自転車が車道での交通事故で命を失わないためにはどうするべきなのか?

事故

自転車通学の女子高生の死亡事故で見えること

2017年10月19日、埼玉県八潮市において自転車で登校途中の女子高生がトラックに轢かれて死亡した。雨の日だった。

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朝6時台というから部活の朝練に向かっていたのだろうか。トラックの運転手によると女子高生が道路中央線側に転倒して避けきれなかったらしい。

女子高生が傘さし運転をしていたのか、なぜ転倒したのか、あるいはトラック運転手が嘘の証言をしているのか、メディアは伝えていない。

将来のある高校生が自転車事故で亡くなったことに深い悲しみを禁じ得ないが、ネット上では運転手の肩を持つ声、女子高生を擁護する声の双方が飛び交っている。

同じような事故を二度と起こさないためにも、問題を整理しておきたい。

自転車が車道を走るから事故が起こるわけではない

その比率約7割!自転車の事故が多いのは交差点

そもそも自転車に車道を走行させることが間違っており事故を誘発しているという道路交通法(以下、道交法と略)への批判がある。
単路部で事故が起きた場合は自転車側の死亡率が高いので、車道走行させることを危険視する声も存在するのだが、単路部での事故割合は少なく、事故の約7割が交差点で起きている

交差点での事故が圧倒的に多い
交差点での事故が圧倒的に多い

もちろん少ないから無視していいと言っているのではない。ただし自転車事故を分析すると自転車側に法令違反のあるケースも約8割と多いのだ。

これには交差点進入時の左右安全確認漏れや音楽を聴きながら、前方不注意、傘さし運転などの安全運転義務違反が含まれる

一時より減ったとは言っても自転車の絡む事故は全国で1年間に約9万件起きており、ほとんどがクルマに撥ねられている

どうも自転車乗りはドライバーの判断を過信する傾向があるが、まずはドライバーから見えていないことが多い実態を理解しなければいけない

車道は危ないからと自転車が歩道を走ることで危険にさらされる人が出てくる

車道を安全に走れるようにすることは筆者にとっても悲願であり、すべての道路を構造分離の自転車道に出来れば良いが、残念ながら現状では財源と国民の理解が得られない。

それを目標とするものの現状とのギャップが大きい中で、移行期間中は従来通り自転車を歩道へという論には賛同できない

歩行者も当然守られるべき存在だ
歩行者も当然守られるべき存在だ

音を立てて超高齢社会へ傾いている日本で、従来通り自転車が歩道を走るべきだと言っている人は自転車のことしか考えていないはず。自転車乗りがこれ以上死なないためには歩行者を犠牲にしてもいいと言うのか

自転車乗りとして女子高生の死を決して無駄にはしない。とは言うものの筆者も明日は我が身である。どう事故に備えるべきだろうか。

これだけはやっておきたい、自転車側の自衛策

道交法のねじれと溜まるドライバーのストレス

道交法が成立した時以来、一貫して自転車は車道の左側をクルマと同じ向きで走ることになっている

歩道ではなく車道の左側を、車と同じ方向に進む (C)Chee
歩道ではなく車道の左側を、車と同じ方向に進む (C)Chee

交通戦争の解決を急いだ国は、法律を変えないまま緊急避難的に自転車の歩道通行を認め、長らく建前と本音が乖離した状態で現場の警察官たちは歩道へ誘導してきた。

それが文字通り180度ひっくり返って車道徹底と宣言したのが2011年の秋。それから6年の時が流れた。少しずつ自転車が本来の車道へ戻りつつある
過渡期の哀しさでルールを理解しない自転車乗りが危険行為を繰り返すことに対して、ドライバーの怒りは溜まっていることだろう。

道路税を払わない自転車は車道を走る資格が無いから、とっとと出て行けという声があることを筆者も承知している。もっとも、その論にも無理がある。道路はクルマ専用ではない。歩行者は道路を歩くなと言っているのと同じだ

