どうして日本では粗悪自転車が今まで売られてきたのか?
目次
自転車の安全基準はどう決まっているのか
自転車と一口に言っても高い物から安い物までピンキリだが、いくら安い物でも店で売っている以上は何らかの安全基準をクリアしているはずと考えるのが一般人の感覚だろう。
日本国内はJIS規格
ところがこれまでは自転車業界の自主基準はあったものの国の安全基準が存在しなかった。日本にはJISという工業規格があり日本国内で製造される自転車はJIS9301に則って作られている。
(出典:一般財団法人 日本品質保証機構)
一方、日本向けの外国製品はJIS規格のベースとなった国際規格のISO4210を基準にして作られている高級自転車もあるが、基準関係なく安さと見た目だけが売りの、安全は二の次といった粗悪品も存在するので注意が必要である。
名は体を表してない!?有名クルマブランド自転車にご用心
初心者が騙されがちなのは有名クルマブランドのロゴをまとった自転車たち。某スーパーカーブランドを冠した自転車が一昨年フレームの破断事故を起こしたのは記憶に新しい。
日本には国家レベルの安全基準が無いゆえに、これら安さ優先の粗悪品輸入を水際で食い止められず今でも相変わらず販売が続いている。
具体的に粗悪品とは先述の通り強度不足でフレームが破断したり、上にだけ折りたためるはずのペダルが力強く踏むと下に折れたり、運転中にハンドルがステムごと抜けたりする問題を抱えた商品のことを言い、保管状態が劣悪でメンテナンスもせず、本来の性能から程遠い自転車に乗って事故を起こすのは所有者に問題がある。
実は粗悪自転車による事故は多い
自転車本体の瑕疵に起因する事故は毎年のように起きているのだが、大きな事故にならないと報道もされないので、ほとんど実態は知られていない。
売る方も売る方だが、買う方にも問題があって、一時的とは言え命を預ける乗り物に出費を惜しんで何か事故が起きてからでは遅い。
安全な自転車を見極めて賢い消費者になろう
これまで安全基準が定まっていなかったので販売現場は安い自転車を求める人がいる以上ニーズに応えて来たが、今後国が安全基準を確立すれば基準に満たない粗悪品は流通しづらくなるし、表立って販売もできなくなる。
業界内には新基準をクリアするためのコストを価格に上乗せすることを不安視する向きもあるが、真っ当な自転車を売るチャンスだと捉え、業界も襟を正して販売単価を上げることで適正利潤を頂戴し、安心安全な自転車を流通させて行くべきである。
では現状、国の安全基準が定まっていない中で賢明な消費者が安全な自転車を見分けるには、一体どうすればいいのだろうか。
見分けるポイントとなるのは
ひとつの目安となるのが、BAA(Bicycle Association Approved)やSBAA(Sports BAA)のシールがフレームに貼ってあるかどうかだ。
社団法人自転車協会が設定した安全基準をクリアした自転車に任意で貼付されるマークだが、フレームの耐久テストなどをクリアするだけでなく、公的資格者である自転車技士または自転車安全整備士が最終組み付けをすることで本来の性能が発揮できるように仕上げる。
あくまで業界の自主基準なのだが、ISOに準拠した厳しい検査項目が設定されているので一定のレベルに達していることは間違いない。
これ以外にも一般財団法人製品安全協会が認定するSGマークや安全規格ではないが日本工業規格のJISマークが貼付されていれば、ある程度は安心できる。
ただしシール貼付は任意(販売店が自転車協会からシールを購入して貼付)なので高級自転車でもBAAやSBAAマークが貼られていないケースがある。
金額上での目安は
安心できる購入金額の目安としてクロスバイクなら自転車本体の値段が5万円以上の物、ロードバイクや折りたたみ自転車なら10万円以上の物を買うことだ。
決してホームセンターなどで目玉商品になっている1万円以下の折りたたみ自転車を買ってはいけない。
折りたたみ自転車は当然ながら折りたためることが最大のメリットだが、激安商品はたたみにくい構造になっていて実際ほとんどの方が折りたたまずに使うから、全く買う意味がない。
また普通の自転車より折りたたむ部分の強度が必要だから1万円以下で製造するなんて土台無理なのに強度を下げることで可能にしている。
ママチャリより作る手間がかかるのにママチャリと同じか更に安い理由を考えてもらえば、どんな代物か想像していただけるはず。
安物買いの銭失いを避けよう
一見すれば立派な自転車でも実際は強度不足の粗悪品でしかない。まがい物が堂々と売られているのは如何なものかと思うが安全基準がないので取り締まりようもないというのが実態である。くれぐれも安物買いの銭失いにならないよう、マークや販売価格を確認しつつ一定レベル以上の自転車を買うことで粗悪品を掴まないようにしたい。
TSマークというのもあるけど?
