行われる。今年のパリ〜ルーベで注目なのは、何といってもこのレースを最後に引退を表明しているトム・ボーネン(ベルギー、クイックステップフロアーズ)が有終の美を飾れるかどうかだ。

11年前、ボーネンは熱く語った

昨年「ボーネンが2017パリ〜ルーベを最後に引退」というニュースに接したとき、私は「やはり」と思った。というのも、2006年12月にクイックステップの冬期トレーニングキャンプに1週間密着取材をした折りに、ボーネンに単独インタビューをして、彼の口から直接、パリ〜ルーベに対する熱き思いを聞いていたからだ。インタビューの内容は、以下のようなものであった。

2004年のパリ~ルーベでアタックするボーネン (C) Takashi NAKAZAWA

−−あなたにとって、最も勝ちたいレースは何ですか?
パリ〜ルーベだよ。

−−地元最大のイベント「ロンド・ファン・フラーンデレン」ではないのですか?
確かに僕らベルギー人選手にとって、ロンド・ファン・フラーンデレンは大切なレースだよ。実際、多くのベルギー人選手が、一番勝ちたいレースにロンド・ファン・フラーンデレンを挙げるね。でも、僕はパリ〜ルーベが一番好きだし、勝ちたいレースなんだ

2005年、ボーネンはパリ~ルーベで初優勝した (C) Takashi NAKAZAWA

−−その理由は?
ロンド・ファン・フラーンデレンもパリ〜ルーベも、荒れたパヴェ(石畳)を走るという点では似ているよね。違うのは、登り坂の有無。ロンドには短いけど勾配のきつい坂がいくつも登場し、それが特徴になっているけど、パリ〜ルーベには登りらしい登りはひとつもない。だからといって、パリ〜ルーベがロンド・ファン・フラーンデレンに比べて優しいレースだと言うことはない。いや、パリ〜ルーベは世界一過酷なレースだと断言できるよ。だからこそ、挑戦する価値があるし、何としても勝ちたいレースなんだ。

−−2002年にUSポスタルからプロデビューしたとき、パリ〜ルーベでいきなり3位になりましたね。
そう、プロ1年目だったけど、パリ〜ルーベで3位になったのは、大きな自信になったね。

−−なぜUSポスタルを2002年の1年限りで辞めて、2003年にクイックステップへ移籍したのですか?
USポスタルはしっかりとオーガナイズされたとても良いチームだったけど、僕はまだ若かったし、パリ〜ルーベをエースとして走ることは確約されてなかったんだよ。ジョージ・ヒンカピーというクラシックのエースもいたしね。パトリック・ルフェーブルから「新しくクイックステップというチームを立ち上げるから、うちにこないか?」と打診され、パリ〜ルーベも自分の勝利のために走れることを約束してくれたので、そちらの可能性にかけたんだよ。それで、2005年に初優勝できた。僕の選択は間違ってなかったと思うよ。

インタビューに気さくに答えてくれたボーネン。2006年12月、イタリア・トスカーナ地方で行われたトレーニングキャンプにて (C) Takashi NAKAZAWA

−−パリ〜ルーベの厳しさは、どんな点なのですか?
パリ〜ルーベのパヴェはロンド・ファン・フラーンデレン以上に荒れていて、まっすぐに走ることさえ難しいものが多いんだよ。有名なアランベールなんて、あのパヴェの名手ヨハン・ムセーウでさえも骨折で病院送りにしているからね。ここでグッとスピードを上げて、トップで通過したときの爽快感は、僕にとって最高のモチベーションだね(笑)。

−−雨が降って泥だらけになるのも、パリ〜ルーベの厳しさでは?
確かにそうだね。ただでさえまっすぐ走ることが難しいのに、雨で泥だらけになるととても滑りやすくなり、さらに泥がブレーキに詰まったりして、本当に難易度が高くなるよ。テクニックはもちろんだけど、人並み外れた根性が必要なんだ。まさに、ロンド・ファン・フラーンデレンと並んで、僕らフラマン人向けのレースだよね(笑)。

−−脚質的には、ロンド・ファン・フラーンデレンとパリ〜ルーベと、どちらが自分に向いていると思いますか?
どちらも向いていると思うよ。僕はクライマーじゃないけど、ロンド・ファン・フラーンデレンの坂は、傾斜はキツくても距離は短いから、僕のような大柄な選手はパワーで乗り切れてしまうんだ。パリ〜ルーベは登りがないけど、その分パヴェを高速でひたすら走り続けるから、やはり人並み外れたパワーが必要。どちらも、僕に向いたレースだと思うよ。

