栗村修さん、「JBCFの自転車新リーグ」って私たちにも関係ありますか?

2019年3月2日、日本の自転車ロードレースシリーズ「Jプロツアー」を統括する団体「JBCF(全日本実業団自転車競技連盟)」は、2021年に新しい自転車リーグを開幕すると発表しました。まだ計画中の段階の部分が多々あるようですが、自転車プロチームから一般サイクリストまでが参加できる統一的な仕組みを持たせるつもりとのこと。
ぱっとそう言われても、ロードレースにあまり関心がなかったら、どんな意味があるのかすぐにはわからないと思います。でも、JBCFがこの取り組みの先に何を思い描いているのかがわかれば、きっと応援したくなるはずです。

どうして新しい自転車リーグを作るのか?

△JBCFの資料より。 Photo: やざわすみひこ

その直接的な目的は世界と戦えるロードレース選手が生まれる環境作りです。

△JBCFの資料より。 Photo: やざわすみひこ

同じ自転車を使った競技であるトラック競技と比べて、世界的なロードレースで日本はあまり実績を残せていません。ロードレースの頂点「ツール・ド・フランス」に出場できた選手も新城幸也選手や別府史行選手など、数えるほどです。日本のロードレースにはスター選手が不在と言えますが、実力と魅力を備えた選手は競技の盛り上がりには不可欠でしょう。大谷翔平選手がメジャーリーグに挑戦した野球、多くの記録を残した羽生結弦選手がいるフィギュアスケートなどは、外から見ても盛り上がっているのがわかりますよね。

△JBCFの資料より。プロフェッショナルとエリートはプロと競技志向のサイクリスト向けのカテゴリー。オープンは「エンジョイサイクリストが参加するカテゴリー」とのこと。 Photo: やざわすみひこ

そこでJBCFは今統括している「Jプロツアー」「Jエリートツアー」などの自転車リーグを2020年で終了。それらを統合・発展させ新しい自転車リーグを作ることに。競技ピラミッドが大きくなればなるほど競争は激化し、強い選手が生まれやすくなりますよね。

△JBCFの資料より。 Photo: やざわすみひこ

国内リーグを強化することで世界と戦える選手を出し、ロードレースという競技を楽しくしたい、価値あるものにしたい、もっとみんなに観てほしい、というのがJBCFの考えていることです。ここまでだとロードレースに興味がない人には関係ないことのように思えますが…。

栗村修さんが目指す「フランスの景色」

そこで、JBCF理事/連盟戦略室長である栗村修さんに「新自転車リーグの先に何を思い描いているのか」をうかがってみました。お話を聞いていると、うまく行けば一般のサイクリストにも影響がありそうだなと感じました。

△栗村修(くりむら・おさむ):JBCF理事/連盟戦略室長、元プロロードレーサー。ツール・ド・フランスなどの実況解説でお馴染み。 Photo: やざわすみひこ

栗村さん:ぼくは高校2年で中退して選手になるためにフランス(ロードレースの本場)に渡ったのですが、それまでは自分の存在を否定される少年時代を送っていたんです。ロードバイクで走っていると車にクラクションを鳴らされ、「ツール・ド・フランスに出たいんですよ」と言えば「競輪選手になりたいの?」「トライアスロンの選手になりたいの?」と返されたりしました。

でも、フランスに行ったらロードレースをやっているんだってわかってくれる人がたくさんいましたし、ロードレースの練習をしている人もたくさんいました。毎週水曜日にはクラブで練習があって、自転車を楽しんでいました。車も自転車が走っていると待ってくれたりするんです。フランスでは自転車という文化がロードレースのおかげでとても高い地位にあります。ぼくはいろいろな活動を活動してきましたが、こうした経験が基本としてあります。

スポーツでは競技があって文化ができています。最終的に思い描いているのは競技によって文化を作っていくような取り組みです。たとえば、ロードレースに出たことがなくても自転車というレクリエーションを通して成人病が緩和されて…とか、イギリスなどで自転車を使った国づくり・地域づくりが進められていますが、(日本でも)そういったことが最終的にできていくとか、そうしたことに(新自転車リーグが)競技という部分からアプローチできるコンテンツになればなと。

新自転車ロードレースリーグが理想的に進んだ先にあるのは、ぼくが高校を辞めてフランスに行ったときに見たあの景色です。もちろん、フランスにも無理解な人はいっぱいいるのですが、やっぱり原点はそこですね。

「ロードレースという競技を通じてスポーツサイクルの価値が広まり、結果としてスポーツサイクルに乗る人が社会に受け入れられる」。少なくとも栗村さんは究極的にはそうしたことを狙っているようです。

スポーツサイクルが日本の社会に受け入れられているかというと、残念ながらまだそうとは言えない気がします。自転車レーンが設置されるなどして以前に比べればスポーツサイクルで街中を走るのは楽にはなっていますが、快適とは言えないと感じます。今でもクラクションを鳴らされ、幅寄せされることもあります。先日は自動車に追突されてブルベ中のサイクリストが亡くなるという事故もありました。自動車や歩行者から見て高速で走行する自転車が危ない、邪魔という感覚はもちろんわかりますが、どうしてそうする人がいるのか、実際いたときにどう向き合うべきなのかはあまり考えられていない──日本社会の中で、スポーツサイクルが尊重されているとは到底言えないと思うのです。

そういった現状を変えうるのは、ひとりのスターではないでしょうか。JBCFの直接的な狙いはあくまで競技力の向上です。しかし、実際に世界と戦える強い選手が生まれれば、もしそれがツール・ド・フランスでマイヨジョーヌを着用できるほどの選手ともなれば、野球やサッカー、フィギュアスケートなどのようにロードレースが日常的な話題になることもありうるのではないでしょうか。スポーツサイクルを知る人も増えるかもしれません。翻っては、一般サイクリストが公道の住人として広く認知され、今よりも走りやすくなる。私はそうした可能性があるという点で、この新自転車リーグに期待したいと思います。

もちろん、日本人がツールで活躍したり、国内レースが今よりさらに楽しくなってくれたら最高だなってのもありますよ!
(やざわすみひこ)

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WRITTEN BYやざわ すみひこ

都内近郊の峠に週末繰り出すヒルクライム・ロングライド好き。長期休暇で自転車旅に出て日本国内を走りまわる。

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