自転車のベルは対車両用の義務、歩行者に鳴らしてはいけないって知っていますか?

歩行者に向けて鳴らすのは違法

歩行者に向けて鳴らすのは違法

 自転車のベルは、あくまでも対車両用であって歩行者に向けて鳴らすのは違法だと言うと多くの方が驚く。同時に「そうなのですか? でも自転車のベルを鳴らしたところでクルマには聞こえないですよね」という反論をいただく。

道路交通法が成立した1960年(昭和35年)当時、クルマの遮音性は今より遥かに低かったし、車道上も静かだったから、それなりに意味があった。現代において有効かどうか考えると、ご指摘の通りクルマのドライバーには聞こえない場合があるかもしれないし、歩行者に対して鳴らすのが一般化しているから、逆に歩行者に対して鳴らすのがご法度ならベルなんて付けなくていいのではと考える人がいてもおかしくない。

ところが法律上はベルを警音器と呼んで装着義務があるので、たとえ飾りになっていても付けていないと法律違反になるし、山道で警笛鳴らせの標識がある場所では、逆に鳴らさなければいけないことになっている。歩行者に向けて絶対に鳴らさないと誓ったとしても、とりあえず装着しておかなければならないことを、まずは知っておいてほしい。

思い出しただけで腹がたつ動画

 10年ほど前にYouTubeに投稿されたある動画を初めて見た際、筆者は湧き上がる怒りを抑えきれなかった。今回ベルについての原稿を依頼されて改めて探したら動画は残っていたが、やはり今見ても頭に来る。投稿した人は面白おかしく事実を伝えているつもりでも、明らかに歩行者を馬鹿にしている。1970年代に自転車も徐行前提で歩道を通って良いことにしたが、結果として長きにわたり歩行者を虐げることになってしまった。

仮にエスカレーター上であっても後ろでベルが鳴ると脇に避けてしまうというのは、それがすっかり習い性になってしまっているからだ。本来、歩行者を保護するのは相対的に強者である自転車の義務なのだが、徐行義務を忘れ、歩道上の優先順位を勘違いし、野蛮な乗り手が守るべき歩行者に対してベルを鳴らして脇へ退かしてきた。

会社で上役が部下に理不尽な要求をする、つまり立場の強い者が弱い者を力で虐げることをパワハラと呼んで社会問題になっているが、歩道上で自転車が歩行者に対してベルを鳴らすことはそれと何ら変わらない。あくまで歩道は歩行者のための空間。自転車は通らせてもらっているという意識を持って遠慮しなければいけない。本来は対車両用であるベルを歩行者に対して鳴らすなんて論外なのである。皆さんが歳をとって足腰が弱り、自転車も乗れなくなった時を考えてもらいたい。

歩く脇を音もなく高速で自転車が走り過ぎたら怖くて歩けない。10年前と今では環境の変化も大きいが、自分が歳をとって反応が鈍くなったと仮定してリンク先の動画を見てほしい。投稿者に悪気は無かったとしても、きっと頭に来ることだろう。

ではベルは何のためにあるのか

ではベルは何のためにあるのか
 自転車ベルは対車両用と書いた。でもクルマに対して鳴らしても聞こえない可能性がある。だったら法律上違反になるからと言ってベルを装着しなければならないなんて、おかしいと思う人もいるだろう。

例えばガチのロード乗りは車体を1グラムでも軽くしたいと思っているから尚更だ。アンケート結果では驚くべきことに1/3の人が装着していない実態が浮かび上がった。もちろん自転車も車両だから対車両用には対自転車用という意味が含まれる。

見通しの悪い交差点に差し掛かった際にベルを鳴らす場面では直交する自転車に対する警告の意味もある。自転車のベルはクルマのドライバーには聞こえなくても接近する自転車には確実に聞こえるのだから、まったく意味がないわけでもない。

 ドライバーには聞こえないかもしれないと書いたが、いやいや案外聞こえるものだという声もある。さすがに遠くからでは聞こえないが、間近で鳴らせば聞こえるという人がいるので、危険回避の一助にはなりそうだ。もっとも緊急時はハンドル操作で手一杯だからベルを鳴らす余裕は無いかもしれない。結局ベルを鳴らす機会は滅多になく、飾りと化してしまうのはやむを得ないのだが、装着義務があるからアリバイ的にでも装着しておかなければならない。

