変速機のないシンプルな構造が特徴のピストバイクは、自転車本来の造形美を楽しめるだけでなくメンテンナンス性・実用性に優れるなど多くのメリットがあります。
「固定ギアの乗り味って?」「選ぶときのポイントは?」――ピストバイク乗りである私が、厳選モデルとあわせて解説します。
おすすめモデルには高価なものもありますが、買って後悔させないピストバイクだけを集めてみました。
目次
ピストバイクとは
街乗りからちょっとした遠出まで、日常の多くのシーンで使うことができるピストバイクは私のおすすめジャンルの自転車です。そのシンプルな構造で、自転車本来の造形美を体現しているとも言えます。
ピストバイクの定義はいくつかあると思いますが、今回は変速機がないシングルスピード&固定ギアの自転車と定義します。
ピストバイクといえばノーブレーキをイメージする方もいるかもしれませんが、日本の走行においてはブレーキ装着が必須です。
ではなぜノーブレーキのイメージが? ピストバイクの原点ともなる競技用自転車から紐解いていきましょう。
もとはトラック競技用の自転車
ピストバイクは、もとはトラック競技用の自転車です。(「ピスト」はフランス語でトラックの意)
見た目はロードバイクに似ている部分もありますが、ピストバイク特有の点は以下のとおり。
- 固定ギア
自転車の後輪とクランクアームが一体に動く方式 - シングルスピード
変速機が付いていない - ノーブレーキ
ロードバイクもオンロード走行に特化した軽量性が特徴ですが、トラック競技用の自転車はブレーキにいたるまで無駄なパーツが省かれ、究極にシンプルな形とも言えます。
公道走行ではブレーキ必須
SNSなどで見かける海外のピストバイクには、ブレーキが装着されていないことが多いです。固定ギアの特性を活かして、ペダルだけで減速・ブレーキをかける本来のスタイルですが、ここ日本では自転車のブレーキ装着が義務付けられています。(参照:神奈川県警本部)
ピストバイクに乗る際は、フリーギア*・固定ギアを問わず、ブレーキ装着を徹底しましょう。
*)街乗りピストバイクでは、足を止めるとギアが空転するフリーギアのものもある。
ピストバイクのメリット
ピストバイク特有の構造には、多くのメリットがあります。
①固定ギア=ダイレクトな踏み味
一番体感しやすい部分はペダリングでしょう。固定ギアではペダルが空回りせず、ペダルを踏めば後輪が回り、ペダルを止めれば後輪も止まります。
ペダルを漕ぐ際のダイレクトな踏み味は、まるで自転車が体の一部になったような感覚に。
②トリックで遊ぶ
単純に走るだけでなく、”遊べる” 要素もピストバイクの魅力のひとつ。
自転車を使った技=トリックを決めて遊びます。画像のように前輪をあげる「フロントアップ」、後輪をペダルで意図的に止めて滑らせる「スキッド」、ペダルでバランスをとって乗った状態をキープする「スタンディング」など、バリエーションはさまざま。
人間とバイクが一体化する固定ギアならではの遊び方です。
③スピードも十分
ピストバイクのトップスピードは、ギア比次第でロードバイク並みに。
トラックレースでは70kmを超えるスピードが出るほどのスペックを持っています。
④シンプルな構造=メンテナンスが簡単
街乗りピストバイクもトラック競技で使用される自転車同様、無駄なパーツは省かれシンプルなつくりになっています。そのおかげでメンテナンスはより簡単に、変速機構によるチェーン落ちといったトラブルも少ないです。
⑤カスタムの魅力
ハンドルやサドルを変えれば、見た目だけでなく操作性・乗り心地も変わります。
