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イザベラ・ヘブン~自転車で東北をまわる旅~ 2本目400km

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●前回までのあらすじ
2017年ゴールデンウイークに開催された「イザベラ・ヘブン」という200・300・400・600kmの4本を1週間で走るブルベの1本目を無事走り終えたHitomiさん。1週間でSR(シュペール・ランドヌール)の称号をとれる親切設計。毎日走れて幸せだから“ヘブン・ウィーク”ですが、別名“ヘル・ウィーク”とも呼ばれるというあたり、諸々をお察しください・・・

イザベラ・ヘブン1本目はこちら>>

イザベラ・ヘブン2本目。ホテルからスタートまで。

イザベラ・ヘブン、4/29午後~30午前の300kmを終え、翌5/1朝9時が2本目の400kmのスタート時間です。山形県金山から北へ。秋田県を縦断し、青森県の不老不死温泉まで走ります

一週間で4本のブルベを走りますが、1本終わると翌日まできちんと休めるのが嬉しい日程です。前回の300kmで雨の中を走ったバイクをあらためて点検し、ホテルからスタート地点へと移動します。

せっかくなので、スタート地点までの途中にあるイザベラ・バードの碑に寄りました。趣のある家々が続き、小川を越えた広場にモダンな碑がありました。みんな思い思いに記念撮影。ちゃんと明治時代の異国の女性冒険家の足跡がここに残されているのですね。
記念碑の傍に建物があったので、何かな?と見ていたら、神奈川隊の隊長T中さんが「この建物は、イザベラ・バードが使ったトイレだよ」と教えてくださる。「へえ。そうなんですか」と写真を撮ろうと近づいたら「嘘だよ!そんなわけないだろう」と大笑いされる。ええと……騙しましたね?「ふつうそんなこと信じるわけないよ」「いつの時代だよ」とまだ笑っている。ひどい。笑い過ぎです。

イザベラ・バードの碑。by Hitomi

イザベラ・バードの碑のある広場。右側の建物が問題の「トイレ」。by Yukio T

スタート(山形県最上郡金山町)~PC1(秋田県大仙市大曲)

気を取り直して、スタート地点のコンビニです。受付と、主催のマヤさんによるブリーフィングが行われ、2本目400kmのスタートです。さんざん笑われたのですが、結局今日もT中さん・T橋さんと神奈川隊を結成し走ります。

マヤさんによるブリーフィング。by Hitomi

初日とは打って変わってさわやかなお天気で、あたりは緑一色、いい気分です。リューイーソーではありません。
始めの10kmほどは下り基調なのもあって、みなさんかなり速いペースで走っていきます。その後20km以上続くゆるやかな上りの道沿いには、林業が盛んな地域らしく林や製材所が多くありました。時折民家の集落があるけれど、ほとんど木々や畑が続く道を進みます。左手に遠く白雪を冠った立派な山が見えたのですが、どうやら鳥海山とのことでした。やがて雄勝トンネルが現れて上りが終わり、トンネルを抜けたら秋田県に入りました。ありがとう、山形県。こんにちは、秋田県

雄勝トンネルを抜けるとゆるい下りが始まり、10kmほど気持ちよく走ると「道の駅おがち」がありました。ここで一休みすることに。続々とほかのランドヌールたちも吸い込まれてやってきます。秋田名物稲庭うどんをいただきます。美味しい!みんなにっこにこ。

道の駅おがちでにこにこのランドヌールたち。by Hitomi

次のPCまであと50kmほど。こんな感じでご機嫌で走れると思ったら……そんな甘いわけはないですね、やっぱり。リスタートしたら途端に風が強くなり、そこからさきはずっとずっと向かい風になりました。うわあ。初日の雨や二日目の寒さもしんどかったけれど、今日の向かい風もまたきつい!
それでもT中さんとT橋さんが数キロずつで先頭交代しながらずっとひいてくださいます。離れちゃったら大変!となんとかぶらさがって必死についていきます。一人じゃないってありがたい。雄物川沿いとつかず離れずのルートを向かい風に翻弄されながらひた走り、ようやく大曲へと入ったのでした。

