自転車乗りが「荒川サイクリングロード」を守るのに必要なこと
首都圏の自転車乗りに「荒サイ」の名前で親しまれている「荒川サイクリングロード」がロードバイクが走りにくいように工事・・・?という衝撃的なニュースが、2月、SNSを中心に駆け巡ったのはご存知でしょうか?
国土交通省関東地方整備局:「高速で走行する自転車に減速を促す対策を実施します!」
荒サイでは、自転車と歩行者の事故や、自転車に対する苦情がかねてから相次いでおり、自転車乗りの有志が「マナーアップ活動」をするなど、自転車がサイクリングロードから閉め出されないよう草の根の啓蒙活動も行われてきましたが、非常に残念な結果ですよね。
FRAME編集部では日本で一番自転車乗りの権利を考える*内海自活研事務局長にこの件に関してどう考えればいいのか、特別寄稿をお願いしました。
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目次
「荒サイ」はサイクリングロードにあらず
実は道路ではなく、誰もが使える国の管理地
まず、タイトルにある「荒川サイクリングロード」はあくまで通称であり、正式名称ではない。
この稿では便宜上略称の「荒サイ」と書くが、少なくとも笹目橋より下流は道路法の対象から外れる「緊急用河川敷道路」となっていて公道ではなく、多くのサイクリングロードが指定されている「自転車歩行者専用道」ですらない。
従って「サイクリングロードなのだから、自転車が本来の性能を発揮して走って何が悪い?」という思い込みがあるとしたら大きな間違いだということ。国の管理地をランナーや犬の散歩をする人や自転車利用者など、市民たちが自由に使えるよう開放してくれているワケだ。
これが議論の前に知っておかなくてはいけない、1つ目の重要なポイントだ。
自転車が圧倒的強者の「荒サイ」
▲狭いサイクリングロードを高速の自転車が並んで向かってきたら……
2つ目の重要なポイントは、クルマのいない荒サイでは自転車が圧倒的強者であるという事実だ。
ご存知の通り、2014年の時点で国交省の荒川下流河川事務所から「新・荒川河川敷ルール」が発表されている。そこには「すぐに止まれる速度として自転車は時速20kmを目安に走行すること」とされた。
自転車利用者からは「時速20kmは遅すぎる」「歩行者が交通ルールを守らず飛び出してくる」などが、一方の歩行者からは「歩いている列に高速で突っ込んでくる」「横一列になって走行する自転車がある」などと、双方ともに不満が出てしまい、事態は一向に改善しなかった。
いずれにしても、数年前から「このままでは自転車利用者が荒サイを締め出されるかもしれない」と、私は警鐘を鳴らしてきたが、自分は関係ないと思っていた人が多いのではないか。議論の前提を忘れて自転車の権利を主張するばかりでは到底受け入れられない。歩行者側の言い分を聞いて改めるところは誠意をもって改め、守るべきところは守り抜きたい。
自転車が快適に走れなくなる、工事による問題解決
減速を促すための土系舗装で、ついに実力行使
自転車と歩行者の事故が絶えないことから、たびたび話し合いの場が設けられたり、イメージハンプを施工したりしたものの結果が出なかったため、2018年中旬に高速走行する自転車の減速を促す対策として、一部区間で土系舗装を施す工事が行われた。
ついに実力行使したかという憤りと、言っても聞かない連中が悪いと残念に思う悲しみとが混じり合う。信号機がなく、工事車両以外は滅多にクルマも来ないから、自転車にとって走りやすい道であることは間違いないが、自転車のためだけにあるワケではないので、関係者同士が話し合い、あるべき姿を探っていきたい。
敢えて走りにくくして、トラブルを事前回避?
