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江戸時代、6人に1人が訪れた! ~伊勢市駅
今回のオッサンの自転車放浪記は三重・伊勢。江戸時代、空前のブームになったと言われる伊勢神宮参り。一説によれば、全盛期には日本人の6人に1人、500万人が一生に一度、お参りをした!
かつては15日間かかった旅も、今では半日かからない。東京〜名古屋の新幹線は1時間40分。近鉄名古屋〜伊勢市の近鉄伊勢志摩ライナーは1時間20分。乗車時間だけなら、ちょうど3時間である。これだけでも、ありがたや。
新幹線の電気トラブルで、予約していた近鉄特急を1本逃すというハプニングもあったが、10:50、伊勢市到着。予定にはない近鉄志摩ライナーのデラックスカーにも乗れてラッキーだった。
伊勢市を自転車で訪れる人は少なくないらしい。駅前では輪行バッグの荷を解いている人を見かけた。
古くて新しい! ~伊勢神宮外宮
伊勢参りには、ルールがある。外宮(げぐう)を参拝してから、内宮へという順番がある。片方だけ参拝するのは、「片参り」といって、忌み嫌われる。
外宮前には観光案内所があり、荷物預かり、レンタサイクルもある。レンタサイクルは8:30〜17:00で、一日800円、4時間まで500円、とのこと。
「早速、自転車を」と思ったが、外宮は伊勢市駅から徒歩圏内なのだ。参道を通ると、誘惑の嵐。若松屋 外宮前店から、いい匂いがしてきたので、チーズ棒(350円)を食す。注文すると、その場で揚げてくれるのだ。
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外宮に祀られているのは、豊受大御神(とようけのおおみかみ)。米をはじめ衣食住の恵みを与えてくださる守護神である。今から1500年前、雄略天皇の時代から、天照大御神(あまてらすおおみかみ)の食事を司る神様として、こちらに鎮座されている。
梅雨とあって、空模様は怪しいが、入り口には大勢の人。火除橋を渡ると、まずは手水舎で、手順通りにお清め。まずは正宮(しょうぐう)にお参りするというのがしきたりである。
広大な敷地に立ち並ぶ原生林。正宮まではかなり歩くが、気持ちいい。伊勢神宮は20年に1度、社殿を新しく作り変える「式年遷宮」という歴史が1300年も繰り返されていいる。
今の正宮は平成25年に造り替えられたものだ。隣には「古殿地」と言われる元々の場所が空き地となって残っている。古くて新しい。新しいのに、悠久の歴史を体感できる。
神宮内にある石や木も、社のひとつであり、多くの人たちが拝んだり、手をかざしている。正宮は奥の奥にあり、参拝は手前でしかできないが、「式年遷宮記念 せんぐう館」(入館料一般300円)では、正宮の実物大モデルなどを見ることができた。
日本初の紙幣を見られる~伊勢河崎商人館
江戸の時代、伊勢参りは信仰でもあり、一大レジャーであった。おそらく、一生に一度の贅沢であろう。ならば、オッサンもちょっと贅沢をしてしまおう。
月夜見宮の参拝後、近くのうなぎ店「喜多や」で、うな重並(1620円)を注文した。うまっ。
14:10、伊勢市駅観光案内所で、レンタサイクル。4時間以内500円。目的地は名勝・夫婦岩のある二見ヶ浦。観光案内所の人には「結構遠いですよ。5時までに戻ってこれますか?」と心配されたが、自転車ナビによれば、「7.9km、34分」。楽勝である。
ナビに従って、勢田川付近を走っていくと、「伊勢河崎商人館」との標識を発見。なにか面白そうな予感。寄り道することにした。一角だけだが、町屋の町並みが残っている。
伊勢河崎商人館(入館料大人300円)は、元は江戸時代創業の酒問屋「小川酒店」で、600坪の広さを有する商家である。
蔵を活用した展示室では日本最古の紙幣「山田羽書(はがき)」を展示している。一種の地域通貨が流通するほど、伊勢の町には力があった。
こうした初ものは、ほかにもある。土産、お払い箱、カレンダー(伊勢暦)、旅行業、熨斗(のし)…。旅行、レジャーに関するものや言葉は、伊勢から始まったのだ。
