「命が危険にさらされる」「 そっちこそルールを守れ」溝が深まる自転車とバス、どうすればいい?
目次
今週はいつもと逆パターンです
FRAMEでは毎週金曜日に、”日本一自転車乗りの権利を考える男”こと、自転車活用推進研究会事務局長の内海潤さんとともに、自転車乗りの権利と義務を考える連載を行っています。いつもはお題をSNSに投げて、皆さんからいただいたご意見を掲載しているのですが、今回は先に内海さんのエッセイをご紹介します。このエッセイを読んで考えたこと、感じたことを、FRAMEのFacebook/Twitterに投げていただければと思います。
では内海さんのエッセイ、どうぞ。
バスと自転車の遠くて近い関係について
バスと自転車は同じ速度域
バスと自転車は平均時速が近いことから、同じ車線で共存できる。バスは、例えるなら道路を走る象のような存在。怒ると怖い動物だが、普段は家族思いで巨体をゆっくり動かして歩く印象だ。一方の自転車を動物に例えると小回りが効いて縦横無尽に走り回る犬だろうか。さしずめ細いボディはイタリアン・グレイハウンドといったところか。この両者がネット上で、犬猿の仲ならぬ犬象の仲のようにバス対自転車の論争が起きている。筆者の友人で現役路線バスドライバーもルール無視の自転車に対して再三苦言を呈しているが、彼は自転車をこよなく愛する人で自転車の社会的地位を上げたいと願っているひとりだ。決して憎くて言っているのではない。同僚のバスドライバーや自転車仲間と会話する中で問題を両面から見て、どちらの肩を持つこともなく事実を伝えているのだが、残念ながら単なる自転車嫌いの他のプロドライバー同様に見られてしまうのが悲しい現実だ。
プロドライバーの多くは自転車が嫌い
バスにせよタクシーにせよ、仕事で運転している方々にしてみれば、従来は歩道通行メインだった自転車が、どんどん車道に出てきて迷惑で仕方がない。先述のバスドライバーは同僚たちに自転車の楽しさを説いて回ってくれているらしいが、日々目の前で繰り返される自転車の急な方向転換と、それに追突しないよう急ブレーキを踏まされている彼らにしてみれば、自転車を快く思っていない人が大半だと聞く。同僚からの風当たりも厳しくなる一方で気の毒だ。
数年前、自転車にナンバープレートを装着させようという動きが一時あったが、運動の発端はバス協会だった。バスの車内で人身事故があった場合に責任を追及されるのはバス会社であり、原因を作った自転車を特定することが困難なことから、ドライブレコーダーにナンバーが写っていれば本人特定できて追訴できるからという理由だった。ただ自転車には車検制度がなく販売台数も極めて多いことから、現実的でないと分かって運動は立ち消えになったものの、くすぶる思いが消えた訳ではない。割を食う方としては、たまったものではないというのが本音だろう。
最近はタクシードライバーが自転車と接触事故を起こした際に指令センターから「引っ掛けた自転車にカゴが付いているか」と訊かれるそうだ。
カゴ付きだとママチャリの類だから安いが、カゴなしだとクロスバイクかロードバイクで高いから補償が大変ということらしい。いずれにしても、彼らにしてみれば「こちとら仕事で乗ってるんでい。遊びでフラフラ車道に出て来るんじゃねえ」と言いたいはずだ。当然ながら自転車側にも言い分がある。客と見れば強引に車線変更・急停止するタクシーに追突しそうになるヒヤリ・ハットは車道を走っていれば大多数が経験する。
互いの溝を埋めるには
プロドライバーたちが自転車に対し口を揃えて言うのが、コミュニケーション不足による急な方向転換やルール無視の身勝手な運転をやめてほしいということ。自転車も免許制にすべきだという声が時々上がるのは同じ文脈だ。
他の交通参加者同様に自分中心ご都合主義でなく、周囲を確認しながら走ることや標識・標示に従い信号も守るといった基本的なルールを遵守することができて初めて仲間に入れてもらえると認識しなければならない。例えば今まで車道を走っていたのに正面の信号機が赤だと歩道に上がって、信号機をやり過ごすと後方の確認すらせずに車道へ飛び出すといった行為も慎みたい。
とりわけ最近では渋滞している車列を反対車線にはみ出して追い抜き、交差点の手前で強引に右から割り込むスポーツバイクが増えたそうだ。バスの急ブレーキも以前は2〜3日に1回だったのが最近は毎日になっていると聞く。これでは自転車を好きになってと頼んでも土台無理な話だ。自転車側が思っているほどドライバーからは姿が見えていないし、クルマは急に止まれない。事故に遭って怪我をするのは生身の自転車側なので、痛い思いをしないで済むよう周囲をよく見て走りたい。
先述のバスドライバーが強調しているのが教育の重要性だ。自転車は免許証も不要で従来は教育する機会が少なかったため、自分勝手な自転車乗りを増殖させてしまった。もとより、難しい法律を難しく伝えたところで意味がない。小さな子どもにでも分かるように伝えることが肝心だ。