従来から荒サイには未舗装区間があって、笹目橋付近には自転車乗りの間で「フジツボ」と呼ばれる埋設物地帯があるほか、砂利道の部分もある。
以前に一度、私も越えようとしてバランスを崩して転倒したことがあってトラウマになっているが、未舗装区間以外にもオートバイや自転車の進入を禁止する目的で柵がしてあるなど、「敢えて走りづらくしているのでは?」と思える箇所がいくつもあるのだ。
今回はアスファルト舗装を剥がし、敢えて走りづらくする工事が施工されたが、これが最後だと思わない方がいい。むしろ前例ができたから自転車乗りの態度いかんで、ますます走りづらくされる可能性がある。
奪われたローディーの聖地・多摩サイの前例
▲多摩川では狭いながらも歩行者と自転車の通行帯が示されているところもある
決定的に走りづらくなった悪しき前例が、多摩川河川敷道路だ。かつて荒サイと並んで首都圏ローディーの聖地だった多摩サイは「サイクリング」の文字を抜き取られ、「たまリバー50」というありがたくもない名前を押し付けられた。
通過する自治体によっては物理的ハンプ(凸状突起)まで施工され、元々狭くて走りづらかったところに追い打ちをかけた。歩行者との共存をはかるための苦肉の策だと理解しているが、高圧のタイヤで走るには適していない。トラブル続きの荒サイにとっても対岸の火事ではない。事故が起きれば、このような対応策がとられてしまうからだ。
大前提にあるのは「弱者保護」の観点
そして議論以前の認識として、3つ目の重要なポイントは、弱者保護が世界のスタンダードだということだ。
自転車専用道でもない道を、圧倒的強者である自転車が本来持つ性能を発揮すれば、弱者から見て「走る凶器」と言われても仕方がない。かつてはメーカー系のレーシングチームがトレーニングの一環として、一列にトレインを組み、時速40km以上の高速で走ることもあったと聞いている。彼らは運転技術も高く事故を起こさないかもしれないが、歩行者にしてみれば脇を高速で走り抜けられると恐怖だろう。
自転車と歩行者が共にハッピーに荒サイを利用するには?
「速度を落とせばいい」では自転車乗りに不満が残る
▲スピードを出して安全快適に走れる道をみすみす手放したくはない
さあ、3つの重要ポイントを踏まえて議論を始めよう。荒サイのあるべき姿とは一体どういうものか。
- 自転車専用道やサイクリングロードではない
- 歩行者とシェアする道路で自転車は圧倒的強者
- 強者と弱者が共存するためには強者が譲ること
自転車にとっては、いささか不利なポイントが列記されているが、同じ空間で自転車も歩行者のどちらも幸せになるには、自転車側が速度を落として譲るしかないことが分かる。
いやいや、ちょっと待て。自転車やられっ放しではないか。自転車の権利はどうなる? 未来永劫、荒サイでは本来性能を発揮して走れないということか?
首都圏近郊で、これだけの距離を安全・快適に走れる空間をみすみす手放すのは惜しい。何とかならないか。とはいえ、これまでの積年の確執は簡単には消えない。
「自転車と歩行者の通行空間を分ける」という発想の転換を
どうも同じ空間で考えていては最適解が見出せそうにないので、いっそ発想を変えて歩車分離する方向を探ってみようではないか。
自転車と歩行者では速度域が大きく異なるから、同じ空間に置けば危険である。やはり自転車と歩行者は分けるべきで、同様に問題となってきた歩道走行も、2011年からは車道走行徹底へ大方針転換している最中だ。
荒サイでも自転車と歩行者を物理的に分けて交錯させない道路構造が実現できれば、お互い気にせず思い切り楽しめる。2017年に自転車活用推進法が施行されたが、自転車に乗る機会を増やして国民の健康維持を目指すのであれば、やはり安全・快適に本来の性能を発揮して走れる道の確保が必要だ。
なるべく既存設備を活用することが望ましいだろうが、やり方は問わない。流域の自治体によっても考え方が違うだろうから、国が横串を刺せるような指針を出してほしい。このままでは、お互いギスギスして全体が疲弊する一方だ。自転車も歩行者も共にハッピーになる未来を目指したい。
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