朝飯をはしご 森國ベーカリー&瀬戸よ志
小豆島での2日目。この日も朝から晴れそうな気配。滞在したベイリゾートホテル小豆島から眺めると、海が写し鏡になっている。
「二十四の瞳」の舞台として知られる小豆島だが、近年では井上真央、永作博美主演「八日目の蟬」(2011年)、小芝風花主演「魔女の宅急便」(2014年)のロケでも使われている。ホテルでもロケ地マップが飾られていた。
中でも「魔女の宅急便」の舞台となったオリーブ公園はオススメのようだ。ホテルのオススメというのは、まずもって間違いはない。自転車NAVITIMEで検索すると、ホテルからオリーブ公園口までは6.3km、27分、獲得標高11m。途中寄り道をするとしても、ポタリングとしてはちょうどいいかも。
この日はホテルで電動アシスト自転車(ヤマハ製PAS)をレンタル。1日2000円。名付けてレッドブル2号(由来は前編参照)。
オリーブ公園に向かいつつ、まずは朝飯。小豆島唯一の酒蔵、森國酒造が経営する「森國ベーカリー」へ。古民家を改良したかっこいい建物だなと思いきや、2016年ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展の出展作家にも選ばれた建築デザイン集団「ドットアーキテクツ」の手によるもの。
酒米の米粉を使った小さなコッペパンが自慢。なにげに移動時間のかかる島旅行で、気軽に食べて欲しい、との願いで作られた、とか。オシャレな店内には、オッサンでもテンション上がる。というわけで、写真をバシバシ。注文したのは、一番人気の大吟醸酒粕あんこ。コーヒーとのセットで560円。
さて、腹ごなしが済んだところで……と言いたいところだが、コッペパンがあまりに可愛らしいサイズだったので、オッサンには物足りない。というわけで、まさかの朝飯のはしご。つくだ煮の店「瀬戸よ志」で、モーニングのおにぎりセット(500円)。小豆島産の浪花堂の「御塩」を使っている。こくのある、まろやかな味。
楽々ヒルクライム 西村農免道路
さて、オリーブ公園に向かう。ここは前日も通った海岸沿いの道。しかし、途中に見つけた「西村農免道路」という都会っ子(本当は東京・練馬生まれ、千葉育ちだけども)には耳慣れない道路に惹かれる。全長4285m。地図で確認すると、オリーブ公園の上と繋がっているようだ。
その入口には由緒が書かれた石碑もある。ざっくり言うと、農作業が大変で、若者の農業離れの原因にもなっていた傾斜地の農地をなんとか便利にしようと作られたもの。地元民の悲願であった、と分かる。農免道路とは、本来、ガソリン税が免除になっている農林漁業用機械で徴収された税金分を使って、建設された道路ということらしい。
オッサンはヒルクライマーではない。むしろ、坂を楽して下っていきたいタイプ。しかし、旅の醍醐味は寄り道である。同じ道を走るのもつまらない。朝食もはしごしたわけだし、上ってみようじゃないの。それに、今回は電動アシスト自転車である。レッドブル2号の真価を見せてもらいましょう。
ここで、海岸線に別れを告げ、坂道へ。3段ギアを2段にシフトし、ペダルを漕ぐ。すると、どうだろう。レッドブル号の車輪がブルンブルンと音を立てる。アシストしまくり、である。上れる。坂が急になってきたので、さらに一番軽い1段に下げる。車輪はさらに音を立てる。どうやら、ありったけのアシストをしてくれているようだ。
本来、立ち漕ぎをしないと上れない傾斜のはずだが、難なく上れる。自転車に翼が生えたようである。さすが、レッドブル2号!!
坂を上れば、必ずご褒美がある。それは絶景と下り坂。
オッサンでも魔女になれる? オリーブ公園
「魔女の宅急便」のロケ地、オリーブ公園到着。宮崎駿版のアニメは有名だけども、実写版は正直、大当たりにはならなかった。ふと、がっかりしたプロデューサーの顔が思い浮かぶ。でも、ですよ。この風景をそのプロデューサーに見せてあげたい。魔女のほうき(園内で無料貸出)を持って、楽しそうに歩き回る女子たち。映画を作って、よかったね。森重晃プロデューサー!
オッサンは思うんです。映画の価値は一時のヒットとかではない。映画は人々の心に永遠に残るものだ、と。映画が終わっても、映画の物語は続いていく。だから、こうやって、訪れる人がいる。「二十四の瞳」だって、1954年に公開された映画ですよ。それがいまだに愛され続けている。この島の財産になっている。
オッサンも「魔法のほうき」を借りて、自撮りしてみたが、見苦しいので、やめておく……と書いたら編集長が「書き手の顔が見えるほうが読み手に伝わる」と言うので、下の写真。
「魔女の宅急便」ではグーチョキパン店として使われたロケセットがハーブとガーデニンググッズ関連の店「コリコ」として使われている。記念館では、小豆島におけるオリーブの歴史を知ることができる。オリーブサイダーフロート(420円)で水分と糖分補給もした。
醤油ソフトクリームのお味は?
