モラトリアムをこじらせて、自転車で日本一周した話vol.3〜東北編〜

2009年の4月に大学を卒業した僕は、自転車にテントや寝袋を詰め込んで自転車日本一周の旅に出かけた。

大学卒業後は、社会人になるのが一般的だろうと思う。しかし、僕はモラトリアムを延長してしまった。

出発した東京から京都へ向かい、京都で自転車屋さんのシェアハウスに転がり込んで、鴨川沿いの飲食店でバイトをした3ヶ月間はあっという間に過ぎた。

京都を出発する時がすぐそこに迫っている。

(前回までの話はこちら)

梅雨が明けて京都を離れ、恋人に会いに東に向かう

京都を離れたタイミングは、ちょうど7月の祇園祭が終わった時期だった。祇園祭を過ぎると、京都は不思議と梅雨が明ける。自転車旅で雨が降ると不便が多い、出発には絶好のタイミングだ。

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京都でお世話になった方々に挨拶をして、僕は再び東へ向かう。頭の片隅にはこんな考えがあった。

「冬場に東北や北海道に向かえば、雪が降るから走れないだろう。寒さも厳しく、野宿もできないに違いない。」
いま出発すれば、8月半ばには北海道には到着できるはず。そうすれば、雪が降る前に北海道を一周できる。

……そんな考えもあったのだけれど、正直なところ、当時付き合っていた女の子に会いたいという思いが、僕を東に向かわせたのだと思う。

自転車旅行を始める数ヶ月前から、僕らは付き合い始めていた。彼女には「大学を卒業したら自転車で日本一周したいんだ」と話していて、彼女はそれを応援してくれる少し変わった女の子だった。

旅に出た後も、京都に滞在している間も、毎日のように連絡を取っていたけれど、やはり直に会いたい。

東京にいる彼女に会って、そのまま東北を走って、北海道を目指そう。というのが正直な気持ちだった。

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京都から東京まで通った道は、一度通った道だ。見知らぬ道を走ると、その先に何があるか分からない。「まだ着かない」「この道で本当に合っているんだろうか?」と思いながら何度も地図を見直したりする。

一度通った道は確信を持って進める、だから体感距離はぐっと縮まる。
会いたい人に会える嬉しさもあったのだろう、見覚えのある京都〜東京間を僕は軽快に走り抜けた。

東京に到着してからの1週間は、母校のある練馬区の江古田にウィークリーマンションを取って彼女と過ごした。

合間合間に友人と会いながら、彼女と出かけていると、あっという間に時間は過ぎて、出発の時。

別れの寂しさはいつになっても変わらない。この後も、彼女は僕の旅先に会いに来てくれたのだけれど、彼女を送り出す時の寂しさはずっと変わらなかった。

東京を出発してから向かった先は、千葉の犬吠埼だ。
その時、雨が降って周りはグレー一色になっていた、観光どころじゃなかったけれど、僕はここで二十歳のチャリダーに出会った。
※チャリダー:自転車に乗って旅行をする人たちの愛称

二十歳のチャリダーと二人旅

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チャリダーの名前はタケルくん。
山梨からつい2週間前に出てきたばかりの坊主頭のチャリダーで、切れ長の目と高い鼻。「〜ッスよ」と軽いノリで話す彼も、同じく日本一周を目指しているらしい。

同じチャリダーなので、話も盛り上がり、僕たちは北海道まで道中を一緒に走ることにした。

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タケル君は、少し変わっているやつだったけれど、道中は楽しかった。

彼は、荷物には携帯ゲーム機を2つ入れていて、充電コードとソフトを複数所持している。ドラクエとモンスターハンターにはまっていて、それを毎晩テントの中でやり込んでいた。

「もったいない、せっかく旅先にいるのに、家の中みたいな生活だ」。と思ったけれど、彼には彼の楽しみがあるのだろう。お節介を言うのはやめておいた。

ある時は、移動中、有名な神社やお寺が3つ続く日があった。時間はいくらでもあるからと、僕らはそこに立ち寄る。すると彼は行く先々でおみくじを引くのだ。

1つ目の寺は200円の恋みくじ、2つ目の神社は100円の普通のおみくじ、3つ目の寺はなんだか忘れたけれど200円。合計で500円。それだけあればメシが一回食べられる。

側で見ながら「無駄遣いだよなぁ」と思っていたけれど、楽しそうな彼の顔を見ていると何も言えなかった。

日光、宇都宮、郡山、福島……。僕らはだんだんと北上して、東照宮参り、宮城の牛タン、松島散策、盛岡でわんこそば、などなど。ベタな観光を楽しんだ。

ベンチで寝たあくる朝、二人して顔じゅうをブヨに刺されていたり、途中で仲良くなったご家族の家にふたりで泊めさせてもらったり、うまい飯もたくさん食べたし、走っている途中、沈んでいく太陽を見ながら「すげぇすげぇ」と言い合ったり……。

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旅は道連れとよく言うけれど、体験を共有できることは楽しい。
ひとり旅であれば、体験したことは自分で反芻するしかない。ふたり旅ならば、同じものを見て、感じたものを話し合うことができるし、失敗しても笑い話にできる。

タケル君と東北を走ったのは1ヶ月ほどだっただろうか。青森の大間でフェリーに乗り、函館に着いた後、彼は「先に行ってきます」と出発していった。

その後、時々メールで送られてくる報告にはこう書いてあった。

「昨日は130km、今日は150km走っちゃいました。ヤバいっす、キッツいです。」そんなに先を急ぐなら、ジムでトレーニングでもしていれば良さそうなのにと思ったけれど、ちょっと間が抜けた彼らしいなと、僕は笑っていた。

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WRITTEN BYスズキ ガク

1986年生まれのライター・編集ディレクター・元自転車屋の店員/ 大学を卒業後、自転車日本一周と、ユーラシア大陸輪行旅行を行う。 編集ディレクターとしての担当媒体は「未来住まい方会議 by YADOKARI

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