【トレック / マドン】トレックが最も多くのテクノロジーを費やしたエアロロードバイク
近年の著しいカーボンテクノロジーの進化によって、スポーツバイクメーカー各社がそれぞれ高性能なロードバイクを世に送り続けています。
最近ではカーボンで軽量に仕上げるだけでなく、どれだけ空気抵抗を抑え、スピードにつなげるかを重要視したモデルが注目を浴びています。その中でもアメリカナンバーワンのスポーツバイクブランド、トレックが世界のカーボンロードバイク市場、強いては空気力学(エアロダイナミクス)を用いたエアロロードバイクというジャンルを引っ張る存在といっても過言ではありません。
今回は、トレック(TREK)のエアロロードバイクであるマドン(Madone)をわかりやすくご紹介します。
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進化を続けるフラッグシップモデルとOCLV
マドンの誕生は、2003年。ランス・アームストロングを擁して、ツールドフランスを連覇(ドーピングによりのち剥奪)している中、発表されました。以前よりトレックが開発していたカーボンテクノロジーであるOCLVカーボンを使ったフレームは瞬く間に人気を博し、以来モデルチェンジを繰り返し進化を続けるフラッグシップモデルです。
トレックが開発したOCLVカーボンとは、Optimum Compaction, Low Void(超高密度圧縮、超低空隙率)の略で、航空宇宙産業で使用されるカーボンより勝る技術と言われ、フレームを成型する際に、カーボンファイバーの層を高密度に圧縮する過程で、カーボン構造内に空気の隙間ができます。この隙間がカーボンの強度を落としてしまう弱い部分であり、この隙間を最小限に抑え、空気の入った隙間をフレーム全体の1%未満に抑える事で、航空宇宙技術の基準をも超える耐久性と高い強度のフレームができるのです。
2012年よりOCLVカーボンはランク付けがされるようになり、OCLV700、OCLV600、OCLV500、OCLV400、OCLV300とカーボン素材によって区別されています。
OCLV700
軍事や航空用に使用される最上級のカーボン素材、最上級マドンSLRに使用(アメリカ製)
OCLV600
トップグレード、マドン9.5に使用されるカーボン素材(アメリカ製)
OCLV500
エモンダSLシリーズなどに使用されるカーボン素材(北米以外で生産)
OCLV400
ドマーネSシリーズなどに使用されるカーボン素材(アジア生産)
OCLV300
エモンダSシリーズなどに使用されるカーボン素材(アジア生産)
全てのグレードで、OCLVの特徴である空気の隙間を最小限にする技術は施されていますが、OCLVカーボンのグレードが高いほど、強度、剛性(固さ)、軽量性は高くなっていきます。アジア生産でも製法やテスト基準、品質管理について、トレック独自の厳しい基準を設け、それらをしっかりクリアしています。
ではOCLVカーボンを使用したエアロロードバイク、マドンとはどんなバイクなのか見ていきましょう。
空気抵抗への徹底した対策ーマドン9.5
マドン9.5 (参考価格:税込860,000円)
OCLV600カーボンを使用した、マドン9.5。シマノのトップグレードDura Ace の電動シフトギアを採用し、トレック傘下のパーツブランドであるボントレガー社のホイールを採用した完成車です。パーツの組み合わせに関しては申し分ありませんが、マドンを語る上で重要なのはフレーム構造です。
前輪を収めるフロントフォークと、大きなトレックロゴが描かれているダウンチューブ部分にはKVFチューブという形状を用いています。KVFチューブとは前方からの空気や風の抵抗を分散させるために正面を尖った形状にし、後方の部分は乱気流を防ぐためと車体の軽量化のために切り落とした断面のような形状にする技術です。
フロントフォーク部分にトレックのエアロフレームに不可欠なKVFチューブ
ダウンチューブに同じくKVFチューブを採用
全てのケーブルはハンドルまたはフレームを伝い、外の空気に触れることなく各コンポーネントにたどり着きます。この辺りも徹底した空気抵抗への対策です。このケーブルのフレーム内蔵式は、ショップスタッフのメカニック目線として、メンテナンス性が今までよりも悪くなったという声も聞かれるものの、トレックのコンセプトストアをはじめ信頼できるショップスタッフに任せておけば問題ないと思われます。
ハンドルとステムは別体というのが今までの常識でしたが、マドンの場合、それも合理的に考えられています。ハンドル、ステムは一体成型されるだけではなく、フレームとの接続部分にも空気抵抗が生まれないようフレームと同じ寸法で作られ、全てが一体化したような形状です。
トレックが独自で開発したマドンに対応したエアロブレーキです。前述の通りケーブルが全て内蔵化されているので、すごくすっきりとした見栄えです。専用設計だけにフロントフォークの寸法にしっかりマッチした形状です。
剛性と快適性の両立 ISO SPEED
空気抵抗を抑えることで、スピードを手に入れることができるエアロロードバイクですが、OCLV600のように高品質のカーボンフレームは軽量になると同時に剛性も上がります。剛性とは素材の固さを表すもので、バイクの剛性が高いという事は素材が固いという事であり、ライダーにとっては路面からの衝撃や踏み込み時にかかる膝の負担などデメリットになるケースもあります。
その解決方法として、剛性はそのままに振動吸収性を高める構造をトレックは開発しました。それがISO SPEEDです。ISO SPEEDとはもともと別モデルであるドマーネという車種のために開発された高い振動吸収性を誇るシステムです。
サドル下のシートチューブという部分を2重構造にし、外側は空気抵抗を考えた形状で、内部は円形のパイプになっており、そのパイプが縦方向にしなる構造です。これにより高剛性のマドンのフレームにも高い衝撃吸収性が得られ、高いスピード域にもかかわらず安定した快適な走りがもたらされます。
まとめ
バイクはフレームとパーツから構成され、各々の特徴を最大限に引き出し良い走りへと導きます。しかしマドンの場合は、独自で開発したパーツやフレームの形状に合わせた専用設計など、より合理的な考えのもと、すべてのパーツがフレームと一体化しバイクを構成することで今までにない、スピード感、快適性、軽量性を手に入れることができます。
マドンはトレック40年の歴史の中で、最も多くのテクノロジーをつぎ込んだバイクです。特にエアロロードフレームの開発には150人ものエンジニアが携わったと言います。
競合各社が次々と自信を持ったエアロロードバイクをリリースする中、トレックのエンジニアたちは常に新しい技術を開発しながら、ライダーのニーズや使いやすさを提供しつつ、マドンを最先端のエアロロードバイクへと進化させたのです。
今後のマドンは、どんな進化を遂げていくのかも含めて、私たちを驚かしてくれることを期待しましょう。
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WRITTEN BYVIKING the MAINTENANCE
都内のプロショップに10年間在籍後、2015年VIKING the MAINTENANCE を設立。東京・西新宿を拠点にスポーク自転車の組付け、カスタマイズ、メンテナンスを軸に展開中。年2回富士山麓でサイクルイベントも企画中。 http://www.viking-the-maintenance.com/