世の中には2種類の坂がある──常識的な坂と非常識な坂だ。
坂の傾斜を示す、斜度。5%でも結構きついですし、10%が続くようならもはや地獄。常識的と言えるのはここまでです。斜度15%ともなれば魔境で、上っている最中はただただつらいだけ。景色を見る余裕なんてまるでありません。
しかし、「その上」が存在しています。そう、斜度20%オーバーの世界です。関東では子の権現(飯能)が有名で、その最大斜度は実に28%。垂直な壁を無理やり上っているかのような錯覚をする超激坂ですが、そんな坂でもあると知れば上りたくなってしまうのが自転車乗りの性。
とはいえ、いきなり有名どころに挑むのは怖いもの。おすすめもしにくいです。そこで今回は、超激坂に興味があるけど上ったことはないという人におすすめな坂として「百草園(もぐさえん)」を紹介します。
「あと一息」まではまだ常識的
百草園は、東京都日野市にある植物園です。自転車乗りの間では、そこに至るまでの坂道の通称になっています。最寄駅は京王線百草園駅。
入り口はこちら。最初はごくふつうの住宅街ですが、進むにつれて、5%、6%、7%…と少しずつ斜度が上がっていきます。
じきに斜度10%弱のストレートが始まります。負荷が上がり始めてちょっと萎えるかもしれません。何気にこのストレートに入る直前のカーブは斜度20%ありますし…。
このストレートの終わりにはこんな看板が。あと一息ですって! まぁ、訓練されたサイクリストなら逆に警戒すべきところですが。
ラスト130mで異世界に突入
先ほどの看板から少し進むと「あと130m」と書かれた看板が。問題なのは、ここまで「非常識」というほどではなかったということです。つまりあるのです、この先に。超激坂が。
曲がり始めるまで見えませんが、この看板を曲がったところで急激に斜度アップします。ギアは事前にインナーローに落としておきましょう。この先はインナーローでもきついのですから。
Stravaのデータだと、この斜度アップ部分が最大斜度の模様。実に24%に達していました。訪れた際にも自転車で上っている人がいましたが、当然ダンシングです。
最大斜度を超えたあとは斜度15~17%が続く鬼畜なストレート。ペダルが重くて回らないのに道が続いている…という絶望感をまず味わうはず。
可能ならシッティングに戻して心拍を整えるといいでしょう。後半にまた少し斜度アップするので、そこまでに息を整える感じです。もちろん、心肺がもつならダンシングで最後まで行ってもOKです。
この区間は、非常に前輪が浮きやすいです。もし浮いてしまったら、前輪への荷重が不足しています。ハンドルに体重を少し預けるとフォローできるでしょう。
また逆に後輪が滑ってしまうパターンもあります。この場合はリアへの荷重が不足です。上体を起こしたり、サドルに体重を乗せるなどして調整してみてください。
いずれにせよ、初見だと結構難しいかも…。危ないと思ったら、すぐに足をついてしまいましょう。百草園は全長約460m、短いですからリトライは容易です。
ちなみに、民家の垣がすごいことになっていました。気づいたのは帰るとき。このレベルの坂で、上っている最中によそ見してる余裕なんてあるわけもなく…。
このカーブミラーが見えたらラストですが、この手前は傾斜がきついうえに舗装が荒れています。非常に転倒しやすいです。特に路肩部分は苔むしていて、かつ未舗装でジャリジャリ、しかも斜度が20%近いと滑る要素満載なので極力内側を走りたいところです。
…が、写真からもわかるように住宅街の中であり、ふつうに車が通ります。しかも道は狭く、鉢合わせるとかなり危険。余裕が消し飛ぶほどの急斜面なので、ペダリング等に集中しがちですが、常に「車がくるかも」と思っておきましょう。未舗装部分を走らねばならない場合は、大人しく足をついてしまうのがいちばん安全です。
百草園までの長い130mが終わります。息が切れているはずなので、ひとまず息を整えましょう。
まとめ
百草園にトライするうえでの注意点をまとめておきます。怪我の危険があること、また地域への配慮をお忘れなく。
- 転倒の危険があります。ビンディングシューズ慣れしていない人には、外して上る、フラットペダルで上るなどすることを強く勧めます。
- 閑静な住宅街にあるため、大人数でワイワイ訪れるべきではありません。地域の方の迷惑にならないよう必ず配慮してください。
- 超激坂部分で車がくると非常に危険です。日中や夜間は避け、早朝に訪れるのがベストです。
- 超激坂区間を下るときは、下車推奨。斜度が非常に急なうえに歩行者も多いためです。
実際に上ってみると、超激坂の怖さがよくわかるのではないかと思います。バランスを崩しやすく、前輪が浮いたり、後輪が滑ったりします。何より恐ろしいのは車がくること。細い道でアンバランスな状態にある中で、車とすれ違うのはかなり難しいです。超激坂を上るうえでは、こうした点を強く意識する必要があるのです。
その一方で、激しい斜度のいなし方を習得できれば、自信をもって新しい坂にチャレンジできるようになるでしょう。いかにうまく自転車のバランスをとるかがクリアの鍵であり、そこはどんな激坂でも共通なのですから。 ちなみに、コツさえつかめば子の権現などの有名な超激坂をパスすることも十分可能です。
激坂が気になる人は安全に気をつけつつ、挑んでみてください。