「膝の痛み」を感じたら脱初心者のチャンス!?ハンドルの握り方で変わるフォーム改善
ロードバイク1年目のキコです。最近、サドルを変えたのですが、長距離を走ると膝やお尻が痛くなります。いつか慣れると思い最初は我慢していましたが、一向に良くなる気配がありません。しかも、加速する時にがんばって踏んでもちゃんとペダルに力が加わっていないような感じも…。
「膝が痛くて」「お尻が痛くて」とおばあちゃんのように毎日ぼやいていると、編集長から「プロにフォーム見てもらいなよ。紹介するよ。」と言っていただきました(その一言を待っていました)。
紹介していただいた講師はプロサイクリングチームAVENTURA CYCLING 運営代表/プレイングディレクター
競技歴21年の元プロレーサーで監督でもある管洋介さん。
今回は、「膝が痛くならないためのフォーム改善」のお話です。
いきなり結論から言いますが、フォームは劇的に変わりました。改善前のフォーム、今見ると本当にひどいですね…。これで1年も乗っていたなんて。
目次
指を変えればペダリングが変わる?
「フォーム改善」と聞くと、脚の長さや角度をいろんな機械を使って測ったり、サドルの高さを調整したりすると思うじゃないですか。ところが、今回使ったのは「椅子」と「ローラー台」。あとエアフォームの指導だけ。サドルを変えることはもちろん、位置や高さの調整は一切していません。
そして、意外なことに「指の使い方」がペダリング改善の大事なポイントでした。フォームはどのようにして改善されたのか?「目からウロコ」の大連続の講習の様子をダイジェストで紹介していきます。
「100km走ると膝が痛い」問題、どうすればいいですか?
管 まず、キコさんはどんな問題があって、何を解決したいですか?
キコ 100kmくらいのロングライドで「膝の痛み」が出ます。50km越えたあたりからじわじわと痛みが出始めて、次は腰とお尻が痛くなります。走り終えた後は数日膝がジンジン痛んでしまうので、最近では長距離を走るのは避けるようになってきました。痛みを感じずに走れるようになりたいです。
管 いつも走るのはどういうシチュエーションですか?
キコ ちょっと前までは男性と走ることが多くて、ペースについていくのでいっぱいいっぱいでした。スポーツだし、多少無理してでも速く走る、しかも山も登る。それがロードバイクの醍醐味で、そうならないといけないと思っていました。
管 男性だと乗り慣れた人は平地で30km/h とかですよね。
キコ 遅いと待ってくれるんですけど、追いついたらまた置いて行かれて。自分のペースで走るように気をつけてはいたのですが、やはり待たせると悪いので「速くいかなきゃ、速くいかなきゃ」と焦っていました。
管 追いつくために脚を使って前腿がパンパンになる。そのままがんばると、インターバルトレーニングをしている感じになる。その状態で脚がないのに登らされて、いきなりつらいシチュエーションから入っていたのではないかな。
キコ ツライです…。がんばればがんばるほど膝が痛くなるのが早くなるし。
管 僕は何よりもまず「ペース」が大事だと思うんです。ペースが遅ければ膝で回しててもいい。しかし、スピードアップを考えると、膝だけでペダルを回すと膝への負担が大きくなる。
そこでオススメしたいのが「ハムストリングスで踏む」というやり方です。
どうやったらハムストリングで踏めるんですか?
