トラック競技の迫力に大興奮!TRACK PARTY 2017 in Izu Velodromeに行ってきた

雨の土曜日。見通しの悪い山の中向かうは伊豆・修善寺、2020年東京オリンピックのトラック競技の会場決定に沸くベロドローム。ここで自転車競技とダンスミュージックを融合させたイベント・トラックパーティが開催されると聞いて、わくわくしながら出かけてきました。

「TRACK PARTY 2017 in Izu Velodrome」とは

「TRACK PARTY2017 in Izu Velosrome」とは伊豆ベロドロームを会場に、公益財団法人JKA主催にて開催された日本初のフェス型自転車イベント。
メインは屋内バンクで競うトラック競技。トラック競技の華といわれるクラブミュージックとエキサイティングなMCの中でレースが繰り広げられる「Sixday」をモデルにしています。

そもそもトラック競技とは

自転車競技場(トラック、バンクとも呼ぶ)で行われる自転車競技のこと。板張り、コンクリート、柔らかいアスファルトなどでできた滑らかな路面で、カーブでスピードを落とさないためにカントという角度(伊豆ベロドロームでは最大45度)がついた設計になっているのが特徴です。国内では1周の長さは250~500mが多い(伊豆ベロドロームは国際基準の250m)。
使用車両はブレーキのない固定ギアのピストに限定されています。
競技内容は短距離、中距離、長距離、個人、団体と多岐にわたります。

滑らかな路面と斜度のついたコースが特徴  ©︎Matsumura Seiya

ロードとトラックの深い仲

トラック競技、というと別世界に感じるかもしれませんが、実はロード選手がトラック競技を、またトラック選手がロード競技を掛け持ちしている場合も少なくありません。
今週末のジャパンカップクリテリウムでは、コンタドールや2連覇中の別府史之と共に、競輪界からは新田祐大、渡邉正光が参戦しますし、2012年にツール・ド・フランスで完全優勝を果たしたSir.ブラッドリー・ウィギンスはその後トラック競技に転向し、2016年リオデジャネイロ五輪の団体追い抜きで金メダルを獲得しています。

ウィギンスさんたら、メダルがたくさんありすぎて扱いが雑!!

海外でのピスト文化

日本では2007年に空前のピストブームになるも、ブレーキ問題で下火になってしまった感がありますが、海外ではストリートカルチャーとしてしっかりと根付いています。
ニューヨークが発祥のストリートクリテリウムレース・RED HOOK CRITは今やロンドン、ミラノ、バルセロナと国を超えて開催されるワールドワイドなレースとなりました。

参加選手は豪華な顔ぶれ

トラック競技には競輪S級S班でロンドン五輪代表の新田祐大・女子競輪では敵なしの小林優香など国内トップ競輪選手や、2015全日本TT覇者の会社員ライダー中村龍太郎、ロードレースの世界で日本のトップに輝くであろう若手選手の渡邊翔太郎らが出場。

BMXショーも世界トップレベルの選手たちがハイレベルな技を披露。
また、ストリートトラックバイクの伝説的チーム「MASH SF」が来日。一般参加のライダーがMASHと対戦するなど、自転車好きにはたまらなく贅沢な内容だったのです。

Velodrome Shock!~ベロドロームに圧倒される

自転車イベントはお天気次第で客足に影響が大きく出ます。こんなに冷たい雨では…と心配していたのですが、現地に着き、もともと屋内で行われるトラック競技にはそんなことは杞憂だったと安心しました。

ベロドローム内部。その大きさと見慣れないコース形状に圧倒される。 ©︎Matsumura Seiya

自転車を趣味としていてもトラック競技にはそれほど明るくない人が多いのではないでしょうか。筆者もその一人で、まずは美しいバンクに圧倒されます。
その広さ、そして角度!月並みな言い方ですが「壁」としか思えない!

最大傾斜は45度!上から見下ろすとまさに絶壁。 ©︎Matsumura Seiya
最大傾斜は45度!上から見下ろすとまさに絶壁。 ©︎Matsumura Seiya

ウォームアップですでに感動

レース開始までにはまだ時間がありますが、選手たちがぼちぼち体を温め始めています。
軽く流しながら(と言っても、我々とっては結構なスピードで)バンクの状態を確かめているようです。スピードを増し、際まで上がってくると、目の前の手すりのすぐ向こうにニョキッと選手が現れ、一瞬で過ぎ去っていきます。なんという臨場感!

