2人で自転車1台。変則的なスタイルでやって来たぽっちゃり夫婦のツールドフランス追っかけ旅行記。前回は休息日のアヌシーでサイクリングを楽しんだ私たちを紹介しました。 今回はキャンプをしながら観戦した、絶景の山岳ステージ「ロム峠」での様子をリポートします!
キャンプで山岳レース観戦
アヌシー駅で“師匠(前回を参照)”に拾ってもらった私たち夫婦は、クルマで「ロム峠」に近いキャンプ場にやって来ました。ほとんどホテルには泊まらず、自転車の輪行バッグに詰め込んだテントでキャンプ場に寝泊まりするのが、長年培った旦那さんのツール追っかけスタイルです。
さて、ロム峠に近いクリューズのキャンプ場についたのは夜の7時ごろ。
日本ではもう日が暮れている時間ですが、夏のフランスでは夜10時ごろまで日が沈みません。まだまだ明るいので、この時間からでも照明器具いらず。テントを組んだり自炊や食事をすることができるのです。
旅慣れた師匠と旦那さんはテキパキとテントを組み立て始めます。役立たずの私は「先にお風呂入って来ちゃってー」の言葉に甘えシャワーに行かせてもらいました。シャワー室とトイレはとてもきれいでした。ただ、トイレのドアを開けてびっくり!
便器の上にあるはずの便座がないのです!!
トイレットペーパーを大量に敷くか、空気椅子状態の中腰でしのぐしかありません。不便なトイレではありましたが、キャンプ場でこれだけきれいなら充分です。シャワーは頭の上に固定されていて手で持つことはできませんが、水圧は弱すぎずとても快適でした。
私が戻るとテントができていて、既にシャワーから上がった師匠が夕飯の支度をしてくれています。今夜のメニューは師匠お手製のトマト鍋。冷蔵庫がなくても保存の効くソーシーソ( サラミ) を入れた野菜たっぷりのお鍋です。
師匠は、日本ではなかなか手に入らないような珍しくてかつ美味しいワインやオイル、野菜を選ぶのが上手く、その材料を使った美味しいキャンプ料理を教えてくれる先生なのです。
まだ空は明るいですが、空気が少しひんやりとしてきました。山を眺めながら自然の中でいただくワインとト マト鍋は最高です。明日の山岳レース観戦に備えて、食事を終えた後は早々にテントで眠りました。
フランス人の優しさに感動
翌朝、早起きした私たちは、本日の観戦ポイント「ロム峠」へ向かいます。ロムは標高 1297m、美しい山岳の景色が広がるアラヴィの北の端にある小さな村。昼前にはレースコースは通行止めとなり、クルマが入れなくなってしまうため朝早く出発しました。
観戦ポイントからほど近い山道に到着すると、既に大きなキャンピングカーがたくさん停まっていました。2台のキャンピングカーの間にどうにか駐車できそうなスペースを見つけ、そこに駐車しようとしたその時です。縦列駐車に苦戦していると、キャンピングカーから恰幅の良いおじさんが一人降りてきました。フランス語で何か大声で言っています。
強い口調だったので、ここに停めるなと言っているように聞こえました。
しかしそうではなく、どうやらクルマから降りろと言っている様子。さらに、どこからともなく別のおじさんもやって来ました。
「え、なになに?」ちょっと怯えながらクルマから降りると、おじさんはさっと運転席に乗り込み、クルマをバックし始めました。もう1人のおじさんは「オーライ!オーライ!」的なことを言ってクルマを誘導しています。
まさか停めてくれるの!?
おじさんのハンドル捌きに見とれたのも束の間。いとも簡単に縦列駐車を終えたおじさんはクルマから降りると、ニカっと満面の笑顔!もう1人のおじさんもやりきった清々しい表情でニコニコしています。
私だったら、日本で困っている外国人旅行者を見かけてもこんなにすぐ行動を起こせません。遠くからぐずぐずと動向を見守るだけだと思います。何の躊躇もせずに素早く声をかけて助けてくれたおじさんたちの優しさと、恥ずかしがらずに瞬時に行動を起こせるかっこよさにとても感激しました。
2 年後にはオリンピックで多くの外国人観光客が日本にやって来ます。 困っている旅行者がいたら、私も声を掛けるように頑張ろう!とこの時強く思いました。その気持ちを存分にこめて、熱いメルシーを言いました。
夢にまで見た山岳レース会場に到着
おじさんたちにお礼を言って別れた後、私たちは 1 台の自転車を引きながら歩いてロムの村にやって来ました! 村はお祭りムード一色に染まっており、あちらこちらにカラフルでかわいい飾り付けがされています。レースコースの背後にはアルプスの山々が広がっており、とても雄大な景色です。もうすぐここに、カラフルな ユニフォームを着た選手たちが上ってきます!
実は私、昨年ツールの追っかけデビューを果たしたのですが、その時は日程の都合で山岳レースを観ることができなかったのです。夢にまで見た初めての山岳レース会場についにやって来ることができました!
“選手を待つ時間”も楽しい!
