元アテネ五輪代表・田代恭崇さんがロードバイク初心者に教える乗り方「発進・停止のチェック項目20」

多くの人が「本当にはロードバイクに乗れてない」ってどういう意味?

小学生の頃に買ってもらったのが最初の自転車で、その後家族共用のママチャリで近所に買い物に行ったり。多くの皆さんの自転車体験はそんな風に始まっているかと思います。

で、その延長で、初めてロードバイクを買ったら「自転車に乗れるんだから、ロードバイクもすぐ乗れるはず」と考えていませんか?
元アテネ五輪代表で「リンケージサイクリング」を運営する田代恭崇さん
▲サイクリングやライドの講師としてもひっぱりだこ、元アテネ五輪代表で「リンケージサイクリング」を運営する田代恭崇さん

「ロードバイクはママチャリとはスピード域がまったく違う“車両”です。一瞬の油断で大きな事故につながります。例えばここ湘南はスポーツバイクのメッカだから、この瞬間も目の前をたくさんの自転車が通り過ぎていきますよね。ほら、ロードバイク、クロスバイク・・・でも僕の目から見ると、みんな危なくてしょうがない』んです。“ちゃんと乗れている人”って実はごくごく少数なんですよね」としみじみ言うのは元プロ選手で全日本選手権2回制覇、アテネ五輪ロードレースにも出場して好成績を収めたレジェンド、田代恭崇さんです。FRAMEでは前回「100km走れるようにためにどうしたらいいんですか?」と質問して予想外のお返事をしていただきました

えーと、それって厳しいプロの目から見ると“レベルに達してないからダメ”ってこと?

「いいえ。フォームとか走りではなく、それ以前の話です。安全に走るための基本中の基本の動作発進する・停まるが出来てない人がとても多いんです」(田代さん)

ロードバイクに乗れる人=距離やスピードがすごい人ではない

「例えばゴルフだとクラブの握り方やスイングの仕方みたいな基本動作をプロに教わるって普通ですよね? どんなスポーツでも『基本が大事』とも言われます。でもなぜかロードバイクに限っては基本ってなおざりにしがちです。Jプロでレースに出ていたり、何百キロと走れるハイアマチュアのような人でも、基本が出来てない人はいますよ」と田代さん。

▲日本でも、ゴルフなどメジャーなスポーツでは「基本の基本」を教わるのは当たり前だが、ロードバイクではそうではない
▲日本でも、ゴルフなどメジャーなスポーツでは「基本の基本」を教わるのは当たり前だが、ロードバイクではそうではない

うう、耳が痛いです・・・

ロードバイクはその構造上、スピードに乗ると安定します。でも発進時や停止時はスピードが出てないのでふらつきがちだし、ふらつくと車体をコントロールしようとしてバイク本体や手元を注視し、周囲へ意識が行かないことが多い。そんな時に車が左折しようと接近したり、スピード減速しないで横を通過したりしたら・・・一歩間違えば落車や事故につながりますよね」(田代さん)

発進と停止。この動作の基本の基本が出来るようになると、不安がなくなり、ロードバイクがどんどん楽しくなり、上達も速くなるのだとか。
「そんなに難しいことでもないので、ただ身体に動作を覚え込ませるだけです。だいだい1回1時間程度練習すれば身につきますよ」(田代さん)

ロードバイクを購入したけど怖くてまだ車道が走れないという人。ヒヤリハット、身に覚えのある人。田代さんの言う「基本の基本」一緒に練習してみようではありませんか。

できるかな? 田代式「ロードバイク基本の基本」

ではその「基本の基本」動作、さっそく練習してみましょう。
「練習する場所は車の来ない道がいいですね。家の近所で川沿いのサイクリングロードや軽車両可の公園など、安全を確保出来る場所を探してみて下さい。何度も折り返すので道幅はこのくらいあったほうがいいです」(田代さん)

▲練習に必要な道幅。ロードバイクのサイズ+1mほど必要です(車の来ない道で、人がいない時間を見計らって撮影)。
▲練習に必要な道幅。ロードバイクのサイズ+1mほど必要です(車の来ない道で、人がいない時間を見計らって撮影)。

