怖さを克服! うまい「下り」のための3つの基本フォーム ~自転車の処方箋 #01~

「自転車の処方箋」は、サイクリストの悩みに元プロロードレーサーが、スパっと回答する連載企画です。第1回目は、神奈川県のニコさんから「下りが怖くてうまく走れない。どうしたらいいんでしょうか? ネットで調べてみましたが、あまりいい情報がなくて……」という質問をいただきました。

「上りは頑張れば何とかなるが、下りは怖くて頑張りようがない……」
スピードコントロールがうまくいかない」
下りに最適なボディポジションってあるの?」

確かに、上りの走り方の情報はたくさんありますが、下り方についての情報は不足していてあまりないかもしれません。特に速くではなく、安全に下る方法はあまり聞いたことがないかもしれないですね。

安全に下れてしかも怖くない、そんな方法があるなら聞いてみたい! プロサイクリングチームAVENTURA CYCLINGの運営代表/プレイングディレクター、管洋介さん、教えてください!!

▲競技歴22年、元プロレーサーで、現在はチームの監督も務める管さんが一発回答。

下り坂で、さらに前のめりになるからもっと怖くなる

「下りが怖い……」。
想像するに、原因はロードレーサーの形状や乗車姿勢にありますね。元々ハンドルが低い位置にあるロードレーサーは、下り坂を走ることで、さらに「前のめり」になってしまいます。これが怖さにつながっているんだと思います。

私は一般ライダーの指導も多くしていますが、平地で25km/hで走れるのに、下りになると20km/hでも怖くてガチガチになってしまう人がいます。中にはコーナーで10km/hにまで減速してしまっている方も……。
下ハンドルに慣れていない、平地でもアップライトなポジションで走るライダーに多いパターンですね。

これは「前のめり」という身体の状態に、細いタイヤで路面を捉えるしかないというロードレーサーへの不安なイメージが加えられているからだと思います。つまり「ハンドル荷重」の状態が続いて、路面からの振動が手元に伝わって、コントロールが腕だけに委ねられる時間が大きくなることが、恐怖を感じる大きな原因です。

平地でも下ハンドルはまだ慣れていない、ブラケット中心にフォームをとっているライダーが下りが怖くなる原因を解決するには下りの基本となるフォームをまず意識することが大切になるでしょう。

下りの基本フォーム「3つ」をマスターする

下りの乗車ポジション/フォームのポイントは大きく3点。まずはこれらを紹介していきます。

お腹に力を入れて肩の力を抜く

▲上体をリラックスさせることで安定感が高まる。

お腹に力を入れて肩の力を抜くのは、お腹に力を入れることでバランスを支える腰回りの安定に繋がるからです。体幹部へ意識が高まるので、その結果肩の力は抜けて、ハンドルへの荷重が軽減されます。
ハンドルへの荷重が減ると、うまくいかなかったコントロールに余裕が出てきます。
「じゃあ、常に腹筋に力を入れていいないといけないの?」という意見も聞こえてきそうですが、下るコースに合わせて力を入れてみましょう。重要なのは危険予測が必要なとっさの時にグッと体幹に力が入っていることです。

まだ疲れもほどほどで、見通しが良く緩くて一直線の下りなどではリラックスした感じで走り、狭くブラインドコーナーが続く区間では体幹部にグッと力を入れて安定させることは重要。メリハリをつけて走ると体力も温存できると思います。

胸を低く構え腰を少し後ろに引く

▲視野が確保できることで、怖さが軽減される。

「胸を低く構え腰を少し後ろに引く」ことで視線が下がって、自然に腰が後ろに引けたポジションになります。これにより路面状況、ルートがしっかり見えるようになるでしょう。

また腰を引くことでヒジを軽く曲げた状態ができます。
この軽く曲げたヒジで細かな振動などを吸収できるようになります。注意点はヒジを内に絞らないこと。ハンドリングがクイックになってしまいます。ハンドルから外へ少しヒジを膨らませるように。下りが怖いからといって、道路から頭を遠ざけようとすると、コントロールに余裕のない状況を導いてしまうので注意。

ブラケットは中指を中心にブレーキレバーを握り、ヒジを軽く外側へ曲げる

▲ブラケットは中指を中心にブレーキレバーを握り、ヒジを軽く外側へ曲げる。

「ブラケットレバーを中指を中心に、人差し指を添えて握る」ことで、重心を最適なポジションに落ち着かせることができます。

『膝の痛み』を感じたら脱初心者のチャンス!? ハンドル握り方で変わるフォーム改善」で詳しく解説していますが、人差し指中心で握ると身体が前方向へ引き寄せられ前方荷重になってしまうなど、指はかなり重要。「前のめり」に荷重してしまう傾向を抑えたいなら、中指中心です。

