「フルームの総合優勝は確実」熟練ジャーナリストがブエルタ前半戦を振り返り今後を予測

8月28日、ブエルタ・ア・エスパーニャは最初の休息日を迎えた。7月のツール・ド・フランスの最初の休息日のときにも「やっぱりフルームは強かった」というレポートを書いたが、このブエルタもまったく同じ言葉しか思いつかない。それほどまでに、クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)の強さが際立っている。ブエルタ前半戦を振り返るとともに、今後のレースの行方を占ってみたい。

BMCレーシングの勝利で始まったが・・・

第1ステージのチームタイムトライアルででトップタイムを叩き出したBMCレーシング (C)Unipublic
第1ステージのチームタイムトライアルででトップタイムを叩き出したBMCレーシング (C)Unipublic

8月19日、第1ステージのチームタイムトライアルは、この種目を得意とするBMCレーシングの勝利で終わった。もちろん、その結果総合上位勢はBMCレーシングのメンバーで固められることになったわけであるが、フルームを始めチームスカイのメンバーは、まったく意に介さない様子だった。

それもそのはず、4位のチームスカイはBMCレーシングから遅れることわずか9秒。フルームにとっては、最小限のタイム差に抑えることができたといったところだっただろう。その後にたくさん待ち構えている山岳ステージ、特に登りゴールで、このタイム差は簡単に取り返すことができる。チームスカイには、そういった計算があったからだ。

タイムトライアルの得意なメンバーが多いBMCレーシングに対して、チームスカイはダビ・ロペス(スペイン)、ミケル・ニエベ(スペイン)、ワウト・プールス(ベルギー)、イアン・スタナード(イギリス)といった山岳に強いメンバーでしっかりと固められている。その後のレースの行方を占うことは、誰の目にも明らかだったということができるだろう。

早くも第3ステージでマイヨロホを獲得したフルーム

平坦ステージだった第2ステージは、イヴ・ランパールト(ベルギー、クイックステップフロアーズ)の勝利で終わり、大きなドラマは生まれなかったものの、続く第3ステージで総合優勝争いが大きく動いた。フルームの最大のライバルと見られていたヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、バーレーン・メリダ)がアタックしたからだ。

第2ステージで優勝したイブ・ランパールト(ベルギー、クイックステップフロアーズ) (C)Unipublic
第2ステージで優勝したイブ・ランパールト(ベルギー、クイックステップフロアーズ) (C)Unipublic

第3ステージで優勝したヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、バーレーン・メリダ) (C)Unipublic
第3ステージで優勝したヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、バーレーン・メリダ) (C)Unipublic

しかし、フルームにとってはすべて想定内。しっかりとニーバリをマークすると、ステージ優勝はニーバリに譲り、同タイムのステージ3位でフィニッシュ。その計算された走りで、早くもマイヨロホを獲得してしまったのである。ロマン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアル)、エステバン・チャベス(コロンビア、オリカ・スコット)、ファビオ・アル(イタリア、アスタナ)、ティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、BMCレーシング)といったライバルが総合上位に上がってくることも、フルームにとってはすべて想定内だった。

第3ステージで、早くもマイヨロホを獲得したクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)(C)Unipublic
第3ステージで、早くもマイヨロホを獲得したクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)(C)Unipublic

山下りの第4ステージはマッテオ・トレンティン(イタリア、クイックステップフロアーズ)が勝利し、総合上位勢には大きな変動がなかったものの、続く第5ステージでは総合成績に関係のない逃げを見送り、総合上位勢は4分ほど遅れた集団の中でつばぜり合いを繰り広げることとなる。ここでアタックしたのは、アルベルト・コンタドール(スペイン、トレック・セガフレード)だった。フルームはコンタドールを半分は警戒し、半分は敬意を表してマークすると、コンタドールと同じ集団でゴール。ここでニーバリはフルームよりも26秒も遅れてしまい、フルームを楽にさせる結果となってしまった。ステージ優勝は、総合成績とはまったく関係のないアレクセイ・ルツェンコ(カザフスタン、アスタナ)。