−−パリ〜ルーベで何勝くらいできそうですか?
それはわからないね。もちろん、出るレースすべてに勝ちたいけど、パリ〜ルーベは本当に難しいレースだからね。実力だけでなく、運も重要な要素なんだ。その日一番強い選手でも、パンクで後退を余儀なくされることも普通だし、落車に巻き込まれることもある。あの偉大なロジェ・デフラーミンクでさえ4勝しかできなかったからね。彼の記録を超えたいけど、それはとても難しいことだと思う。

−−引退レースは、パリ〜ルーベですか?
うーん、考えたこともないけど、大好きなパリ〜ルーベで優勝して引退できたら、それは選手として最高の栄誉だろうね(笑)

パオロ・ベッティーニ、スペシャライズド社CEOマイク・シンヤードとともに記念撮影。2006年12月、イタリア・トスカーナ地方で行われたトレーニングキャンプにて (C) Takashi NAKAZAWA
メカニックとポジション調整について議論するボーネン。2006年12月、イタリア・トスカーナ地方で行われたトレーニングキャンプにて (C) Takashi NAKAZAWA

もちろん、インタビューした時点では、「引退レース」について聞くのは冗談でしかなかった。まさか、それが11年後に本当のことになろうとは。ジャーナリストとしてではなく、一人のファンとしてボーネンを応援したい気持ちである。

サラッとポーズを決めてくれる。2006年12月、イタリア・トスカーナ地方で行われたトレーニングキャンプにて (C) Takashi NAKAZAWA
2014年12月のトレーニングキャンプにて (C) Quick-Step Floors/TDWsport.com

直前のロンド・ファン・フラーンデレンはジルベールのために走った

4月2日(日)、ロンド・ファン・フラーンデレンが行われた。結果はフィリップ・ジルベール(ベルギー、クイックステップフロアーズ)の50km以上にわたる独走勝利。ボーネンは、チームメイトであるジルベールのために難所ミュール〜カペルミュールでアタックし、レースを支配し、ジルベールの独走勝利を演出した。

もちろん、クイックステップフロアーズの戦略としては、たとえジルベールが追走集団に捕まったとしても、こんどはボーネンが優勝を目指すという2枚看板のシナリオを描いていた。結果的にジルベールが勝ったということだが、ジルベールやその他のメンバーがボーネンに対して最大限の尊敬の念を抱いているのは間違いない。ボーネンは最後まで、自分の勝利のためではなく、チームのために走ったからだ。このことは、ボーネンのパリ〜ルーベ勝利に大きくプラスにはたらくだろう

2017年のヘント~ウェヴェルヘムでケンメルベルクを登るボーネン (C) Quick-Step Floors/TDWsport.com

残念ながら、クイックステップフロアーズはジルベールをパリ〜ルーベのメンバーから外す決断をした。本来ジルベールは、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュやフレーシュ・ワロンヌといったアルデンヌクラシックを得意とする選手だ。チームとしては、いったんジルベールを休ませ、アルデンヌクラシックで活躍してもらおうという意図があるのだろう。

ファンとしては、ロンド・ファン・フラーンデレンでの自分の勝利のために走ってくれたボーネンに対し、パリ〜ルーベではジルベールがボーネンのために走るという構図を期待していたのだが、それはかなわなかった。しかし、現在発表されているクイックステップフロアーズのパリ〜ルーベ出場メンバーも、以下の通り豪華だ。

トム・ボーネン(ベルギー)
イイヨ・ケイセ(ベルギー)
イフス・ランパールト(ベルギー)
ダヴィデ・マルティネッリ(イタリア)
ゼネク・スティバル(チェコ)
ニキ・テルプストラ(オランダ)
マッテオ・トレンティン(イタリア)
残り1名は未定*4月6日時点

もちろん、チームメイトからリスペクトされているボーネンのために、メンバーが身を粉にして走るのは容易に想像がつく。テルプストラに至っては、2014年のパリ〜ルーベの勝者だ。ジルベールがいなくても、ボーネンのアシスト体制は鉄壁である。これまで、数々の伝説を作り上げてきたボーネン。ラストレースでも、何かやってくれそうな気がする

2017年のロンド・ファン・フラーンデレン。コッペンベルクでスピードを上げるボーネン (C) Quick-Step Floors/TDWsport.com

PHOTO : Takashi NAKAZAWA, Quick-Step Floors/TDWsport.com  TEXT : Takashi NAKAZAWA

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