自転車のハンドサインは手信号とは違う!?道路交通法とグループライドで考える

日本一自転車乗りの権利を考える*自転車活用推進研究会の事務局長・内海潤さんと、日本の交通事情やルールにについて、どうやって改善していけばいいか、みんなと一緒に考える連載。今回のテーマは自転車のハンドサインについてです。

あなたの自転車のハンドサイン、実は間違っている?

今回は最近SNSを中心に議論が広がっている自転車のハンドサインについて。特に、徐行・停止の合図として、多くのサイトで示しているのが「腰の後ろで手のひらを開いている」写真。実はFRAMEの過去記事でもこの写真の記載があり、読者の方からご指摘をいただきました。ハンドサインについてどのように認知されているか、TwitterとFacebookでアンケートを行い、のべ1000人以上の方にご協力いただきました。

いかがでしたでしょうか。このアンケート結果を受けて、自活研・内海さんの意見を読んでみましょう。

ハンドサインは手信号ではない!?

道路交通法(以下、道交法と略)第53条で出さなければならないとされている自転車を含む車両の合図。

コアな自転車乗りほど手信号と言ってしまうのだが(実は筆者も言っていた)、警視庁のホームページで手信号を検索すると「信号機の故障や災害による停電などの理由で、信号機の灯火が消えた場合、警察官による手信号が行われますので、手信号の意味をよく理解して交通事故にあわないよう注意してください。」と書いてある。

つまり三灯式信号機の代わりとして交差点中央で警察官が行う行為が手「信号」であり、自転車の右折、左折、停止などを知らせる「合図」はハンドサインと言って使い分けるべきだ

ネットで検索すると多くのサイトで手信号と表記している上に、徐行・停止の合図として腰の後ろで手のひらを開いている写真を使用している

ユーザーが使用しているハンドサイン

FRAME編集部が取ったアンケート結果を見ると

「腰の後ろで手のひらグーパー」が22%
「手のひら開いたまま」が32%
「右腕を斜め下に伸ばす」が41%
「左腕を斜め下に伸ばす」が5%

となっており、予想通り「手のひらを腰に付ける系」スタイルの合計が5割を超え、政令で定められた「斜め下伸ばし」スタイルを上回っている。

ただし「手のひらを腰に付ける系」はドライバーから視認しづらいのが難点だ。

トレインを組んで走行する際に後方の仲間への意志表示で使用する分には問題ないが、車道でクルマに対して出す場合は道交法施行令第21条にある通り、腕を斜め下に伸ばす合図を用いなければならない(ことになっている)。少なくともトレインの最後尾走行者には法定スタイルのハンドサインを出してもらいたい

合図を出す警察官を見たことがない

 法律で決まっているとは言っても、筆者自身ハンドサインを出して自転車で右左折する警察官を見たことがない

警察官すら出してない合図を市民に強いるのは気がひけるけれども、ネット上ではハンドサインを出さないのはケシカランという声が日増しに大きくなっていて一体どうしたものかと考えている。

せっかくの機会だから多くの人たちを巻き込んで議論していきたい

積極派は法律を根拠としつつ、コミュニケーションを取りながら走る安全性に注目している。消極派は自転車の合図を法律通りにやると(行為が終わるまで当該合図を継続しなければならないと書いてある)片手運転となり危険なことや警察官も出していない現状を見て出す必要性を感じていない。

いや、そうではないか。出さなければならないことを知らない人が大半だろう。法律に不具合と言うか実態とギャップがある場合は改定すればいい話だが、日本は法律を抜本的に見直さない伝統を作って来てしまった

これはもちろん、手信号ではありません
これはもちろん、手信号ではありません

必要か不要かという論点ではなく

法治国家においてルールを無視すれば、起訴されるかどうかは別として犯罪行為である。そう決めておかなければ秩序が保てない仕組みなのだ。それが「なあなあ」になってしまえば基盤は揺らいでしまう。とは言え、軽微な違反でも見つけたら例外なく罰する運用も行き過ぎの気がする。その辺りの線引き、さじ加減が難しい。
法律も所詮は人間が作ったもの。不完全な代物だ。犯罪者のレッテルを貼ることが目的になってしまっては本末転倒であり、そんな社会は誰も望んでいない。

道交法第1条に法の目的が書いてある。曰く、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図り、及び道路の交通に起因する障害の防止に資することを目的とする。とある。実に高尚な目的を持って作られたことが分かる。

つまり法の精神として道路を利用する人すべてが安全で快適に通行できることを願って作られており、ハンドサインも目的達成のひとつの手段である訳だ。ならば積極的に使おうではないか。

