ブルベ300km「イザベラ・ヘブン」自転車で東北をまわる旅〜 1本目
目次
AJ神奈川主催、2017イザベラ・バード ヘブン・ウィーク
こんにちは。ランドヌーズのHitomiです。
2017年ゴールデンウィーク。AJ神奈川では「イザベラ・バード」にちなんだ「ヘブン・ウィーク」を開催しました。わたしはAJ神奈川のスタッフですが、今回は主催であるマヤさんの「スタッフも皆さん、いち参加者として楽しんで走ってください」とのお言葉に甘え、東北を巡る全4本のブルベに参加してきました。
ヘブン・ウィークって?
「ヘブン・ウィーク」とは、200・300・400・600kmの4本を1週間で走るブルベで、不定期に開催されます。1週間でSR(シュペール・ランドヌール)の称号をとれる親切設計。毎日走れて幸せだから「ヘブン・ウィーク」ですが、別名「ヘル・ウィーク」とも呼ばれるというあたり、諸々をお察しください。
イザベラ・バードって?
イザベラ・バードは、19世紀の旅行家・探検家で、世界各国を旅してまわった女性です。明治11年には日本も訪れ北日本や関西を旅し、旅行記を執筆しています(『日本奥地紀行』や『日本紀行』等)。今回のヘブン・ウィークのコース設計では、このイザベラ・バードがたどった道を取り入れています。
日本ブルべ界のレジェンドであるAJ神奈川の井手マヤさんが紡ぐ、明治の女性探検家の旅路にちなんだヘブン。もうそれだけで気分があがります。
スタート(福島県新白河駅)~PC1(福島県 南会津郡下郷町)
日々の暮らしの中で1本のブルベの準備をするのも大変なのに、4本もの準備をよくこなしたと思います。何より1週間、家を留守にするのです。仕事も休みを取ります。あまりにさまざまなやりくりや作業がハードだったせいか、ヘブン前の日々を思い出せません。気づいたら4月29日午前11時前、新幹線で新白河駅に到着していました。よく頑張ったぞ、自分。スタート地点ですでにやりきった感満載です。
でもここで安堵してはいけません。ついに旅が始まるのです。がっつりお肉を食べて腹ごしらえをし、参加の皆さんと挨拶を交わし、いよいよスタートです。雨の降りだしが早まる予報だったため、レインウェアを着て出発です。
雨は降ったり止んだり。一緒に走っていた数人で、何度も立ち止まって、レインウェアの着脱を繰り返しながら羽鳥湖へと走ります。ずっと上りなので、降らないと暑いので脱ぐ、でも降り出すと仕方なく着る、皆でその繰り返し。そのうち誰彼ともなく気づいたのですが、スタッフ仲間のIさんがレインウェアを脱ぐと途端に雨が降り出すのでした。雨が降り出すたびに「ほらー!雨具脱ぐからだろー」と言われるIさん。すっかりみんなにアメフラシ扱いされています。
羽鳥湖畔は雨に濡れた緑が濃く、湖面は雨粒に少し波立つ様も風情があり、雨がぱらつくせいで写真を撮れないのが残念です。
道はやがて下り基調になり、会津鉄道沿いを行きます。イザベラ・バードがこのあたりを旅したころは戊辰戦争後10年も経たない頃で、戦場となり「負け組」だった会津はどのような様子だったのだろう…と思いを馳せます。以前訪れたことのある名所「塔のへつり」もすぐ近くですが、今回は立ち寄らずに進みます。
散り始めの桜が美しく、鉄道とともに撮ろうとしているだろう「撮り鉄」を見かけます。ほどなく会津下郷のPC1に到着。雨具の着脱以外はさほど時間もとらず、雨の割には順調な走り出しです。
PC1(福島県 南会津郡下郷町)~通過チェック1(福島県 大内宿)
日光街道を行き、大内宿へ向けてのぼり始めます。中山峠を越えてずっと上り。やはり雨具の着脱を繰り返し、上り続けて弱まる我が脚とは反比例して強まる雨脚。ようやく大内宿へと着いたころにはついにどしゃ降りになりました。
T中さんやT橋さんたち神奈川隊と一緒に自転車を押して大内宿へ。アメフラシIさんがなかなか来ないので心配していたら「途中でレインウェアを綺麗に畳んで仕舞っていた」という情報が。「ほら!だからこんなにどしゃ降りになるんだよー!」と盛り上がる。
