2018ツアー・オブ・ジャパン|福島に続く日本人優勝者が出てくるのを夢見て

5月20日から8日間にわたって開催された日本最大のステージレース「ツアー・オブ・ジャパン」が、27日の第8ステージ(東京)で幕を閉じた。総合優勝は、マルコス・ガルシア(スペイン、キナンサイクリングチーム)。今年も日本人による総合優勝はなし得なかったが、随所で光る走りが見られた。

過去、日本人の総合優勝は1回だけ

1996年から始まったツアー・オブ・ジャパンだが、これまで日本人選手の総合優勝は何回あったかご存じだろうか? 2004年の福島晋一(ブリヂストンアンカー、当時、現 NIPPOヴィーニファンティーニ監督)の1度のみである。ちなみに、10月のジャパンカップで日本人が勝ったのも、1997年の阿部良之(マペイ、当時)の1度のみだ。

ヨーロッパでは、「その国のレースは、その国の選手が活躍する」のは当たり前。たとえばジロ・ディ・イタリアは過去の優勝者リストを見るとイタリア人選手が最も多く勝っているし、ブエルタ・ア・エスパーニャではスペイン人選手が最も多く勝っているのである。1985年のベルナール・イノー以来フランス人選手による総合優勝者が出ていないツール・ド・フランスでさえ、その100年以上の歴史を見てみれば、やはりフランス人選手が最も多く勝っているのだ。

こんなことを書くと、「いやいや、フランスやイタリアやスペインと日本をいっしょにするのは無理がある」という声が聞こえてきそうだが、そんなこともない。ツアー・オブ・ノルウェーではノルウェー人選手がキッチリ活躍するし、お隣の韓国で開催されているツアー・オブ・コリアではしっかりと韓国人選手が活躍しているのである。

総合優勝したマルコス・ガルシア(スペイン、キナンサイクリングチーム) ©KINAN CYCLING TEAM
2018 TOJ総合優勝したマルコス・ガルシア(スペイン、キナンサイクリングチーム) ©KINAN CYCLING TEAM

ツール・ド・フランスで、しばらくフランス人による総合優勝者が出ていないことに、フランスのレースファンはフラストレーションがたまりまくっているというのは、よく語られること。ならば、われわれ日本人ファンとしては、ツアー・オブ・ジャパンでしばらく日本人による総合優勝者が出ていないことにフラストレーションがたまってもおかしくないはず。

しかし、日本のファンやメディアは、日本人選手が勝てなくても、「よくがんばった」「成功しなかったけど、あのアタックには感動した」「次につながる走りができたね」などと日本の選手たちに優しい言葉をかける。まあ、「和を以て貴しとなす」のが日本の文化であるし、労をねぎらうこと自体は悪いことではない。

だが、あえて声を大にして言いたい。「日本の選手よ、もっと勝ってくれ!」と。日本のファンは、「バリアーニ、圧巻の走りでツアー・オブ・ジャパン2連覇!」とか「ポルセイエディゴラコール、富士山のヒルクライムを制す」とか「オスカル・プジョル、ベテランらしい円熟の走りで総合優勝」なんていう見出しにもう飽き飽きしているのである。はっきり言って、バリアーニやポルセイエディゴラコールやプジョルの活躍を期待している日本のファンって、そんなに多くないんじゃないだろうか。

問題は富士山のヒルクライム

第6ステージ、富士山のヒルクライムで優勝したマルコス・ガルシア(スペイン、キナンサイクリングチーム) ©KINAN CYCLING TEAM
第6ステージ、富士山のヒルクライムで優勝したマルコス・ガルシア(スペイン、キナンサイクリングチーム) ©KINAN CYCLING TEAM

では、日本人選手がなかなか勝てない最大の要因は何なのだろうか。「まだ海外の強豪選手に力が及んでいない」という問題はさておき、コースという点ではやはり富士山のヒルクライムが大きな問題だろう。

今年は第6ステージとなった富士山のヒルクライムだが、とにかくここでの差がそのまま総合成績に反映されてしまうというのは、日本人選手にとって圧倒的に不利だ。ツール・ド・フランスでもジロ・ディ・イタリアでも、主催社は自国の選手が有利なようにコースレイアウトをするのが普通。ならば、日本自転車競技連盟も、日本人選手が勝てるコースレイアウトを考える必要があるのは当然なのだ。

ある選手が「ツアー・オブ・ジャパンで日本人選手が勝つためには、どうすれば良いと思うか?」という質問に対して、「富士山のヒルクライムの長さを半分にして欲しい」と答えて笑いを取っていたが、実はこれは笑い事ではないのである。