基本フォームがマスターできたら、状況に応じて試せる3つの方法にトライ

下りの基本フォームが意識できたら、次は「下りが怖くなくなる」テクニックを試します。3つ全部を試す必要はありません。自分の状況に応じて取り入れてみましょう。

体幹がないライダーにおススメ!「トップチューブを両膝で挟む」

▲トップチューブを両膝で挟むとバイクとの一体感が増す。

やってみると分かりますが、トップチューブを両膝ではさむことで、ハンドルに荷重が乗ってしまうことをかなり軽減してくれます。また身体がコンパクトになるのでバイクとの一体感が増し、下りのライン取りにも落ち着いて対応できるはずです。

この方法は体幹部の固定に疲れた時にも有効。ときどきこの方法でリラックスできるので、ロングライドなどで疲れたときにも使えるフォームです。

下りのスピードが時速20km/h以下になるライダーにオススメ!「フロントブレーキを当て効きさせたままペダリングをする」

▲フロントタイヤに荷重すると安定感が高まる。

「えっ!下りってリアブレーキをかけるんじゃないの?」と思われがちですが、フロントの当て効きブレーキを使います。当て効きブレーキとは、ガクンとスピードが落ちない程度にレバーを握ること。

これによりバイクのフロント部が下りの推進力とブレーキ制動により立ち易くなり(適度に荷重され)、さらにペダリングを加えることで、軽い踏み込みの反動で腰が後ろに落ち着きます。これによってトルクが路面へ伝わり、走行摩擦により安定性を感じることができます。

特にギアにトルクも乗りやすい40km/h以下でのダウンヒルでは、ペダリングすることで重心の支点も低くなります。実際緩いコーナーを中程度のスピードで侵入する場合は、この方法でコーナーリングすることも非常に多いですね。

とくに緩いコーナーでガチガチに身構えてしまうライダーには有効なテクニックになると思います。スピードが速くなるとトルクを感じづらくなって、ペダリングでは安定しなくなります。そうなった場合は、リアブレーキに切り替えトップチューブを両膝で挟むなどして対処します。

ある程度のスピードで下れるライダーにおススメ!「クランクをやや水平にして、カカトを下げて後方荷重に」

▲カカトを下げるだけで身体全体の荷重バランスが変化する。

後方荷重のポイントは「カカトを下げる」こと。サドルに座った状態でクランクを水平にしても、大きな荷重のかかる接点はサドルに残ったままです。

ところがカカトをクイッと下げることで、クランクを水平にしたままでも、両足に荷重を感じることができるようになります。クランクは自転車の接点の中でもっとも地面に近い部分。

自転車は低重心なほど安定するので、ペダルに荷重できると安定感が高くなるのをすぐに体感できるでしょう。よく「下りは腰を引いて」と言われますが、意識して腰を引かなくても、カカトを下げると、腰が自然に引けるようになります。

とりあえず今回はここまで。今回紹介したものは、週末のライドですぐに試して実感できるものだと思います。下りが苦手な人はもちろんですが、得意としている人も基本的なことなので、今一度試してみてもいいかもしれませんね。

 

講師・管洋介さん

1980年生 A型 日本スポーツ協会公認コーチ
競技歴22年のベテラン。国内外で50ステージレース以上経験し、スペインで5シーズン BRICO IBERIA 、VIVEROS [現 CONTROL PACK]と契約、国内ではアクアタマを設立、インタープロ、マトリックス、群馬グリフィンを経て、国内の有望な若手選手とファーストエイドなど安全啓蒙を指南できるメンバーを集めたAVENTURA CYCLINGを2017年に設立、走りながら監督を務める。プロカメラマンでもあり、自転車雑誌の製作に長く関わっている。現在はプロライディングアドバイザーとして初心者向けのライディングレッスンなどを多く手がける。

AVENTURA CYCLING

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WRITTEN BY管洋介

1980年生 A型 日本スポーツ協会公認コーチ 競技歴22年のベテラン。国内外で50ステージレース以上経験し、スペインで5シーズン BRICO IBERIA 、VIVEROS [現 CONTROL PACK]と契約、国内ではアクアタマを設立、インタープロ、マトリックス、群馬グリフィンを経て、国内の有望な若手選手とファーストエイドなど安全啓蒙を指南できるメンバーを集めたAVENTURA CYCLINGを2017年に設立、走りながら監督を務める。プロカメラマンでもあり、自転車雑誌の製作に長く関わっている。現在はプロライディングアドバイザーとして初心者向けのライディングレッスンなどを多く手がける。

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