PC1(秋田県大仙市大曲)~PC2(北秋田市阿仁前田)

PC1をリスタートして20kmほど走ると、角館があります。ここは桜の名所。ルートからは少し外れるのだけれど、ゴールデンウィークにここを訪れるという絶好の機会を逃す手はありません。角館は有名な武家屋敷の通りも素敵なのですが、普通の民家の軒先にも立派な桜の樹があちらこちらにあるのです。それを眺めながら武家屋敷の連なる通りへ。自転車を降りて、板塀沿いの立派なお屋敷を見ながら歩きます。残念ながら枝垂れ桜はほとんど散っていました。ほんの数日の違いだったようです。ああ、このたくさんの枝垂れ桜が満開だったなら!それでもソメイヨシノやほかの品種でまだ咲いている桜はあったので、写真を撮りながら歩きました。

角館の桜の下で。by Yukio T

さらに西、桧木内川の河川敷に足を延ばすと、そちらは満開の見事な桜並木が続いていました。素晴らしい!人出も多くにぎやかで華やいだ景色でした。

桧木内川の河川敷 by Hitomi

何人ものイザベラ参加者に会い挨拶をしたり、ソフトクリームを食べたりして、角館を満喫しました。

そしてルートに戻り先へ進みます。田沢湖にも行きたかったけれど、10kmプラスになるのは厳しいか……と諦めます。でも初日から見事な観光ブルベを走っている俊足近畿チームは田沢湖にも行ったとか。さすがです。そして後から思い返せば、わたしたちも行けばよかったのです。あんなことになるのなら。

羽州街道を進むうち、だんだんと道は上り基調となってきました。大覚野峠(阿仁峠)への上りが始まります。途中、右手の田んぼの向こうに、1両編成のカラフルな電車が走っているのに遭遇しました。電車を見かけるのも久しぶりです。なんだか嬉しくてT中さんT橋さんと三人で大きく手を振ったら「ファンファン♪」と軽く汽笛を鳴らしてくれたではありませんか。これは嬉しい!「今のこっちに気づいて鳴らしてくれたんだよね」「絶対そう!」「運転士さん優しい~」とテンションあがりました。秋田内陸線という路線だったらしいです。粋な計らい、ありがとうございました。

やがて斜度が少しずつきつくなり、本格的に峠への上りです。上りなのに寒い。大峠の冷凍庫状態を思い出しましたが、まだ日があるうちなのでなんとかなりました。標高は500mほどですが、やっぱり周りには雪がたくさん残っていました。やっとピークに着くと、スタッフカーがいる!なんだかほっとします。車とはいえずっと巡回は大変でしょう。お疲れ様です。
そこからはずっと下り基調。しっかり着込んで阿仁を走りPC2へ到着しました。

雪の残る大覚野峠 by Hitomi

PC2(北秋田市阿仁前田)~弘前

神奈川隊のT中さんもT橋さんも、この400は最初から「今日は観光ブルベだから」とおっしゃっていました。道の駅でのんびりしたり、角館を観光したり、つまりそういうのが「観光ブルベ」だとわたしは思っていたのですが、どうやら「観光本気度」が違ったようです。

このまま進むと、弘前城は暗い時間帯に通ることになります。夜明けまで待って少しだけ観光して進むこともできますが、たぶん時間ぎりぎりだし慌ただしい。弘前城は桜の名所で、今まさに満開なのだそうです。弘前城に桜の季節に来て、ただ通り過ぎるだけなんてもったいないことはしたくない、せっかく東北に旅に来たのだし観光できるチャンスなのだから、時間に追われずゆっくり堪能しよう。お二人はそんなことを真剣に考えながら今このPC2にいるということに、ようやくわたしも気づいたのでした。

ブルベ的には貯金もあるし、認定目指して進むこともできます。「でも400の認定、別に今回取れなくてもいいでしょ?」と言われると、確かにわたしは今年もう400kmを3本も完走しています。(それはそれでどうかしている。)「だったら認定より明るい時間の弘前城と桜でしょう」「しっかり寝てたっぷり観光してそれからゴールへしっかり走ればいい」
なるほど…なるほど。こうして悪魔のささやきにころっところんでしまったわたしもここでDNFを決断し、弘前のホテルを慌てて探して確保したのでした。