第4ステージで優勝したマッテオ・トレンティン(イタリア、クイックステップフロアーズ)(C)Unipublic
第4ステージで優勝したマッテオ・トレンティン(イタリア、クイックステップフロアーズ)(C)Unipublic
第5ステージで優勝したアレクセイ・ルツェンコ(カザフスタン・アスタナ)(C)Unipublic
第5ステージで優勝したアレクセイ・ルツェンコ(カザフスタン・アスタナ)(C)Unipublic
第5ステージで攻撃に転じたアルベルト・コンタドール(スペイン、トレック・セガフレード)。復活をアピールする走りだった(C)Unipublic
第5ステージで攻撃に転じたアルベルト・コンタドール(スペイン、トレック・セガフレード)。復活をアピールする走りだった(C)Unipublic

盤石の走りでマイヨロホを堅持

その後のステージでも、フルームの走りは完璧だった。トーマス・マルチンスキー(ポーランド、ロット・スーダル)がステージ優勝した第6ステージ、マテイ・モホリッチ(スロベニア、UAEチームエミレーツ)が優勝した第7ステージ、ジュリアン・アラフィリップ(フランス、クイックステップフロアーズ)が優勝した第8ステージのいずれも勝負所ではないと見ていたフルームは、ニエベやプールスといったアシスト陣に守られながら、危なげなくフィニッシュしている。

第6ステージで優勝したトーマス・マルチンスキー(ポーランド、ロット・スーダル) (C)Unipublic
第6ステージで優勝したトーマス・マルチンスキー(ポーランド、ロット・スーダル) (C)Unipublic

第7ステージで優勝したマテイ・モホリッチ(スロベニア、UAEチームエミレーツ)(C)Unipublic
第7ステージで優勝したマテイ・モホリッチ(スロベニア、UAEチームエミレーツ)(C)Unipublic

第8ステージで優勝したジュリアン・アラフィリップ(フランス、クイックステップフロアーズ)(C)Unipublic
第8ステージで優勝したジュリアン・アラフィリップ(フランス、クイックステップフロアーズ)(C)Unipublic

無駄な力は使わず、勝負所で一気に爆発する。それがステージレースで勝利するための方程式だ。フルームが爆発したのが、休養日前の第9ステージだった。最後の登りゴールは急勾配で、ここで一気に踏めばライバル達を蹴落とせるという計算がフルームにはあった。

ゴール手前のフルームの加速は圧倒的だった。勾配を感じさせない軽やかな走りでライバルたちに差を付けると、まるで予定調和のごとくステージ優勝を果たす。遅れてゴールしてくるライバル達の走りを見て、初めてその勾配の厳しさを実感できるようなありさまだった。落車や機材故障などのトラブルがない限り、フルームの総合優勝はほぼ確実といって良いだろう。今のフルームに、死角はまったく見当たらない。

第9ステージの厳しい登りゴールを異次元の速さで駆け上りステージ優勝したマイヨロホのクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)(C)Unipublic
第9ステージの厳しい登りゴールを異次元の速さで駆け上りステージ優勝したマイヨロホのクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)(C)Unipublic

【第9ステージ終了時点での個人総合成績】
1  クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)4h07’13”
2  エステバン・チャベス(コロンビア、オリカ・スコット)+4″
3 マイケル・ウッズ(カナダ、キャノンデール・ドラパック)+5″
4 ウィルコ・ケルデルマン(オランダ、サンウェブ)+8″
5 イルヌール・ザカリン(ロシア、カチューシャ)
6 アルベルト・コンタドール(スペイン、トレック・セガフレード)+12″
7 ダビ・デラクルス(スペイン、クイックステップフロアーズ)
8 サム・オーメン(オランダ、サンウェブ)
9  ニコラス・ロッシュ(アイルランド、BMCレーシング)+14″
10  ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、バーレーン・メリダ)

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WRITTEN BY仲沢 隆

仲沢 隆 自転車ジャーナリスト。早稲田大学大学院で、ヨーロッパの自転車文化史を研究。著書に『ロードバイク進化論』『超一流選手の愛用品』、訳書に『カンパニョーロ −自転車競技の歴史を“変速”した革新のパーツたち−』がある。

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