次に向かうは醤の郷一帯。永瀬正敏さんは「港ごとに醤油の匂いが違うんです」と言っていたが、工場ごとに種々雑多な醤油の匂いが漂う。自転車での移動ならば、なおさら。慣れてくると、ここはどこそこの醤油とか、効き醤油もできるかも。
立ち寄ったのは、登録有形文化財になっている蔵を改装した「マルキン醤油記念館」。折しも、醤油祭り開催中ということで、入場無料。マルキン醤油の資料や昔の醤油づくりの道具を展示している。
隣接する圧搾工場は現在も稼働中。二階から見学可。ここはむせ返るような圧倒的な匂いで、それだけでご飯が食べられそう。
大人気という醤油ソフトを食す。メタボが悩みのオッサンだが、サイクリング中は高カロリーも気にしない。こちらも、300円のところが250円。そのお味は、というと、一瞬、甘いのか、しょっぱいのかよくわからない。甘い、しょっぱいを行き来する感じ。二口くらい食べると、確かに醤油の味だ。しかも、濃厚な感じもする。不思議な味だ。話のネタとして、食べる価値あり。
高峰秀子、木下惠介版「二十四の瞳」の舞台 岬の分教場
映画村へ向かう。前日は西廻りの渡し船コースだったので、こちらのルートは初めて。西廻りよりもアップダウンがある。しかし、上り坂もレッドブル2号なら、苦ではない。海が開けた絶景で、旅の相棒と写真を撮る。
岬の分教場は1902(明治35)年、田浦尋常小学校として建築され、1910(明治43)年から苗羽小学校田浦分校として使用され、1971(昭和46)年に閉鎖。高峰秀子主演、木下惠介監督の「二十四の瞳」で実際に使われた。
大石先生はここに月賦で買った自転車に洋服姿でやってきたのだ。さっきオッサンが通った道も、大石先生が通ったはず。そう思うと、なんとも言えない感慨がある。やはり、小豆島は自転車で回るべきだ。
映画を見直すと、大石先生は4里(約15.7キロ)先の対岸の自宅から通っていたらしい(壺井栄の原作では2里先)。大石先生の家はどの辺だったのか? そんな想像を巡らせるのも楽しい。
館内では映画の名場面や実際の小学校で使われた備品、資料を展示。なんともいっても、小学生の机、椅子のサイズがかわいらしいこと。ここで育った子どもたちが戦争に行ったり、戦地で視力を失ったりしてしまったのだ。いたたまれない。
2時からは二十四の瞳映画村で、永瀬さんの写真展「flow」のオープニングを記念したトークショーを取材。2回公演を終えた永瀬さんは閉村時間の5時まで、女性ファンの方々と記念写真を撮ったり、サインにも応じていた。
「東京、神奈川から来てくれるんです。有り難いですね。でも、旦那さんはどうしているんだろう。心配しちゃいますね」と永瀬さん。ファン一人ひとりの顔を認識している。
永瀬さんはいつもこんなことを言う。「僕には誇れるものは何もないですけど、人だけは誇れるんです」。だから、ファンも大事にするのだ。
その後は映画村の方の計らいで、2日晩連続で永瀬さん一行と小豆島の幸を満喫。オッサンは30日午前には帰京しなければいけないので、午後10時40分発のフェリーで高松へ。もう一泊する永瀬さんは、その出発時間ぎりぎりまでお付き合いくださった。ありがたい。
わずか1日半の滞在だったが、電動アシスト自転車のおかげで、小豆島を堪能!! 島は見どころいっぱい。見られなかったところも多々ある。しかし、残念に思うくらいがちょうどいい。また、小豆島へ旅をすれば、いいのだ。
[後日談]
その後、オッサンは永瀬さんのファンからメッセージをもらったので、「旦那さんはどうしているのですか?」と率直に聞いてみた。すると、「旦那さんは公認です。映画も一緒に見ます。でも、イベントは1人で来たいんです」とのこと。永瀬さん、ご安心を。
1.遙かなる小豆島自転車好きのみなさん、48歳のオッサン、哲也です。本職は映画ジャーナリスト。2回目の登場です。前回の記事『「い... 電動アシスト自転車で小豆島映画めぐり〜永瀬正敏に会いに〜前編 - FRAME : フレイム |