このままだと「新幹線輪行」が鉄道会社に禁止される!?

こんにちは、FRAME編集部です。今年のお盆の時期、自転車乗りの皆様には馴染み深い「輪行」がNHKニュースに取り上げられたのをご存知でしょうか? それも、いい意味ではなく、悪い意味で。

ただでさえ車内が混み合うお盆の時期、人が通れないような位置に輪行袋をくくりつけた輪行写真はツイッターであっと言う間に拡散し、「輪行は迷惑」という意見がSNS内で飛び交いました。FRAME編集部でもTwitterでこの「新幹線輪行」についての意見を聞いてみたところ、次のようなコメントが寄せられました。

FRAMEでは今まで「輪行」のマナーに関して、日本で一番自転車乗りの権利を感上げる*自転車活用研究推進会の内海潤事務局長と一緒に考えてきました。
今回の新幹線輪行の件も、再び内海事務局長にエッセイを書いていただきました。

新幹線の通路に輪行袋はNG

お盆が終わり職場は普段通りに回り出した。筆者も実家で母の手料理を食べ、妹と昔話をして大いに談笑してきた。帰京時は亡父のクルマを運転してきたが、途中ルーフにロードバイクを積んだクルマを何台も見て、自転車趣味を本格的に楽しんでいる人が増えたことを肌で感じている。

自転車をクルマの屋根に載せて運ぶ場合はファミレスなど屋根のある駐車場に入る際に気をつければ他人に迷惑をかけることもないが、新幹線など鉄道に載せる場合は自転車を通路に置くと他の乗客に迷惑をかけるのでNGだ。

鉄道各社は自転車ユーザーに厳しくしてでも全体最適を目指すしかない立場なので、彼らに対し文句を言う以前に我々自転車ユーザーが襟を正す必要がある。実は今、先人たちが粘り強く交渉して得た輪行(自転車を無料で電車に載せられる)制度が廃止される危機が迫っている

もし、実際そうなれば各地で開催されるサイクルイベントに参加するには、クルマに載せて行かなければならなくなり参加者が激減してしまうに違いない。申し込みが殺到する人気のイベントならば問題ないかもしれないが、自転車活用推進法を追い風に自転車まちおこしを推進して行く上では大ブレーキとなる。

これからも輪行制度は継続してもらいたいので、我々は何を意識して輪行すればいいのだろうか。読者の皆様と共に考えたい。

サイクルイベントが開催できなくなる日が来るかもしれない!?
サイクルイベントが開催できなくなる日が来るかもしれない!?

袋に入れることを面倒がらず

日本の鉄道で輪行する場合、JRでも私鉄でも輪行袋に入れるのが決まりだ。一部の路線やイベント時など限られた電車では自転車を袋に入れずとも載せることができるが、ごくごく限られたケースに過ぎない。

ラッシュアワーの電車に自転車を持ち込む行為は批判を浴びても仕方ないが、日中や週末だけなら、と解禁する方向へ持って行きたいし、わざわざ袋に入れる手間もなくしたい。

ただ、それには乗客全体のコンセンサスが必要で載せる側にも節度が求められる。
自転車を楽しむ人々の中には折り目正しい人もいれば、いい加減な人もいるだろうから、最低限のルールだけは守ってもらって一般の方々から了解してもらう必要がある。最初から戦闘モードでは到底受け入れられないから、まずは載せる側が謙虚になって落としどころを見つけて行きたい。

それにはまず現行ルールに則り、自転車を輪行袋に入れてパーツが袋から出ないよう小さくたたむ。折りたためない自転車は前後輪とも外して重ねる。前輪だけ外して入れる輪行袋があるが使用は避けたい。荷姿は小さくが基本だ。その上で、邪魔にならない場所を確保する。