「じゃあ明日から出そう」と筆者が言ってみたところで、ほとんど誰も出していない現状では様子見が続くことは容易に想像できる。自ら進んで出す人を増やす必要がある。

どうすれば皆が出すようになるだろう? 以前にも書いたが、どうすれば自転車のルールを守ってもらえるかというテーマで専門学校の1年生に毎年ディスカッションしてもらっている。北風と太陽のイソップ寓話を引用して太陽政策を出すよう指示すると、必ず出てくるのがインセンティブ支給である。人は何かメリットがなければ動かないもの。だからハンドサインにインセンティブを出す。どのような? どうやって? 学生たちは頭に汗をかきながら難題にチャレンジしている。我々も頭に汗をかく必要がありそうだ。

みんながやるから自分もやる

先日、スポーツ自転車に興味はあるが普段乗っていない女性に尋ねてみた。ハンドサインを出している人を見てどう思いますか、と。

彼女の答えが多くの方に共通する意見だろう。曰く「格好いいなと思うけど、私も出さなきゃダメなのかなと。」そう思うはずだ。警察官でさえ出さない合図を自分も出すべきなのかと迷うのは当然である。だが、一般女性が見ても「格好いいなと思う」のであれば嬉しい。

昔、神奈川県逗子市にあるショップチームを取材したことがあり、その時に筆者も初めてハンドサインを教えてもらったのだが、実にさりげなく、それでいて意志が伝わる。

教えてくれたベテランサイクリストの右折時ハンドサインは政令で定めた右腕を水平に伸ばすスタイルではなかったが「なんて格好いいんだ!」と感動した記憶がある。

メッセンジャーやツーキニストが率先してハンドサインを出すことでドライバーとのコミュニケーションが円滑になり「あれはいいね」という世論になっていけば、出すことに抵抗がなくなる。愛媛県松山市でヘルメットが一般ユーザーにも普及したように「みんながやるから自分もやる」方式で広めていけないか。

ヨーロッパで自転車に乗ると、まず驚くのがハンドサインを出さなければ周囲の市民から怒られることだ。意志表示しないと危ないから出しなさいと言われる。出すのが当たり前だから出さないと目立つのだ。

日本では、これまで自転車は主に歩道通行だったから歩行者に対してベルを鳴らす(←違反/2万円以下の罰金)以外に他の交通参加者とコミュニケーションする必要はなかったが、原則車道を徹底する上で自転車の種類に関係なくハンドサインが必要ツールになる。

周りが出すから恥ずかしくないし、危険性も下がるので積極的に出す社会を目指そう。ヨーロッパに追いつくまで時間はかかるが、今から始めれば、いつかはきっと日本も追いつける。警察官の皆さんにも率先してやっていただきたい。

ドライバー教育も重要だ

 議論百出することは悪いことではない。市民の関心あるところに国会議員も意識が向く。必要ならば法律を改定すればいい。交通戦争が起きた1970年代頃であれば、あり得なかった自転車活用推進法も成立したくらいだから変えられる。クルマメーカーが10社も存在する日本だが、急激に少子高齢化が進んでいることから考えても、クルマ至上主義をやめるべき時期だと思う。

信号機のない交差点で一旦停止しないクルマが多すぎる。交通弱者(歩行者や自転車など)に優しいドライバーを増やしたい。先日読んだ新聞記事ではゾーン30の指定をした道路で事故が約3割も減ったらしい。

ところがクルマの速度を強制的に落とさせる路面のハンプ(段差)やポールを設置する(狭さく)などハード整備は遅れていると記事は伝えていた。そろそろクルマをいじめる覚悟をすべきだろう。

自転車を車道で安全・快適に走らせる上でインフラ整備は必要だが、ドライバー教育も重要だ。自動運転車の普及で自転車の安全性が担保されるという意見もあるが、それはずいぶん先の話。それまでは自転車側から積極的にハンドサインを使ってコミュニケーションを取りながら運転することで徐々にドライバーの意識を変えていきたい。

ドライバーの学びも必要
ドライバーの学びも必要

いかがでしたでしょうか、ハンドサイン⇔手信号問題。こうやって議論が起こることで、グループライドの時の仲間への合図と、道路交通法上の手信号が違うことをまず理解するところからの、スタートなのでしょう。

*FRAME編集部の見解です。

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WRITTEN BY内海潤

NPO法人 自転車活用推進研究会 事務局長 東京サイクルデザイン専門学校の非常勤講師として次世代の自転車人を育てる一方、イベントや講演会などを通じて自転車の楽しさや正しい活用を訴える活動を続けている。テレビへの出演多数。共著書に「これが男の痩せ方だ!」「移動貧困社会からの脱却」がある。別名「日本で一番自転車乗りの権利を考えている*事務局長」(*FRAME編集部見解)

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