さて、観戦ポイントまでやって来た私たちですが、時刻はまだ午前 10 時前。選手たちがこの地点に到達するのは午後4 時半ころなので、それまでたっぷり6 時間以上はあります。ツールを見に行くと言うと、多くの人から「選手を見ることができるのはほんの一瞬じゃないの? 」と聞かれます。確かに、選手が目の前を過ぎる時間は数分、長くても 20分~30分程でしょうか。
でも、ツール・ド・フランス観戦の楽しさは選手を応援する時だけではないのです! 選手の到着を待つ時間がとても楽しく、それもツールの大きな魅力だと思います。
魅力の一つ目は、さまざまな国の人たちと出会えることです。
会場には世界各国のさまざまな人が来ています。 ふくよかでかわいいご夫婦や、モデルのように美しい女性にイケメン警察官、天使のようにかわいい子供、チャ ーミングなおじいちゃんおばあちゃん。そんな人々を見ているとまったく退屈しませんし、また日本では考えられない人々の行動にたびたび驚かされます。
男女2人の警備員さんがいたのですが、腕をからめて微笑みあい終始ラブラブな様子。日本ではそんな警備員さん絶対いませんよね。日本で常識だと思っていることが、軽くぶち壊される感覚を体感することが何度もあり、それがとても面白かったです。また、観客は気さくな方が多く、たくさんの人から話しかけられます。 道路の向かい側にいたルクセンブルク人のおじさんは、私たちを見つけるとこちらにやって来て大きな声で陽気に語りかけてきました。
「きみたち日本人か?!この前のベルギー対日本の試合!ありゃ本当にすごかったよ!日本ブラボー!!」
この時、2日前にワールドカップサッカーでフランスが優勝したばかりだったので、まだ興奮冷めやらないといった感じです。いくつかの単語しか分かりませんでしたが、おじさんの情熱で不思議と伝わってきます。私たちも片言のフランス語と英語、そしてたくさんのボディーランゲージで会話しようと試みます。
その後も、他の観客がすれ違いざまに私たちに話しかけたりすると、ルクセンブルクのおじさんがコースの向かい側から大きな声を出します。「そいつらは、あのベルギーと素晴らしい試合をした日本人さ!」と、おそらくこんな内容です。
こうして世界各国の人と触れ合いながらレースを待つのはとても楽しいです。
2つ目の楽しみは、のんびりピクニックをすることです。 お昼になると、芝生の上にシートを広げてピクニックをします。旦那さんのツールおっかけ旅行では、ランチはその場でパンを切り、ハム・チーズ・魚介のマリネ等その日の気分で買ってきたものを挟んで食べるのが定番です。外で作って食べるごはんはどうしてこんなに美味しいんでしょうか。 おなかがいっぱいになった後は、芝生の上に寝転んでのお昼寝タイム。至福の時間です。
お昼寝の後はカメラを持って散歩に行きます。ツール・ド・フランス用の手作りの装飾がされた家を眺めたり、 ソーセージ・チーズ・お土産等の屋台を見て歩きます。ここではアルプスホルンの演奏を聴くことができました。
3つめはキャラバン隊からキャラバングッズをもらうことです。 選手たちの到着時間が近づいてくると、コースにキャラバン隊がやってきます。キャラバン隊とはツールのスポンサーが派手なクルマでパレードをする一団のことです。キャラバン隊はお水やキーホルダー、Tシャツ、帽子などさまざまなグッズをクルマから投げたり、配ってくれます。
ついに選手たちが到着!
キャラバン隊が過ぎると、バイク・TV 撮影のヘリコプターがやって来ます。こうなってくるといよいよ選手たちの到着まで間もなくです。会場がざわつき始めています。
多くの観客が見守る中、ついに先頭の選手がやって来ました! 体を大きく左右に揺らして必死で上がって来ます。「 アレ!アレー!」と観客たちが選手を応援します。フランス語で「行け!行け!」という意味。
青い空が広がる景色の中、カラフルなユニフォームを着た選手たちが、観客の激しい声援に背中を押されて荒々しく坂道を上っていきます。その光景はとても美しく、興奮と楽しさでいっぱいの時間でした。山岳レースは最高です!
グランドン峠の中腹でキャンプ
ロム峠での観戦を終えた翌日、この日はレース観戦はせずに、明日のレース会場の近くまでクルマで移動することにしました。というのも明日はいよいよ山岳レースの最難関「ラルプデュエズ」での観戦日!
ラルプデュエズでやりたいことがたくさんある私たちは、早朝から動けるように、今日のうちにラルプデュエズの 近くまで移動しておくことにしたのです。6 時間ほどクルマを走らせ、ラルプデュエズに近いキャンプ場に到着したのは午後 3 時ごろ。この日は近くの村を散歩してのんびり過ごし、早めにテントで就寝しました。
明日、ラルプデュエズで私たち夫婦がやりたいことは3つ。
アルプス山脈の絶景ポイント、グランドン峠の山頂に立ち寄ること。それからブールドアザンの街でe-bikeを借りてラルプデュエズの山を自転車で上ること。そして最後はもちろんラルプデュエズのレースを観戦することです。
さて、全部できるといいのですが・・・。次回に続きます。