前回の記事「自転車好きにはたまらない!オランダで起業した私の自転車生活」では、オランダ生活での自転車との密接な関わりについて紹介しました。こうして「自転車」が交通手段として確立し、生活の一部となっている理由として、自転車道の整備状況が進んでいることが挙げられます。
そこで今回は、「オランダ自転車道の整備状況」について、実際の自転車道の写真や私の体験談を踏まえながら紹介していきます。
目次
オランダの自転車道が出来るまで
現在オランダの自転車環境が整っていることには、これまでの時代背景や当時の人々の活動が大きく影響しています。その歴史を簡単に紹介します。
・交通事故の急増と石油危機
1950~60年代の急速な車の普及と共に、オランダの国内道路も車で溢れかえり、それまで主流であった自転車は道路の縁へと追いやられていくことになりました。車数の急激な増加は交通事故による死者数の増大を招き、1971年には車にはねられて亡くなった人の数が3000人以上、そのうち子供が450人を占めるという危険な状態に。(※1)
この結果、子供のための安全なサイクリング環境を求める社会活動が各地で起こり始めました。さらに1973年に起こった石油危機により、オランダ政府側でも車に対する信頼性や持続性に不安を抱くようになりました。
・自転車生活への転換
こうした社会運動と石油危機の問題は、オランダの国民と政府が一丸となって自転車用のインフラ整備に力を入れる後押しになりました。安全なサイクリング環境作りとより多くの自転車利用者を招待するために、自転車専用道路の国内巨大ネットワークが構築され始め、現在その長さは全長35000kmにも及びます。(※2)
国を挙げて取り組まれた自転車環境の改善により、オランダ国内で起きる交通事故件数は激減。現在では自転車がオランダ国内の交通手段の一つとして確立し、世界一の自転車大国として注目されています。
現地生活で見た自転車道の実態
オランダでの日常生活や国内各地の観光を通して、私が実際に目にした自転車道の整備状況について紹介していきます。
・誰もが安心して使えるストレスフリーな自転車道
歩道・自転車道・車道間に十分な間隔が保たれており、それぞれの道幅も広く快適です。道幅に余裕があるので、後ろから追い越す際にもお互いにストレスなく実施可能です。
道路はどこまでも平坦に整備されているので、自転車以外の高齢者用の自動カートや車いす型の自転車など、どんな利用者にとってもストレスなく運転することができます。
車の寄せ場もあらかじめ考慮し設計されている為、駐車中の車によって歩道や自転車道が遮断されることもありません。
・安全で分かりやすい標識ルール
自転車専用レーンは、標識または赤色の道路カラーで自転車専用であることがはっきりと明示されています。
また、歩道と区別された自転車道専用の信号や、優先者を表す道路上の三角マーク、進入禁止・車道との合流地点の標識など、自転車利用者にとって理解しやすく安全に配慮した環境が整っています。
・自転車優先の円形交差点「ラウンドアバウト」
オランダには「ラウンドアバウト」と呼ばれる円形交差点が多数存在します。私が初めて自転車に乗ってラウンドアバウトを使用した際、ラウンドアバウト内を自転車で通過し切るまで車がきちんと止まって待機していたことには驚きました。
ラウンドアバウトでは自転車に優先権があるため、自転車が交差点を通過するまで車は忍耐強く待機しなければならないのです。
通常は道路地面に設置されるラウンドアバウトですが、都市アイントホーフェン(Eindhoven)には地面から離れ宙に浮いたようなデザインの美しい巨大ラウンドアバウトがあります。
当地点は3つの都市に通じる重要交差点ポイントであり、交通量が極めて多かったため、車道とは完全に離脱したラウンドアバウトが設置されました。
私も実際に自転車に乗り、観光がてらこの巨大ラウンドアバウトを使用してきました。宙に浮いたラウンドアバウトから眺める景色と、車や歩行者を気にせず安全に運転を楽しめる快適さは、まさに自転車天国を存分に味わうことのできる瞬間でした。
・自転車を取り巻く好環境
自転車利用者が多いオランダでは、自転車を取り巻く環境もしっかり整っています。
駅構内や地下、スーパーマーケット、学校、オフィスビルなどのあらゆる場所で無料駐輪スペースが積極的に設けられているため、日常生活のどの場面においても駐輪場所が無くて困ることはありません。
電車内にも自転車を持ち込みすることは可能なので、電車をうまく活用しながら通勤・通学・遠出サイクリングなども簡単に実現できます。自転車の持ち込みが許可されている車両には、ドア部分に自転車マークが付いています。
・ユニークな工夫を凝らした自転車道
オランダでは通常タイプの自転車道だけでなく、場所によってはユニークな自転車道に遭遇することができます。
アムステルダム郊外には、ソーラーパネルを道路に埋め込み、日中の太陽光を上手に利用しているソーラー自転車道があります。
アイントホーフェンには、オランダの名画家ゴッホが住んでいた地域があることから、ゴッホの絵画『星月夜』の模様に似せて発光真珠でデザインされたゴッホ自転車道があります。昼間は至って普通に見える自転車道ですが、夜になると昼間の光を吸収した無数の発光真珠がきらびやかに輝きます。
自転車道があるからこそ起こり得る危険
安全で便利な自転車道ですが、そんな整備の整った自転車道だからこそ起こり得る危険もあります。私が現地で暮らす中で気を付けている4つの注意点について以下に挙げていきます。
1. 自転車のスピード
自転車道の快適さからスピードを出して運転する現地人やプロサイクリストが多く、自転車道について詳しくない短期滞在者(旅行者など)にとっては危険な場面もあります。
スピードを出して後ろから近づいてくるサイクリストがいつでも追い越しできるよう、常に道路スペースを空けて運転するようにしています。
2. 自転車道の交通渋滞
通勤・通学時間帯の自転車道では、しばしば自転車の交通渋滞が発生します。
自転車道に慣れないうちは、交通量の多い道路や交通渋滞の起こりやすい時間帯での自転車使用はなるべく避けています。
3. 全ての場所に自転車道があるとは限らないことの認識
オランダ都市のほぼ全ての主要道路では、自転車道が車道から完全に分離されています。しかし、人通りの少ない裏道や生活街路など、道路が分離せず両者が混在する場所に急に遭遇する場面もあります。自転車道の存在に安心しきらず、常に注意を払い臨機応変に運転する必要があります。
4. 自転車道の利用者への配慮
多くの人々が自転車道を利用していることから、不注意による自転車同士の衝突トラブルも起きています。こうした事故を防ぐため、自転車同士の間は一定の間隔を空け、右折・左折を行う際には必ずハンドサイン(手や腕を使って進行方向を相手に分かりやすく示すこと)が現地の基本ルールです。
私は移住当時、道路の曲がり角でのハンドサインを出し忘れることが多く、向かいから来た現地人に注意されたことさえあります。自転車道でお互い安全に運転するためには、それだけハンドサインの徹底が重要なのです。
最後に
自転車道ならではの危険に十分注意する必要はあるものの、誰にとっても快適でストレスフリーなオランダの自転車道は、現地の人々からも深く親しまれています。
次回は、オランダに住む現地の人々が自転車に対してどのような意識を持っているのかについて、関連の統計データや現地友人・知人からの情報を参考にしながら紹介していく予定です。
是非お楽しみに!
執筆者サイト「Mariholland」
参考文献
※1 BBC.com 「Why is cycling so popular in the Netherlands?」
※2 hollandtradeandinvest.com 「Holland Information」