スポーツの問題点は素因数分解で解決できる!-TIスイム代表の竹内さんにお話を聞いてきた
トータル・イマージョン・スイム(以下TIスイム)のジャパン代表である竹内慎司さん。前編では竹内さんがTIスイムに魅了され、コーチとしてTIスイムを日本へ輸入した背景をお聞きしました。後編では、竹内さんが改良した美しい泳ぎ方「慎司スタイル」の秘密や、泳ぎを教える際のコーチ側の課題、そして事象を細かく分解する素因数分解でスポーツのさまざまな問題を解決できること、などについて語っていただきます。
※前編はこちら
たった4回の指導で1,500m泳げるようになる?!-TIスイムの秘密を代表竹内さんに聞いてきた
本家TIスイムと僕の泳ぎは別物
-世界を飛び回られている竹内さんですが、各国での泳ぎに対する違いなどは感じることがありましたか
アジアの中で徹底的に泳ぎを分析する意欲がある国は、韓国や香港を含む中国ですね。民族性なんでしょうね。私の泳ぎとの類似性を比べると、断トツで韓国。韓国のコーチは日本よりもレベルが高いです。
シンガポールはそこまでじゃない。シンガポールのTIスイムは日本よりも早く始まっているので、慎司スタイルではないんです。慎司スタイルは、TIスイムを日本で受けるように解析をして指導できる内容に改良した結果です。韓国のTIスイムは日本と同様のカリキュラムなので、慎司スタイルをベースにしています。
-本家のTIスイムよりも影響力はあるように感じます
TIスイムを始めるきっかけになったのは「YouTubeの私のビデオを見たから」というケースが世界中で多いようです。ビデオの中の私のように泳ぎたいから、現地のTIスイムコーチを探してきて学んでいるんです。
水に入らずに水泳を教える
-今後はどのような指導を展開していくのでしょうか
水に入らず、オンラインで水泳を教えることです。文字のやりとりだけで完結できる状態を目指しています。驚かれるかもしれませんが、現段階でも私からいくつかの質問をすればその人の泳ぎはイメージできます。オンラインの大きなメリットとしては教える側教わる側どちらも場所や身体の状態に左右されないということが挙げられますね。
-質問のフレームワークがあるのですか
はい、泳ぎを解析して質問の形を作り上げるまでに10年かかっています。陸上で水泳の動作をしてもらえば、泳いで発生する問題のうち8割は分かります。つまりほとんど問題は、問題点さえ意識してもらえれば水に入らなくても陸上で修正できるんですよ。
(FRAME編集長が実際にレクチャーを受ける)
-なぜ陸上でも修正が可能なのでしょうか
3,000人の泳ぎを見てますからね。私たちは1回目のワークショップから全てのお客様の泳ぎを撮影し、そのビデオを研究用に保管しています。また東京の船堀のスイムサロンでは四つのアングルでビデオを撮影して分析しています。さらに私はいろんな国の人たちの泳ぎを見てきているわけですよ。だからパターン化できる。このために私は物理学や流体力学、人間工学を勉強しなおしました。
素因数分解で考える
-泳ぎにおけるどんな問題でも解決できると
例えば息継ぎという一連の動作を、個々の姿勢や動作に素因数分解して、OKかどうか確認すれば問題点が見えてくるんです。水泳における問題の多くは、「問題がわからないこと」が問題なんです。ただ単に疲れるとか苦しいとか、おおまかな感覚でしか評価できない。原因を究明するために素因数分解しないとなにも解決できない。だからこの10年間素因数分解することに神経を注ぎました。
-素因数分解することによって教える側も学ぶ側もわかりやすく、ということでしょうか
そうですね。つまり相手にわかりやすく伝える上で大切なのは、詳細に言語化するということなんですよ。その一つのアプローチが、細かく区分けされているTIスイムのドリルです。あと、コーチ研修では擬態語を使わないように指導しています。例えば「スーッと」とか「シュンッ」とかってね。なぜかっていうと、人それぞれ捉え方が異なり、明確でないから。「もう少し」とか、「ちょっと」とかって「それってどれくらいだ!」ってね。「もう少し」と言う時は「あと2cm」と言いなさいと指導します。
あとは感覚を言語化することも必要ですね。そのままだと曖昧な表現になってしまうから。だから私はいくつかの感覚を新しく基準として作りました。立った状態から前に倒れこんだ時の感覚が「前のめり感」だと定義付けしてあげると、前のめり感を30%上げましょうねって言ったときに通じるんですよ。いろいろな感覚がありますけどそれを決めてしまえばいいんです。それが基準になるわけだから、お互いに理解できる。定量化することが重要なんですね。
相手が誤解しないための言葉を作ってあげなきゃいけない。あとはその言葉を文字にする。これまでのスイムスクールにおいては、コーチが話していることをみんなウンウンうなずいて終わっていませんでしたか?そして終わって帰った瞬間にみんな忘れている。
だからワークショップでコーチが話した内容を、文字として覚えてもらうための仕組みを作らなければいけなかったわけですね。ワークショップでは、泳ぐ姿を撮影してビデオ分析しますが、ビデオ分析シートを導入しました。コーチの説明を聞きながら、このシートにチェック形式で記入してもらいます。このシートにより、望ましい状態はこれで、あなたは今こうなっていますとわかるわけです。さらに私のワークショップでは、シートを書き終わったら、別のコーチに対して自分の言葉でビデオ分析結果を説明してもらいます。そこで初めて、ビデオ分析で得られた内容が理解できるわけですね。
それと、大人が水泳を上達するためには、知識が大切だと言っています。知識がないからうまくない。それも知識をただ頭の中に入れるんじゃなくて、手足が動けるように脳が翻訳しなければいけない。このようなやり方で学ぶ仕組みを作りました。
(編集長へ向かって)今手をかいたとき、脳が手に対して具体的に何をするか命令してないでしょ?かくために取りあえず手を前に運ぶ程度ですよね。それはダメな中間管理職と同じなのね。例えば部下から「すいません、これどうやってやるんですか」って聞かれても「お前ならできるよ。頑張って。」とかね。そういう答えを期待してるんじゃないよってこと。「じゃあ◯ページから◯ページまでは何時までに仕上げていこうよ」とか言えば「わかりました!」って頑張れるわけでしょ。
手に対して「中指を意識して進行方向と平行に動かすために肩と肘を使おう」って命令すれば「わかりました!」ってちゃんと手は動いてくれるんですよ。要するに、コンピューターのプログラムでいうバグを排除していくんですね。
-例えば手をかく動作はなんと言語化するのですか
「手のひらに水を当てる」ということですね。そして「手で水を押す」。脚も「蹴る」じゃなくて、「足の甲で水を下に押す」。そう聞いた瞬間に、別の動作は出てこないですよね。
「息継ぎが苦手なんです」って人がいれば「息継ぎってなんですか」ってまず聞く。「息を吸うことです」って答えたら、「いえ、息継ぎはまず息を吐くことです」といって改善させる。その人が持っている言葉に対する間違った認識を修正すれば、問題は解決するということです。