歩行者とのコミュニケーションについて

 今までは自転車の接近をベルで知らせて歩行者に退いてもらうケースが多かったのだが、それが違反だと分かった後でどうすればいいのか、という質問をもらうこともある。

事前アンケートでも何名かの方が声掛けを挙げていたが、それが一番スマート。たとえ自転車側が「すみません」という気持ちでベルを鳴らしたとしても、歩行者には「退け」と聞こえてしまう。両者のギャップを埋めるために「すみません」と声に出すのは気持ち良いコミュニケーションを形成する上で理に適っている。

ただ、中には声掛けが苦手な人もいるだろう。そういう人は熊避けベルを自転車に装着する手がある。気付きベルと呼んでいるが、鳴らすのではなく地面の凹凸などで勝手に鳴る。意図的に鳴らすのと違って音が断続的に鳴るので反感を買いにくいし、後方から自転車が接近していることに気付いてもらうには十分それで事足りる。幹線道路から一本裏にある歩道もないような狭い道(細街路)に入ると、歩行者が道幅いっぱいに並んで歩いていることがあるが、そんな場面で気付きベルは威力を発揮して嫌味なく道を譲ってもらえる。

 もっとも、都会の広い歩道などで自転車の前に歩行者が大勢いるような場合には、動画のように自転車が歩行者を蹴散らして走ること自体が間違っており、自転車側が降りて押すのが正解。あくまでも歩道上では歩行者が優先だと認識しよう。

昨今の電動アシスト自転車ブームで、お母さんたちに加えて今後は免許証を返納した高齢者が電動アシスト自転車に乗るケースが増えると予測されているが、一漕ぎすれば軽く10km/h以上は出てしまうので歩道通行を認めたままだと、ますます歩行者との接触事故が増えるのではないかと心配している。電動アシスト自転車で徐行するのは困難なので、歩道が混んでいたら早めに自転車から降りて押すことを強く推奨する。

ベルとの付き合い方

 ほとんど鳴らす機会がない自転車のベルを大枚はたいて買うのは無駄でしかないと思う人もいるだろう。ただ、現在装着していない方は厳密に言えば整備不良車に乗っていることになるので、この機会にベルを探して装着してみてはいかがだろうか。

試しにアマゾンでも楽天でも良いので「自転車ベル」と入れて検索してもらうと、値段もピンキリで見たことのないベルがズラリと画面に並ぶ。ネット上では音を聴き比べることが出来ないから、気になるベルがあれば実店舗に足を運んで音色を確認してから買えばハズレを引くこともない。

 装着しなければならないなんて上から目線で言われると、ムクムクと反発心が湧いてくるのが普通だが、ラインナップが昔の比ではない現状では他人との差別化にも一役買ってくれるアイテムになり得る。自転車ベルはママチャリに付いているチリンチリンと鳴るタイプとチーンと鳴るタイプとに大別されるが、チリンチリンタイプは株式会社東京ベル製作所の独占状態。昔はベルメーカーも複数あったのだが、東京ベル以外はほとんど潰れてしまった。

逆にチーンと鳴るタイプは海外からも新規参入するメーカーが増えており、このジャンルの主軸となっている。音が鳴る部分(音響体と呼ぶそうだ)の材質も合金製、真鍮製、木製などがあり、形状も従来のお椀伏せ型に加えハンドル一体型(?)、ヘルメットカバー型、方位磁石一体型などがラインナップされている。

自転車ベル
自転車ベル

バリエーションが増えたことで、お気に入りのベルが発見できる状態になっていて、筆者も今まで知らなかった新しいベルに出会えてワクワクしている。必ず装着しなければならないのならば気に入った商品を選びたいものだが、一昔前は選択肢が少なかった。これから買う人は商品に選択の幅があって羨ましい。

東京ベルはチーンタイプも複数作っているが、同社のウェブサイトでは実際に音が聴けるようになっているので、ぜひチェックしてほしい。こんなベルまであるのかと驚くはずだ。普段は鳴らす機会がなくても、見通しの悪い交差点や警笛鳴らせの標識がある場所では鳴らさなければならないので、チャンス到来とばかり鳴らして余韻に浸っていただきたい。

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WRITTEN BY内海潤

NPO法人 自転車活用推進研究会 事務局長 東京サイクルデザイン専門学校の非常勤講師として次世代の自転車人を育てる一方、イベントや講演会などを通じて自転車の楽しさや正しい活用を訴える活動を続けている。テレビへの出演多数。共著書に「これが男の痩せ方だ!」「移動貧困社会からの脱却」がある。別名「日本で一番自転車乗りの権利を考えている*事務局長」(*FRAME編集部見解)

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