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やっぱりフルームは強かった! 〜熟練ジャーナリストが2017ツール・ド・フランス前半戦を振り返る〜

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7月10日、ツール・ド・フランスは最初の休息日を迎えた。カヴェンディッシュの落車リタイヤとサガンの失格、マルセル・キッテルの平坦ステージでの活躍、ファビオ・アルの山岳ステージでの活躍、ゲラント・トーマスやリッチー・ポートの落車リタイヤと、今年のツールも前半戦にして数々のドラマが生まれているが、それらを振り返るとともに、この先の戦いを占ってみたい。

第2、第6、第7ステージとスプリントでステージ3勝を挙げ、現在平坦ステージでは無敵のマルセル・キッテル(ドイツ、クイックステップフロアーズ)。勝利数をいくつまで伸ばせるのか注目だ ©A.S.O.
第2、第6、第7ステージとスプリントでステージ3勝を挙げ、現在平坦ステージでは無敵のマルセル・キッテル(ドイツ、クイックステップフロアーズ)。勝利数をいくつまで伸ばせるのか注目だ ©A.S.O.

1度の落車が1年間の努力を水の泡とする

近年のロードレースは落車が多いといわれるが、今年のツール・ド・フランスも例外ではない。まずプロローグでアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)とヨン・イサギーレ(スペイン、バーレーン・メリダ)が落車で早々にリタイヤ。さらに第4ステージでは、ゴールスプリントでマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ディメンションデータ)が落車、そして、その落車の際にカヴェンディッシュに対して肘を出したということでペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)が失格処分となったのは、記憶に新しいところだ。

第4ステージで失格となってしまった世界チャンピオンのペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ) ©A.S.O.

サガンの失格処分に関しては、いまだに物議を醸しているが、とにかく6年連続のマイヨヴェール獲得を目指していた世界チャンピオンを失ったことは、興行的に見て大きな痛手であったことは間違いない。カヴェンディッシュにしても同様だ。これまでツールでステージ30勝をしている最強スプリンターがいなくなったことは、平坦ステージの楽しみを大きく損なってしまった。

そして第9ステージでは、プロローグでトップタイムを叩き出し、第5ステージまでマイヨジョーヌを着ていたゲラント・トーマス(イギリス、チームスカイ)も落車してしまい、ツールを去っている。それだけではない。そのすぐ後にこんどはリッチー・ポート(オーストラリア、BMCレーシング)まで落車でツールを去ることとなってしまったのだ。第5ステージでマイヨジョーヌを獲得した王者クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)は、このステージで最高のアシストと最大のライバルを同時に失ってしまったのである。

プロローグでトップタイムを叩き出し、第5ステージまでマイヨジョーヌを着ていたゲラント・トーマス(イギリス、チームスカイ)だったが、第9ステージでの落車でツールを去ってしまった ©A.S.O.

さらに付け加えるなら、第9ステージでフランスチャンピオンのアルノー・デマール(フランス、FDJ)がタイムアウトとなってしまったことも、大きな痛手だ。フランスのレースにマイヨトリコロールを着るフランスチャンピオンがいるということは、特別な意味を持つ。アシストを失うこと覚悟でデマールに3人のアシストをつけていたということからも、それをうかがい知ることができるだろう。ここまでの9ステージで、ツールは実に多くのスターを失ってしまったのである。

第4ステージで、フランス人スプリンターとしては11年ぶりの勝利を挙げたフランスチャンピオンのアルノー・デマール(フランス、FDJ)だったが、第9ステージでタイムアウトとなってしまった ©A.S.O.

たった1度の落車が1年間の努力を水の泡にしてしまう。すべての選手がそのことを理解しているにもかかわらず、毎年多くの選手が落車でツールを去っていく。そこまで攻めた走りをしないと、ツールに勝つことはできないということの現れだ。まさに勝利とリタイヤ、栄光と挫折は紙一重。一見ネガティブな要素とも思えるが、その「はかなさ」こそ、ツールの美しさを際立たせている部分でもある。はかないものに美を見いたすのは、なにも日本人の専売特許というわけではないのだ。

冷静な走りが光るフルーム

さてここまできて、やはり光るのは3年連続4度目の総合優勝をめざすフルームのクレバーな走りだ。2013年に初優勝したときには少々がむしゃらな走りをしていたフルームだったが、不注意による落車でリタイヤに追い込まれた2014年以降、その走りは実に合理的かつ慎重になった。2015年、2016年と何度かの落車はあったものの、総じて危なげない走りでマイヨジョーヌを守ってきている。

第5ステージでマイヨジョーヌを獲得したクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ) ©A.S.O.