キコ 「ハムストリング(太ももの裏の筋肉)を使う」ってよく聞きますけど、使えているかどうか全然わからないです。
管 日常のシーンでまず連想してみましょうか。駅の階段を一気に速く駆け上がる時、どうしますか?テンポよく速く上がりたいと思ったら「つま先でパンパンパンパン」と登っていきますよね。この時、かかとは上がっている状態です。太ももの筋肉は前もも(四頭筋群)を中心に使っているはずです。
キコ そうですね。膝の前が疲れてきます。
管 では、階段が300段あるとしたら?脚が疲れてくると上がるペースは落ちて、かかとは自然と下がります。これが前腿に加え「ハムストリングを使っている」状態です。
※ハムストリング:大腿二頭筋をはじめとする大腿部後面の筋肉
自転車は「かかとの上げ下げ」でコントロールする
管 ジャンプする時、拇指球(足の指の付け根部分)を起点にしてジャンプをしないと高く飛べないですよね。高く飛ぶ時は、拇指球を起点に、足首の伸展と共に膝を伸ばして飛ぶ。つまり膝の屈曲感が強いんです。足首と膝っていうのは普段使う筋肉として常用化しているから、反応しやすい。
一方ハムストリングは気づきづらい。それは反応が遅いから。
階段を超ピッチで上がるとかかとが上がっている。ゆっくりと身体を楽に押し上げたいとかかとは下がる。自転車も一緒で、前の人との距離が開いた差を詰めたい時などスピード域によってかかとを上げたり下げたりするのが一番簡単なコントロール法なんです。
ペダルに対してかかとが少し下がると、ハムストリングを動員するきっかけになります。
痛みが出たらフォーム改善のチャンス!
管 膝が痛くなった、お尻が痛くなった、というのはひとつの通過儀礼。ここで初めて「自転車に乗って新しいフォームを作ってみる」という意味が出て来ます。
キコ なるほど。「痛くなったから乗るの辞めよう」はもったいないですね。
フォームで意識すべきポイント
管 膝が痛くなる人は腰が立ってる人が多いですね。そしてハンドルを押して乗っている場合が多いです。キコさんは
- ハンドルを押して乗っている
- ハンドルを引いて乗っている
- ハンドルに手を乗せてのっている
どの乗り方をしていますか?
キコ うーん、そもそも押してるのかどうかもわからないです。
管 では、エアフォームで今の自分のフォームを確認してみましょうか。立って、自転車に乗っている時のフォームを作ってみてください。
キコ こんな感じかな。
管 このフォームの中で意識すべきポイントを僕が指摘します
- 前傾した時に上体は曲がっているか?
- 手首の角度、気を使っていたか?
- 肩甲骨周りは開いているか、閉じているか?
- 肘の角度意識していたか?
- 指は気にしていたか?
キコ なんと…前傾姿勢はとるようにしていますが、それ以外はほぼ気にしてないです。なんとなく乗ってます。
管 自転車は足で円を描くペダリングなので、足ばかり気にする人は多いと思います。実は上体のあらゆる部位の角度で足の筋肉をコントロールできます。
上体の前傾姿勢を見直す
管 腰から折って前屈してみてください。みぞおちから曲げると深く曲がらないので、腰から。
キコ 腰から直角に折るイメージですね。
管 腰から折れてれいればハンドルが近くなります。ただ、体幹がないとこの姿勢は維持できません。腹筋(腹斜筋)で支える力がないと腰が痛くなるので、結局は鍛えないといけないんです。ただ、骨盤を立てると、多少アップライトになりへそ下部分の重さが抜けるので少し楽に前傾姿勢がとれます。
管 腰を一回折って腰椎(ようつい※腰の部分の骨)の辺りからクッと立てる。肩は前ならえのように内側に巻き込む。次に小指を折って肘を曲げる。そして顔を上げて完成。
キコ うわっ!姿勢はきついですが、腹筋に力が入るし、下半身の踏ん張りが効きます!これだけで身体をコントロールできている感じになりました!
管 エアでキープすると身体のどこを使うか分かりやすいですね。ただ、ペダリングするとトルクをかけて踏む事で上体が反動で上がってごまかせてしまう。それだけ人間の上体って重いんです。
使う指はなぜ「小指」?