ハンドルをトラックドロップからライザーバーに変えたり、ブルホーンバーをつけたり。ペダルにトゥークリップやストラップを装備したり。ホイールも、スポーク組のものからバトンホイールにしたり。ショップで自分の好きなハブとリムを組み合わせてホイールを組むのもいいですね。
たとえばトリックに特化したパーツ構成にするなど、カスタムの幅も用途もピストバイク独特なものがあります。
ピストバイクのデメリット
多くの魅力を持つピストバイクですが、扱いづらいと感じる人も少なくありません。
その一つは、ピストバイクのメリットでもある固定ギアの操作性。一般的な自転車のフリーギアと違い、タイヤの回転が止まるまでペダルの回転も止まりません。
急ブレーキをかけることも可能ですが、いつも以上に道路の状況に気を配りながら運転する必要があります。
あわせて固定ギア特有の「漕ぎ出しのペダルの重さ」にも多少の慣れが必要です。
さらに、シングルスピード=変速機能がないことがデメリットになるシーンもあります。平坦な道や下り坂では問題ありませんが、上り坂でギアを軽くできないので、坂が続くほど足が疲れます。
とはいえ通学や通勤ならルートが決まっていますし、しばらく乗り続ければペース配分が分かってくるので、この点もある程度は慣れでカバーできます。どうしても辛い場合は、坂の少ないルートを選ぶことで解決できるかもしれません。
これらの理由からピストバイクは長距離走行には不向きです。常にペダルを回し続け、坂道では力いっぱいこぐのは、体力的にもしんどいですよね。
ピストバイクの選び方
ピストバイクの長所と短所を理解した上で、実際に選ぶときはどのような基準で考えると良いのでしょうか?
気をつけるべきポイントは主に5つ。
①フレームサイズ
ピストバイクは他の自転車と同様フレームサイズがあります。 身体に合っていないサイズを選んでしまうと、乗っていて窮屈になってしまったり、前傾がきつくなってしまい、快適性・安全性が失われてしまいます。
フレームサイズの選び方の1つとして、実店舗でお気に入りの車体に実際にまたがってみることです。またがった時に、股がフレームに当たるようなら、ワンサイズ落とした方が良いでしょう。走行中、急ブレーキをかけて停まる時に両足を地面に着けて着地することがあり、その際フレームサイズが大きいと、フレームに股を強打してしまうからです。
②フレーム素材
ピストバイクは主にクロモリやアルミ、カーボンなどの素材でできていますが、それぞれ特性が違います。
- クロモリ:しなやかで衝撃吸収性に優れる、ただし重量がある。
- アルミ:軽量性に優れており、コストパフォーマンスが高い。衝撃は吸収しづらい。
- カーボン:衝撃吸収性と軽量性を兼ね備え、造形の自由度も高い。ただし高い。
「アルミ素材のフレーム」+「カーボン素材のフォーク」といったハイブリッドなフレームセットもあります。
③フレームの形状
走り心地に大きく関係するのがフレームの形状です。フレーム形状によって姿勢が大きく変わってくるからです。
- ホリゾンタル:トップチューブが水平。シンプルで美しいフレーム。
- スローピング:トップチューブが後ろ下がり。低重心のため安定性に優れ、相対的にフレームが小さくなるので軽量。
- パシュート:トップチューブが前下がり。前傾なポジションを取りやすいためペダルに力を伝えやすい。
「かっこいい!」という直感ももちろん大事にして、その上でどのようにピストバイクに乗りたいのか考えてみると、飽きることなく乗れるかもしれませんね。
④ハンドル形状
ハンドルは後々変えることができるので、フレームの選定と比べれば優先順位は下がりますが、種類によって乗り心地を左右します。