自転車に乗る時は自分の存在をアピールする

自転車が法律通り車道左側を走るとして、事故に遭わないために何が出来るだろうか。目立つことも大切だ

以前、この稿で筆者は前後合わせて10個以上のライトを点けて走っていると書いたら笑われた。「俺はバカみたいに電気点けて走りたくないから裏道を走る」とのコメントがあった。

東京などの都会なら、それもアリ。物理的にクルマと離れて走れば衝突の可能性は下がる。

ところが裏道にも落とし穴があって、信号機もなく見通しの悪い細街路の交差点が自転車事故の発生件数ワースト1なのだ。辻々で一旦停止して、安全確認をすれば事故は防げるが、いちいちやっていられない。

一時停止を怠ったために起こる事故は後を絶たない
一時停止を怠ったために起こる事故は後を絶たない

昨日は大丈夫だったから今日も平気だろうと、止まらずに進入して運悪く出会い頭の事故を起こしてしまうケースが多い。また、ペダルが重くなるのが嫌でライトを点けずに走るステルス自転車もいるから、こちらにも要注意だ。

ドライバーとのコミュニケーションで事故を防ぐ

ほかに車道でクルマと衝突しない方法は無いか。コミュニケーションを取りながら走るというのも重要。ドライバーだって事故を起こしたくないから、アイコンタクトとハンドサインを駆使したい

ハンドサインで意思表示をはっきりと
ハンドサインで意思表示をはっきりと

ICTの進化で新しいコミュニケーションツールが登場するかもしれないが、現状はアナログな方法でドライバーと意思疎通しながら走るしかない。

最近では自転車を検知するセンサーを搭載したクルマが登場しているものの、まだ自動運転ではないのでドライバーの判断に依存する部分が大きい

環境に配慮してヨーロッパや中国を中心に電気自動車(EV)への切り替えが急速に進みそうなので、案外早く自動運転車も実用化されそうな気がする。

自動で自転車を避けてくれるのだったら自転車道なんて要らないではないかという話にもなるが、未来は誰にも分からない。

ヘルメットをはじめとしたアイテムでとにかく首から上を守る

強制はしないがヘルメットも命を守ってくれる。全自転車事故死者の約64%が頭部損傷で亡くなっている。ヘルメットに準じる、カスクやキャップ、バンダナだって何もかぶらないよりはマシ。

ヘルメット、カスク、キャップ…とにかく頭を何かで守ること (C)Chee
ヘルメット、カスク、キャップ…とにかく頭を何かで守ること (C)Chee

とにかく首から上を守って欲しいホーブディングというスウェーデン発の自転車エアバッグもジワジワ来ている。

衝撃でエアバッグが開き頭部を守るホーブディング 出典:ライトウェイプロダクツジャパン
衝撃でエアバッグが開き頭部を守るホーブディング
出典:ライトウェイプロダクツジャパン

追い抜き車間1.5mの余裕が命を守る

ドライバー諸氏の中にはママチャリ以外の自転車に乗らない方もおられるだろう。車道の左側を走る自転車にクラクションを鳴らした経験をお持ちの方もいるのでは?

フラフラ走る自転車もあるから確かに危なっかしい。信号待ちをしていたら脇から信号無視をして交差点に突入する自転車も数多くご覧になっているだろう。なんだよ、取り締まりが無い(事実上)のをいいことに、やりたい放題だなと憤慨されているに違いない。

おっしゃる通りで返す言葉もないが、そんな自転車でも轢いたりしたら一大事。過失相殺割合で不利になるケースが多い。クルマの方が強いから前方不注意と言われるかもしれない。

仮に自転車が目の前で方向転換したのだとしても。君子危うきに近寄らず。お互いのために、自転車を追い抜く際は最低1.5mほど離れてもらいたい。

追い抜く際はぜひ思いやりの1.5mの余裕を
追い抜く際はぜひ思いやりの1.5mの余裕を

対向車が来て抜けない時は? なに、すぐに追い越すチャンスは来る。少しだけ我慢して自転車の後ろを走っていただきたい。もし、無理に抜こうとして引っ掛けでもしたら一生後悔しても、まだ足りない。一時の気の迷いで一生を棒に振ったなどと思いたくないはずだ

