日本がシェアサイクル後進国なのはどうして?

日本でシェアサイクルが広がるために、足りないこと

FRAME編集部では日々自転車に乗っていて疑問に思う場面や、自転車を取り巻く環境を例に、実際にどんな方法が有効なのかを考える連載を行っています。第十弾として今回は下記の問題について考えてみたいと思います。

シェアバイクで世界に出遅れている感のある日本。どうすれば日本でもシェアバイクが広がるのでしょうか。日本で一番真剣に自転車乗りの権利を考えていると編集部が考えている、NPO法人自転車活用推進研究会事務局長の内海潤さんに回答をお願いしました。
内海さんのコラムに移る前に、FRAME読者の回答を見ていきましょう。今回は多くのコメントが寄せられました。

電車で十分

駐輪場が少ない

Facebookにも意見が寄せられました。

全国を移動する仕事なので、便利に使っていますが、日本人にはあまり知られていないのでは?
観光以外の使用用途のアピールが少ないとか?
使っているうえで思うのは、全国で利用法(カード登録含め)を統一してくれたら嬉しい、自転車が走りやすい道を増やして欲しい、ステーションをもっとわかりやすくアピールして欲しい、でしょうか。ーRHさん

乗るのはいいのですが、目的地近くのポートを調べるのがなかなかに大変。ログインに登録名とパスワードの記録ができないから、毎回、打ち直してはいらなくちゃいけない。深夜乗りたいときに限って、携帯の電源切れて、使えない。ーYKさん

千葉でもサービスが始まっていますが、ステーションが少ないです。乗り捨てできると使いやすく、利用者も増えるかと思います。ーTHさん

使い勝手とタクシーの利便性の高さではないでしょうか。
メッセンジャーをやってますが、道が走りずらいし、土地鑑も必要ですよね。
うまく使いこなせば便利だとは思います。ーAIさん

ナビタイムみたいなサービスに組み込まれて、その中で予約も出来れば、もっと使いやすくなるのではないかな。インフラ関連に問題点をもっていくと永遠に解決しないような気がします。
あと、ドコモの使っている電動アシスト自転車は、バッテリーが切れると、結構重い自転車になってしまう。バッテリーだけを交換できるステーションとかあればもお少し電動アシストが活きてくるような気がします。ーTSさん

シェアするって難しいの・・・?
シェアするって難しいの・・・?

これらの意見を読んで、あなたはどう考えましたか?
それではここで、内海さんの意見をお読み下さい。

日本の現状は周回遅れも甚だしい

(一社)日本シェアサイクル協会の協力会員として身内の恥を晒すようだが、国内でシェアサイクルの普及状況は捗々しくない。先日FRAMEにアップされた天津レポートでお伝えした通り、中国のシェアサイクル事情が予想を遥かに上回っていたのとは好対照だ。なぜ中国に出来て日本に出来ないのか? 何がネックになっているのか。スピードアップするには何が足りないのか。彼我を比較して検証してみたい。

日本と中国のプレイヤー比較

日本で最大のシェアサイクル運営会社と言えば株式会社ドコモ・バイクシェアである。同社は携帯電話会社を親会社に持ち、社会インフラとして当初から自治体と組んでシェアサイクル事業を展開してきた。ポート設置場所の確保を考えると自治体と組むことが近道だと判断し、パリのヴェリブや台北のユーバイクのようにラック側に施錠システムを持つタイプではなく、自転車本体に施錠システムを搭載し携帯電話網を活用した個体管理で運用している。
一方の中国はIT企業がシェアサイクル事業に乗り出して群雄割拠している状態だ。天津でも黄色や銀色、黄緑色などカラフルなシェアサイクルが使われている。運営事業者は民間企業だが、ポートの設置義務はなく言わば官製放置自転車。政府は取り締まるどころかプレイヤーが増えてサービスの利便性が上がることを奨励している。