王道のドロップバー、流行りのライザーバー(フラットバー)、攻撃的な印象のブルホーンなど、見た目やスタイルに合わせて選ぶことをおすすめします。
⑤フリーギアという選択肢も
ここまで、ピストバイク=固定ギアと言わんばかりに解説してきましたが、必ずしも固定ギアしかないわけではありません。ママチャリやその他の自転車のように、足を止めるとギアが空転してくれるフリーギアに変えることもできます。
また「両切り」というハブに、片側は固定ギア、反対側はフリーギアが装着されているケースもあります。最初はフリーギアで走ってみて、あとから固定ギアに切り替えて乗ることができます。
⑥ギア比
ピストバイクには変速機がないため、走り方に合わせてギア比を変える必要があります。
ギア比というのは回転数のことで、ペダルを漕いで元の位置に戻るまでのホイールの回転数のことを指します。 計算方法は前のチェーンリングのギア数 ÷ 後ろのギア数。
軽いギアで走りたい方はギア比2.5前後、トップスピードを上げたい方はギア比3.0前後がおすすめです。
ラヴァー厳選! おすすめピストバイク10台
※製品画像は商品見本のためブレーキが取り付けられていないものがありますが、完成車は必ずブレーキが取り付けられた状態で販売されます。
Surly – Steamroller
アメリカの自転車メーカーSURLYのSteamrollerは、クロモリ素材の丈夫なフレームです。毎シーズン個性的なカラーを展開しています。フレームとフォークセットで7万4800円という高いコストパフォーマンスだけでなく、38c幅の幅広タイヤを装着できるなど、懐の広さも魅力的です。
自由度の高い設計により、ピスト初心者の方が、やがて趣味嗜好が変わっても、長い間楽しむことができます。細いタイヤを履かせて、ミニマルなピストバイクにも、幅広なタイヤに変えて、乗り心地のよい街乗りピストに仕上げることも可能です。
サイズ展開も豊富なため、女性の方にも選んでいただけます。一度買って二度、いや三度おいしい、そんなフレームといえるかもしれません。
参考価格:フレームセット税込74,800円
LINK: STEAMROLLER|SURLY
Cinelli – GAZZETTA
イタリアのCinelliのアーバン系クロモリピストバイク、GAZZETTA。ピストバイクの中では低価格ながら、フレームはこれもイタリアの大手鋼管メーカーCOLUMBUS社製と、抜かりありません。エントリーモデルからトラックフレームまで、多様な乗り手に対応したモデルが発売されています。
定番になりつつあるこのモデル、乗りやすさは言わずもがな、イタリアらしい綺麗なカラーリングに、オールドスクールなフォントのロゴにセンスを感じます。
一目惚れで買ったとしても、十分カスタムベースになり得るフレームです。
参考価格:完成車税込126,500円
LINK: Gazzetta ’21|CINELLI
LEADER®︎ – 735
ピストバイクで真っ先に名前があがるブランドといえば、このアメリカ・カリフォルニアのLEADER®︎でしょう。サンディエゴ発のピストバイクブランドです。インパクトのあるエアロフレームは、著名人が乗ったことで日本でも有名になりました。
軽量なアルミを使用した極太エアロフレームはまるで戦闘機のようで、溶接痕とても綺麗に仕上げられています。
一目でそれと分かるルックスで、ストリートを中心にとても人気があるモデルです。
参考価格:完成車税込203,500円
LINK: LEADER®︎
>> LEADER®のライダーたちによって誕生した、よりニッチでハイエンドなプレミアムライン「TYRANT BIKES」とは?
