「自分の体重を利用すれば上りはグッと楽になる!」 ~教えて!ハシケン先生#01 ヒルクライムの基本フォーム~
「もっとラクに走れるようになりたい」、「もっと速く走れるようになりたい」。スポーツバイクを楽しんでいる多くのサイクリストは、そんな思いを持っていることでしょう。これは、サイクルスポーツジャーナリストで、さらに国内トップクラスの強豪ヒルクライマーでもある “ハシケン先生”が、自転車がさらに楽しくなるように、乗り方のテクニックを紹介する連載企画です。
坂道を自転車で上るヒルクライムは、平地を走るときには感じられない達成感や絶景に出会える魅力的な世界です。でも坂道に苦手意識を持っている人は本当に多いです。
私も今でこそ「坂が楽しい」なんて言えるようになりましたが、初めて本格的な坂道にチャレンジしたときは、あまりのキツさに途中で足をつきました。そして、初めてのヒルクライムレースは、スタート直後から足がパンパンになり、結果はブービー賞……。今考えてみれば、当時は坂道の走り方を知らなかったのです。
苦しいイメージがあるヒルクライムは、「頑張ればなんとかなる」という根性論が先行しやすいですけど、実はテクニックが重要なのです。
「上りの基本フォーム」「上りのペダリング」「上りのダンシング」など、ヒルクライムを楽しくするためのテーマはいくつかあります。とりあえず今回は、「上りの基本フォーム」のコツを紹介します。
「上りの基本フォーム」
上半身の体重をべダルに乗せるイメージで
ペダリングでは、脚の筋力だけでペダルを踏み込むのではなく、ペダルに上半身の体重を乗せながら足を落とすイメージが大切です。このことを意識するだけで、脚の筋肉だけでなく、お尻や上半身の筋肉まで活用しやすくなります。
▲サドル、ペダル、ハンドルの3点のうち、ペダルに体重が乗るイメージをもとう。
▲坂道で上体が後ろに下がって、サドルに座ってしまったフォーム。
ペダリングで推進力をもっとも得られるタイミングは、クランクが真上(上死点)を通過してから時計の3〜4時の位置までです。クランクがこの位置にあるとき、ペダルの真上に身体があると上半身の体重を利用したペダリングがしやすくなります。
たとえば、空き缶を踏みつけてつぶすことをイメージしてみてください。このとき、足の母指球で空き缶の中央を踏むようにします。身体をやや前傾させて、空き缶の真下にもってきた方が、身体が乗りやすいことを実感できるはずです。それと同じことをサドルの上で再現してみるのです。
▲真上から足を落とせれば、スムーズに空き缶の上に乗ることができる。
▲真上から足を落とさないと、空き缶のバランスが崩れてしまう。
▲ペダルの真上に身体の中心(重心)を持ってこれれば、力を垂直に加えられる。
▲後方に身体の中心(重心)が残っていると、かかとが落ちやすくパワーロスになる。
ブラケットのちょい掴み
さて、クランクの3時の位置で真上からペダルに力を加えるためには、サドルにどっしりと座っていてはいけません。上体をやや前傾させ、身体の中心をペダルの真上に移動する必要があります(空き缶つぶしをイメージしてみてください)。
ところが、ヒルクライムが苦手な人はハンドルにしがみ付くような状態で上っているのをよく見かけます。これは、前傾姿勢をキープするだけの体幹の筋力が不足しているからです。
▲ハンドルにしがみついた悪いフォーム。荷重がペダルから抜けてしまう。
ここでは、極端なハンドル荷重を解消し、普段乗りながら体幹を鍛えられる実践ドリルを紹介しましょう。
いつも無意識のうちに握りしめているハンドル(ブラケット)から手を離し、ブラケットの先端に手のひらを添えるようにしてバランスを取ってみましょう。腰やお腹まわりで支えようとする意識が働くはずです。ハンドル加重だった人は、これまでいかに腕で上体を支えていたのかが実感できるでしょう。
▲緩やかな勾配の坂道で取り組みたい。肘が伸びないように注意しよう。
同時に、サドルとハンドルへの荷重が減り、ペダルへの荷重が増えることを感じられるでしょう。そして、脚の筋力に頼らずペダルに体重が乗った感覚でペダルを踏めるはずです。
慣れてきたらいつも通りにブラケットを握ってみても、感覚が以前とは違っていると思います。
▲体幹でフォームを安定させ、ペダルに力がグイグイ乗る感覚を得られる。
このブラケットに手を添えるフォームは、あくまでヒルクライム時のフォームとペダリングの感覚を身につけるためのドリルです。交通状況や路面状況に気を配り、ハンドルから手が離れないように注意しましょう。屋外の実走感覚の中で行うことがベストですが、ローラー台をもっている人は室内で行ったほうが安全にできるかもしれないですね。
次回は……「坂道仕様にフォームを補正する」です。
坂道が苦手な人の多くが、上りのためのフォームへの切り替えができていません。バイクの上でのポジション調整や腕の使い方を工夫することで、坂道がラクに登れるようになります。