袋にきちんと入れて小さく持ち運ぼう
袋にきちんと入れて小さく持ち運ぼう

では具体的にどこへ置くか

JR四国予讃線の特急列車・宇和海には各車両に2台ずつのサイクルルームが用意され輪行袋に入れず載せられるが、自転車専用の置き場所がない特急の場合は輪行袋に入れて最後尾席のシート裏に自転車を置くのがベスト。立てて2台載せる場合は電車が揺れても通路側に倒れて来ないよう注意してほしい。

最後尾席を確実にゲットするには、みどりの窓口で指定してもらえばいい話だが、最近は競争率が上がっており早めに押さえるのが吉だ。自転車を解体して輪行袋に入れたり目的地で組み立てたりするのにいちいち時間がかかるので、輪行の旅は余裕を持って出掛けたい。

解体・組み立て時も邪魔にならない場所を探して作業して欲しい。それから特急列車を予約してない場合、袋詰めする前に時刻表は見ないこと。焦ってパーツを置き忘れる人が多い。

高松駅をバックに輪行準備はOK!
高松駅をバックに輪行準備はOK!

 

さて最後尾席が取れなかった時が問題だが、なるべく後ろの席を予約すると共に最後尾席の乗客に頼んでシート裏に置かせてもらおう。この手間を惜しんでデッキの通路に輪行袋を置いて施錠してしまうとクレームになる。デッキにスーツケース用スペースがあれば置かせてもらってもよいが、視界から外れてしまうので不安は残る。

指定席がない通常の電車の場合は先頭車両の運転席裏側や反対に最後尾車両の車掌室裏側がおすすめ。座席がなく、通路もないので他の乗客の邪魔になりにくい。わざわざ先頭車や最後尾車まで行く価値はある。
ゆめゆめ通路の脇に置いてはならない。もしも当たり屋がいたら、わざと自転車にぶつかって治療費を出せと難癖を付け迫ってくるかもしれない。

個人賠償責任保険で対応可能だと思うが、加入している保険に示談交渉代行サービスが付いていなければ本人が先方と交渉しなければならない。時間がかかって面倒臭いし、そんな相手ならば相当苦労することになるだろう。

あるいは、通路に置くと所有者から見えないのをいいことに蹴飛ばす乗客がいるかもしれない。目的地で開けてビックリだ。カーボンフレームに亀裂が入ったら終わりである。どちらにしても考えただけでゾッとする。君子危うきに近寄らずである。

高価でデリケートなカーボンフレーム。ヒビが入ると致命傷に・・・。
高価でデリケートなカーボンフレーム。ヒビが入ると致命傷に・・・。

先日も書いたが車椅子スペースに置く場合は遠慮がちに。あくまで「置かせてもらっている」というスタンスが好印象を与える。ルール通り自転車を袋に入れているのだから置いて当然、という見え方だと批判が噴出する。ますます輪行制度存亡の危機が迫ってくる。

輪行を有料にする手もある

諸外国の鉄道は自転車専用車両が連結されていて羨ましかったりもするが、自転車の持ち込みを有料にしている国がある。ドイツでは犬にせよ、自転車にせよ、人が持つ荷物以外を有料にしている。

せいぜい日本円で数百円だが、有料にすると堂々と載せられる点がメリットだ。運賃を払った以上は犬にリードも付けず載せたりするようだが、実にドイツらしい合理的な考え方ではないか。そもそもドイツでは輪行袋を使わないので自転車は専用車両や各車両の所定のラックに入れて運ぶ。

海外では車内にそのまま持ち込み可能なケースも少なくない
海外では車内にそのまま持ち込み可能なケースも少なくない

実は1984年から1999年まで日本でも自転車輪行は有料だった。卵が先か鶏が先かという問題はあるものの、一定のニーズがあれば専用車両の増結は出来るはずで、乗客数と運賃収入が増えるのならば鉄道各社とも前向きに検討するだろう。

