サガンの4連覇に黄色信号?!アラフィリップ、デュムラン、バルベルデの三つ巴の戦いになる|2018ロード世界選手権大予想
いよいよ9月30日にオーストリア・インスブルックで、ロード世界選手権・男子エリートロードレースが行われる。言うまでもなく、これは「世界チャンピオン」を決めるためのワンデーレース。世界選で優勝すると、1年間虹色のジャージ「アルカンシェル」を着る権利が得られる。ワンデーレーサーにとって、最高の栄誉となるジャージである。今年の世界選で、最も優勝に近い選手は誰なのか? 大胆に予想してみたいと思う。
サガンに厳しいコース
まず、誰もが優勝候補筆頭に挙げているのが、2015、2016、2017年と世界選3連覇中のペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)だ。最強のワンデーレーサーであることは誰もが認めるところだが、ステージレースでも安定した強さを発揮している。今年のツール・ド・フランスでも区間3勝し、マイヨヴェールを獲得する活躍を見せたのは記憶に新しいところ。
しかし、今年のサガンには黄色信号が点っていると言わざるを得ない。というのも、ザルツブルクのコースは、プロフィールマップを見てもわかるとおりアップダウンが厳しく、山岳スペシャリストやステージレーサー向けの設定となっているからだ。多少の登りなら難なくこなしてしまうサガンだが、これだけ登りが厳しいとクライマーやステージレーサーたちについていくのは厳しいのではないだろうか。
加えて、サガンはツール・ド・フランスの第17ステージの下りで落車して以来、なかなか本調子が取り戻せていない。ブエルタ・ア・エスパーニャでも、精彩を欠いた走りが続いていた。もちろん、その後もずっと調整を続けており、しっかりと調子を整えてはくるだろうが、今のところは明るい材料を見つけるのが難しい。
優勝候補最右翼はアラフィリップ
では、この厳しいインスブルックのコースで最も活躍しそうな選手は誰だろうか? まず思い浮かぶのは、ツールで山岳賞を獲得したジュリアン・アラフィリップ(フランス、クイックステップフロアーズ)だ。今年のフレーシュ・ワロンヌとクラシカ・サンセバスティアンを制したことからもわかる通り、この手の厳しいコースでは常に先頭付近に残り、最後は小集団のスプリントを制したり、逃げ切ってしまう脚も持っている。山を下ってゴールを迎えるというのも、下りのスペシャリストでもあるアラフィリップにとって極めて有利だ。国別対抗形式で行われる世界選だが、結束の強いクイックステップフロアーズの他国メンバーに助けられるということもあるかもしれない。この辺の複雑な人間関係を読み解くのも、世界選を見る楽しみである。
続いて挙げたいのがトム・デュムラン(オランダ、サンウェブ)である。昨年はジロ・デ・イタリアを制し、今年のツール・ド・フランス総合2位という実績からもわかるとおり、典型的なステージレーサーのデュムランだが、厳しい登りをものともしない彼にインスブルックのコースはとても向いている。独走に持ち込めたなら、タイムトライアルのスペシャリストでもあるデュムランの逃げ切りがちなんていうこともあるだろう。ステフェン・クライスヴァイク(オランダ、ロットNLユンボ)、バウケ・モレマ(オランダ、トレック・セガフレード)、ワウト・プールス(オランダ、チームスカイ)とアシスト陣も鉄壁だ。木曜日の個人タイムトライアルで、優勝したローハン・デニス(オーストラリア、BMCレーシング)に大差を付けられて2位というのも、デュムランの闘志に火を付けているのではないだろうか?
そして、登りの厳しいコースといって忘れてはならないのが、アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)である。フレーシュ・ワロンヌとリエージュ〜バストーニュ〜リエージュで残してきた輝かしい実績からもわかるとおり、こういったコースは得意中の得意。38歳になった今年も、ブエルタで最後まで総合上位に残っていた粘り強い走りは、まさに「俺はまだ衰えてなんかいない」というメッセージを体現していたように思う。これまで世界選では、2位が2回に3位が4回もあるバルベルデ。「今度こそアルカンシェルをつかみ取るぞ!」というモチベーションも人一倍強い。円熟の走りは、要注目だ!
イェーツ、ニバリ、ウラン…、強豪がズラリ
そのほかにも、優勝に手が届きそうな選手を挙げたら切りがないが、なかでもサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)は特筆に値する。ジロでの活躍し、ブエルタで総合優勝した典型的なステージレーサーのイェーツにとって、今年は世界選で勝てる数少ないチャンスかもしれない。かつての大英帝国の栄華を彷彿とさせるように、今年のグランツールをすべて制したイギリスにとって、世界選のタイトルをも手中に収め、今年のレースシーズンを締めくくりたいことだろう。
強豪国イタリアは、ヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、バーレーン・メリダ)をエースに立ててきた。しかし、ニバリはツール・ド・フランスでの落車以来、なかなか本調子に取り戻せていない。本人の口からも「エースは好調なジャンニ・モスコン(イタリア、チームスカイ)だ」といった発言が漏れてしまい、どうもメンタル的に今ひとつのようだ。ただし、これは世界選の前によくみられるブラフという可能性もある。蓋を開けてみたら、ニバリは絶好調なんていうことも…。
強豪国といえば、忘れてならないのがベルギーだ。エースはフレッフ・ファンアーヴェルマート(ベルギー、BMCレーシング)。リオ五輪金メダルのアーヴェルマートだが、インスブルックのコースはやや不向きか?
不気味なのは、コロンビア勢だ。ナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター)を筆頭に、セルジオ・エナオ(コロンビア、チームスカイ)、ミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、アスタナ)と登りの強豪がひしめく。なかでもリゴベルト・ウラン(コロンビア、EFエデュケーションファースト・ドラパック)は、ワンデーレースでも実績を残しており、登りだけでなく逃げも強い。もしかしたら、ということもおおいにあり得るだろう。
そのほか、ミハウ・クヒャトコフスキー(ポーランド、チームスカイ)、プリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ロットNLユンボ)、エドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー、ディメンションデータ)など、アシストに頼らなくても単独で勝てる選手が数多くいる。日本からは、中根英登(日本、NIPPOヴィーニファンティーニ・エウロパオヴィーニ)が唯一出場。世界の強豪を相手にどこまで戦えるのか、ぜひ熱い声援を遠くオーストリアの空の下へ送ろう!