不安になるくらい近いのだ ©︎Matsumura Seiya

MASH SFのChasとRainierがしゃべりながら通り過ぎた。それもこの近さならでは! ©︎Matsumura Seiya

多くのアスリートがバンクを走る中で、やはりMASH SFの三人は異彩を放っていました。全身タトゥのストリート感や、筋肉の鎧をまとった競輪選手とは異なる絞られた体つきがたまりません!

BMXに魅せられて

FLATLAND・世界レベルの超絶技巧を堪能

メインステージでMCが始まりました。
雨天のため、屋外開催の予定だったBMX フラットランドのショーがここで行われるとのこと。

ゲストは岡村旭、榎貴広、そして内野洋平。いずれも世界に名を馳せる超一流選手です。
ストリートファッションに身を包んだ3人がすいーっと舞台袖から現れ、高難易度の技をいきなり披露!

世界三連覇、そして昨年8度目の世界タイトル獲得したウッチーこと内野洋平  ©︎Matsumura Seiya

一連の技が終わって大きく息を吐き、呼吸を忘れていたことに気づきました。選手が繰り出すトリックに一気に引き込まれ、ムネの動悸が苦しい。
なんでソコを持って、宙に浮いて、そこから回ろうと思った?という驚きの連続で、私のちっぽけはな常識は覆されていきます。とにかく忙しい、次々に高度な技をつなげていく。

BMX界のレジェンド・岡村旭  ©︎Matsumura Seiya

くるくる回ると言っても単純な回転運動ではありません。
人を惹きつけるトリックは、それを叶える正確な技術はもちろんのこと、誰も思いつかない動きを考え出す独創性が要求されるのです。

日本のフラットランドシーンの先駆者・榎貴広 ©︎Matsumura Seiya

ステムに乗り、後輪に飛び移り、ペグの上に立ちダイナミックに自転車を振り回す。人車一体になるまでどれだけの研鑽を重ねたのだろう?
世界最高の技を目の前で思う存分味わえ、感動のあまり鳥肌が立ちました。

悪条件を越えて・YBPジャンプショー

屋外ステージでは、栗瀬裕太率いる山梨のジャンプ集団・YBPのメンバーがジャンプショーに向けスタンバイ。
霧雨に包まれ、時折強い横風が吹く、ライダーにとっては最悪のコンディションです。ショーの前には路面の水分をスポンジで丁寧に吸い取る姿も見られました。

華やかだけれど危険なジャンプのためには万難を廃する努力が重ねられている ©︎Chee

悪天候もなんのその、いざショーが始まれば、MCが熱いトークで観客を煽り、10歳から20代半ばの若いライダーが次々とメイクを決めていきます。

スタートは何と車の屋根! ©︎Chee

車の屋根に設置されたスタート台から勢いをつけ、ふわりと空中で時を止める。そのたびに私の心臓もぎゅっと締め付けられ、スリリングなトリックから目が離せません。

迫力のバックフリップ ©︎Matsumura Seiya

空中でペダルを漕ぐ「E.T.」、背中から1回転するバックフリップ、空中で全身を後方に投げだすスーパーマン…どれも一瞬も気が抜けない危険で高度な技です。

スーパーマン。高い! ©︎Matsumura Seiya

スーパーマンを得意とする大西勘弥。 2016年の覇者はBMX界きってのイケメン ©︎Matsumura Seiya

風が強まり、更にコンディションが悪化する中で、ラストに見せてくれた5人トレインの息の合ったジャンプは圧巻でした

悪条件を物ともせずジャンプとMCで熱く盛り上げてくれた! ©︎Matsumura Seiya

左から MCフレディ・ナス・マーキュリー 永井秀夫 西タカセ 大西カンヤ 密岡ソオ(Kids)大霜優馬

本物を肌で感じるトラック競技

どこに座っても超アリーナ席

重力を無視したジャンプを堪能した後は、いよいよトラック競技が本番を迎えます。

数ある自転車競技の中でもトラックの「アリーナ最前列」感は抜群です。一周250mとコンパクトでコース全体を見回すことができる上、観客の目の前、手を伸ばしたらすぐに届いてしまう距離を選手が高速で通過!!

