読者の皆様はじめまして、れいぶんと申します。仕事はソフトとハードのエンジニアをしています。自転車が大好きで、試作したAndroidオートマ自転車で電子工作コンテスト2012プロトタイプ賞を受賞したこともあります。今回紹介する東京サイクルデザイン専門学校(略してTCD)にも1年間在学していました。
2015年度TCDの卒業制作展ですが、出展している彼らとは同期生で感慨深い展示会でした。今回は作る側の立場から作品を紹介していきます。
1.Tsubame(中岡 崇さん作)
この自転車は折りたたみ自転車なのですが、どう折りたたむか分かりますか?シートチューブを注意して見て頂きたい、ヘッドパーツが付いています。ここを軸に後三角が回転して折りたためます。フロントフォークもフォーククラウンの上で折りたためます。トップチューブやダウンチューブにヒンジがないので強度的にも安心できます。折りたたんだ時の横幅を小さくするためか前後輪のOLD(Over Locknut Distance)は100mmよりも遥かに短いです。学校にはこのサイズの治具はないので道具作りからして苦労したことでしょう。既存の部品を活かした素晴らしい設計です。
2.グランプリ作品 S-CART(横溝 志郎さん作)
女性を綺麗に見せることをコンセプトにした作品。ロングスカートを履いた女性がこれに乗って青山を走っていそうな雰囲気が伝わってきます。ハンドルは後方から前に出るタイプで、シートチューブの下方にフロントを操舵するためのリンク機構があります。このハンドルやリンクまでの支柱も手作りで綺麗なメッキの仕上がりになっています。特に支柱の半球状のキャップ付近の仕上がりは素晴らしく、叩き出しで作ったとは思えないぐらい美しい。実は展示初日には衣服が汚れないための布カバーが着せられていましたが、無い方が綺麗に見えるということで外されたようです。
3.キャノンデール・ジャパン特別賞 curious(中臺 充男さん作)
これを見て最初に思い浮かんだのが「なんだこれ」「乗り心地が柔らかそう」「塗装の費用」の3つ。キャノンデール・ジャパンの代表が「クレイジー」と形容したのも頷けるインパクト。螺旋形状の細いパイプでフレームが作られているので乗り味が柔らかそう。こんな形状で大丈夫か心配になるが破壊テストを一度して十分な強度がある事を確認しているとのことでした。ただこの形状のフレームを塗装するのは普通の自転車の3倍ぐらい費用がかかると思います。
4.shirogane(岩崎 徹さん作)
クロムメッキで彩られた綺麗な自転車。フレームの形状も曲げ加工されたパイプが使われていて面白いデザインです。メッキでピカピカにするのにかなりの時間が掛かったと思います。なぜ大変なのか説明すると磨き作業がとにかく大変、メッキ加工の前に磨きをしっかり掛けないと仕上がりが綺麗にならないし、メッキ塗装が終わったあとにも更に磨かないとこんなに光りません。パイプの接点が多くて非常に磨きづらそうです。
5.marriage(朴 慶倫さん作)
結婚したカップルが二人三脚で自転車を漕ぐというコンセプト。左右のクランクは直結になっていて2人が呼吸を合わせて踏まないと上手に漕げないようになっています。後輪のアルミ製のリアハブやそれを支えているロッドも自作のようでした。
6.Schmmit(高橋 学さん作)
全展示作品の中で一番溶接がうまかったのがこのシクロクロス。展示作品の中だと普通の自転車形状に見えてしまい埋もれがちでしたが、細部の仕上がりは芸術的でプロのフレームビルダーと比較しても見劣りしません。作者の高橋さんは2016ハンドメイドバイシクル展にも個人で出展しており、将来が楽しみなビルダーです。
終わりに
変な自転車が多かった今回の卒業制作展ですが、学校側から「今まで他社で発表されていない技術やデザイン、コンセプトを持ったオリジナル自転車を制作してください」という指示があったらしく、見る側は面白かったですが、作り手側の学生に話を聞いてみると展示が終わった後も普通に乗れるロードレーサータイプの自転車を作りたかったと語る人が多かったです(実際に作っている人も結構いました)。
今回紹介はできなかったですが、昨年度にはなかった竹、アルミ、カーボン(部分的に使用)などの素材を使った自転車も展示されていました。来年はどんな展示になるか、今から楽しみです。