キコ なぜ小指なんですか?普段はブレーキングのことを考えて、人差し指と中指しか使っていないです。
管 ハンドルの代わりに椅子を使って指の説明をしますね。遠いものをひきつけるときは人差し指を使いますよね。近いものをひきつける時は小指。引き上げる時は中指を使う。
管 綱引きをイメージしてみてください。綱が遠いときは人差し指側を使いますよね。しかし、綱が近くなってくると小指側を使う。小指、薬指で手首を動員すると肘を引き寄せやすくなるんです。
管 前傾姿勢をとって、骨盤を立てて、小指でハンドルを引き寄せる。するとサドルに保持するポイントが作れて、へその下の腹筋に力が入る。それがハムストリングスの動きとつながるんです。
キコ あっ本当だ!上体を起点に蹴る仕草につながりました!
ハムストリングを使えるフォームと使えないフォーム
ハムストリングを使えない(ハンドルを押している)フォーム
管 極端なポイントを言ってしまうと、ハンドルを腕を真っ直ぐに押してる人っていうのは、脚を前に出した上体で、坐骨でサドルに座っている感じになる。この重心だとバランスをとるためにハンドルを押しながらコントロールすることになります。
管 そのまま足をペダルに置くとこうです。これだと膝の屈曲伸展を中心にペダルを回すことになって膝は痛くなります。この姿勢は腹筋は楽だけど、腕が疲れてくると痺れてコントロール性がよくない。しかもお尻の筋肉がない人はお尻が痛くもなる。
キコ 私これです。ハンドルは押していました。そして疲れてくると腕も痺れてお尻も痛くなります。
ハムストリングを使えるフォーム
管 足を後ろにして、恥骨でサドルを探っている状態にします。そして小指でハンドルを脇へひきつけると自然と腰椎あたりから骨盤が立ち腹筋に力が入ります。
管 そのままペダルに足を乗せます。他の手でハンドルを握り込まないでください。重心が前にいってしまうので。竹刀を持つイメージ(中段のかまえ)でハンドルは小指薬指で持ちます。このフォームだと、サドルから坐骨が軽く離れるので、お尻の痛みの意味が変わってくる。腰から折れて前にフォームが行くのでハンドルも近くなります。
管 かかと(正確には距骨の後ろ)で円を描いてあげることによって、前ももの筋肉を使う力を分散できるんです。感覚的に踏み込まなくなる事で膝の屈曲伸展に頼っていないのが分かります。少しトルクを掛けてゆっくりと回しながら足首の上げ下げを円を描きながら調節してみると、ハムストリング動員の瞬間がもっと速くみえてきますよ。
管 ハムストリングのフォームに変えると、以下2点が変わります。
- 膝メインのペダリングから解放される
- 股関節メインのペダリングができる
膝中心で回さなくなるので、膝の負荷は減ります。短距離で痛みが出る場合は主にクリートの位置が合っていないのが原因ですが、今回はロングライドでの痛みなのでフォーム改善で解決します。
ダンシングの重心も指でコントロールできる
管 下ハンドルを握る指を変えてダンシングしてみてください。重心の位置が変わります。
キコ ペダルは足だけで回すものだと思っていましたが、握る指を変えただけで、こんなにも重心が変わるなんて!私の膝やお尻が痛くなる原因もわかりました。
フォームを一辺倒に固めてしまうのはよくない
管 ライドの最中に押し引きのフォームを使い分けられると、使う筋肉も変わって休める幅が広がります。自転車は小技をいくつか持つのが大事。ただ、初心者が安全に乗るフォームとして僕はまず「ハンドルを軽く引き寄せるフォーム」をおすすめしますね。
キコ このフォームは下半身に力がみなぎる感じですが、体勢を維持するのは大変そうです。
管 自転車で使う体幹部の筋肉が弱いと感じる人は、押し引きしながら少しづつ身体を作っていくのがいいと思います。特に筋トレとかしなくても、普段のライドで軽いギアで回す練習をするだけで腹筋はついていきますよ。
自転車は長い時間乗るので、乗っている時に細かく鍛えてあげるほうがいい。このフォームはこれまでハンドルを押していたややアップライトなライダーが、殆どハンドルポジションを変えずにフォームを変える事が出来るので、体幹に余裕がなくなったらまた前のフォームに戻すことができるのでおススメです。