大内宿はもう夕方だったせいか雨のせいか、観光客は誰もいなくて、お店もほとんど閉店していました。静かな家々の間を自転車を押して歩きます。わたしがここを訪れたのは2回目ですが、こんな風にひっそりとしているのもまた風情があっていいなと感じました。ええ。少しだけ負け惜しみです。晴れた日に来たかったよ。
通過チェック「美濃屋・阿部家」さんの前で写真を撮ります。お店のおばあちゃまが地元の言葉で「雨で大変だろうから奥に来て座りなさい(意訳)」と声をかけてくださるけれど、ウェアが雨でドロドロなのでかしこまって辞退しました。親切がありがたくて気持ちがぽっと温かくなりました。
通過チェック1(福島県 大内宿)~通過チェック2(福島県 会津坂下)
雨の中さらに上りは続き、大内ダムへ。少し雨脚が弱まったので写真を撮りました。煙るダム湖は美しかったけれど、晴れていれば大内宿まで一望できる眺めが今日は望めないのが残念です。
そこからは10km以上続く下り。待ってました!と走り始めたのだけど、雨の中、濡れた路面に急カーブも多く、どうにもスピードが出せません。
でも遅いのはわたしだけで、T&Tさんコンビはどんどん見えなくなり、一緒にAKさんも見事な下り技術を駆使してあっという間に居なくなりました。AKさん、すごい。スリムな女性であんなに下りの速い人は初めて見ました。わたしは後続の蓋をしてしまい、直後を走っていたノッポさんを超スローダウンヒルの道連れにしてしまいました。心優しいノッポさんはわたしを見捨てられずに、結局最後まで一緒に下ってくれました。
そして下りきった後は平地で前に出てぐいぐい引っ張ってくれて、一度はちぎれてしまったT&Tさんたちを捕獲して連結してくれました。素晴らしい!T橋さんに「よく合流できたね~」と感心されましたが、全部ノッポさんのお蔭です。そして下りをもっと頑張って走れるようにならないと…と思ったのでした。
日が暮れて、でも雨はほとんど止んできました。広々とした水田地帯を走って、やがて会津坂下の通過チェックのコンビニに到着しました。
通過チェック2(福島県 会津坂下)~PC2(山形県長井館町)
すっかり夜になりました。この先は喜多方なのでどこかでラーメンを食べる、というノッポさんと別れ、コンビニでいいよねと夕食をとる神奈川隊。
この先は、福島県と山形県の県境「大峠」を越えることになります。どうやら雨はもう大丈夫そうだけど、かなり気温が低く寒いのでレインウェアはそのまま着て行きます。
大峠の上りは長い。暗くて景色を楽しめないせいもあって、昼間よりも長く感じます。トンネルや橋がたくさんありました。「虹のトンネル」という標識もあり、どうやら7つのトンネルがあるようです。大峠レインボーラインとも呼ばれるらしいのですが、上りながら橋とトンネルが交互に現れるイメージで、これは随分大変な工事だっただろうなあと感じました。この道のお蔭で、カーブの多い難所の旧道を通らずに済むことになったそうです。
T&Tさんコンビが順番に先頭交代してひいてくださり、途中何人もの参加者に会いながら、夜の峠を進みました。そしてついに最後のトンネル。これがまた長い!約4kmありました。
ようやくトンネルの出口を抜けた途端に、凄まじい冷気に襲われます。なにこれ、冷凍庫ですか。山形寒い!寒すぎます。道の両脇には雪がたくさん残っていて、標高600mを少し超えたくらいでこの寒さはさすが東北、ごめんなさいと謝りたい気持ちになりました。凍りつくような寒さの中、ダウンヒルを始めると、おや?暗い道路脇に立ち止まる二人の人影が。
「大丈夫ですか?」とT中さんがすぐに声をかけると「大丈夫です!大丈夫ですけど、場所が最悪なだけ」とのお返事。どうやらパンク修理のようです。こんな寒くて暗いところでパンクとは本当にお気の毒です。