では早速、「発進の基本動作」を田代さんにやっていただきましょう。

なんと10ものチェックポイントがある「田代式・発進の基本動作」

▲1.道路の左側、自転車の左側に立ち後方確認。この時手はブラケット上で軽くブレーキを握った状態
▲1.道路の左側、自転車の左側に立ち後方確認。この時手はブラケット上で軽くブレーキを握った状態

▲2. 後方確認しながら自転車をまたぐ。
▲2. 後方確認しながら自転車をまたぐ。

▲3.自転車のトップチューブをまたいだ状態で一度静止。
▲3.自転車のトップチューブをまたいだ状態で一度静止。このとき地面について身体を支える足は必ず左足。また、ハンドルはブラケットを握りながら軽くブレーキを引いた状態。前を向いたまま、足で探りながら右足のペダル位置を一番高いところまで持って来る。

発進前の最終確認。
▲4.発進前の最終確認。ハンドルはブラケットを握りながら軽くブレーキを引いた状態で右後方から車が来ないか確認。

▲5.必ず右足から漕ぎ出す。
▲5.必ず右足から漕ぎ出す。左足を乗せ安定するまでしっかり漕ぐ。視線は前方をしっかり見て、手元やペダルを見ないこと。

「いやいや、こんなの当たり前でしょ?出来ているに決まってるヨ」と思われるかもしれませんが、以下の項目チェックしてみてください。

発進時の「基本の基本」チェック項目

☑ 自転車の左側に立っているか
☑ 自転車をまたぐ前に後方確認しているか
☑ ハンドルはブラケット(つのみたいに突き出た部分)に手を置いているか
☑ 停止している間中ブレーキを軽く握っているか
☑ 支え足は左足か
☑ 発進前、右足のペダルは高い位置になっているか
☑ 発進直前に右後方確認しているか
☑ 発進時、視線は前方を見たままか
☑ 発進時、最初にペダルを踏む足は右足か
☑ ビンディングペダルは発進後走行しながらはめているか

発進時、あなたの右足のペダル、上がってる?

この中でベテランでも最も出来ていないのが「右足のペダル位置を高くしておくこと」と「発進時に前方を見ること」だとか。
「ロードバイクは『スピードに乗っていれば安定する乗り物』と先ほど言ったように、発進時にできるだけ早くスピードを出してあげることが大事です。最初の一漕ぎでスピードに乗せるために、ペダル位置は一番高いところにしておいたほうがいいですね。これだけで発進時にふらつかなくなるはずです」(田代さん)

クリートははまらないままスタートしても全然OK

「もうひとつの『発進時に前方を見ること』は、ビンディングペダルを使っている人にありがちなんですが『あれ、クリートが入らない、あれ、あれ?』とつい足元を見てしまう。クリートが入っていなくても問題ありません。それより大事なのは早くスピードに乗ってロードバイクの車体を安定させること。安定してから足探りでクリートをはめればいいんですよ」(田代さん)

▲最初の一漕ぎでスピードに乗って、車体を安定させよう
▲最初の一漕ぎでスピードに乗って、車体を安定させよう

ちなみにこの練習をするとき、ギアはフロントインナーがよいとのこと。
この練習をするとき、ギアはフロントインナーがよい

やはり10ものチェックポイントがある「田代式・停止の基本動作」

発進で10ものチェックポイントがりましたが、やはり「停止の基本動作」でも10ものチェックポイントがあるのだとか。

ロードバイク、なかなかに大変です・・・・

▲1.停止する時は急にブレーキをひかないで、両足を水平にして停まりたい停止位置の30mくらい前から減速しながらブレーキを当て効きさせる。
▲1.停止する時は急にブレーキをひかないで、両足を水平にして停まりたい停止位置の30mくらい前から減速しながらブレーキを当て効きさせる。

▲2.停止とともに慣性の法則で身体が前に行くので、重心をやや後ろに移動して停まる体勢になる。
▲2.停止とともに慣性の法則で身体が前に行くので、重心をやや後ろに移動して停まる体勢になる。両足を水平にすることが車体の上で最も安定する姿勢のため重心を後ろに下げやすい。