ポジションを決める前に「方向性」を決める
キコ 膝やお尻が痛いというと「サドルやハンドル変えたら?」と周りから言われて迷っていました。脚の長さや角度測ったりしないといけないのかな?とも思っていました。
管 確かに乗ってすぐに痛みを感じる、もしくはサドルのサイズの問題で接点が局所的に痛む場合はサドルを変えるべきですよね。ただ座面後部のクッションが長時間乗って痛くなる場合は、こういったフォームを身につけて行く事で解消して行く余地もあります。つまり長く走るぐらいサイクリングが身近になったらフォームも気にしていこうという事ですね。
フォームは前述の通りスピード域によって最適なフォームがあります。時速15kmでポタリングする方に40km/時でハマるフォームは必要ないですよね。当然、速く走る事を突き詰めれば数ミリ単位でバイクポジションに微調整が出てくる訳です。
つまり、フォームを決める前に「自分の走りの方向性」を決めたほうがいいのではないかと僕は思います。
理想のフォームは進化する
管 そして、フォームが気になってきたら自転車は脱初心者への転換期。まずは違いの分かるフォームを身につけるのがいいですね。フォームの深さは、筋力や距離、スピード域で選ぶべきで、それによって走りのベクトルが見えてきます。今回はキコさんの「100kmのライドでの膝の痛み」を解決するために話しましたが、レースで速く走りたい、とかだとまた理想のフォームは進化して、次第にバイクのポジションにも変化が出ます。
自転車は「考えるのが楽しい」スポーツ!
管 なりたい走りの方向性にも気づきが必要で、僕の講習では「フォームを自分で考える・気付く」きっかけ作りを教えています。自転車は考えるのが楽しいスポーツですから。いや~自転車って本当に面白いですよね(イイ笑顔)!
キコ (うっ…笑顔が眩しい!管さん本当に自転車が好きなんだなぁ)なるほど。今まで確固たる正解がひとつだけあるんだと思っていました。急いでサドルを買いかえなくてよかったです。ありがとうございました!
まとめると・・・「自転車がまた楽しくなった自分がいます」
後日80km近く走りましたが、今までよりも自転車と一体になって走れている感じがして、ものすごく気持ちよかったです。納車したての初めてロードバイクに乗った時と同じような、新鮮な快感を味わえて「あ〜、ロードバイクってやっぱり楽しい〜」と改めて感動するほど。そして膝の痛みはまったく出ませんでした。
今回紹介したフォーム改善の講習内容はほんの一部。実際はもっと細かい理論や身体の使い方を教えてもらっています。また、フィジカルな内容なので、文章と写真でお伝えできる範囲もほんの一部分だと思います。
初心者はもちろんですが、もっと速く走りたいという方も含め、一度管さんの講習を受けてみてはいかがでしょうか。
講師:管洋介 SUGA YOSUKE
1980年生 A型
競技歴21年のベテラン。国内外で50ステージレース以上経験し、スペインで5シーズン BRICO IBERIA , VIVEROS [現 CONTROL PACK]と契約、国内ではアクアタマを設立、インタープロ、マトリックス、群馬グリフィンを経て、国内の有望な若手選手を集めたAVENTURA CYCLINGを2017年に設立、走りながら監督を務める。プロカメラマンでもあり、自転車雑誌の製作に長く関わっている。現在は初心者向けのライディングレッスンなどを多く手がける。
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WRITTEN BYFRAME編集部
FRAME編集部はロードバイク、MTB、ミニベロ、トライアスリートなど、全員が自転車乗りのメンバーで構成されています。メンテナンスなど役立つ情報から、サイクリングのおすすめのスポット情報、ロードレースの観戦まで、自転車をもっと楽しくするライフスタイル情報をお届けします。 https://jitensha-hoken.jp/blog/