後から聞いたらそのお返事をしたのは、ノッポさんだったそうです。誰かが一人でパンク修理をしているところに通りかかって見捨てておけず、止まってライトで照らしてあげたりしていたそうです。ノッポさん、本当に優しい。ノッポさんのその時の感想を後で聞いたら「星が綺麗だった」でした。いつか清らかな何かがノッポさんに恩返しに現れると思います。そしてわたしたちは…そのまま進みました。
米沢の地名を見て、「牛が食べたい」と言いながら汚れた魂のわたしたちは走ります。T橋さんがイザベラの予習が早すぎてキューシートのバージョンが古く、違う方へ行ってしまいそうになり「ちがいまーす」と笑いあいながら進みます。とても寒かったけれど、なんだか楽しいナイトライドでした。
PC2(山形県長井館町)~PC3(山形県村山)
PC2に着くと走った総距離は約185km。残りは120kmを切りました。夜中まで走ってまだ200kmいってないのだけど、午後スタートですものね、仕方ない。
ここからは最上川沿いを走ります。五月雨を集めて早し、のはずですが、暗くて見えません。アップダウンはあるけれどそうたいしたこともなく、まだあまり眠くもならず快調に走る神奈川隊。
でもあまり記憶が定かでないので、脳は走ることに専念するセーフモードだったかもしれません。
PC3(山形県村山)~Finish(山形県最上郡金山)
PC3ではあまりに寒いので、長く休むと身体が冷えてリスタートが大変になってしまうだろうということで、長居せずに早々にリスタートしました。
少しアップダウンが増えてきました。わたしはGPSを見ながら「次の上りは1kmくらいで70mほど上ります」などとナビをしていたのだけど、あるとき「さっきの上りがAカップなら今度のはBカップですね」と言ってみたら、T橋さん大ウケ。「B!B!」って大笑い。徹夜ハイ状態でしょうか。眠かったんですよね。T橋さんがそれをT中さんに「ねえねえ、さっきのがAカップで今度のはBカップだって!」と嬉しそうに伝えると、「え?なにそれ」とあくまで冷静なT中さん。温度差がしょっぱい。
やがて空が明るくなりはじめた頃、今度は霧が立ち込めてきました。朝霧が髪やまつげを濡らし、そのまま凍りつきそうな寒さ。一番寒い時間帯に、この霧は厳しい。ギアを軽くしてくるくる回して心拍をあげようとしたけれど、徹夜明けで心肺も省エネ運転中でちっとも温まりません。この時間帯が一番きつかったです。
途方もなく長い時間に感じられたけれど、走り続けて走り続けて、やがて時計は5時をまわり、新庄の町に入ると桜の美しい公園がありました。最上公園です。そこで写真を撮る余裕もできました。朝霧の中の桜は幻想的でなんとも幽玄でした。
時間には余裕があり、一息ついたので気持ちにも余裕が生まれ、焦らずにFinishの金山へ。ゴールのコンビニでは、寒い中スタッフ仲間が外で待っていてくれました。「お疲れ様―!」の声が嬉しい。「寒かった寒かった」と言い合い、少し休んでから、ゴール受付のホテルへ向かいます。「ホテルまで上りだよ」と脅されたけれど、実はそうひどいことにはならず、雨も霧もない綺麗な緑の中をウィニングラン。キラキラ光る美しい里山の風景。
笑顔のマヤさんと本多さんにゴール受付をしてもらいました。17時間15分。イザベラ1本目、300km完走。イエーイ!
そういえばイザベラ・バードのことは途中からちっとも思い出さなかったし話題にならなかったです……。
みんながマヤさんに口々に「寒かった」「上りがたくさんでしんどかった」「大変だったー。ヒドイ!」と笑いながら、でも結構本気で言うと、「ええ?!じゃあ明日も怒られちゃうな。イヒヒ」って、マヤさん、悪い笑顔になってますよ。
大きなお風呂にのんびり入り、洗濯もして、夜はみんなで宴会。豪華なお料理とほどほどのアルコール。みんなで「かんぱーい」ってわいわいしたのが何とも言えず楽しかったです。宴席には「自転車で東北をまわる旅 様」って書いてありました。
そうだね、本当に旅なんだね、ヘブンは。福島から山形まで来ちゃったよ。そして旅はまだ始まったばかり。明日は400km、秋田県、そして青森県まで行きます。
(続く)
Photos & Text Hitomi