▲3.諸説あるが、田代式では停止するとき右足のペダルを下にする
▲3.諸説あるが、田代式では停止するとき右足のペダルを下にする

▲4.ビンディングシューズの人はペダルを外す時に荷重をかけてひねらないと外れないため、外す方の左足を上にしてひねる
▲4.ビンディングシューズの人はペダルを外す時に荷重をかけてひねらないと外れないため、外す方の左足を上にしてひねる

▲5.停止。着くのは必ず左足
▲5.停止。着くのは必ず左足

▲6.停止の時、自転車がフラフラしないようにブラケットを握り、必ず軽くブレーキを引いておく
▲6.停止の時、自転車がフラフラしないようにブラケットを握り、必ず軽くブレーキを引いておく

▲6.自転車を降りる場合、この時点で右後方を確認する
▲6.自転車を降りる場合、この時点で右後方を確認する

▲7.右後方を確認したまま、右足をあげて自転車をまたぐ
▲7.右後方を確認したまま、右足をあげて自転車をまたぐ

▲8.停止する時は必ず自転車の左側に立つ
▲8.停止する時は必ず自転車の左側に立つ

停止時の「基本の基本」チェック項目

☑ 停止目標の30m手前から減速できているか
☑ 両足を水平にしてブレーキは当て効きからスタートしているか
☑ 右足のペダルは最下部に来ているか
☑ 左足のクリートを高い位置で外せたか
☑ 左足を着いたか
☑ 停止中はずっとブラケットとブレーキを握れているか
☑ 停止目標位置でちゃんと停まれたか
☑ 降車時に右後方確認できているか
☑ 降車時に右脚で自転車をまたげているか
☑ 自転車の左側に立っているか

思ったところで停まれる=安全=安心につながる

「自分が思ったところで停まれないロードバイクって意外に多いんですよね。なので、僕はやはり停止する動作の練習もしたほうがいいと考えています。これが絶対正しいというわけではないんですが、僕自身はこの方法が一番安全だと感じています。停車・降車時に右足のペダルが一番下の位置に来ているので、停車中次にスタートするまでの間に脚で右足のペダルを軽く回してトップに持っていっておきましょう」(田代さん)

まとめると「発進・停止だけでも20もの基本動作がある!」

▲自転車の方向を変える時の持ち方。
▲自転車の方向を変える時の持ち方。必ずハンドル中心部(またはステム)とサドル(またはシートポスト)を持って持ち上げる

一番危ない発進・停止時にふらつかないで安全を確保するための動作に20もの注意しなくちゃいけないことがあるなんて・・・正直ビックリですが、田代さん曰く、ちゃんと出来ている人は出来ているのだとか。皆さんはいかがですか?

「初めてのロードバイク、思ったところで停まれないとまず不安ですよね。なので、乗る練習からではなく、この『発進・停止』の練習から始めてみては。一連の動作が考えなくてもできるようになるまで、折り返し短い距離で練習しましょう。ターンもしなくていいです。折り返す時はこうやって自転車を持って逆方向を向いて下さい」(田代さん)

最後は爽やかに「バキューン!」決めていただきました(笑)。
最後は爽やかに「バキューン!」決めていただきました(笑)。
田代さん、ありがとうございました!

田代恭崇プロフィール:
ガイドツアーやスクール、コーチを行うリンケージサイクリング株式会社代表。元プロロードレーサーでアテネオリンピック日本代表、全日本選手権優勝、ヨーロッパプロロードレース優勝など数々の戦績を残し引退。ブリヂストンサイクル株式会社で6年間マーケティングを担当し退社。2014年同会社を設立し、JCA公認サイクリングガイド普及員として全国で活動する。

LINK:リンケージサイクリング

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WRITTEN BYヤマショウ

FRAME編集長 山祥ショウコ マガジンハウス『GINZA』を経て英国遊学から帰国後女性サイトの草分け「Cafeglobe.com」の立ち上げに参画。その後『Casa Brutus』『GQ Japan』「Variety Japan」など、雑誌やウェブのスタートアップ時の編集に携わる。自転車歴9年目。四国出身、湘南在住。

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