そしてナイトライドで弘前へ。北秋田市、大館市と走ります。ずっと路面が荒れていたのですが、国道7号に出るとさらに酷くなりデコボコだらけ。「雪国のこの季節はまだ冬の間に荒れた修繕が間に合ってないんだろうね」と言いながら、神経を使って進みました。

しかし、延々と走っても走っても秋田県。広い、縦に長い!いつまでも秋田県から出られません。「まだ秋田県…」とつぶやきながら夜の荒れた道を走ります。だんだん脚も重くなり、途中の矢立峠の上りのあたりで、ついにT&Tさんからちぎれて遅れてしまいました。たぶんDNFするって決めてから、気持ちが切れちゃったんだと思います。体調が悪いわけじゃないのだけど、どうも力が出ない。しかも寒い。頑張らなくていいような気分になってしまって冬眠しそうになりました。だけど、わたしがちぎれたことに気づいてお二人は待っていてくださる。優しい。せめて夜中の峠は一緒に行こうと再度気合を入れなおしました。なんとか脚もまわり始める。こういうときに仲間の力の大きさを感じるのでした。

峠のピークを越えるとついに青森県に入りました。長かった秋田県。ありがとう。DNFするんだったら田沢湖にも行っておくのだったなあ。田沢湖と言えばクニマス。上司が「うちのばあちゃんさ、クニマス見つけた『さかなクン』のことを『さかなサン』って言うんだよ」と言っていたのを思い出してひとり笑い。だいぶ集中力が切れてきています。

やっと青森県 by Hitomi

こんばんは、青森県。真夜中になって、やっと弘前に到着。ここまで約300km走りました。残りは100kmだけどもうDNFすることに決め、宿に入ってゆっくり眠りについたのでした。

弘前公園

朝すっかり明るくなってから、神奈川隊にさらにリュウさんも合流して弘前城観光開始です。リュウさんはゆうべ21時には弘前に着いていたのだとか。300kmを14時間という速さで走って、あと100kmを13時間で走れば認定なのに、明るい時間に弘前の桜を愛でるためにDNFですって。妙にかっこよく感じるのは何かの錯覚でしょう。
そのリュウさんに案内してもらって弘前城公園をお花見観光しました。

朝の弘前城公園。満開の桜は風にこぼれ始め、軽やかに儚い桜流しが舞い、お堀に散った花びらは花筏となってたゆたう。朧々と連なる花の雲の向こうには、青空にくっきりとした輪郭の天守閣と、津軽富士と呼ばれるにふさわしい岩木山の雄姿。一年のうちわずか数日の春容の中に居られるこの幸せ。

感動に打ち震えていると、あそこに見えるは我が男子チーム。T&Tさんにリュウさんも加わると、まぜたら危険、すっかり小学生男子の遠足状態です。あっちも見よう、こっちの写真も撮ろう、ほらほら通行の邪魔になっていますよ、すみませんすみません。……なんて引率の先生はやりません。わたしも物見台の上から、同じテンションで大きく手を振って写真をパチリ。素晴らしい春景色とみんなのいい笑顔。認定との等価交換以上の価値です。

弘前城公園DNF隊 by Hitomi

弘前城公園DNF隊 by Hitomi

弘前城公園DNF隊 by Hitomi

弘前城公園DNF隊 by Hitomi

弘前城公園DNF隊 by Hitomi

弘前城公園DNF隊 by Hitomi

弘前公園~Finish(不老不死温泉)

随分長い時間を過ごし、心行くまで堪能してまた走り始めます。目指すはフィニッシュ地点の不老不死温泉。残りは100kmです。

リンゴ畑の中を日本海を目指す by Hitomi

岩木山を巡るリンゴ畑の道を走り、いくつもの丘を越えて走ります。景色はとてもいいけれど、アップダウンがきついです。30kmほど走るとようやく海に出ました。わあ、日本海。海の色が濃い。

