「Paris-Roubaix パリ~ルーベ」ってどんなレース? ジャーナリストが徹底用語解説

毎年、4月の第2日曜日にフランスで開催される自転車のワンデーレース。その名の通りパリ郊外のコンピエーニュからフランス北部のルーベのヴェロドローム(自転車競技場)までの約260kmで行われる。途中、中世に作られたパヴェ(石畳)の区間をいくつも走り、それがこのレースの特徴となっている。第1回大会は1896年で、100年以上の伝統を誇る。

走るパヴェ区間の数やどのパヴェを走るかは年によってわずかに変更されるが、おおよそ25から28程度のパヴェ区間を走り、その総延長は50kmほどになる。その難易度は1つから5つの星の数で表され、最も難易度の高い5つ星のパヴェ区間としては「アランベール」「モンサン=ペヴェル」「カルフール・ド・ラルブル」が有名だ。

パヴェとはいっても、ヨーロッパの街中で見られるような美しいパヴェではなく、畑の中に残された中世のパヴェであるから、その路面は非常に荒れている。慣れたサイクリストでもそこをまっすぐに走ることさえ困難で、ましてやレースというシチュエーションになると、落車やパンク、その他機材故障の連続となるのが通例である。

ひとたび雨が降ると、路面は泥だらけになり、車輪から跳ね上げる泥が選手たちを容赦なく襲う。ゴール後の選手たちはカラダにも顔にも泥が付着した状態になり、どのチームの誰かさえ判別することが難しくなるほどだ。また晴れていても、凄まじい土埃が舞い上がり、選手たちの呼吸を困難にさせるとともに、視界さえ奪い去ってしまう。

そのあまりの厳しさから、このレースは「北の地獄」とよく表現される。一方で、このレースほど素晴らしいレースもないということから、「クラシックの女王」とも呼ばれる。まさに「危険性と美しさ」「挫折と栄光」「陰と陽」が表裏一体となったドラマチックなレースなのである。

多発するパンクに備え、コース各所でチームスタッフがスペアホイールを用意している (C)A.S.O.
多発するパンクに備え、コース各所でチームスタッフがスペアホイールを用意している (C)A.S.O.

このレースを乗り切るために、しばしば自転車も特殊なものが投入される。パヴェからの激しい衝撃を少しでも緩和するために、通常のロードレースよりも太めのタイヤ、2重に巻いたバーテープは当たり前。最近では各社がパリ~ルーベ専用の衝撃吸収性に優れたフレームも用意するほど。90年代初頭には、フロントフォークにサスペンションを採用することも流行した。

パリ~ルーベに最多優勝を誇るのは、ロジェ・デフラーミンク(ベルギー)とトム・ボーネン(ベルギー)で、両者とも4回優勝している。次いで多いのが、オクタヴ・ラピーズ(フランス)、ガストン・ルブリ(ベルギー)、リッック・ファンローイ(ベルギー)、エディ・メルクス(ベルギー)、フランチェスコ・モゼール(イタリア)、ヨハン・ムセーウ(ベルギー)、ファビアン・カンチェラーラ(スイス)の3回。こうしてみてみると、厳しい条件になるほど闘志を燃やすベルギー人(特にフラマン人)の選手が圧倒的に強いことがわかるだろう。

2016年、アランベールをトップで通過する優勝候補の一角トム・ボーネン (C)A.S.O.
2016年、アランベールをトップで通過する優勝候補の一角トム・ボーネン (C)A.S.O.
2016年の優勝者は、マシュー・ヘイマン(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)だった (C)A.S.O.
2016年の優勝者はマシュー・ヘイマン(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)だった (C)A.S.O.
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WRITTEN BY仲沢 隆

仲沢 隆 自転車ジャーナリスト。早稲田大学大学院で、ヨーロッパの自転車文化史を研究。著書に『ロードバイク進化論』『超一流選手の愛用品』、訳書に『カンパニョーロ −自転車競技の歴史を“変速”した革新のパーツたち−』がある。

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