中国シェアサイクル上陸、日本のシェアサイクルも戦国時代へ|シェアサイクル第二弾
中国シェアサイクル事情
2017年3月下旬に中国・天津市を訪れて来た。天津自転車ショーの一環で開催された国際フォーラムに自活研の小林理事長が登壇することになり、天津自転車協会の招待で随伴させてもらったのだ。
まだ寒さの残る中国東北部だったが、すでに市内では熱い戦いが繰り広げられていた。中国の新しい顔となったシェアサイクルの話である。
このところ連日日本の新聞を賑わせている通り、二大勢力であるモバイク(摩拜単車)とofo(小黄車)のみならず、天津発祥・緑色の云単車など各社入り乱れて覇を競っている。とにかく便利だから市民は各社のアプリをダウンロードして目の前にある自転車を借りて目的地へ向かう。着いたらポートを探すこともなく路上で返却手続きをしてオシマイ。
手離れがよく、とにかく安くて気軽に使えるから次々と借りる。だから本当に使われている。
公共サービスではなく民間企業で利益を追求するモデルになっているらしく、それでいて30分0.5元(約8円)〜と破格に安いので、儲かるのかしらと心配になる。聞けばデポジットが約5,000円もしたり、大企業が続々と資金提供したりしているから現金は回っているのだそう。回らなくなった時が怖いけれども、放置された自転車を再配置することもせず(指導が入りつつある)メンテナンスフリーの特注車を投入しており、従来の常識を簡単に覆して破竹の勢いで範図を広げている。
天津では2017年の1月にサービスインしたばかりだと言うのに、すでに3月下旬時点で各社合計10万台入っているとのことで、このスピード感は飛行機の離陸時加速よりも速くて恐れ入る。
モバイクが日本上陸
想像を超える発展を遂げた中国に驚いて帰国したものの、相変わらず日本のシェアサイクルは遅々として進まない。ようやっと都内で赤いドコモの自転車が4,000台を超えたところだそうだ。中国の国民数は日本の10倍だから1/10の速度で進めたとしても3ヶ月あれば1万台は投入していなければならないが、何年もかけているのに、とにかくポート数を増やすのに苦労している。
中国での進め方を日本でも出来るとは思わないが、2020年の東京オリンピック・パラリンピックまでに少なくとも1万台は突破してもらいたい。従来のペースだと難しいかなと思っていたところにビッグニュースが飛び込んで来た。中国からモバイクが日本法人を福岡に設立して全国十都市でサービスインすると言う。
これぞ黒船到来。これまで要所要所で日本の歴史を変えて来た外圧そのものではないか。迎え撃つ既存のシェアサイクル各社にとっては、たまったものではないが市民がどちらを選択するのか、白日のもとにさらして確かめたい。真に使えるサービスなら日常の足として定着するに違いないし、天津の市民たちはさまざまな事情はあるにせよ本当にシェアサイクルを使っていたから、日本のクルマ偏重社会を破壊する意味でも外圧に期待したい。
彼らは日本で成功できるのか?
ただまったく不安がないわけでもない。どこでも返却可で再配置なしという事業モデルのまま日本上陸を考えているのであれば、失敗する危険性が高い。自宅の軒先にシェアサイクルが置いてあれば皆さんどう思うだろう。きっと「次に借りるのに便利だ」とはならないはず。少なくとも邪魔だなと思うだろうし、人によっては「ウチの前に自転車を放置された」と役所に電話するに違いない。当初はコンビニ駐車場にポートを置くらしいが、台数が増えれば困難になるだろうし、駐車場完備のコンビニばかりでもない。それでも我々は中国で圧倒的なスピード感を味わって来たので、何か策を講じて壁を乗り越えるのだろうなと期待している。
石橋を叩く暇があったら始め、うまく行かなければ埋めればいいというゾクゾクするようなジェットコースター感覚。危険な香りはするが強く惹かれる強引な展開。日本人が忘れていたダイナミズム。今の中国には、かつて日本が持っていた若さゆえのパワーがある。
クルマの運転も日本とは比べ物にならないほど荒い人が多くて驚く。渋滞の列にクルマの鼻先をねじ込んで割り込む強引さ。方向指示器なしの連続レーンチェンジや車間距離の短さ。昔の日本を見るようだと小林理事長も舌を巻くほどだ。
80年代90年代生まれの若い人たちがIT系企業でシェアサイクルを運営している。スマホ利用率は日本以上だ。日本と違って決済はスマホのみ。その割り切りも日本でどう評価されるか課題はある。長所と短所それぞれあるが、トータルでプラスならいいんじゃないという彼らの感覚が試されることになる。
迎え撃つ日本としては
すべきこともせず黒船の心配ばかりしている暇はない。それぞれが持ち場で全力をあげることだ。どのサービスが支持されるのか、まだ分からない。自社で提供できるサービスレベルの向上を追求するしかないのだ。どこまでも平坦な中国の大地では有効だった変速機なしの自転車だが、山坂道が多い日本の都市では苦戦が予想される。
メンテナンスフリーの自転車は乗り心地だって悪くないが、毎日人の手で管理された自転車の乗り心地が悪いはずもない。端的に言えば中国で成功したからと言って日本で成功するとは限らない。とは言え、自治体がサポートしてくれるから安心とは思わない方がいい。助成金なしで持続可能と分かれば、黒船と手を組む可能性もある。ただし黒船は悪魔ではない。税金の伸びがない中で支出は増える一方なので自治体としては出て行くお金を少しでも抑えたい。
既得権にしがみつくよりサービスレベルの向上を堂々と訴えて勝ち取るしかないのだ。とりわけ自転車台数およびポート数の増加は利便性向上へダイレクトに結びつくから、市民の賛同を得やすい。コスパや使い勝手の良いものを選びたい気持ちは誰しも同じ。原点に立ち返って考えたい。
シェアサイクルの将来に向けて
中国で始まったシェアサイクル戦国時代だが、ここに来て政府当局が規制を始めている。すわバブルかと思わせる熱狂ぶりも、さすがにネガティブな声が大きくなって来たので適切な運営に向けた指導をするらしい。
北京や上海などの大都市では放置問題をはじめ故障車の廃棄、二次元バーコードシールの偽造、ワイヤー錠をかけて個人利用するなど諸問題が無視できないほど山積している。まず放置に関しては対処が始まり、ポートならぬ電子柵で駐輪エリアを限定し溢れた自転車を再配置するよう指導している。
メリットが削られるのではないかと見ているが、大きな流れをせき止めるまでは至っていない。実は本国での指導開始と時を同じくして欧米各国や日本など海外進出が本格化しており、彼らのしたたかさを感じる。日本では福岡を皮切りに札幌で事業展開するようだが、東京に進出するための準備と考えているのかもしれない。
いずれにせよ社会実験というぬるま湯に浸かっている限りは真に使えるサービスは望めないから、市民の厳しい選球眼にさらされる必要があるし、毎日喜んで使ってもらうためには経営努力が欠かせない。一部の限られた人たちだけが使うものであってはならないが、使いたい人が使えるようにインフラの整備を充実させておきたい。
自転車活用推進法で自転車の利用は公共の利益の増進に資するものであると定義した。だとすればシェアサイクルはもっと存在感を増すべきだと思う。そのために必要な議論や活動は積極的に行いたい。
外圧は新しい価値観を日本に吹き込んでくれる刺激と捉えて、日本流のシェアサイクルを育てて行けばいいのだ。異国の文化を取り入れて独自に発展させることが日本のお家芸だということは、すでに歴史が証明しているではないか。日本流アレンジの真に使えるサービスを期待したい。