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FUJI – Feather
富士山のロゴですが、実はアメリカの自転車ブランドであるFUJI。手頃な価格帯で、サイズバリエーションも多いので、女性にもオススメです。
FUJIの定番ピストバイクといえばこのFeatherです。とりあえず何か一台買うならFeatherで間違いないと言われるほど、オーソドックスでピストバイクらしさがあるモデル。完成車で税込9万円を切る価格も大きな魅力です。
デザインも控えめで、クラシックな雰囲気を求めてる方や、ステッカーでデコレーションしたい方にぴったりなフレームです。
※標準ではフリーギア形式ですが、固定ギアへのカスタムも可能です。
参考価格:完成車税込86,900円
LINK: Feathrer|FUJI
FUJI – TRACK ARCV
FUJIが2017年に新たに発売したアルミピストバイク。人気の前下がりフレーム(パシュートジオメトリー)で攻撃的なルックスを維持しています。完成車で8kgという軽量性でありながら10万円ちょいという価格で申し分なしの仕上がりです。
フレーム内にブレーキケーブルを通すことができるため、すっきりとした見た目を維持できます。FUJIロゴのデカールステッカーが後付けなので、自分好みのルックスに調整できるのも嬉しいポイントですね。
※標準ではフリーギア形式ですが、固定ギアへのカスタムも可能です。
参考価格:完成車税込105,600円
LINK: TRACK ARCV|FUJI
FAIRWEATHER – track frame
名店BLUE LUGと東洋フレームがコラボしたFAIRWEATHER のtrack frameは色から自分で選ぶことができるフレーム。細身のパイプ+ホリゾンタルフレームなので、ポップなカラーリングの街乗り仕様にも、ミニマムな競輪バイクっぽい仕上げにもできます。
左サイドのリアエンドにはなんと栓抜きが。遊び心も忘れていません。ユーザーのイメージ次第で、色んなスタイルに応用できる一台です。
このFAIRWEATHER、バッグやハンドルなどカスタムパーツが充実している点でも高評価です。
参考価格:フレームセット税込66,000円+カスタムカラー代15,000円〜
LINK: track frame|FAIRWEATHER
ALL-City – Big Block
アメリカのALL-Cityが手がけるピストフレームBig Block。プロのメッセンジャーが実際に乗っている姿を見かけたことがあります。
フレームは強度と軽さのバランスを考慮したオリジナルブレンドのクロモリ素材。タイヤクリアランスも32c幅まで対応していて、乗り手のニーズに応えてくれます。
ボトルケージの台座や往年のBMXを彷彿とさせるカラーリングなど、こだわりの詰まった一台です。
参考価格:フレームセット税込81,400円、完成車税込143,000円
LINK: BIG BLOCK|ALL-City
MASH – STEEL
ピスト乗りなら一度は聞くであろうブランドMASHのオリジナルフレーム、STEEL。こちらも幅広タイヤに対応していて、走り屋仕様にも、山遊び仕様にも対応する懐の深いモデルです。
ブレーキケーブルをフレーム内に通すインナールーティングや、シート、ダウンチューブにボトルケージ台座を装備しています。
参考価格:フレームセット税込148,500円
LINK: STEEL|MASH
Affinity Cycles – Lo Pro
Affinity Cycles(アフィニティーサイクルズ)はニューヨーク・ブルックリンのブランド。BLUE LUGによるOPEN DISTRIBUTIONが輸入代理店を務めています。
このLo Proは名前の通り前下りの攻撃的なフレームが特徴。シンプルな作りの中に、拘った美しさが光る一台です。
日本限定でフレーム内をワイヤーが通るように加工してあり、インターナルケーブル仕様でリアブレーキを取り付けることができます。
参考価格:フレームセット税込91,300円
LINK: LO PRO|Affinity Cycles
Dosnoventa – Barcelona
Dosnoventaはイタリアンハンドメイドに拘ったスペイン・バルセロナのブランド。国内販売はこちらも有名店のBROTURESが取り扱っています。公式オンラインショップもオープンしています。
現在、フレーム名に4つの都市の名前を冠したモデルがあり、Barcelonaはその中でも一番クラシカルなモデルです。
高級なのでなかなか手は出にくいものの、そのこだわりの乗り心地を体験すべく、いつか所有してみたい憧れモデルなのは間違いありません。
参考価格:フレームセット税込200,000円、完成車税込542,300円
LINK: Barcelona | Dosnoventa
ピストバイクと一緒にそろえたほうが良いもの
スタンディングやスキッドといったトリックをする際や、スムーズな加速のために、トゥークリップ・ストラップなどペダルと足を固定するパーツがあると良いでしょう。
また、ピストバイクはシンプルなつくりでメンテナンスやカスタムが容易な点がメリット。15mmのスパナと六角レンチセットひとつで大抵のネジに対応できるので、持っておくと便利です。
さらにパンク修理キットもあるとなお良いでしょう。
お気に入りのピストで自分のライドスタイルを確立させよう
今回ご紹介したピストバイクを見ると、ベースは同じ構造でありながら、各車体にさまざまな工夫やギミックが施されています。ライフスタイルに合わせて、お気に入りの一台を探してみてはいかがでしょうか。
監修:BROTURES