伝統のワンデイレースパリ~ルーベ2018大胆予測|クイックステップのジルベールかテルプストラで決まり !?
目次
パリルーベは「肉体・運・走りが揃った最強のライダー」が勝つレース
パリルーベとは
今年もいよいよ、4月8日に伝統のワンデーレース「パリ~ルーベ」が行われる。パリ~ルーベは、その名の通りパリ郊外のコンピエーニュからフランス北部のルーベのヴェロドローム(自転車競技場)までの約260km(2018年は257km)で行われるワンデーレースで、途中、中世に作られたパヴェ(石畳)の区間をいくつも走るのが特徴だ。第1回大会は1896年で、100年以上の伝統を誇る。
走るパヴェ区間(セクター)の数やどのパヴェを走るかは年によってわずかに変更されるが、おおよそ25から28程度のパヴェ区間を走るのが通例で、その総延長は50kmほどになる。今年は29セクターと例年よりパヴェ区間が多い。その難易度は1つから5つの星の数で表され、最も難易度の高い5つ星のパヴェ区間としては「アランベール」「モンサン=ペヴェル」「カルフール・ド・ラルブル」が有名。
路面コンディションが最悪のレースのひとつ
中世に作られた荒れたパヴェ(石畳)が選手たちを苦しめる (C)A.S.O.
パヴェ(石畳)とはいっても、街中で見られるような美しい石畳ではなく、畑や森の中に残された中世のパヴェなので、その路面は非常に荒れている。プロサイクリストでさえまっすぐに走ることも困難で、ましてやレースというシチュエーションになると、落車やパンク、その他機材故障の連続となる。
ひとたび雨が降ると、路面は泥だらけになり、車輪から跳ね上げる泥が選手たちを容赦なく襲う。ゴール後の選手たちはカラダにも顔にも泥が付着した状態になり、どのチームの誰かさえ判別することが難しくなるほどだ。当然、落車する選手も多くなり、骨折で病院送りの選手が続出することもある。また晴れていても、凄まじい土埃が舞い上がり、選手たちの呼吸を困難にさせるとともに、視界さえ奪い去ってしまう。
パリルーベ、別名「北の地獄」
そのあまりの厳しさから、このレースは「北の地獄」とよく表現される。一方で、このレースほど美しいものもないということから、「クラシックの女王」とも呼ばれる。まさに「危険性と美しさ」「挫折と栄光」「陰と陽」が表裏一体となったドラマチックなレースなのである。
2018年のパリルーベ、レースの行方を占う
さて、今年のレースを占ってみよう。これまでの春先のレース結果をおさらいするまでもなく、今年はクイックステップフロアーズが圧倒的に強い。トム・ボーネン(ベルギー)のようなビッグエースが抜けてチーム力が落ちるかとおもいきや、チームの臨機応変な走りにより、むしろこれまでのチーム史上最強といっても良い成績を残しているのだ。
チーム史上最強に強い今年のクイックステップフロアーズ
ロンド・ファン・フラーンデレンを制したニキ・テルプストラ(オランダ、クイックステップフロアーズ) (C) Quick-Step Floors Cycling Team / Getty Sport
絶対的なエースを勝たせるための走りから、そのときの状況に応じて全員が勝てるようなレース運びをするようになったのがクイックステップフロアーズの強みだ。もともと、他チームへ行けばエースになれるような選手ばかりだから、誰かがアタックして決まれば残りの選手が後続集団を抑えて逃げた選手を勝たせ、捕まれば次の選手がアタックする、という自在なレース運びができるようになったのである。
4月1日に行われたロンド・ファン・フラーンデレン(ツール・デ・フランドル)がまさにそうだった。ニキ・テルプストラ(オランダ)がアタックすると、後続集団に残った前年の覇者フィリップ・ジルベール(ベルギー)とゼネク・スティバル(チェコ)が集団を完璧に抑え、他のチームに付け入る隙を与えなかったのだ。独走力に勝るテルプストラが逃げ切って優勝したが、もしテルプストラが捕まったとしてもジルベールやスティバルがアタックすれば、もう誰もかなわなかっただろう。とにかく、完璧なチームプレーだった。
ロンド・ファン・フラーンデレンにおいて、後続集団をしっかりと抑え、テルプストラの勝利を演出したフィリップ・ジルベール(ベルギー、クイックステップフロアーズ) (C) Quick-Step Floors Cycling Team / Getty Sport
優勝候補はズバリこの5人
今の強さから考えると、優勝候補筆頭にはニキ・テルプストラ(オランダ、クイックステップフロアーズ)とフィリップ・ジルベール(ベルギー、クイックステップフロアーズ)を挙げておかなければいけない。ロンド・ファン・フラーンデレンではテルプストラが逃げてジルベールが集団を抑えたから、こんどは逆の展開を考えているかもしれない。ここにゼネク・スティバル(チェコ、クイックステップフロアーズ)、イヴ・ランパールト(ベルギー、クイックステップフロアーズ)、イイヨ・ケイセ(ベルギー、クイックステップフロアーズ)らが加われば、もう完璧だ。どこのチームも手も足も出ないだろう。
ロンド・ファン・フラーンデレンにおいて、ジルベールと同じく後続集団を抑えたゼネク・スティバル(チェコ、クイックステップフロアーズ)。昨年は、ルーベ競技場でのスプリントでフレッフ・ファンアーヴェルマート(ベルギー、BMCレーシング)に敗れて2位だった (C) Quick-Step Floors Cycling Team / Getty Sport
ロード界のスター・サガンはどう戦う?