キラリと光った雨澤と鈴木譲

さて、ずいぶんと偉そうに手厳しいことばかりかいてしまったが、日本人選手の光る走りも随所にみられた。なかでも、第2ステージで優勝した雨澤毅明(宇都宮ブリッツェン)と山岳賞を獲得した鈴木譲(宇都宮ブリッツェン)の走りは特筆に値するだろう。あれだけの強豪外国人選手が集まっているなかで、キッチリと結果を残すというのは並大抵のことではない。

第2ステージ京都で優勝した雨澤毅明(日本、宇都宮ブリッツェン) ©UTSUNOMIYA BLITZEN
第2ステージ京都で優勝した雨澤毅明(日本、宇都宮ブリッツェン) ©UTSUNOMIYA BLITZEN
山岳賞を獲得した鈴木譲(日本、宇都宮ブリッツェン) ©UTSUNOMIYA BLITZEN
山岳賞を獲得した鈴木譲(日本、宇都宮ブリッツェン) ©UTSUNOMIYA BLITZEN

そして、総合9位に食い込んだ中根英登(NIPPOヴィーニファンティーニ・エウロパオヴィーニの走りも素晴らしかった。総合優勝したマルコス・ガルシア(スペイン、キナンサイクリングチーム)との差は2分47秒。中根が富士山ステージで優勝したガルシアから遅れたタイムも2分47秒であったから、富士山ステージさえ何とかなれば、総合優勝に手が届いてもおかしくなかった計算になる。

個人総合では日本勢トップの9位に食い込んだ中根英登(日本、NIPPOヴィーニファンティーニ・エウロパオヴィーニ) ©NIPPO VINI FANTINI EUROPA OVINI
個人総合では日本勢トップの9位に食い込んだ中根英登(日本、NIPPOヴィーニファンティーニ・エウロパオヴィーニ) ©NIPPO VINI FANTINI EUROPA OVINI

さらに、大学生ながら山岳賞争いを演じた草場啓吾(日本ナショナルチーム)にも言及したい。普通、学生がプロ選手と走ると萎縮してしまってレース展開に加われないものだが、草場は臆することなくレースを積極的に組み立て、いったん手放した山岳賞ジャージを美濃ステージで取り返すという離れ業まで演じている。この強心臓は、自転車選手として素晴らしい資質だと言えよう。

2018 TOJ(ツアー・オブ・ジャパン)リザルト

2018ツアー・オブ・ジャパンステージ優勝者

5月20日(日) 第1ステージ堺   2.6km(個人タイムトライアル)
 イアン・ビビー(イギリス、JLTコンドル)

5月21日(月) 第2ステージ京都  105km
 雨澤毅明(日本、宇都宮ブリッツェン)

5月22日(火) 第3ステージいなべ 127km
 グレガ・ボーレ(スロベニア、バーレーン・メリダ)

5月23日(水) 第4ステージ美濃  139.4km
 ミケル・ライム(エストニア、イスラエルサイクリングアカデミー)

5月24日(木) 第5ステージ南信州 123.6km
 トマ・ルバ(フランス、キナンサイクリングチーム)

5月25日(金) 第6ステージ富士山 32.9km(ヒルクライム)
 マルコス・ガルシア(スペイン、キナンサイクリングチーム)

5月26日(土) 第7ステージ伊豆  120.8km
 グレガ・ボーレ(スロベニア、バーレーン・メリダ)

5月27日(日) 第8ステージ東京  112.7km
 マルティン・ラース(エストニア、チームイルミネート)

2018ツアー・オブ・ジャパン最終成績

1 マルコス・ガルシア(スペイン、キナン)19h57’25”
2 ハーマン・ペーンシュタイナー(オーストリア、バーレーン・メリダ)+35″
3 T.ルバ(フランス、キナン)+53″
4 クリス・ハーパー(オーストラリア、ベネロング・スイスウェルネス)+1’27”
5 グレガ・ボーレ(スロベニア、バーレーン・メリダ)+1’40”
6 サム・クローム(オーストラリア、ベネロング・スイスウェルネス)+1’55”
9 中根英登(日本、NIPPOヴィーニファンティーニ)+2’47”

ポイント賞  グレガ・ボーレ(スロベニア、バーレーン・メリダ)
山岳賞    鈴木譲(日本、宇都宮ブリッツェン)
新人賞    クリス・ハーパー(オーストラリア、ベネロング・スイスウェルネス)

Top photo ©KINAN CYCLING TEAM

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WRITTEN BY仲沢 隆

仲沢 隆 自転車ジャーナリスト。早稲田大学大学院で、ヨーロッパの自転車文化史を研究。著書に『ロードバイク進化論』『超一流選手の愛用品』、訳書に『カンパニョーロ −自転車競技の歴史を“変速”した革新のパーツたち−』がある。

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