通り過ぎた選手に見とれていたらまたすぐゴオッと後続の選手が駆け抜けていく。
あまりにもスピーディーでとにかく気が抜けません。

実際、手を伸ばせば選手に届くのだ  ©︎Matsumura Seiya

では興奮の競技の様子をご紹介しましょう。

タイマンのスプリント

スプリントは1対1のタイマン勝負。よほどの実力差がない限り、後攻が有利なため、最初の1周はお互いの出方を伺いつつの主導権争いで焦れる展開となることが多いです。

ステファニー・モートン(奥)との駆け引きで足を止める小林優香(手前)この角度のきつい場所で二人はピタリと止まったまま、激しい心理戦を繰り広げた ©︎Matsumura Seiya

女子は4選手が出場、日本からはガールズ競輪で「怪物女子」と呼ばれる小林優香。
ですが、海外勢はさらにモンスター級の強さでした。近年の国際大会でも上位常連のオーストラリアのステファニー・モートンが先攻、後攻どちらでも勝てるぶっちぎりの強さを見せつけ優勝しました。

圧勝したステファニー・モートン(右)とナターシャ・ハンセン   ©︎Matsumura Seiya

長く楽しめるオムニアム/スクラッチ

数周で終わってしまうレースが多い中、スクラッチは比較的長い競技です。
決められた距離(今回は7.5km)を走り周回遅れの選手は離脱、順位と獲得周回数を競います。その性格上、ロード選手が出場することも多いとのこと。

スクラッチはバンクの上下に分かれてのスタート ©︎Chee

スタートから号砲までの間は周りを伺いながら走る    ©︎Matsumura Seiya

インとアウトに分かれてのスタートが印象的です。隊列を組んでゆっくりと1周してから号砲が鳴り、そこからが本当のスタート。

上から仕掛ける者、後ろから狙う者、戦略はそれぞれ ©︎Matsumura Seiya

駆け引きはさまざま。下に貼り付くもの、バンクに駆け上るもの…並行運動だけでない3Dな動きとスピーディーな展開に吸い寄せられます。

勝負を制したのは、2017全日本選手権ポイントレース覇者の中央大学・今村駿介。

ちょっとルールが複雑なオムニアム/テンポレース

正式にはオムニアムという多種競技の中の一つであるテンポレース。7.5kmとこちらも長めのレースです。30周回中、5周目以降、先頭選手のみ1ポイントを獲得していき、最終獲得ポイントを競います。

5周回が終わるまでは周りの様子を見ながら…  ©︎Matsumura Seiya

周回を飛ばして前の主集団に追いつくと20ポイント加算という特別ルールもありますが、国内でも有数の選手たちが走る中、そんな飛び道具のような技が簡単に決まるはずもありません。

計画的なポイント獲得が奏功した橋本英也 ©︎Matsumura Seiya

どこで仕掛け、どこで足を休めるか。周囲の牽制と自分の脚力の温存を計りながらタイミングを見極める。ポイントを得られるのがたった一人というのが厳しいところです。
中盤に着実にポイントを重ねた、橋本英也が優勝しました。2016年のアジア選手権・オムニアムの覇者は今年から競輪学校に入学。2020年に向け力を付けています。

心臓に悪いオムニアム/エリミネーション

18名が出走。ですが最終的には一騎討ちです。
この競技の恐ろしさと見どころは周回ごとに最後尾の選手が切られていくこと。

この中から一人ずつ足切りされていくのだ ©︎Matsumura Seiya

つねに自分の位置を把握し(油断しているとギリギリで刺されてしまい脱落することもある!)一定の着順を守りつつ、最後のスプリントにかける足を残さなければなりません。
周を重ねるごとに塊が小さくなっていくスリリングなレースなのです。

スタートよりだいぶ人数が少なくなっている ©︎Matsumura Seiya

ふるいにかけられぬようハイスピードでまわっていた最後の3名の選手がラインを通過した直後、電光掲示板に「28」と大きく映し出されました。オーストラリア代表のハワードが脱落決定です。その瞬間、残る二人の脚がふっと緩みました。

最後の二人になり、互いの出方を伺う鹿屋体育大学・橋本英也(手前)と中央大学・今村駿介 ©︎Matsumura Seiya

今までがむしゃらに周っていたのがウソのような静寂。
一騎打ちになり主導権を握るべく息の詰まる心理戦が数秒あったかと思うと、急に両者がもがき始める。動から静、静から動に移るこの瞬間がタマりません。
巧みに今村を先に行かせた橋本がゴール前で刺し勝利を掴みました。