肩身の狭い思いをするより自転車分の運賃を払って堂々と載せるのはアリだ。まずはJR特急・宇和海の稼働率に注目したい。また高速バスを運行する会社の中には自転車専用の運搬ケースをトランクルームに設置して積極的にロードバイクを預かる一方で、そういう設備を持たないバス会社の中には破損責任追及を恐れて受け入れ拒否をするケースがあると聞く。

人気の高速バスは会社によって対応がまちまちだ。
人気の高速バスは会社によって対応がまちまちだ。

昨今の状況を鑑みると積極的に受け入れる方に分がありそうだが、黎明期に各社の考え方の違いが出ているだけで、今後は設備投資して積極的に受け入れる方向に集約されるだろう。鉄道に限らず、お客様の獲得に繋がる話であれば進めるべきだし、近い内に受け入れ当然となり次の段階としてサービスレベルを競争するようになってもらいたい。
自転車の運賃がかかっても輪行袋不要で解体せず安心して運べるのであれば自転車ユーザーの多くは対価を支払うに違いない。

輪行制度の恩恵を享受する上で

誰もが自転車を鉄道に載せられるようになって30年ほど経つが、それまではJCA(日本サイクリング協会)会員や競輪の選手達にしか許されてなかった行為なのだ。1999年に先人達の署名活動が功を奏しJRと東京メトロが無料化した後は、輪行袋に入れて運ぶというルールさえ守れば、追加料金も取られず自転車を載せられるようになった。

現時点では自転車を鉄道に載せる行為が理解できない市民の中にも、将来的に自転車が好きになって輪行デビューする人がいるに違いない。その時に輪行制度が廃止されていたら、きっと彼(彼女)は悲しむだろう。「なんでだよ」と悪態のひとつも吐きたくなるだろう。

今、自転車に乗っている我々は未来の自転車ユーザーから恨まれないよう制度を継続させる責任がある。自分達だけが恩恵を享受するのではなく、子ども達や孫達の代までバトンを繋ぐ役割がある。輪行制度の拡充を求めて署名活動をしたり集会を開いたりするなど派手に行動するのも一手だが、一人ひとりが邪魔にならない場所に置くことで地道に他の乗客から了解を得て行くことも、自分達の首を絞めない一手だ。

私たちが気軽に輪行できるのは先人の努力のおかげ。マナーを守って楽しい輪行を!(C)ドッペルギャンガー
私たちが気軽に輪行できるのは先人の努力のおかげ。マナーを守って楽しい輪行を!(C)ドッペルギャンガー

各自転車ユーザーが自分の出来る範囲でコンセンサスの醸成に加わってもらうことが大切。自分中心に考えるのではなく全体最適を、全ての乗客が気持ちよく移動できる状態を目指すことこそ、今後も輪行を楽しめる王道なのだと理解してもらいたい。いい加減で心ない一部の輩のせいで、多くの折り目正しい自転車ユーザーが悲しむ結果にならないよう祈るばかりだ。

いかがでしたでしょうか?
「輪行」そのものが存亡の危機、というのは、自転車乗りにとって耳が痛い話でしたね。FRAMEでは引き続き輪行についての皆様のご意見をお待ちしております。TwitterやFaebookでお気軽にコメントをお寄せください。

上に掲載している輪行袋は16/20インチの自転車に対応した輪行袋なのですが、メッシュ生地を採用することで中が見えるようになっています。
周囲の輪行を知らない人でも中に何が入っているのか分かるので安心感を与えることができます。


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WRITTEN BY内海潤

NPO法人 自転車活用推進研究会 事務局長 東京サイクルデザイン専門学校の非常勤講師として次世代の自転車人を育てる一方、イベントや講演会などを通じて自転車の楽しさや正しい活用を訴える活動を続けている。テレビへの出演多数。共著書に「これが男の痩せ方だ!」「移動貧困社会からの脱却」がある。別名「日本で一番自転車乗りの権利を考えている*事務局長」(*FRAME編集部見解)

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