シェアバイクは世界中で急速に導入されている
シェアバイクは世界中で急速に導入されている

使用される自転車の相違点

ドコモ・バイクシェアが採用しているのは全て電動アシスト自転車であるがゆえに、バッテリーの交換やタイヤの空気圧管理などメンテナンスを人海戦術に頼る部分が多く、毎月多くの固定費がかかっている。同社の坪谷社長に聞いた話では、携帯電話会社がサービスを考えると自社の電話ネットワーク網を活用し自転車本体に施錠システムを搭載して電波利用を促進する前提になるため、それを起動させる電源が必要になる。電動アシスト自転車がマストではないが、簡単に電源が確保できるため結果的にそうなったという説明だった。ところが天津では前輪の泥除け部分にソーラーパネルを搭載して電源を賄うシステムが開発されてサービスインしていた。ドコモの複雑なシステムを起動させるには発電量が足りないだろうと推測できるが、人海戦術に頼る従来のサービスでは限界が見えている現状を鑑みれば電動アシスト自転車に見切りを付ける選択もありだと思う。先日、都内で開催されたセミナーでドコモ・バイクシェア事業推進部長の小澤氏は自動充電システムの導入について検討を進めていると説明してくれたが、ノーパンクタイヤの採用も含めて当初からメンテナンスフリーを目指す中国のシェアサイクルを見るにつけ、日本はオーバースペックという気がしてならない。1台の単価が上がれば予算内で購入できる自転車の台数は少なくなるので、設置場所の問題さえなければ安い方が普及の速度は上がる。

課金システムの相違点

中国のシェアサイクルは中国SIMの入った現地スマホがないと借りられない。身分証の事前登録と保証金の支払いがあるため観光客が一時利用で借りることは出来ないが、学生を中心に良く使われている。1回1時間で1元(約16円)なので気軽に使える料金設定だ。自転車に付いている二次元バーコードをスマホでスキャンすると5秒程度でロックが外れる。メールで届いた数字を登録する手間もなく実に簡単。スマホを持たない人は切り捨てる割り切りが実に潔い。
片や日本では自治体サービス事業のため現金で借りたい人や交通系ICカード、クレジットカードに対応することなどを求められるので、どうしてもシステムが複雑になり起動するのに大きな電源が必要になる。税金を投入している以上は誰でも使える「全部入り」仕様にしなければならない事情もわかるが、スキャン一発で個人特定と車体認証をしてロックが外れるシステムを目の当たりにすると、同じようなサービスレベルを期待してしまうのが人間である。

自転車を取り巻く環境の相違点

日本では放置自転車問題が長らく自転車政策の中心を担ってきた経緯もあり、自転車を野放しに増やすことに抵抗がある。これまで苦労して放置自転車対策をやってきた結果、駅前を中心として大幅に削減された。その文脈から色が統一されているとは言え、一見だけでは放置自転車と大して変わらないシェアサイクルが街中に溢れることへの抵抗感は、ある程度理解できる。対して中国では国土が広いため街中に放置自転車が溢れていても問題にならない。今年1月に始まった天津市のシェアサイクルは3月末時点で10万台規模に達していたが、ありすぎて困るという声は一切聞かなかった。ひとつにはクルマが増えすぎて渋滞がひどくなり、免許証が抽選制になっているらしく新たに免許を取りたい若い人が移動にクルマを使えない背景もあるとのこと。シェアサイクルはバス停や駅前など交通連接点で多く見られたけれども、それは事業者が再配置したものではなく、あくまで利用者が乗り捨てた結果でしかない。必要な台数が必要な場所にあることで利用者の満足度が上がるが、ポートを探す手間や返す際にラックがいっぱいで別のポートへ移動させられるのはストレスになる。世界のシェアサイクルの多くはラック側に施錠システムがあるタイプだが、上記のストレスを生む可能性があるので、迂回してくれたり(坂の上など)人気のないポートへ返却してくれたりした客へのインセンティブを設けることなどが検討されている。その点において中国式は理に適っている。好きなところで借りて好きなところで返却できる。視察中にも付近に駅やバス停がない歩道上にポツンと置かれたシェアサイクルを発見することが何度かあり、次に誰が借りるのか見当もつかないが、投入台数が桁違いに多い上にメンテナンスフリーだから雨晒しでも全く問題ない。