鰺ヶ沢でリュウさんお勧めの「たきわ」で海鮮丼を食べようとしたら、なんと臨時休業。残念!代わりに少し先にある「ドライブイン汐風」に入りました。こちらも人気のお店のようでお客さんがたくさんいます。わたしは「イトウとヒラメの漬け丼」を。うわうわうわあ……美味しい……。これまた幸せ。

イトウとヒラメの漬け丼。川の魚と海の魚のコラボ。 by Hitomi

後はこの海の景色を楽しみながら五能線沿いを南下するだけ。と思っていたら、甘かった、まだまだアップダウンが続くのです。しかも向かい風。
それでも走るしかありません。波風で作られた奇岩のたくさんある千畳敷海岸で写真を撮ったり、いか焼き通りで焼きイカを食べたり、はい、結構楽しみつつ。

日本海沿いを行くDNF隊 by Hitomi

日本海沿いを行くDNF隊 by Hitomi

日本海沿いを行くDNF隊 by Hitomi

日本海沿いを行くDNF隊 by Hitomi

途中でリュウさんに「この先、平坦だけど向かい風の10kmと、のぼるけど5kmの道とどっちがいい?」と聞かれ、すごく悩む。そうか、DNFしたから多少ルートを離れてもいいのね。向かい風も上りもどっちも嫌い。でも選ぶならどっちかなあ…脚はまだ元気だから上りの方が早く着くだろうか。どれくらいの斜度なんだろう。うーんうーんと悩んで無言でいたら、リュウさんがあっさり言うのです。「そんなのあるわけないじゃん」
え?どういう…?
「そんな二種類、今あるわけじゃないってこと。真剣に悩まないように」
……真剣に悩むでしょう、そりゃあ。また騙されたようです。悩み損だ。

皆に笑われながら、ちっ!と心の中で舌打ちしつつ走り続け、ようやくようやくゴールの不老不死温泉に到着。約380kmの走行でした。こんな認定外走行は初めてで、こんな楽しいDNFも初めて。これが癖になったら困っちゃう。

ついに不老不死温泉に到着。 by Hitomi

部屋に荷物を置いて、ざっとお風呂に入り、それからあらためて外の露天風呂に行きます。眼前は日本海。ここが有名な、不老不死温泉の夕陽を臨む海辺の露天風呂なんです。
晴れていてよかった、間に合った、夕焼けに。
「混浴と女性用があって、混浴の方が夕陽が綺麗だよ」と聞いていたのだけど、水着もないし…ということで、女風呂に入るランドヌーズたち。
入ってみたら両者は隣り合わせで、見える景色は全然変わらないじゃないですか。誰ですか、デマをとばしたのは。ここは騙されずに済みました。

少しぬるいお湯に、ほかの宿泊客の方たちに混ざって、大勢つかりながら、みんなで同じ方向を見つめます。カピバラのようです。太陽が大きくなりながら少しずつ海へ落ちて行き、空の色はだんだん桃色が濃くなり、海の青も群青へと深くなっていきます。水平線から海の上を、光の帯がわたしたちの方へのびてきて、やがて燃えるような橙の夕陽が空と海を赤く染めて沈んでいきます。沈み始めたらあっという間です。「わあ…」というため息のような静かな歓声の中、夕日の頭が全部見えなくなると、だれかれともなく拍手がおこって、わたしも胸がいっぱいになりながら手を叩いていました

こんな素晴らしい夕焼けを、こんな素晴らしい一日の終わりに。一生忘れえない。

みんながゆっくりとお湯から上がっていなくなっていき、わたしたちは最後まで名残の夕空を見ていました。誰もいなくなってから撮った、夕焼けの残滓。

不老不死温泉からの夕焼け。 by Hitomi

浴衣に着替えて、温泉旅館らしい宴席にもりあがり、さあ、素晴らしい二日間を抱きしめて今夜は寝ましょう。明日は3本目。竜飛岬に行くこれまた絶景の200kmが待っています。

B!

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