自転車販売店で整備してもらうと貼ってくれるTSマーク。取扱店なら新車購入時にTSマークを貼ってくれる。自転車安全整備士が整備をした自転車に貼付でき、1年間の自転車保険(賠償責任補償、傷害補償、被害者補償)が付いてくる。自転車本体に保険がかかるので、誰が乗っても適用されるのがメリット。
点検費用は1,000円から2,000円程度で部品交換するなら別途費用が掛かるが、ブレーキワイヤーなどは使っているうちに伸びてしまうから、年に一度の点検で安心が買えると思えば安いものだ。
TSマーク保険は最近補償額を5,000万円まで上げて(赤シールの場合:平成29年10月1日以降交付分は1億円)判例に対応して来ているが、あくまで点検が主で保険はオマケなので、保険部分に期待するなら別の自転車保険がオススメ。
第一、示談交渉代行サービスが付いていないし保険金を請求するにもハードルが高いと聞いている。悠々自適の方ならいざ知らず、勤め人に示談交渉は酷だ。素直に示談交渉代行サービスの付いた自転車保険へ加入した方がいい。
ヘルメットの安全基準とマーク
自転車乗車時のヘルメット着用は義務化されていないのだが、ヘルメットの安全基準にも触れておく。
日本ではオートバイ乗車時のヘルメット着用が義務化されているので、オートバイ用については国で安全基準を明確に定めてある。
オートバイ用で最も多いのがPSCマークとSGマークで、貼ってないと売ることすらできない。自転車用ヘルメットはマーク無しで販売することも可能だが、子ども用自転車ヘルメットには必ずと言っていいほどSGマークが付いている。
次に多いのがヨーロッパ規格のCEマーク。ロードバイク用のヘルメットにはJCF(日本自転車競技連盟)公認/承認マークが貼られているケースもある。
自転車レースに出ようと思っている人は大会参加要件にJCF公認ヘルメットの使用が義務付けられている場合があるので、対象となる方は調べてもらいたい。
他にもSNELLやCPSCといった規格があるが、上記のいずれかのシールが貼ってあれば品質は折り紙付きだ。自転車用ヘルメットの場合は流通量が限られており、粗悪品も少ないため有名メーカーの物を選べば間違いない。
ただし金型が縦長の欧米タイプだと頭の形に合わないことが多いため、日本人の頭に合わせたヘルメットを製造する国内メーカーのヘルメットを強く推奨する。
自転車を安心して買うために
同じメーカーの同じモデルでも性能に差が出る理由
そもそも自転車は販売店に7分組みや9分組みで届いて店で最終的に組み付けるのだが、誰が組み付けたかによって性能の差が大きく出てしまう。
筆者の友人が営む自転車店ではメーカーから届いた7分組みの自転車を、そのまま完成車にして販売せず一旦全部バラしてからグリスアップして組み直す。
大変な労力と時間を要するが、一時的にせよ命を預ける乗り物なのだから妥協はできないというのが彼のポリシーだ。全ての店が彼のように全部バラして組み直すということまで出来ていない。
特にスーパーで売られているママチャリなどは9分組みで届くので、ハンドルをまっすぐに直しペダルを付ければすぐ売れるから、面倒なグリスアップなどはやらない。
もちろんメーカーが製造過程で必要最低限のグリスは注入して納品しているはずだが、友人曰く大手メーカー品でもグリスの量が足りないことがあるそうだ。友人の店でもママチャリを売っているが、スーパーのママチャリと比べて、どちらが安全快適で長持ちするかは明白。
自転車は「買って終わり」ではない
最近はネット通販で自転車を買う人が増えているけれども、自転車はメンテナンスしつつ乗るものなので行きつけの店を持っておいた方がいい。
友人のように何かと相談に乗ってくれて、サイクリング企画に誘ってくれるような店を探してもらいたい。
彼の店で自転車を買った方はつくづく幸せだと思う。新車購入時も無理に高い自転車は勧めず、目的と予算に合った数台を提示してくれる。自転車を選ぶ際に様々なマークも目安となるが、絶対ではないと覚えておこう。
自転車活用推進法にかかる期待
今年から施行された新しい法律
2017年5月1日に施行された自転車活用推進法では第8条の第5項で「高い安全性を備えた良質な自転車の供給体制の整備」と書いた。この「高い安全性」の部分は基準があってこその高い低いとなるので、遅ればせながら国レベルの安全基準を作らなければならなくなった。
現在進行形の推進計画に集まる注目
担当官庁は経産省なのだが、2018年6月をめどに自転車活用推進計画を策定する流れになっているので、その中で経産省の車両室が、どのような作文をして来るか業界内では注目されている。(注1)
驚くべき平均価格の安さ
もし業界自主基準のBAAやSBAAが追認されて国の基準に引き上げられることになれば基準に満たない粗悪品を駆逐できる可能性が出て来る。
だいたい、日本で販売されている自転車の平均購買単価が1万1千円程度で欧米諸国と比べて異様に低いのは、国家レベルの安全基準が存在せず安さ優先で粗悪品を大量に輸入しているからに他ならない。
早期実現を期待される安全基準の向上
安くても一定の基準をクリアしていれば良いが、ペダルが逆側に折れたり、ハンドルが抜けたりするものまで販売できてしまっているのは消費者無視のひどい話である。
一定基準はクリアしているだろうという淡い期待を裏切るだけでなく、下手をすれば買った人の一生を棒に振ってしまう事故を起こしかねない粗悪品は何としても水際で止めなければならない。
それを未然に防げるなら、ここはひとつ推進本部の事務局には歯を食いしばって法律を変えてでも自転車の安全基準を明確にしてもらいたいし、自転車の形をしていれば何でもかんでも売れてしまう現状は変えて行かなければならないと強く思う。
注1
法に則って活用推進計画をまとめ、国会に報告するのが国交省に置かれた活用推進本部で、自転車の安全基準を設定するのが経産省です。その他、自転車と健康は厚労省、自転車と教育は文科省、自転車と環境は環境省、自転車と観光は観光庁、自転車と保険は金融庁、自転車ルールの徹底は警察庁がそれぞれ作文をして国交省推進本部と協議して計画をまとめます。各官庁との綱引きが始まっていますが、遠慮があると国民にとって不利益となるので、国会の自転車議連が尻叩きをすることになっています。
経産省にはクルマを含め車両の規格を決める部課(車両室)があり、自転車の規格決めも担当していますから、安全基準の策定も任せています。(以上解説著者)
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