なぜ桁違いの台数を投入できるのか

中国のシェアサイクルは民間企業が運営している。日本とは違う社会構造のため同じ土俵で比べることは出来ないが、感覚的には日本の民間企業と何ら変わらない。自社の利益を求めて日々ビジネスチャンスを探している。自転車を数万台規模で発注し街中へ投入するのは商売として利益を上げるためだ。前述のドコモ・バイクシェア小澤氏は「あまり儲からないが社会インフラとして世のため人のために努力したい」と語ってくれたが、儲からないのは企業として致命的だ。やはり儲かる仕組みでないと普及の速度は上がらない。その点はドコモ社内でも検討しているはずだが、どこかで儲かるスキームに転換するべきだ。

2020年に向けて

異なる仕様のシェアサイクルを開発し利用者が選べるようにしてもらいたい。聞けばクロスバイクタイプも開発しているとのことなので、近い内にお披露目されるのだろう。ポート設置場所の確保も急ぎたい。現状では残念ながらポート数が少なすぎて存在に気が付かない。使いたい時に探すのが大変なサービスだと気軽に使えない。天津では本当に使われていたので、台数・ポート数が増えれば利用者数も幾何級数的に増えるはずだ。
利用エリア拡大は順調に進んでいるようだが、こちらも急ぎたい。現時点ではあくまで社会実験であって本格導入ではないのだが、数年内に本格導入となる予定だ。ようやく都内7区で相互乗り入れが実現したが、港区で借りて渋谷区で返そうとしてもドコモのポートはない。健脚揃いの外国人観光客が交番でポートはどこだと訊いても答えられないのが現状である。乗り捨て可能なシェアサイクルを、まさか元のポートへ戻せとは言えないので大きな課題となっている。2012年のロンドン五輪でもシェアサイクルが大活躍した。東京も五輪までに体制を整えて世界中から来てくれるお客様を迎えたい。

どのように進めて行くべきか

なるほど、中国のように民間が新たな仕組みを作り政府が追認するスタイルはコピペする訳にいかない。日本は日本のやり方で進めるしかないのだが、規制や常識に囚われて諦めてしまっては進歩がない。こういう話になるといつも思い出すのが業界常識や規制と戦い続けたヤマト運輸の創業者、故小倉昌男氏である。シェアサイクルについても普及に立ちはだかる壁が幾つもある。それをひとつずつ壊して行くことが確実に世のため人のためになるはずだ。ドコモだけが孤軍奮闘すればいいという話ではない。シェアサイクルが本当に使われる時代を望む人すべてが現状を打破するために一肌脱ぐ覚悟がいる。決して難しい話ばかりではない。日々利用することでも貢献はできる。愛されて使われているサービスは絶対に無くせない。日本独自のスタイルで愛されるシェアサイクルを模索して、実現させたいと願ってやまない。

気軽にシェアサイクルが利用できる社会に
気軽にシェアサイクルが利用できる社会に

いかがでしたか?シェアバイクがなかなか広がらない背景を考えていくと、自転車のみならず規制や業界常識の枠という、日本社会の障壁が浮かび上がって見えてきますね。内海さんの言う「日本独自のスタイルで愛されるシェアサイクル」を実現するにはどいうすればいいか、引き続き考えていきたいと思います。

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WRITTEN BY内海潤

NPO法人 自転車活用推進研究会 事務局長 東京サイクルデザイン専門学校の非常勤講師として次世代の自転車人を育てる一方、イベントや講演会などを通じて自転車の楽しさや正しい活用を訴える活動を続けている。テレビへの出演多数。共著書に「これが男の痩せ方だ!」「移動貧困社会からの脱却」がある。別名「日本で一番自転車乗りの権利を考えている*事務局長」(*FRAME編集部見解)

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