日本のお家芸ケイリン

競輪、という言葉がそのまま競技名になったケイリンは6人一斉に出走。

ケイリンは各選手に一人ずつ支えるスタッフが付く ©︎Matsumura Seiya

選手がスタンバイしている横をすうーっとペーサーが通り過ぎ、ラインを越えた時点で号砲が響きます。3周まではペーサーを抜くことを禁止されているため、べったり張り付いています。3周後の加速が圧巻。ぐんぐんスピードを増し隊列が散らばっていきます。

ペーサーの方はヤマハの電動アシストクロスバイクだった ©︎Matsumura Seiya

最終周を知らせるジャンがなってからは爆発的な加速を発動!筋肉の塊のような選手たちが全身を使いペダルを踏みしめる力強さが、轟音となって響き渡ります。

ジャンが鳴り仕掛けるグレーツァーと2017年アジア選手権スプリント2位の河端朋之(右)、それに続く新田祐大(中央)©︎Matsumura Seiya

新田祐大(中央)はオーストラリアのグレーツァー(右)に惜しくも届かず ©︎Matsumura Seiya

ケイリンは男女ともオーストラリアが奪取。2020年に向けて日本勢の活躍を期待したい ©︎Matsumura Seiya

MASH SF VS 一般選手

MASH SFはアメリカ・サンフランシスコを中心に活動するピストライダー集団。2007年頃にアメリカで公開されたドキュメンタリー映像をきっかけに世界中で空前のピストバイクブームを起こし、日本でもノーブレーキピストなど、社会的問題にまで発展しました。2015年には新作映像が登場し、今もなお世界中のライダーの関心を惹きつけてやみません。

MASH SF 2015 from MASH TRANSIT PRODUCTIONS on Vimeo

そんなスターライダーとタイマンで走れるとあり、雨の中の予選会は熱いものになりました。MASHとの戦いの場に現れた一般ライダーの選手は3名。レースの方式はパーシュートといい、お互いがホームストレートとバックストレート(バンクのちょうど反対位置)からスタートし、追い抜きをかけるもの。

 ©︎Matsumura Seiya

 ©︎Matsumura Seiya

1回戦は挑戦者が必死に逃げるも、MASHがぐんぐん差を縮めあわや捕まるか!?というところでゴールとなりました。力強い走りに会場もヒートアップ。

 ©︎Matsumura Seiya

 ©︎Matsumura Seiya

このままMASHが勢いづいてしまうのかと思われた2回戦、ピストの黒船を撃墜したサムライは実業団の選手でした。これで1勝1敗。

 ©︎Matsumura Seiya

 ©︎Matsumura Seiya

そして迎えた3回戦は、じりじりとMASHの選手が差を縮めるも、歯をむいて苦しそうな表情をして走る微妙な展開に。結局その差を守り抜き、意地の2勝目で勝ち越しを決めました。

自転車以外のアトラクションも

お笑いタレントのトークショーや小室哲哉のライブショーなど、自転車以外の楽しみも盛りだくさん。会場のお子さんも楽しんでいました。

レースの合間にネタを披露する「わが家」 ©︎Matsumura Seiya
レースの合間にネタを披露する「わが家」 ©︎Matsumura Seiya

おわりに

とにかく盛りだくさんでとても楽しめるイベント。これが入場無料とはなんと太っ腹なんでしょう!
筆者も初めてのトラック競技観戦でしたが、今まで自転車が好きだと言いながらこれを見なかっただなんて、何ともったいないことをしていたのだろうと悔やまれました。
ロードレースとも、公営ギャンブルである競輪とも違う、トラック競技。
伊豆ベロドロームは車でないと気軽には行けないかもしれませんが、その場でしか分からない迫力が存分に味わえること請け合いです。
オリンピックで混んでしまう前にぜひ一度は足を運んでみてください。感動があなたを待っています!

Y’s Road オンライン アウトレットコーナー

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WRITTEN BYChee

神奈川県在住。ハンドメイドサイクリングキャップの「Cyclone」(サイクロン)主宰兼お針子。自転車歴はゆるーく13年。ハードテールMTBでのトレイルライドが一番好き。週末はライドのほか自転車イベントに出店したり、神奈川近辺の里山ボランティアに参加したりしてます。 WEB SHOPはこちら、facebookはこちら https://cyclone.saleshop.jp

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