明治42年から売られた「エスサイダー」の復刻版(200円)で喉を潤しながら、かつての町屋に思いを馳せ、ひとしきり話に花が咲く。
「道の駅」ならぬ「川の駅」めぐり ~河崎、二軒茶屋
ボランティアガイドの方が「川の駅、河崎は見た?」と言うので、案内してもらう。えっ、川の駅? 道の駅なら知っているけど…。
この周辺は「山田」と呼ばれた地だ。「宇治山田」の「山田」である。勢田川を使って、さまざまな物資や人が運ばれ、鳥居前町として栄えた。
町の発展に、川や運河は欠かせない要素の1つ。伊勢神宮の遷宮に必要な大量の木材も、ここを通ってやってきた。現在は護岸工事が施されているが、川沿いの各商家には船着き場の名残を見ることができる。
こうした「川の駅」はほかにもあると聞き、約1.5kmほど下流の「二軒茶屋」へ。目印は、天正3年創業の老舗「二軒茶屋餅角屋本店」。こちらで3個入りの餅(300円)を買い、立て看板を読む。
地名の由来は餅屋の「角屋」とうどんと寿司が名物だった「湊屋」という2軒の茶屋があったこと。大きな明治天皇巡幸の石碑も建っている。明治天皇は明治5年、伊勢参りのために、なんと軍艦で立ち寄った。西郷隆盛も同乗していた! 陸路だけではなく、海路での伊勢参りも盛んだったようだ。
帰りは川沿いを走って、再び伊勢市駅へ。時間切れで二見ヶ浦行きは叶わなかったが、楽しい寄り道だった。
式年遷宮の意味とは? ~伊勢神宮内宮
一夜明けて、外は雨模様。宿泊先は90年の歴史を持つ旅館「星出館」。朝食を取り終わると、小雨になったので、旅館で自転車を借りる。前日訪れた「伊勢河崎商人館」が管理するレンタサイクルの代行をやっていて、1日300円。
内宮は伊勢市駅から徒歩55分、バス15分。やはり、ここは自由が効く自転車がいい。星出館から内宮までは4.7km、19分。
8:55、内宮到着。鳥居で深く一礼。宇治橋を渡って、手水舎へ。本来ならば、境内を流れる五十鈴川の清流で清めるだが、前日からの雨のため水かさが増しているとのこと。五十鈴川は見るだけにする。ちなみに、自動車メーカーの「いすゞ」や大女優の山田五十鈴は、この川が由来とか。
内宮は、八百万の神の頂点、日本人のすべての氏神である天照大御神(あまてらすおおみかみ)を祀っている。背筋をピンと伸ばし、二礼、二拍手、一礼。身を清めて、参拝するという行為は、清々しい気持ちになる。
江戸の昔も、人々はこうして伊勢にやってきたのだ。1400年も続く伊勢参りの理由が分かる気がする。
参拝するということは、自分の中で一区切りをつけ、未来への活力を得ることではないのか。「式年遷宮」という壮大な儀礼の意味も、そこにあるような気がした。……と、ちょっと真面目になるオッサンであった。
こうした厳かな儀式を終えた後は、やはり腹が減る。参道に入ってすぐの「赤福内宮前支店」で、定番の赤福を頂く。盆2個入り(210円)。
雨も激しく降ってきたので、雨宿りを兼ねて、「伊勢角屋麦酒 内宮前店」で焼き牡蠣も食す。
道ひらきの神と芸能の神 ~猿田彦神社
11:11、本格的に雨が降る中、カッパを着て、猿田彦神社へ。手塚治虫の漫画好きのオッサンにとって、猿田彦は大きな鼻のキャラクターというイメージだけど、猿田彦は「道ひらきの神さま」として有名。これまた、ぜひお近づきになりたい神様である。
境内にある古殿地を示す方位石にある干支を撫でて、願をかけると、ご利益がある。
また、佐瑠女(さるめ)神社は芸能の神様、天宇受売命(あめのうずめ)を祀っている。天照大神が天の岩戸にお隠れになった時、魅惑の踊りによって、外へと引っ張り出した神様、日本最古のダンサーだ。
映画界でジャーナリストを名乗っているオッサンにも、無縁ではない。鳥居の寄贈者を見ると、大手芸能プロダクション社長の名前があった。
お付き合いのある俳優、監督さんが大活躍をして、オッサンにもおこぼれがありますように…。
こうして伊勢参りは終わり。旅館でレンタサイクルを返却して、宇治山田駅へ。こちらは1931年竣工のモダニズム建築で、第1回中部の駅百選選定駅にもなっている。超かっこいい 。
最後は地ビール「伊勢ピルスナー」(310円)で乾杯! これを読んでくださったみなさまにもご多幸ありますように!