ただ、これは世界共通の悩みでもあるが自転車の活用を推進して行くと自転車乗りの勘違いも増長させる危険性を孕む。自転車は歓迎されているからとやりたい放題に無謀運転をして、それを注意すると逆ギレする輩も増えるのだ。取締りが緩いことをいいことにルール無視を続けることや他の交通参加者に対して傲慢な態度で接することが結果的に自分たちの首を自ら締めることに気付く必要がある。
近い将来、反感でローディーのメッカであるヤビツ峠から自転車が締め出されるかもしれない。決して大げさな話ではなく、気になる動きが既にある。また車道を走ることに反感を持っているドライバーたちにも徐々に受容してもらう必要がある。有り体に言えば調子に乗りすぎないことだ。
一方でドライバーへの教育も強化する必要がある。いまだに自転車で車道を走っているとクラクションを鳴らす輩にも閉口する。邪魔だと思う気持ちは分かるが、道交法通りに走っていて鳴らされるのでは困る。事故を起こせば会社にも損害を与えてしまうので、とりわけプロドライバーは弱者保護を意識してもらいたい。ただし自分勝手なルール無視の自転車乗りは弱者とは呼べない。確かに自転車は車道では弱者かもしれないが、真の交通弱者ではないのだ。
もっと互いを知る努力をしよう
ご存知の通り、バスやトラックなど大型車には死角が多い。基本的には前を向いて運転しながら必要に応じて複数あるミラーを確認しながら走っている。先述のバスドライバーから以前、自転車のライトについてこんな話を聞いた。自転車は主に左のサイドミラーで確認するのだが、夜間に点滅モードで走っている場合、サイドミラーを確認した瞬間にライトが消えている「滅」状態だと見落とす危険性があるので、ライトが1つしか付いていない場合は必ず常時点灯モードで走ってほしいとのこと。2つ装着してある場合は1つを点滅モードにしても構わない。なるほど!である。
彼らは自らの体験を基に地域のバス会社に協力してもらって各地でバスの死角体験イベントを開催している。次回は6月3日(土)の横浜開港祭で行うそうだ。子どもは免許証を持っていないので、バスやトラックから自分たちがどう見えているのか知る由もない。実際に運転席に座ると子どもたちは最初興奮するが、やがて見えない部分が多いことに気付く。悪意がなくても巻き込まれてしまう危険性を知り、自らの頭で考えて行動を変える。これこそ今後の交通教育で必要な観点だ。
ヨーロッパでは考えさせる教育が定着しているが、どこかの国のようにスタントマンによる事故の再現デモを子どもたちに見せて怖がらせる教育を続けても余り意味がない。私は、あんなことをしないから大丈夫と思わせてしまう。
普段、自転車に乗らないドライバーたちも機会を作って自転車で車道を走ってもらいたい。自転車側の気持ちが理解できるはずだ。お互いの無理解が摩擦を生む。自分本位の考え方で判断せず、相手の気持ちを慮って車道を共有することが全体最適の状態を作り出す。アメリカの車道にあって日本の車道にないものがYIELD(譲れ)という標識。クルマ偏重社会からの脱却が必要となる。
バスと自転車の明るい未来
冒頭にも書いた通り、バスと自転車は同じ車線内で共存できる。同じ位置関係で進行できるということは排気ガスを吸わされ続けるから勘弁して欲しいという声もあるが、昔と比べて大幅に浄化されているし都バスはCNG(天然ガス)車も導入している。近い将来、電動車になって行くだろう。自動運転車も現実化してきた。
人口減によって都心回帰が始まり、今後は鉄道+自転車、バス+自転車といった連携が都市交通の要点となる。従来は郊外と都心を結ぶ線的移動が交通の主目的だったのが、これからは都心内部の面的移動へと移行する。バス専用レーンの取り締まり強化を徹底することでバスの利便性を上げ、時刻表通りの運行を定着させる。時間通りに到着することが分かればバス利用者は増えるだろう。バス停にシェアサイクルのポートを置いて共用自転車が真の実力を発揮する時代が来る。
今、このチャンスに
この5月1日に自転車活用推進法が施行され、自転車を取り巻く環境が大きく変わるチャンス到来なのに軋轢ばかり増やしていては仕方がない。自転車側がまず襟を正し、ドライバー側も無理解をなくしていくことで安全で快適な利用環境が整うのだと信じている。
ノブレス・オブリージュという言葉は多くの日本人にとって馴染みがないが、強きドライバーの皆さんにはぜひ、自転車を追い抜く際に側方を1.5m空けていただきたい。ハード整備に頼りがちな日本でもソフト整備はできるはず。一握りの勘違い野郎は駆逐される必要があるが、勇気を持って車道左側を走ろうとする自転車のニューエントリー層に愛の手を。なにとぞよろしくお願いいたします。
いかがでしたでしょうか。ぜひ、あなたの思うところをお聞かせくださいね。
いただいたコメントは編集部がこのエッセイの下部に加えていく予定です。