今年も同様だ。ファビオ・アル(イタリア、アスタナ)が独走勝利した第5ステージでは、無理にアルを追うことはせず、差を最小限にしながらマイヨジョーヌを獲得。その後は非常に安定感のある走りでマイヨジョーヌを守り続け、ライバル達につけいる隙を与えていない。最高のアシストであるゲラント・トーマスを失ったことは痛かったが、同時に最強のライバルであると名指ししていたリッチー・ポートもいなくなったことは、フルームにとってプラスマイナスゼロといっても間違いないだろう。

ナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター)とアルベルト・コンタドール(スペイン、トレック・セガフレード)が不調なのも、フルームにとっては幸いしている。この後のステージでは、ファビオ・アルとロマン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアル)を中心にマークしていけば、比較的戦いやすいレースとなっていくだろう。とはいえ、なにが起こるのかわからないのがレース。油断は禁物であるが。

登りゴールの第5ステージで独走勝利したファビオ・アル(イタリア、アスタナ)。リッチー・ポート(オーストラリア、BMCレーシング)がリタイヤしてしまったため、今後フルームの最大のライバルとなるだろう ©A.S.O.

無敵のキッテルがどこまで勝利数を伸ばすか?

平坦ステージで注目すべきは、マルセル・キッテル(ドイツ、クイックステップフロアーズ)の活躍である。すでに第2、第6、第7ステージと3勝を挙げており、平坦ステージのスプリントでは、無敵の感がある。ゴールスプリントの空撮映像を見てみると、キッテル一人だけ異次元のスピード。アンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・スーダル)やナセル・ブアニ(フランス、コフィディス)も、かなり上手く立ち回らないと勝つことは難しいだろう。

第7ステージはマルセル・キッテル(ドイツ、クイックステップフロアーズ)がエドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー、ディメンションデータ)を下して勝ったが、その差は写真判定でも見分けがつかないほどで、史上最小の差となった ©A.S.O.

そのほかにも、スティーヴン・カミングス(イギリス、ディメンションデータ)やアレクシ・ヴィレルモス(フランス、AG2Rラモンディアル)、そして第8ステージで独走勝利を果たし、一躍スターダムに上がったリリアン・カルムジャーヌ(フランス、ディレクトエネルジー)などの「逃げ屋」の走りにも要注目だ。



第8ステージで独走勝利したリリアン・カルムジャーヌ(フランス、ディレクトエネルジー)。フランス期待の星に成長するか? ©A.S.O.

そして、我らが新城幸也(日本、バーレーン・メリダ)にも期待したい。チーム戦略によるところが大きいが、昨年のような敢闘賞クラスの逃げが見られる可能性は高いといえるだろう。いや、敢闘賞だけでなく、日本人初のステージ優勝を期待しようではないか!

【第9ステージ終了時点での個人総合成績】
1 クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)38h26’28″

2 ファビオ・アル(イタリア、アスタナ)+18″

3 ロマン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアル)+51″

4 リゴベルト・ウラン(コロンビア、キャノンデール・ドラパック)+55″

5 ヤコブ・フールサン(デンマーク、アスタナ)+1’37″

6 ダニエル・マーティン(アイルランド、クイックステップフロアーズ)+1’44″

7 ショーン・イェーツ(イギリス、オリカ・スコット)+2’02″

8 ナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター)+2’13″

9 ミケル・ランダ(スペイン、チームスカイ)+3’06”

10 ジョージ・ベネット(ニュージーランド、ロットNLユンボ)+3’53″

117 新城幸也(日本、バーレーン・メリダ)+1h12’54”

クィーンステージだった第9ステージのゴールシーン。フルームの冷静な走りが際立った ©A.S.O.

マルセル・キッテル(ドイツ、クイックステップフロアーズ)は、果たしてパリ・シャンゼリゼでもマイヨヴェールを着ているのだろうか? ©A.S.O.

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