ARの第一人者は、なぜ自転車に乗るのか?
スマートフォン普及期にAR( 拡張現実 )技術を取り入れたセカイカメラを世に送り出し、ARの概念を世に広くしらしめた井口尊仁さん。
現在はDOKIDOKI.incを立ち上げ、”IoTという非常に大きな産業的機運を社会的な問題解決の側から考えられないか?”と野心的な活動をおこなっています。特にGoogle Glassに真っ向から勝負を挑んだウェアラブル端末Telepathy Oneを覚えている方も多いのではないでしょうか。
そんな井口さん、実は大の自転車好きとして知られています。
ポケモンGOがリリースされ、再びARに注目が集まる中、パイオニアである井口さんへお話を伺ってきました。
最先端の自転車も一般人が買えてしまう
– 井口さんにとって自転車の魅力とはなんですか
自転車は自分を取り巻くものと調和しながら環境を楽しむことができますよね。今は京都に滞在してるんだけど、ここは道が平坦で走りやすいし、少し足を伸ばせば大自然だってある。気軽に今いる場所をエンジョイできるんです。それに最先端の製品=プロが使うようなハイテク自転車を一般の人でも買えるし、街中で使えてしまう。これって凄いことですよね。
だって世界で最高の性能の車に乗りたいだとか飛行機に乗りたいといっても、ちょっと現実的ではない。それが自転車の場合は世界一のレースで優勝したモデルが購入できるし実際に使えるんですよ。100万円を超えるものを購入したこともあるけど、絶対無理って金額ではない。頑張ればなんとかなる。
もちろんお金をかけないウォーキングとかランニング他のスポーツという選択肢もあるんですけど、ウォーキングだと時間がかかるしランニングだと走ることで精一杯になっちゃって他のことを楽しむ余裕がなくなってしまう。
街と対話するために、その街に合った自転車を買う
あとはなんだろう、そういえば僕がサンフランシスコへ行った当時は友人も土地勘もなかったので日本に比べてかなり疎外感を覚えたんですね。もちろん交通機関は発達しているからバスや電車、あるいは徒歩で街を散策したりもしたんですが、どうにも距離感が縮まる感じがしない。そういった生活を1年くらい続けた後にさすがにマズイなと思って行動したのが、サンフランシスコで作られたサンフランシスコの自転車を買うっていうことだったんです。
それで購入した自転車で街を走っていると、お前が作ったのかって声をかけられるんですよね。なんでだろう?って思ったんだけど自転車が文化として定着している街の人って、自転車は自分で作るものって感覚が強いのかな。もしかしたら街の人と仲良くなったり、街をよく知りたい、街と対話したいって人は街に合った自転車を買うといいのかも。
みんなが待ち望んでいたポケモンGO
– ポケモンGOが話題になっていますが、井口さんもプレイされていますか?
はい、やってますよ。リリースされてからすぐにダウンロードしてプレイしています。初代ポケットモンスターを製作している時にたまたまご縁があって製作者の石原恒和さんと田尻智さんとお会いしたことがあり、プロトタイプを見せて貰ったんです。まだ未完成品でした。ただ、妙に心動かされるものを感じ、その瞬間から僕はポケモンが大好きになりました。
ポケモンという不思議な生き物が世界には存在していて、ポケモンをゲットするため冒険へ旅立つ。ポケモンGOによって、その世界観は既に現実の一部として機能しているし、人々の生活に溶け込んでまでいる。かつてはゲーム機の中だけに存在していた世界が自分達のすぐ近くに存在している、興奮しませんか?人気が出たのはスマホでプレイできるからだとか色々言われていますけど、そんなことは小さな事です。みんな、この世界観を待ち望んでいたのだと思います。いい歳をしていても感動してしまうよね。
– ちなみに、お気に入りのポケモンはなんですか
コダックが好きです。愛着が湧くのは断然コダックです。可愛いですよね。この3本の毛とかたまらないですよね。
– ありがとうございます。話は少し変わりますが、かつてセカイカメラで同様の世界観を作ろうとしていたように感じました。そんな井口さんにこそお伺いしたいのですが、自転車とポケモンGOを一緒に楽しむコツみたいな物はあるでしょうか。
巣を回ったりポケストップ目指して行ったりと自転車と相性いいかもしれませんね。今ぱっと思いついたことで、私はポケモンGOと自転車はそれぞれ別々で楽しんでいますが。
なんでもかんでも効率を重視するのは面白みがなくなる
– アイウェアでもっと便利になったりということを考えたりしますか。
自転車に乗っているときにスマホを取り出して、しまって、また走り出してって、大変ですよね。そこでアイウェアでと思ってしまうと思うんですが、実際はいろいろ難しいと思います。なぜなら情報を出すとその分視界、意識が遮られるから。
人間は一度に複数の情報に焦点を合わせられない。きちんと考えて上手に設計しなければ、危険なデバイスになってしまいます。自転車に乗りながら楽しめるなんらかの方法が出てくれば面白いかもしれません。
– 確かに。
そういえば、Google Glassで一つ面白い話があって、当時最先端のガジェットの一番使用された機能ってなんだと思います?
– わかりません
実は「時計を見る」というすごくアナログなことだったという、笑い話だけども切実な問題提起が含まれていると思います。もっと便利に使える、新しい応用方法が考えられるモノのはずなのにどうして?っていう(笑)
– それは印象的な話ですね。
ここまで話して変な話かもしれないけど、、ポケモンGOについては、シャカリキにやらないで日常生活の延長線上で遊んだ方が楽しいかなって思っている。こういう成長のさせ方がいい、こういう移動をすれば早く卵が還るとかみたいな攻略法があったとして、それに沿って遊ぶのって、楽しくない気がするんですよね。決められたレールに沿って行動するのって主体的じゃくてなんかつまらない。当然ゲームだから一定のロジックとかシステムはあると思いますけど、自然な驚きを楽しむ事がたのしくて、なんでもかんでも効率を重視しているのは面白みがなくなってしまいますよね。
ポケモンGOという拡張現実世界があって、僕たちが暮らす実際の世界とどこかで交差する瞬間が楽しいと感じています。あそこの川辺にはこんなポケモンいたよってローカルで情報交換してコミュニケーションが生まれる事であったりとか。プレイする上でのライフハックみたいなものかもしれません。
– 参考になります。今日はありがとうございました。
最後に
今回は京都での取材。井口さん以外にもたくさんの自転車乗り、ポケモンGOを楽しんでいる人達が目にとまりました。街・環境と調和しながら、それぞれを楽しんでいる様子。
そんな環境でのインタビューだった為か ” 効率重視だけではつまらない “、” 現実をより楽しくするツールとしてのAR ” などの考え方にはハッとさせられる部分が多く、日常の中においても役に立てる事ができるように感じました。