故意に事故を起こす人などいない。21世紀に入って交通事故は減り続けているが、それでも毎年約4,000人の方が事故で命を落としている。普通の人が加害者になることが多いからこその数字である。1.5mの根拠は諸説あるが、最も有力なのは自転車が中央線側に転倒しても頭部を轢かない距離というもの。

行政も1.5m運動の周知徹底に力を入れている 出典:愛媛県庁
行政も1.5m運動の周知徹底に力を入れている
出典:愛媛県庁

今更ながら、くだんの女子高生がヘルメットをかぶり、トラックが1.5m離れて抜いていたら死なずに済んだかもしれない。

善良なるドライバー諸氏としては脇すれすれを追い抜くと万が一の事態に対処できないと理解していただき、最低1.5mは離れて抜くことを心がけるよう、お願いしたい。

交通事故のない世界を目指してなすべきことはなにか

ドライバーが自転車に気づいていないかもしれないと考えて行動する

自転車に乗る人もクルマを運転する人も、当然ながら事故とは無縁でいたい。でも時と場合によって、不運が重なると事故は起きてしまう。

自動運転車なら自転車が転倒した際に何事もなかったように避けてくれるのかもしれないが、しばらくは自分の身を自分で守らなければならない時代が続く。

自転車乗りはドライバーから自分が見えていないと仮定して目立つ工夫をすると共に、ドライバー心理を考えて先回りした行動を取って欲しい

例えば脇道を走って来て幹線道路へ左折合流したいクルマのドライバーは右から来るクルマが切れるのを待っている。流れが切れたら、すかさずクルマを発進させたいから意識は右方向に集中している。

ドライバーの意識の外にあれば、自転車がそこにいても見えていない
ドライバーの意識の外にあれば、自転車がそこにいても見えていない

順走して来た自転車は視野に入るから認識されるが、クルマの左方向から逆走または歩道を通行して来たら、ドライバーからは認識されないことを理解してもらいたい。左方向からの自転車は意識の外にあるのだ。

待たれる自転車ルールの周知徹底

現状で自転車が通ってもよい歩道は全て相互通行可となっているが、これを一方通行にする案がある。

車道走行を義務化する前段階の試みとして、自転車は常にクルマと同じ向きに走ることを浸透させる目的なのだが、取締りをしなければ絵に描いた餅になる。でも、やってみる価値はある。

筆者は「少しくらい逆走」と呼んでいるが、その先で右に曲がりたいから、あらかじめ道路を渡って逆走する自転車も左折合流するクルマの餌食になりやすい。

道路は自分だけの物でなく、多くの利用者が道交法に則って動いている。思い込みで利用すると痛い目に遭うことがあると理解して運転してもらいたい

自転車が都市交通の一端を担う時代は案外すぐに来る。いや、すでに来ている。ルールの周知もないまま活用を推進していくと冒頭のような悲劇が続く。

すべての事故を未然に防ぐことはできないが、交通参加者の意識を変えれば防げる事故も多い。せっかく授かった大切な命を粗末にしたくないし、交通事故に遭ったと思ってあきらめろという日本ならではの慰め言葉は、もう聞きたくない。

2018年夏に計画が定められる予定の自転車活用推進法 出典:国土交通省
2018年夏に計画が定められる予定の自転車活用推進法
出典:国土交通省

自転車活用推進法に基づく推進計画を来年夏までに国が定めることになっているが、くれぐれも絵に描いた餅で終わらせない内容にしてもらいたいものだ。

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WRITTEN BY内海潤

NPO法人 自転車活用推進研究会 事務局長 東京サイクルデザイン専門学校の非常勤講師として次世代の自転車人を育てる一方、イベントや講演会などを通じて自転車の楽しさや正しい活用を訴える活動を続けている。テレビへの出演多数。共著書に「これが男の痩せ方だ!」「移動貧困社会からの脱却」がある。別名「日本で一番自転車乗りの権利を考えている*事務局長」(*FRAME編集部見解)

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