個人としては圧倒的な強さを持つペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ) (C) BORA-hansgrohe / VeloImages
あえて対抗馬を挙げるとしたら、まずはペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)だ。アシスト陣は少々さみしいが、個人の能力としては圧倒的に一番の選手だから、うまくクイックステップフロアーズの作戦に乗っていけば勝機は生まれるかもしれない。バイクコントロールが圧倒的に上手いサガンなら、あながち無理ではないはず。ルーベ競技場まで先頭集団に残れれば、スプリント力に勝るサガンの勝利は絶対だ。
その他には、やはり昨年の覇者フレッフ・ファンアーヴェルマート(ベルギー、BMCレーシング)の名前を挙げておかなければいけないだろう。そのほか、セップ・ファンマルケ(ベルギー、EFエデュケーションファースト・ドラパック)、エドワルド・トゥーンス(ベルギー、サンウェブ)、アレクサンデル・クリストフ(ノルウェー、UAEチームエミレーツ)らが手強い。いずれにしても、クイックステップフロアーズの波状攻撃に耐え、ルーベ競技場まで先頭集団に残ることが勝利の必須条件だ。
昨年の覇者フレッフ・ファンアーヴェルマート(ベルギー、BMCレーシング)。クイックステップフロアーズとしては、ルーベ競技場にたどり着く前にちぎりさっておきたい選手だ (C)BMC Racing Team / Chris Auld Photography
EFエデュケーションファースト・ドラパックのエース、セップ・ファンマルケ(ベルギー)。2016年は4位だった (C)EF Education First Drapac
チームとしての対抗馬はトレック・セガフレード
昨年4位だったヤスペル・スタイヴン(ベルギー、トレック・セガフレード)。今年もエースとして走る (C)Trek Segafredo
トレック・セガフレードは不気味な存在だ。エースは昨年4位だったヤスペル・スタイヴン(ベルギー)だが、ジョン・デゲンコルブ(ドイツ)は2015年の覇者であるし、マッズ・ペデルセン(デンマーク)はロンド・ファン・フラーンデレンで最後までテルプストラに食らいつき、単独2位でフィニッシュしている。彼らの作戦が上手く機能すれば、クイックステップフロアーズにとって最大の脅威になるだろう。
2015年の覇者ジョン・デゲンコルブ(ドイツ、トレック・セガフレード)。スプリントに持ち込めば無敵だ (C)Trek Segafredo
ロンド・ファン・フラーンデレン2位のマッズ・ペデルセン(デンマーク、トレック・セガフレード)。その潜在能力は極めて高い (C)Trek Segafredo
2016年のパリ~ルーベの覇者マシュー・ヘイマン(オーストラリア、ミッチェルトン・スコット)は今年も出場するが、もう彼も39歳。上位に食い込むことはできても、勝つのは難しいのではないだろうか。
要注目、大穴の2人
ダークホースとしては、シクロクロスの世界チャンピオン、ワウト・ファンアールト(ベルギー、ヴェランダスウィレムス・クレラン)が挙げられる。ロンド・ファン・フラーンデレンでも最後まで先頭集団に残り、9位でフィニッシュしたポテンシャルの高さは本物だ。本人も勝利への情熱はそうとうなもののはず。もしかしたら、もあり得るだろう。
そして、大穴はイマノル・エルビティ(スペイン、モビスター)だ。スペインの選手が北のクラシックで活躍するなんてひと昔前までは考えられなかったが、エルビティはちょっと違う。2016年にはロンド・ファン・フラーンデレン7位、パリ~ルーベ6位という好成績を残しており、このレースと極めて相性が良いのだ。クイックステップフロアーズの鉄壁の走りを崩すのには、こういった意外性のある選手の方が良いのかもしれない。